ザ・グレート・展開予測ショー

ジーク&ワルキューレ出向大作戦7−5(終) 『After Carnival!』


投稿者名:丸々
投稿日時:(05/10/25)

薄暗い潜水艦の通路を二人の人間が歩いている。
亜麻色の長い髪の美女とバンダナを巻いた若い男だった。
金属を踏みしめる時に生じるくぐもった足音を響かせながら迷うでもなく目的の部屋向かう。
興味深そうに艦内を眺めながら歩く男とは対照的に、女の表情は険しい。

とある部屋の前に到着すると、扉の前に立っていた海兵姿の幽霊が敬礼し、扉を開けた。
その部屋の中は四角いテーブルと椅子が置かれ、壁には海図や地図が掛けられている。
おそらく作戦などを話し合うための部屋なのだろう。

部屋の中には既に先客が待っていた。
褐色の肌に黒髪の若い女、そしてそれに付き従う巨躯の男。
そして最後の一人、海図の前で腕を組む鋭い眼光の女魔族。

ワルキューレの呼びかけに応じ、両軍の大将が対面していた。



美神は横島を、エミはタイガーを連れて来ているが戦闘の意思は無いようだ。
全員丸腰の事からも、ただの話し合いの為に来た事が見て取れる。

「ワルキューレ、さっきの話は本当に間違いないワケ?」

エミが信じられないといった感じでワルキューレに確認する。

「信じられないのはわかるが、事実だ。」

エミに頷いて見せると折りたたまれた紙のような物を広げ始めた。
真っ黒な紙に微かに白く滲んだような模様が描かれている。
ちょうど正方形の隅のような図形が描かれており、図形の内側にはまるで機械の回路のように白い筋が張り巡らされている。
1メートル四方の紙に描かれていたのは、おぼろげだがどうやら魔法陣の一部のようだった。

「この下手くそな絵って魔法陣の一部ッスか?
俺でももう少し綺麗に書けますよ。」

「まったくジャー、これならワシでももっと上手く書けるノー。」

横島とタイガーが呆れたように声を上げる。
目の前の紙に描かれた魔法陣は、お世辞にも出来が良いとは言えなかった。
線は微妙に歪んでいるし太さも均一では無かった。
もしこんなものを仕事で使おうものなら確実に雇い主に半殺しにされるだろう。

笑う二人とは対照的にエミと美神は口元を押さえ絶句していた。

「横島、タイガー、良く見てみろ。これは絵では無いぞ。」

ワルキューレに促され、頭上にクエスチョンマークを浮かべながら横島とタイガーが紙を凝視する。
良く見てみると、黒で塗り潰されているように見えたが 実際は黒では無く果てしなく重厚な青色をしていた。
塗り潰されているように見えた部分も、目を凝らせば何やら細かく模様が描かれている事に気が付く。
紙を覗き込んでいたタイガーがふと顔を上げる。

「これ、もしかして写真ですかノー?」
「あー、そう言われてみればそれっぽいッスね。」

相変わらず呑気に話しているのは事態を理解していないが故だろう。

「その通り。これはこの潜水艦が撮影した海底の写真だ。」

「……それで、全長はどれくらいなワケ?」

「……正確な数値は不明だが、恐らく半径20キロといった所だろう。」

ワルキューレの回答を聞いたエミと美神が深く溜め息をついた。
雇い主達の深刻な雰囲気の理由がわからない横島が、隣にいるタイガーに小声で話し掛けている。

(何なんだ、この雰囲気?俺にはさっぱりわからんのだけど……)
(ワッシもですジャー。二人とも障害があった方が燃えるタイプだと思うんですがノー……)

「……事態が理解できていない馬鹿者のために説明してやると、だ。」

こそこそ話している二人に目をやりながら、ワルキューレが事態の説明を始めた。

「先ず最初にこの海域に侵入した際、何か違和感を感じた筈だ。違うか?」

「んー、そういやそうだったな。」
「ワッシもジャー。」

頷く二人を確認しながら続ける。

「次に、依頼内容の鮫の除霊。
そもそも魚類の悪霊など滅多にいない、確かそうだったな?」

「んー、動物霊と言えば犬とか猫がほとんどだなあ。
そういや一回だけ恐竜の除霊なんかもあったけどあれはかなり珍しいケースだしなあ。」

「だが、実際にはこの海域では鮫の悪霊が出没している。これはどういう事だ?」

「どうって言われてもなあ……普通の状態じゃ悪霊にならないんだから、何か手を加えなきゃダメなんじゃないか?
何かの術で強引に地に縛りつけておくとか。」

「そうですノー。ある程度感情がある生き物でないと、そもそも未練を残さないからノー。」

そこまで話した途端、何かに気付いたのか二人がハッと顔を見合わせる。

「やっと気付いたようだな。貴様らが察した通り、この海域は呪法の影響下におかれているのだ。
もっと具体的に言えば、海底に巨大な魔法陣が敷かれておりその影響下にあるのだ。」

「それじゃ、さっきの半径20キロとか言ってたのは……」

「ああ、魔法陣の大きさだ。」

言われた事が理解できず一瞬言葉を失ったがすぐに我に返る。

「そんなとんでもない大きさの魔法陣が、何でこんな海の底にあるんジャー!?」
「っつーか、そもそもどうやったら海の底に魔法陣なんか書けるんだよ!?」

「……誰も造ってなどいない。この魔法陣は完全な自然物なのだ。」

声を上げる横島とタイガーに、ワルキューレが広げられた紙を指差す。

さっきまでとは違い、横島とタイガーが食い入るように覗き込んだ。
薄暗い写真なので細部の様子までは判別できないが、海底に走ったクレバスから光が漏れ出しているようだ。

「この魔法陣の特徴は二つある。一つは言語や記号を一切使わない、最もシンプルな構造の魔法陣であるという事。
これは海底に走った亀裂で構成されている以上、当然の事だろう。」

「いや、ちょっと待ってくれよ。
俺も最近魔道書とか読んで勉強してるんだけど、それって一番効果が弱い魔法陣じゃないか?
そんなもんじゃろくな効果は出せない筈だろ?」

意外な人間からの指摘に、ワルキューレが興味深そうに目をやる。。

「ほう、少しは賢くなっているようだな横島。
貴様の言う通り、本来ラインのみで構成された魔法陣はとても実用的とは言えん。
それを下地にして言語や記号を配置し、魔法陣の効力や方向性を決定するのが本来の使い方なのだからな。
だが、ここで問題になってくるのが二つめの特徴なのだ。」

皆の視線がワルキューレに集まる。

「その特徴を話す前に、魔法陣について簡単に解説しておこう。
魔法陣というものには二種類あり、一つは呪的な言語や記号を配置し、それらの組み合わせで何らかの効力を発揮させるもの。
このタイプの規模や出力は配置した言語や記号の内容に左右される。
複雑な内容になればなるほどそれに比例し効力も大きくなっていく。
一般的な魔法陣と言えばこれにあたるだろう。」

横島とタイガーがふむふむと頷いている。
魔法陣というのはピンキリで、霊の侵入を防ぐような単純なものから古き神を召喚するほどのものまで多種多様に存在するのだ。
前者が慣れた者なら10分程度で用意出来るのに対して、後者の方は超一流のGSの美神ですら完成させるのに十日近くかかっていた。

「そしてもう一つが霊的な地点や地形を利用して、呪的な効果を生み出すというものだ。
具体的に言えば、『風水』や『環状列石』などが有名だな。
この海底魔法陣は両方の特徴を併せ持った複合魔法陣と考えるべきだろう。
東西南北に配置された海底火山を繋ぐかのように走った海底の亀裂が、境界線の役割を果たしているようだ。
そしてさっき言いかけたが、一番の問題はこの魔法陣が地脈に直結しているという事なのだ。
いや、地面に走った亀裂で構成されている以上、この魔法陣が地脈そのものと言っても過言では無いかもしれんな。」

ようやく事態を理解出来た横島とタイガーが絶句している。
そして、それまでワルキューレの話を何も言わずに聞いていた美神が、ついに口を開いた。

「……それで、この魔法陣の効果はわかってるの?」

「ああ、至って単純な魔法陣だ。
回路の様に張り巡らされた地脈が霊魂を惑わせるようになっているのだ。
とてつもない大きさの迷路、と考えるのがわかりやすいかもな。
単純な効力だが地脈と直結している以上、この海域で命を落とした生き物は、永遠にこの地で迷い続けるだろう。」

「……つまり、今どれだけ鮫の悪霊を除霊しようと、生きている鮫が死んだ途端、次の悪霊になるって事ね?」

「まさにその通りだ。鮫に限らずヒトであろうとクジラであろうと、ここで命を落とせば確実に悪霊となってこの地に縛られ続けるだろう。
つまりこの海域の行き着く先は一切の生物が霊魂ヘと姿を変えた、文字通りの死の海という訳だ。」

淡々と状況の説明だけ行っている。
淡々としながらもどことなく不貞腐れている様に見えるのは、除霊の手伝いという任務の遂行が不可能になってしまったからだろう。

「……破壊するのは可能かしら?」

「海の底だぞ?まず不可能だ。
深いクレバスを埋め立てる方法でもあるなら別だがな。」

「……突然この魔法陣が出現した理由は?」

「『突然』というのは正確ではないな。恐らく長い年月を掛けて徐々に形成されていったのだろう。
発動のきっかけは……何らかの理由で地脈と魔法陣が接続されてしまったのだろうな。
考えられる理由としては地震か火山活動かどちらかの線が濃厚だな。」

「でもワルキューレがそんなに魔法陣に詳しかったとは意外だよな〜。」

ふと心に浮かんだ素朴な感想を横島が口にする。
本人はただの好奇心からの言葉だったのだが、ワルキューレの射殺すような視線が横島を貫いた。

「ほぉぉ?なかなか興味深い発言だな。
どうやら貴様は私をロクな知識も無く、力押ししか出来ない無能な軍人だと思っていたようだな。」


「イダダダダダダダ!!
スンマセン!スンマッセェェェェェン!!」


魔族化したワルキューレの右腕が横島の顔を鷲掴みにし、宙に吊り上げている。
横島がもがけばもがくほど、鋭い爪がこめかみに食い込んでいく。

「百年そこらしか生きられない人間と一緒にせん事だ。
この程度の知識も無くて務まるほど、魔界軍の将校は甘くないのさ。」

諭すような穏やかな口調とは裏腹に、どんどん握力は強くなる。
当の横島は顔から色鮮やかな水芸を披露しつつ、動かなくなってしまった。
横島を床に放り投げると、何事も無かったかのように話の続きを始めた。

「で、どうするのだ?これはもはや人間の手に負えるレベルの話ではない事は、貴様らなら理解できる筈だが。」

状況を把握したエミの頭脳は、これから取るべき行動を高速でシミュレートし始めた。


―――現在の自軍の状況―――

雪之丞、重傷。戦闘不能×

かおり、重度の船酔い。戦闘不能×

魔理、重度の船酔い。戦闘不能×

タイガー、軽い船酔い。戦闘可能○

ジーク、軽傷。戦闘可能○

ワルキューレ、無傷。戦闘可能○

エミ、無傷。戦闘可能○




―――相手の軍の状況―――

タマモ、霊力消耗と負傷。戦闘は可能だが戦力にはならず△

シロ、霊力消耗と負傷。戦闘は可能だが戦力にはならず△

横島、霊力枯渇。戦闘不能×

おキヌ、無傷。戦闘可能○

美神、無傷。戦闘可能○





―――戦力差4:2―――

結論、自軍有利。






戦えばまず間違いなく自分達が勝つだろう。だがそれが何になる?
競争相手を潰した所で依頼を果たした事にはならない。
そもそも目的の達成が不可能な以上、競争する事自体が無意味。


もっと事前調査を徹底するべきだったか?
否、仮に調査を行っていたとしても、海底魔法陣には気付かなかっただろう。
除霊の事前調査のために深海の底まで潜ってくれるような調査機関など、どこにも存在しないのだから。



―――手詰まり、か。



エミの口から諦めと降参が混ざり合ったような吐息が漏れた。

悔しいが、ワルキューレの言う通り自分たちの手に負える話ではない。
すでに動けない仲間が3人もいる中で、出来る事など知れている。

依頼を達成できないのは癪だったが、依頼人の漁師の生活は問題ないだろう。
これだけ大規模の霊障なのだ。申請すれば先ず間違いなく、生活保障を受けられる。


問題は、隣のクソ女がどういう動きに出るか――――――



反則を反則とも思わないこの女ならどんな無茶な事でもやりかねない。
退くか残るか決める前に、相手の出方は知っておく必要があるだろう。



「令子、おたくらはどうするワケ?」

何気ない素振りで声を掛ける。

「ま、流石にこれはどうしようもなさそうね。
でもこれだけ大規模な霊障なら間違いなく自然災害扱いで国から生活保障を取れるはずだし、
水島さんにはそれで我慢してもらうしかないわね。
それじゃ、帰るわよー横島君。」

「へーい。」

あっさり降参するとさっさと席を立ち扉に向かう。
幽霊海兵が開けてくれた扉をくぐると特に急ぐ感じでもなく通路を歩いていく。
さっきまで床に倒れていた横島も何事も無かったかのよう起き上がり、美神について行った。
常識では有り得ない事にもう怪我が治っていたが、いつもの事なので誰も突っ込まなかった。



























「あの美神さんがあっさり諦めるとは、意外でしたノー。」

「令子も あれで馬鹿じゃないけど……物分かりが良すぎて気味が悪いワケ。」

「影でこっそり何か企んでるんじゃないかノー。」

「……有り得るわね。
何もせずに素直に港に戻るならそれで良し。
もし何か妙な真似をするようなら船ごと沈めてやるわ。
協力してもらうわよ?ワルキューレ。」

「むぅ、不本意だが仕方ないな。」

「そうと決まれば私達も出発するわよ。」

「うむ、それでは貴様らは通常の任務に戻って良いぞ。」

『サンキュー・サー!!』

部屋の中にいた幽霊海兵が敬礼する。
幽霊なのに何故か顔には青痣が浮かんでいた。
直立不動で敬礼する幽霊海兵にワルキューレが満足そうに頷いている。
妙な雰囲気にタイガーが首を傾げながら部屋の扉を開くと、通路には幽霊海兵が一列に整列していた。

「見送り御苦労!私はこれよりこの艦を離れねばならん!
以後の指揮権は貝枝大佐に預けるが、今後も軍人としての誇りを忘れず訓練に励むように!!」

『イエス・サー!!!!』

僅かなズレも無く、男達の野太い声が艦内に響き渡った。
応援団もかくやといった感じの体育会系のノリに、エミとタイガーが順応出来ず引きまくっていた。

「指揮権を預ける、ってこれはあんたの艦じゃないでしょうが。
そもそも何で当たり前のように指揮官に収まってるワケ?」

「フ、優れた上官は何もせずとも部下に慕われるものなのだ。」

さも当然とばかりに鼻で笑っているが、少し注意すればすぐに気が付いただろう。
整列している幽霊海兵が、全員顔面をボコボコに殴られ痣だらけな事に。




























漁船に戻ったエミが思い出したようにワルキューレに尋ねた。

「ちょっと気になったんだけど、どうやって海底にいた潜水艦に乗り込んだワケ?」

「うむ、入口がわからなかったのでな。
脆そうな所から入らせてもらった。」

ワルキューレの言葉にエミが潜水艦を振り返ると、なるほど確かに潜水艦の側面に人が一人通れるくらいの大きさの穴が空いている。
引き千切られたような穴に幽霊海兵が鉄板を釘で貼り付けて修理しているのが見えていた。
これだけ大きな穴を空けておきながら沈まなかったのは、ちょっとした奇跡だろう。

(……素潜りの世界記録ってどれくらいなんかノー。)

波にゆられながら、タイガーがぼんやりと考えていた。











「結局、無駄足だったみたいですね。」

舵を取りながら、ジークが残念そうに肩を落としていた。
アザラシの着ぐるみを脱ぎ捨て、ゴム長ゴムエプロンの漁師スタイルに戻っている。

「ふん、仕方が無いだろう。
地殻変動を起こす程の力は我らには無いのだからな。」

舵を取るジークの後ろでワルキューレが不機嫌そうに鼻を鳴らしていた。

船室の奥には動けなくなった三人が横になっている。
三人の傍には猿と同じくらいの大きさの小柄な何かが動き回っていた。
船酔いで倒れたかおりと魔理の顔を冷やしたタオルで拭いたり、雪之丞に湿布を貼ったりしている。
全部で五体いるその何かは皆カラスの羽根を繋ぎ合わせたような真っ黒なマントを羽織り、ひょろりとした手足に鋭い爪をしていた。
皆同じデザインの丸い仮面を被り、まるでジャングルに住む部族のようだった。

「それにしても使い魔を五体も同時制御するとは、伊達に所長を務めている訳では無いようだな。」

感心したようにワルキューレが顎に手を当てる。

「正確には使い魔では無く邪精霊らしいですよ。」

邪精霊達はタオルを絞ったり飲物を運んだりとピョンピョン飛び跳ねながらかいがいしく世話をしていた。

「ほう、それは珍しいな。神父の教会にも一匹くらい居てくれると家事が楽なのだが……」

ボソッと呟くと、近くに置いてあった麻の袋を拾い上げる。

「……流石に教会に邪精霊はマズイと思いますよ。」

振り返らずにジークが釘を刺すと、何事も無かったかのようにワルキューレが袋を床に置き直していた。








船室の外ではエミとタイガーが双眼鏡を覗き込んで先行する美神達の船を監視していた。

「どうやら本当に港に戻るつもりみたいですノー。」

「どう考えてもおかしいわ。あのクソ女が素直に引き下がるなんて絶対に有り得ないのよ。」

「と言われてもノー。
このままだとそろそろこの海域を抜けてしまうけん、今回は引き分けみたいじゃノー。」

「そこがおかしいのよ!
あのクソ女が負け越したまま素直に諦めるなんて、それこそ天地がひっくり返ろうと有り得ないワケ!!」

「気持ちはわかりますが、それは心配し過ぎと思うノー。
美神さんはあれでも一応人間じゃから、無理なものは無理ジャー。」

「……いや、何かを見落としてるに違いないわ。」

楽観的な大男を余所にエミが深刻な表情で双眼鏡を覗き込んでいた。


























「美神さーん、向こうはぴったりついて来てますよー。」

「フフフ、予想通りね。こっちを見張ってるつもりなんだろうけど、むしろ望むところよ。」

「でもホントにこのまま引き上げるんですか?
なんか美神さんらしくないッスよ。」

除霊をあっさり諦め帰路につこうとしている雇い主に横島が首を傾げる。
横島もこの海域の除霊は自分達の手に負える話ではない事は理解していたが、それは常識で判断した場合の話だ。
裏技や非常識が十八番の雇い主なら何らかの解決策を思いついてもおかしくない。

「ねえ横島君。私が引き分けに納得しないと思う?」

「そりゃそうでしょ。
負け越したまま引き下がるなんて熱でもあるんですか?」

普段ならこういう事を言うと折檻という名の突っ込みが入る所だが、何故か今日は笑顔で流している。

「間違いなく向こうも同じ事を考えてるでしょうね。
でもホントに何もしなくても良いのよ?だってこれは『引き分け』じゃないんだからね〜♪」

弾むような口調で意味ありげな笑みを浮かべている。

首をかしげる横島達を乗せ、クルーザーは港へと帰って行った。




























観光事業の責任者の園田が港に着くと、既に漁業責任者の水島が待っていた。

「これは水島さん。あなたも心配で迎えに来られたのですか?」

波止場にたたずむ水島は、よく日に焼けた肌と頑強な肉体とが相まって非常に絵になっていた。
タイトルをつけるならば『海の漢の黄昏』といった所だろうか。

「ええ、私達に出来る事など有りませんが、せめて出迎えくらいはと思いまして……」

ふっと微笑むと園田は水島に缶コーヒーを手渡した。

「きっとそう言われると思いましたよ。」

自らも缶コーヒーの栓を開けながら横に並ぶ。
どうやら最初から水島が居ることを見越して二人分用意していたようだ。

二人の前には美しい大海原が広がっていた。
穏やかな波が日の光を反射し神々しい世界を創りあげている。

「いつ見ても美しい……素直にそう感じます……」

園田が遠い目で水平線の彼方を見つめながら呟く。

「まったくです……私はこの海で生きられる事を誇りに思っていますよ……」

水島も頷き、水平線の彼方に思いを馳せる。

「漁に出られないのは……やはり辛いですか……?」

園田の言葉に水島が苦笑する。

「ええ、もちろんです……子供の頃からこの海で生きて来たのですから……」

缶を持つ手に力が入り、スチールの缶が容易く形を変える。

「きっと、あの人たちが解決してくれますよ……」

目を伏せる水島の肩に、園田が慰めるように手を置いていた。

その時、二人の目に水平線の彼方に浮かぶ二台の船影が飛び込んできた。















港に入港した二隻の船を目にした水島は言葉を失っていた。
白いクルーザーは幾つも窓ガラスが破損しており、まるで一度沈没したかのように傷んでいた。
出港時のこれが処女航海かと思わせるほどの輝いていた姿は見る影も無い。

もう一隻の、自分が銀髪の青年に貸し与えた漁船も同様に傷ついていた。
甲板には大穴が空き、船体の方もかなりダメージを受けているようだ。
その傷みようはまるで軍艦とでも一戦やらかしたかのようだった。


だが、船から降りた美神達の姿を見た水島達が受けた衝撃は、それの比ではなかった。
九房の金髪の少女は左足をテーピングで固め、銀髪の少女の肩を借りていた。
肩を貸す少女の方も、右腕に包帯を巻いた姿が痛々しい。
黒髪の少女も衰弱しきった様子で少年におぶさっていた。

エミ達の方も同様にボロボロになっていた。
真っ青な顔色で銀髪の青年と鋭い視線の女性の肩を借り、立っているのがやっとといった感じの二人の少女。
そして大男の肩に担がれている全身をテーピングで固められた意識の無い少年。
素人目に見ても少年が重傷なのは見て取れた。

「水島さん、調査の結果なんですけど――――――」

「小笠原さん!そんな事より先に病院に!!」

エミの言葉を遮ると園田の方に向き直る。

「え、別にこれ位いつもの事で――――――」

「園田さん!救急車を!!
病院にも連絡しなくては!!」


結局、半ば強引に一行は病院に搬送される事となった。















沖縄に新設されたとある病院の一室。
度の強い眼鏡を掛けた男がカルテに目を通して入る。
彼は以前は別の土地で病院を経営していたのだが、昨年この沖縄の地に移り住んで来ていた。

静かな室内に電話の呼び出し音が鳴り響く。
受話器を取ると看護婦の慌てた声が飛び込んで来た。

「院長先生!今漁業組合の水島さんから電話があったんですが、至急救急車をまわして欲しいとの事です!
患者は6名で1名は意識不明の重態だそうです!!」

「それはいかん!すぐに救急車を向かわせるのだ!!」

白衣を身に纏うと、男は部屋を飛び出していった。



























「先生お願いします!!」

病院に飛び込んできた水島が声を上げる。
すぐに医師が水島のもとに駆け寄り事情を聞きだそうとする。

水島が事情を説明しようとしたその時、病院内に美神達の呑気な声が響き渡った。

「おキヌちゃんがヒーリングのし過ぎで消耗してるから点滴打ってあげてー。
シロとタマモは一応診察だけお願いするわ。どーせすぐに治るんだろうけど。」

「あ、ナースのオネーさん!今晩ヒマっすか!?
沖縄案内してくださいよー!何にもしないから、ね!いいでしょ!?」

「……横島さんの馬鹿。」

「ふー、やっぱり建物の中は快適でござるなー。」

「食堂にキツネうどんは……チッ、無いのか。気が利かないわね。」


―――ビシッッッ!!!!―――


何かが砕ける音が響き、驚いた水島が音源に目をやる。
水島が振り返ると石化した医師に巨大な亀裂が入っていた。

「せ、先生!?」

肩を震わせながら何やらブツブツと呟いている。


「げ……げ……げ……」


美神達も奇妙な動きをする医師に気がついたようだ。

「あれ?先生、なんでこんな所に居るんですか?」
「もしかして観光ッスか?医者にも休みがあるンスねー。」









「現代医学はァァァァァァァァァァ!!!!」








涙を撒き散らしながら、脱兎の如く何処かへと走り去って行ってしまった。








白井総合病院院長。
現代医学を崇拝する医者の鑑である。

だが不幸な事に幾度と無く美神達と関りを持つ羽目になり、非常識な彼らの生態は彼の心に大きな傷を残していた。
不死身の肉体を持つ少年や、幽体離脱する少女。魂が砕かれた状態から再生した女性。
現代医学で解明できるものは何一つ無い。

現実を受け入れる事を拒んだ彼が、東京を離れたのは当然の事かもしれない。



























「現代医学にかけて断言しよう!
この少年は全治3ヶ月の重態だ!!」

ナース達に取り押さえられ、正気を取り戻した白井医師が雪之丞の診察を終えていた。
ちなみにおキヌは点滴中。かおりと魔理は睡眠中。シロとタマモも傷を癒すためにお昼寝中だった。

無傷の面々も同じ病室に集まっているので、関係者は全員この部屋に集まっていることになる。

「い!?雪之丞、そんなに重傷なんですか!?」

驚いた横島が声を上げる。

「胸骨のヒビに全身数箇所の筋断裂。加えて左手の重度の火傷。
いったい何をしたのか知らんが、彼の体はボロボロだよ。
……恐らく1ヶ月間は体を起こすことすら不可能だろう。」


難しい顔で溜め息をつく白井医師の背後で、雪之丞がむくりと起き上がった。


「あん?いつの間にか陸に戻って来てるじゃねーか。
おい、横島。結局除霊はどうなったんだ?」

ボリボリと頭を掻きながら眠そうな目をこする。

当たり前のように体を起こす雪之丞に白井医師の顎がカクンと落ちた。

「き、君、体は平気なのかね……?」

雪之丞は首を鳴らすと、軽く体の各部を動かしダメージ具合を確かめる。

「ま、全治1週間だな。
明日になりゃ動ける程度には回復すんだろ。」

欠伸しながら当たり前のように呟く雪之丞。










「げ、現代医学はッ!!
現代医学はァァァァァァ!!!!」




痙攣しながら絶叫し、どこからともなく取り出した酸素マスクで呼吸を整える。

「あら、発作ですか。それじゃ皆さん何かあったら呼んで下さいね。
さ、行きましょう先生。体に毒ですよ?」

白井医師の発作に慣れている看護婦が、叫び続ける医師を引っ張っていった。


部外者もいなくなり、エミがあの海域で起こっている事を水島と園田に説明し始めた。



























「…………なるほど、お話は理解できました。
確かに異変が起きる前に海底で地震が観測されていましたし、それが原因なのでしょう。」

目を伏せながら水島が呟いた。
肩を落としたその姿は、とても小さく見えた。


室内に気まずい空気が流れ、皆居心地悪そうな表情をしている。


「なんとかなりませんか、美神さん。
水島さん達漁師の方々にとって海は命なんです。」

落ち込む水島を見るのに耐えられず、園田が美神に頼み込もうとしたが意外な事に水島が静かに首を振った。

「良いんです、園田さん。私もこの60年を海で過ごしてきた男です。
彼らが乗って帰ってきた船を見れば、どれだけ辛い航海だったか一目でわかりました。
それに……自然が原因だというのなら受け入れるのが海に生きる者の在り方ですし……」

水島の瞼の裏に浮かぶのは二隻の船が協力し合いながら荒波を乗り越えていく光景だった。
少しでも気を抜けば牙をむく大自然の中で、時には励ましあい、時には手を携え目的に向かって邁進する。
海の向こうで起こっていたであろう数々の熱いドラマを想像し、水島の目元がキラリと光る。





もっとも、現実には後ろ暗い事しかない面々はまともに彼の目を直視できず、目を逸らしていたが。








何となく気まずい空気を払拭すべく美神が軽く咳払いをした。

「残念ながら水島さんの依頼は達成できなかったみたいなので、次はこちらの報告を行いましょうか♪」

「…………へ?」

唐突な美神の言葉にエミが間の抜けた声を上げる。

「えーと、園田さんの依頼内容は『観光客への危険性の有無の調査』ですね。
結論から言うと全く問題なしです。鮫の悪霊はあの海域から出る事は出来ません。
観光客の皆さんには安心して海水浴を楽しんでもらってくださいな♪」

「おお!それは良かった。」

園田が胸を撫で下ろし、安堵の溜め息をつく。

「水島さん達の養殖場が駄目になってしまった上に、観光まで駄目とあっては致命的でした。
漁師の方達の生活を支えるためにも我々が頑張らなくては。」

「それじゃ、依頼は達成という事で報酬のお話に入らせてもらってよろしいですね。」

にこやかな笑顔で報酬の件に移ろうとする。

「ちょっと待ってもらおうかしら?」

不意に美神の肩を誰かが掴んだ。

「あら、小笠原さん、どうかされましたか?」

美神が穏やかな微笑を浮かべながら肩を掴む相手に目をやる。

「水島さん、園田さん。
ちょっと打ち合わせをする事があるのでしばらく外で待っていて頂けますか?」

こちらもにこやかな笑みを浮かべ依頼人達に退室を促す。


急な申し出に首を傾げながらも、園田達は素直に部屋から出て行った。







「あんたねー、自分が依頼失敗したからって人の足引っ張らないでよねー。」

「どこの口からそういう言葉が出るワケ?」

依頼人達が出て行った瞬間、険悪な空気が流れる。
おキヌやタイガーは巻き添えを恐れるかのように一歩下がっている。

「あんたは漁業組合からの依頼で除霊を引き受けたんでしょ?
私は観光業組合からの依頼で『観光客への危険性の有無』を調べるよう頼まれたのよ。
あの海域から霊が抜け出ないのはワルキューレのお墨付きだし、絶対安全よねー。
って事で、あんたは水島さんの依頼を達成できなかったんだから私の勝ちね?」


「なっ!オタクそんな事一言も言わなかったじゃない!」


勝ち誇る美神にエミが噛み付く。



ニコリと美神は微笑むとエミに優しく告げた。




「だって聞かれなかったから、ネ?」










「ふっざけんじゃないワケ!こんのクソ女ぁ!!」


「あれ?認めないの?」








激昂しかけたエミに美神が首をかしげる。



「当たり前でしょ!?こんなの詐欺「水島さん随分落ち込んでたわねぇ……かわいそうに。」



―――サクッ!―――

美神の言葉が軽快な音とともにエミの心に突き刺さった。



「そ、それとこれとは話が別「辛いでしょうねぇ……苦労して育てた養殖場も諦めないといけないんだし。」



―――サクサクッ!!―――

わざとらしく溜め息をつきながら美神が悲しそうに首を振る。
またもや軽快な音を立てながら言葉のナイフがエミに突き刺さる。



「こ、今回の件はどうしようも「もちろんプロなら言い訳なんてしないわよね?」



―――グシャッ!!!―――

輝く笑顔とともに放たれたダメ押しの一言がエミの抵抗に止めをさした。



「わかったわよ!………………なワケ!!」

「え?何?聞こえなーい」

美神が耳に手を添える。
聞こえなかったからもう一度言えという事なのだろう。


「こ、こんのクソ女……!」

エミが歯軋りしながら睨みつける。


「今回は私の負けでいいワケ!
ほら、気は済んだ!?」

半ばヤケクソになりながら声を上げる。
それを聞いた美神が満足そうに頷いている。

「ならこれで15勝15敗24引分けね。」

「態々確認しなくてもわかってるワケ!
……で、私の負けで良いから一つ頼みがあるんだけど。」

エミの口から出たまさかの言葉に室内がざわめく。
プライドの高いエミが犬猿の仲の美神に頼み事をするなど、余程の事が無いと有り得ない。
当の美神も興味深そうに顎に手を当てている。


皆の視線が集まる中、エミは話し始めた。











「……なるほど、それなら確かに水島さん達も海に出れるわね。」

エミの話を聞き終えた美神が頷いている。

「私一人でも申請できるんだけど、おたくも一緒に圧力かければ向こうもすぐに動く筈なワケ。
依頼は失敗しちゃったけど、せめてプロとしてアフターケアくらいはしなきゃね。」

「なら、あんたに協力してあげるからこっちの頼みも一つ聞いてもらおうかしら?」

美神の言葉に嫌々ながらもエミが頷く。

「おたくの事だからタダで手を貸すとは最初から思ってないワケ。
で、なんなの?あんまり無茶な事だとお断りよ。」

エミの言葉を聞き、美神がにやりと怪しい笑みを浮かべる。

「後は編集作業が残ってるだけなんだけど、あんたの方が専門家かと思ってね。」











「……それって、アウトじゃないの?」

美神の話を聞いたエミが呆れたような表情を浮かべている。

「バレなきゃいいのよ!霊波を誤魔化したりするのは呪術屋の十八番でしょ?」

エミは自分の仕事に誇りを持っているので、極力法に触れるような事はしない。
だが今回は背に腹はかえられないと判断したのだろう。渋々だが了承している。

「じゃ、万事解決という事ですね。」
「うむ。では我らは一足先に本土に戻るとしよう。」

逃げるように颯爽と病室から出て行こうとしたワルキューレとジークの肩をエミが掴んでいた。

「ちょーっと待つワケ。おたくらにも手伝ってもらうわよ?
そもそも結局役に立たなかったんだから後始末くらいしていきなさい。」

ビコーンと目を光らせながら二人に詰め寄る。

「いや、流石に法に触れるような事はちょっと……」
「今回の件は我らの責任では無いと思うが……」

役に立たなかったのは自覚していたので、珍しくハッキリ断れないでいる。
煮え切らない態度の二人の耳元に美神がそっと囁いた。

「大丈夫……バレなきゃいいのよ……バレなきゃ皆幸せなのよ……?
あんた達も任務が成功になるし、私達も儲かるし、全てが丸く収まるのよ……?」

エミのゴリ押しと美神の甘い囁きに挟まれてしまっては、何時までも抵抗出来るものではない。
気が付けば何時の間にやらちょっぴり非合法な作業を手伝わされている二人であった。

























いかがわしい作業をこなしたり、とある申請書を記入したり、報酬を受け取ったりと
その後は忙しく時間が過ぎていった。

全ての作業が終わり、病院を後にする頃には既に日が暮れかかっていた。
ホテルに続く海岸沿いの道を皆で歩きながらわいわいと騒いでいる。
さっきまで全力で潰しあいをしていた両事務所の面々だったが、仕事が終わった今は普段通りに接している。
唯一人、雪之丞のみが一日入院(医者は全治3ヶ月と言っていたが)する事になり、弓が付き添いで残っていた。

「それにしても、シロタマ成長したな〜。
まさかあの雪之丞に勝つ日が来るとは思わんかった。」

「だから略すなって言ってるでしょ。」

「タマモ!先生を足蹴にするとは無礼な!」

横島の背中に蹴りを入れるタマモにシロが憤慨していた。
ふとシロが水平線に目をやると、真っ赤な夕陽が海に沈もうとしていた。
その暖かくも壮大な光景にしばし目を奪われる。

「先生、夕陽がきれいでござるなぁ……」

シロの呟きは無意識に出たものだったが、それを聞いた瞬間皆の空気が僅かに強張った。

「ん?
おーーーー、流石は南の楽園沖縄、夕陽も綺麗だぜ!」

感嘆しながら横島も夕陽を見つめる。

「よっしゃ!夕陽に向かって走るか、シロ!」

「ワン!」

道から外れ、砂浜を駆け出す二人。
二人を見送ったタマモが美神達を振り返り、尋ねた。

「シロが『夕陽』って言った瞬間、空気が変わったんだけど、何か隠してる?」

シロは気付かなかったようだが、妖狐の勘の鋭さは伊達ではない。
だがタマモの問いかけに答えるものは居なかった。

「……ま、別に良いけどね。」

つまらなさそうに呟くとタマモも駆け出していった。
恐らく彼女なりに気を使ったのだろう。

「令子、横島の傷は癒えたワケ……?」

あの事件の当事者の一人だったので、エミも横島の事は心に引っ掛かっていた。
ちなみに魔理とかおりもそれぞれタイガーと雪之丞から簡単に概要は聞いていた。

「わかんないわよ……あいつ、あの事件について何も言わないし……」

最近では横島は、まるであの事件が無かったかのように過ごしていた。
以前と変わった点と言えば、妙に魔道書やオカルトの百科事典などを読み漁っているくらいだろうか。

「でも、さっきの横島さんの反応見ましたよね!?
全然痛々しくなかったし、きっと横島さんはもう立ち直ってくれたんですよ!」

おキヌが力を込めて主張する。
普段よりも力が入っているのは、彼女がそうであって欲しいと思っているからだろう。


砂浜を走り回る横島からは、二年前の傷は感じられなかった。






「姉上……」

ジークがワルキューレに囁きかける。

「駄目だ、まだ言うべき時ではない……何時言うかは横島が決めるべきだろう……」

いまだに気に病む彼女達を見て、ジークはルシオラの復活の事を言うべきだと思ったようだ。
だがワルキューレが静かに首を振った。

「どう転んでも後半年もしない内に決着がつくのだ……
今は……事を荒立てる必要は無い……」

「……そうですね……了解です。」

ジークはこれ以上辛い光景を見るのを拒むかのように目を閉じ、頷いた。










「……ところで、ジーク。
さっきの映像に組み込んだ洗脳霊波だが、間違いなく足はつかないんだな?
もしこんな事がばれたりしたら懲罰ものだぞ……!?」

「ま、任せてください。情報仕官の技術の粋を集めて隠蔽しました。
人間界の技術レベルでは洗脳霊波を検出するのはまず不可能の筈です……!
それに、頃合を見計らって証拠の映像は隠滅しておきますから、きっと大丈夫です……!」


挙動不審な様子で二人が何やら囁きあっていた。
































―――後日譚〜ある新聞記者のメモ〜―――

沖縄のある海域が世界でも有数の心霊地点として世界遺産に登録される事となった。
登録までは本来数年かかることも珍しくないのだが、申請から登録まで僅か1週間という驚異的な速さで登録された。
この驚異的な速さの背景には、とある二人の凄腕GSからの圧力がまことしやかに囁かれたが、真相は不明である。
今では各国の調査団が日夜訪れ調査に励んでいる。調査団のガイドは地元の漁師達が勤めているとの事である。

この海域が世界遺産に登録された事による経済効果は、養殖場を失った分を考えてもお釣りが出る程のモノらしい。
だが光ある所には陰あり。この年の沖縄には黒い噂がついてまわる事となった。原因は次に挙げる一件にある。

世界遺産に登録される前後、全国で流された沖縄の観光CMを見た人が沖縄に殺到するという現象が起こった。
誰もが『気が付けば飛行機に乗り込んでいた』と話している事から、一種の催眠的な仕掛けの存在が疑われている。
だが調査したオカルトGメンが『CMに不審な点は存在しない』と発表しているので、証明する事は難しそうだ。
また、そのCMの編集を手がけたのが悪名高い凄腕GSだった事も噂を広めるのに一役買っているようだ。
結局この年の沖縄を訪れた人間は例年の5倍以上になるという調査結果も出ており、真相の究明が叫ばれている。

しかし、残念ながらこの映像を保管していたテレビ局から
何時の間にか映像が消えていたそうなので、これ以上の調査も不可能だろう。
映像が消える直前、テレビ局内で見慣れぬ銀髪の男が目撃されており、警察が行方を追っているとの事だ。



































―――後書き―――

お久しぶりです。
前編、中編と盛り上げすぎて纏めるのに随分時間がかかってしまいました。

全国放送でチーズアンシメサババーガー作戦を決行したら犯罪ですよね。
というわけで沖縄編、終了でございます。

次は最後に残ったあの人の出番です。
では。

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