ザ・グレート・展開予測ショー

小笠原エミを攻略せよ! ブラドー島編2「再会と和解?」(後編)


投稿者名:輝剣
投稿日時:(05/10/23)



これは、諸般の事情で対象こそ変えたものの、それでもなお、無理めの女をモノにせんと戦う少年の、哀と煩悩の物語である。




PM2:15(現地時間)  ローマ空港着陸直後の機内 
びしゅっ、ざくっ。
GSアシスタント・横島忠夫は、鎌が座席の背もたれに突き刺さる音と共にさわやかな目覚めを迎えた。

「ええ加減、その起こし方やめんかーっ!  へ? あれ、ここは……」
寝起きのカウンターをエンゲージに叩きつけたが、いつものマンションや学校とは勝手が違うので戸惑う横島。

そこに同行者二人の不機嫌な声がかけられる。
「目的地に到着したのに、ボケッと寝くさっとる貴様が悪い!」
「まったく、馬鹿晒して恥をかかせた挙句、ちょっとしばいたらそのまま気絶するなんて、日頃の鍛錬と自覚が足りないワケ」


横島は、言われてようやく、自分がピートに合流する為にローマ行きの国際便に搭乗していたことを思いだした。
気絶させられる羽目になった経緯も。

いや、単に男の憧れスッチャデスさん(客室乗務員なんて色気のない呼び方は認めん!)に声をかけて、「おおっ、ジュッテェーム!」と熱くほとばしる親愛の念を表明しただけなのだが。
ところが、ナイスバディな客室乗務員さんには洒落が通じず、気分を害した様子だった。
「いやだーお客さん」といってカラオケでデュエットでもしてくれれば、何も問題はなかったというのに!

「何を馬鹿を言ってるのよ、オタクは! セクハラは犯罪なワケ」 
ちょうど昨夜見た夢のせいで、横島のセクハラ癖をしつけ直そうと決意していたエミはここぞとばかりに叱り付ける。

「嫌だな、エミさーん、 ちょっとしたスキンシップじゃないすかー」
笑って誤魔化そうとしたが、下手すると「悪質な職務妨害」と見なされて、警察に突き出されたかもしれないと言われるとさすがに横島も青くなる。

「せ、世界は広いなー。 に、日本の常識で物事を判断するとエライ目にあいますね。 これからは気をつけまーす」
イマイチ真剣みのない横島の反応に、エミとエンゲージには「いや、日本でも犯罪だから」と突っ込む気力も残っていなかった。




PM2:35(現地時間)  ローマ空港 


「シニョリータ小笠原!」
「おおーっイタリア!」と、すっかり観光客となっている横島を呆れて見ているエミ達の前に、ピートが出迎えに現れる。

「わざわざ出迎えいただけるだなんて、感激ですわ。 他のメンバーはもう?」
言ってる事は堅いが、弾んだ甘ーい声で体を密着させようとするエミ。

「……え、ええ。 あなた達と、あともう一人で全員そろいます」
そのエミにやや腰が引けながらもピートは笑顔で答える。

横島はそれが気に入らず「ちっ、なれなれしいぞコラ」と小声でつぶやいている。



「お疲れでしょうが、時間がありませんのでまっすぐチャーター機へ……」

チャーター機へ案内しようとするピートに、エミから無言で催促された横島が近づく。
先日喧嘩を売って、化け物呼ばわりした謝罪をするためだ。

「あーピート、この前はすまんかった。 事情も知らずに化け物だなんて言っちまって。 ……その分、今回の仕事張り切ってやらせてもらうぜ」
口調は棒読みに近いものだったが、それでも頭を下げて謝罪する。

ピートには、それでもそれが自分達ブラドー島の住人達と他の人間達との共存の可能性の表れに思えて嬉しかった。

「いえ、気にしないでください。 事情を黙っていた僕も悪いですし、なにより仕事をお願いするのはこっちなんですから」
スッと笑顔で右手を差し出し、友情の握手を求める。

横島は差し伸べられた右手にしばし戸惑っていたが、意を決すると右手にペペペッと唾を飛ばした。
そして、そのぬちゃついた右手でピートの右手をしっかりと握り締め、ブンブンとシェイクハンドする。

横島にとって、吸血鬼だのなんだのという偏見は既に拭い去られていたし、仕事はそれなりに頑張るつもりだった。
しかし、エミを攻略するのに邪魔な存在である事に変わりはない。
必要以上に馴れ合うつもりはなかった。

「依頼主になんという失礼をかまし取るんじゃ、このボケナスがーっ!」
エンゲージの鎌突込みが、当社比に割り増しで横島をズンバリンと切り伏せる。
「グギャーッ そ、それは洒落にならんぞ、エンゲージッ、グゲガバーッ」
エンゲージに講義する横島のどてっぱらに、エミのヤクザ蹴りが容赦なく叩き込まれる。

「洒落になってないのはオタクなワケ」
さらにガードを削った後の第二撃は、金的だ。

「さっきの機内で恥をかかせてくれた分も含めて、折檻よっ!」。 
エミの横島を見る目は冷たい。 当然だ。 
横島の自覚と見識を確かめるいい機会だと注目していたのに、あんな行動に出るとは。
この馬鹿には、この業界で生きる意味というものをまったく理解できてていなかったという事実がはっきりとわかった。


「……こ、ここは厳しいっス、使い物にならなくなったら、どーすんですか」
横島は悶絶しながらも、抗議するが聞き入れられるはずもない。

「セクハラ男には、似合いの罰よ。 去勢されなかっただけでもありがたいと思うワケ」
エミは横島への仕置きをエンゲージに任せ、ピートの右手をウェットティッシュで拭う。

「ごめんなさいねー、せっかくピートが許してくれたのに、ウチの馬鹿アシスタントが恩知らずな真似をして」
「い、いえっ、いいんですよ。 こちらからお願いして来ていただいたんですから」
横島の姑息な嫌がらせよりエミの肉弾攻撃に腰が引けながらも、人がいいピートは笑ってこの件を水に流した。


ピートの表情を見て、ホッとしながら横島がエンゲージにボコられている方にエミは目を向ける。

(この馬鹿にはGSとして生きていく覚悟と見識をもたせなきゃね)

GSという職業は、除霊それ自体の技量さえあれば良いという訳ではない。
社会を構成する一部である以上、社会人として通用する為の一般的なスキルは当然必要とされる。

そして、コネを得ていく能力もその一般的なスキルに含まれるのだ。

除霊をするのに、自分の霊能力だけで対処できればいいが、それでは無理な場合がもでてくる。
今回みたいに強敵を相手にする為に複数のGSが組んで仕事をする場合もあるし、対処に特殊な物品や技能が必要な場合もある。
そういう時にモノを言うのは、やはりコネ。

(私が令子にちょっと遅れをとっているのは、くやしいけどコネの差が大きいのよね)

美神令子は、一時期廃業していたとはいえ三代以上続くGSの家系の生まれであり、一流のGSとして有名だった美神美智恵を母に持ち、その縁でこれまた高名なGS唐巣の弟子だ。
更に名門・六道家とは母の代以前からの付き合いであり、本家の令嬢である冥子とは親友の間柄である。

これに対してエミは、元家出少女で、うさんくさい呪術師の弟子であり、自らも殺し屋として裏街道を歩んできた。
そんな新参者が、この広いようで狭い業界で頭角を現すのに、どれだけの屈辱と苦難を乗り越えてきたことか。
それだけやってもなお、今までの行きがかり上充実している警察関係のコネ以外では、令子に大きく水をあけられている状況なのた。

(そして、地縁や血縁でのコネが乏しいのはあたしの弟子である横島にもいえるワケ)

それに加えて横島は、六道の閨閥のホープ・美神令子の面子を潰し、小笠原エミの事務所に鞍替えした、いわば裏切り者だ。
当然、六道の閨閥が好意的であろうはずがない。 このままでは将来的に大きなハンデを背負う事になる。


今回の仕事を受けたのも、一つには人望が篤い唐巣神父に横島ともどもコネをつける事も大きな目的だったのである。
今回の仕事を通じて唐巣神父の立会いで、自分はともかく横島にはあのクソ女との手打ちをさせるつもりだったのだ。

(うまくすれば噂の修行場・妙神山への紹介状も書いてもらえるかもしれないし、ピートにも出会えたから、ソレ抜きでもおいしいけどね)

そんなエミの配慮を、この馬鹿はまったく理解していない。
確かに、こちらからクドクドと説明はしてはいないが、少しでも自分で考える能力があるならば、察しが着く程度の周辺情報は与えてある。
それを理解できていないのは、当人に自覚と見識がないからだ。

(自分の人生でしょっ、真剣に考えるのが当然じゃない! それを……)

苦労人である彼女には、横島の怠惰は不快だった。
だから罰として、今から向かうチャーター機で待っているだろうクソ女の事は、横島には教えない事にした。

(自分のケツは自分で拭くワケ。 それに躾の失敗の責任は元飼い主にもあるしね)

かくして横島は、先を急ぐピートのとりなしでエンゲージの仕置きから解放され、チャーター機へと向かった。
そこに待つ者が誰かを知ることなく(合掌)。




PM2:50(現地時間)  チャーター機内


エミ達とチャーター機に乗り込み、荷物を座席に置いた横島の目に、脚線美が眩しい女性の姿が映った。

セクハラ自粛の誓いなど、忘却の彼方に捨て去って、もっと見せろ、できれば揉ませてとばかりに接近する横島に、どことなく懐かしい匂いのする影が抱きついてきた。

「横島さーん、ついに戻ってきてくれたんですねーっ」
「え゛! お、おキヌちゃん……? と、いうことは……」
美少女に抱きつかれたにも拘らず、ギ、ギギッと錆付いた機械のようにギクシャクしながら女性をよく見る横島。

ああ、この吸い付きたくなるようなナイスバディは! チチは!! シリは!! フトモモはっ!!
「いい加減にしなさい、おキヌちゃん。 あんな馬鹿の事なんてもう忘れるのよ」
そうおキヌをさとしながら、アイマスクを外した女性と視線があった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うわーっ!! び、びがびさーんっ!!」
「よ、横島―っ!? この裏切り者がーっ、どのツラ下げて現れたーっ!!」
そう、最早不倶戴天の敵となってしまった美神令子であった。
起きざまにジャキーンと神痛棍を抜き放っている。

「あれっ? お知り合いですか?」
横島が、元々は美神の事務所にいた事を知らないピートが怪訝そうな声でたずねている。


「知り合いも何もこいつは、あたしの顔に泥を塗った奴なのよ! 何でこいつがここにいるのよっ!」
口と共に手が動き、立て続けに斬撃を加えるが、横島に紙一重で避けられてしまう。

「あ、危ないじゃないですか、美神さんっ!」
「黙れ、裏切り者! 今朝は夢見が悪くてムシャクシャしてんのよっ、おとなしく殴られなさい! さもないと後でヒドイわよっ」
「んな、無茶苦茶なー。 エミさ〜ん、見てないで助けてくださいよーっ」
横島はゴキブリのように機内を逃げ回りながら、助けを求める。

「お二人とも落ちついてください。 これから一緒に仕事をする仲間じゃないですか」
「一緒に仕事をする仲間だからこそしこりを残さないよう。 ケジメはつけないといけないワケ」
二人の間に割って入ろうとするピートをエミが制止する。

「あと一人助っ人がいるんでしょ? ここは私に任せて迎えに行ってらっしゃいな。 大丈夫、帰ってくる頃には丸く収まってるわ」
「・・・・・・そうですか。 確かに時間も押してますし、この場はよろしくお願い致します」
「ま・か・せ・て。 いってらっしゃいな。 でも、これは私からあなたへの個人的な貸しよ。覚えておいてね」
エミの最後の言葉に、汗をダラダラと流しながらピートは最後の一人を迎えに行った。


一方、エミがピートといちゃついて、まったくアテにならないと知った横島は、嫉妬で身を焦がしながら、今を生きのびる為に他の面々に助けを乞う。

「エンゲージッ、見てねーで助けろよっ! 友達だろっ」
「フン、ワシのようなむさくて陰気な野郎ではなく、ナイスバディな女神にでも頼んだらどうじゃ」
朝の件をまだ根に持っていた。

「おキヌちゃーん、美神さんに取りなしてっ!?」
「私は・・・・・・私に頼るのは、エミさんどころかエンゲージさんより後なんですね」
「えと、おキヌ・・・・・・ちゃん?」
「横島さんの事なんか、知りません!」
配慮に欠けていたせいで、プイとそっぽを向かれてしまう。

おキヌちゃんからも見捨てられたショックで、逃げ足が鈍り、つかまりそうになるが、なんとか逃れて、次の人を頼る。
「い、いーまトイレから出てきたばかりのドクターカオスっ、助けてくれッ!」
「いや、小僧、何故儂が貴様の為に美神令子と事を構えねばならんのだ?」
もっともだ。

「じゃ、えーと、えーと、パイロットさー・・・・・・」
「いい加減、覚悟を決めなさい! これはあんたが選んだ結果なワケ。 男なら落とし前はつけなさい」

「ま、待ってくださいよ。 俺がエミさんの所に行ったのは、エミさんが誘ったからで・・・・・・」
さすがにエミの一方的な言い分に横島も抗う。

「そうね。 私の誘いを受けてウチに移る事をあんたが自分自身で決めたワケ。 だったら決断の責任はあんたが負うのが筋なワケ」
エミは鋭い目で横島を射抜く、これは横島を一人前にしていく為の試練なので、容赦はしない。
小笠原エミはその点、美神令子よりシビアな女性であった。

「あんたの言いたい事はわかるワケ。 当然、私と令子の間にもアシスタントを引き抜いた、引き抜かれたという関係があるし、それは私と令子の間でケジメをつけなきゃいけない。
 でも令子が今、求めているのは、あんたとのケジメなワケ。 命までは取らせはしないから、いい加減腹をくくりな」
ドスを利かせたエミの叱咤に、もうスタミナが限界に近づいた事もあり、横島も立ち止まって美神に向き合う。
「令子も、いいわね。 横島が落とし前をつけたら、今までの行きがかりや遺恨もひとまずこの仕事中は忘れるワケ」 

エミの言う事に結局は従う横島。
それが美神やおキヌには癇に障った。 自分達とは断ち切られた絆を感じ取ってしまうから。
「ヘェ、エミにはそういうふうに躾られたんだー。 ま、良いわ。 確かにブラドー島に着いたら遊んでる暇はなさそうだしね・・・・・覚悟は良いわね、横島君」
美神は凍えつくような笑みを浮かべ、横島に殴りかかる。


「よ、横島さん!?」
おキヌが惨劇を予想して、その場から思わず目を逸らす。
だが、機内に響いたのは、聞きなれた打撃音ではなく、ガキーンと何か硬い物がはじく音だった。


「ほう、意外にやるではないか、小僧」
カオスの言葉に恐る恐る視線を戻すと、美神の神痛棍は、横島の発生させた光の盾のようなもので防がれていた。

「横島……さん?」
「なん……ですって」
呆然とするおキヌ同様、否、それ以上に美神の驚きは大きい。

信じられなかった。
一応手加減はしているとはいえ、かつての折檻の打撃とは速さも重さも段違いのその一撃を、横島は防いだのだ。
それも「霊能力」で!

「あんた、何なのよ、それは! なんで、あんたがそんな力を使えるのよっ!」
ヒートアップする美神に、エミが誇らしげに声をかける。
「私が育てたワケ。 引き抜く時言ったでしょう。 こいつこそあたしが求める人材、あたしこそこいつを使う人間だって、ね」

「グギギギギギ」
悔しさをにじませる美神に、さらに勝ち誇って続ける。
「まぁ、珠は磨かなきゃ光らないのは当然よねぇ。 どんな人材も使いこなせる人間の元にいなければ、豚に真珠、猫に小判。 それとも、この場合、良禽は木を選ぶ、かしら。 オーッホッホッホ」

「あ、煽らないでくださいぃーっ、エミさーん!」
横島は涙目になって訴えたかったが、もう遅い。
そう、今にもゴゴゴゴゴッという背景音を発しそうな勢いで美神の霊力が高まっていく。

「よ、ヨ゛ゴジマ゛ァァー」
嫉妬と恥と怒りに満ちた叫びがあがる。
鬼だ。そこにいるのはまさしく般若と化した、人間とは別の生き物だった。
嫉妬と怒りと悲しみの神通棍が唸りをあげる。

横島も恐怖のあまり、膝が笑いそうになるが、命が惜しいのでサイキックソーサーの出力をあげる事に専念する。
アレは避けられない、避けても当たるまで連続攻撃が待っている。
ならば、全ての力を受け流す事に注いで生還を期するのみ。


そして、それは来た。
最高のGS、美神令子による神通棍最大出力による打撃。
一撃目は凌ぎきった。

二撃目もなんとかスレスレながら受けきった。

だが、三撃目。
受け流す事も、凌ぐ事もできそうにないと判断すると、勝手に身体が動いていた。
サイキックソーサーを消して身体の霊的防御力を戻すと共に、攻撃に割けるありったけの霊力を込めた右手の一撃を放つ。
エンゲージとの朝のドタバタの中、半分命がけで身につけたカウンター。

ドギャアアッ
美神の一撃が先に決まり、打ち据えられて血の海に沈む横島。
この一撃で横島は失神したが、怒りの制裁は彼がボロ雑巾になっても、なお続く。


だが、それでもエミは弟子の健闘に満足していた。
実力差は気が遠くなるほどあった、だが、それでも横島はかつての飼い主相手に一矢報いた。

美神は、左脇腹を押さえながら折檻を続けている。
先に一撃を受けた為威力は激減しつつも、美神に決まった横島の右手の一撃。
それはは確かに美神にダメージを与えていたのだ。
意識してのものではなく、条件反射の産物にすぎないにしても、それは彼にしては大殊勲であった。


「この飛行機で〜行くんですかぁ〜」
ピートが冥子を連れてきた時には凄惨な制裁も終わっていた。

横島忠夫は美神令子からとりあえずの許しを得たのだ。


そして、騒動の余韻と混乱をそのままにチャーター機は飛び立つ。 吸血鬼の島に向けて。 
冥子がショウトラの心霊治療を思い付くまで、生き延びろ! 横島忠夫!
いつの日か、エミのナイスバディを我が物にする為に。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa