ザ・グレート・展開予測ショー

蜂と英雄 第8話 〜花開いたもの〜


投稿者名:ちくわぶ
投稿日時:(05/10/20)





〜イタリア共和国首都:ローマ〜



 古代ローマ帝国から続くイタリアの首都であり、観光名所として世界で五本の指に入るほどに有名。
 ローマにはコロッセオを始めとした古代の建造物が現在も数多くその姿を残し、伝統ある歴史と文明が高度に融合した都市だ。
 そして、ローマはGSにとっても重要な場所であるヴァチカン市国の所在地でもある。












 タオルミーナからカターニア空港へバスで1時間。
 カターニア空港からローマ行きの飛行機に乗りさらに1時間で、イタリア本土のレオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港(フィウミチーノ空港)へ向かうことができる。
 そこからローマ市内へ向かうには、路線が整備された電車やバスが便利だろう。




 ベスパはアンジェラに促されてこのルートでローマに到着、市内を歩いていた。
 ローマに限らずイタリアの都市というのは日本のようにコンクリートとアスファルトで埋め尽くされているわけでなく、レンガや石材を上手に用いたクラシカルでお洒落な建物や、緑豊かな公園などが互いに景観を損なうことなく見事に溶け込んでいるのである。
 こういった伝統ある文化や建築が失われないのは、芸術やスタイルにとことんこだわるイタリア人の国民性によるものなのだろう。


 アンジェラがルシエンテスのしもべなら空くらいは飛べるはずなのだろうが、目立つのを避けるためか彼女はずっと徒歩でどこかを目指していた。
 ちなみにうつろな目をした犬は乗り物に乗っている間はピクリとも動かず、乗り物の添乗員に質問されてもぬいぐるみと言い張って誤魔化していた。
 街中を犬と共に歩いている少女の後ろ姿は、やはりどう見てもただの子供にしか見えない。
 ベスパの脳裏には、未だ拭いきれぬ疑問が渦巻いている――――











 が、そんな彼女らの行く手を阻む問題が新たに発生していた。


(はあ……まいったね……)


 ベスパはこめかみを押さえ、心底疲れたようにため息をつく。




 イタリアの男性はとにかく女性によく声をかける。
 女性には声をかけるのが礼儀であると言わんばかりに積極的なのである。
 ましてやベスパはイタリア人男性が特に好みそうなスタイルをしているため、数十メートル歩かないうちに声をかけられるという状況の繰り返しであった。
 大抵の相手は無視していればさほど食い下がってこなかったが、今度の相手はしつこかった。
 無論、どこにでもいる普通の若い男に違いはないが。
 その男はいくら無視しても付いてきて、何度も目の前に立ち塞がってくる。
 いくら断ってもついてくるのがイタリア人男性だとはよく言うが、この状況がまさにそれであった。
 あまりのねばり強いアタックに、元来さほど気が長いわけでもないベスパの忍耐はすでに限界に達しようとしていた。
 ……が、先に口を開いたのは彼女ではなかった。


「急いでるから邪魔しないで。」


 先を歩いていたアンジェラが、男の背後から裾を引っ張っていた。
 男を見上げる顔は相変わらず無表情だったが、その声にはわずかばかりの苛立ちが含まれている。


「ん?すぐ済むからお子様はあっち行ってろよ。」
「……ダメ。」


 きっぱりと言い放つアンジェラの言葉に、男の眉がわずかにヒクつく。
 裾を掴む手を払おうとしても、彼女は首を振って離そうとしなかった。


「おい、ちょっ……手を離せってば!!」
「あっ……!!」


 少々乱暴に振り払われた腕が顔に当たり、アンジェラは突き飛ばされてしまう。
 すかさず犬がクッション代わりに受け止めたが、アンジェラはその場で尻もちをついて座り込んでしまう。
 男は手で顔を押さえ、『しまった』というような顔をしたが、どうやらアンジェラに大事はないようでホッとため息をついていた。
 が、次の瞬間胸ぐらをものすごい力で掴まれ引き寄せられる。
 ベスパは片手で男の襟元を締め上げ、凍り付きそうな視線で男を睨んでいた。
 あまりの迫力に男はゴクリと息を飲むしかない。


「これ以上機嫌が悪くならないうちに消えな……!!」
「は、はひっ!?」


 男は突き飛ばされてアンジェラと同じように尻もちをついた後、もつれそうな足取りで走り去っていった。
 目を閉じ、ひと呼吸ついて気持ちを落ち着けたベスパは座り込んだままのアンジェラの傍へ近付く。
 やや前傾になり、手を差し出してベスパは微笑んだ。


「大丈夫だった?」
「あ……。」


 自らの前に差し出されたその手を見た時、かつて自分がここに在る以前の記憶が蘇ってきた。




 あれは……そう、夜の闇とはまったく違う、もっと深いところ――――
 消えてしまうだけだった自分が引き上げられたあの時――――




 アンジェラはその手に触れることができなかった。
 その手に触れてしまえば、また何かが変わってしまうような――――自分では上手く説明しようのない暗雲が胸の中に重く立ちこめてそれをためらわせた。




「……どこか痛むの?」




 じっとしたままの彼女にかけられた言葉は優しかった。
 ふと目線が交わったベスパの瞳に宿る光は、今まで感じたことのない感覚をアンジェラにもたらしていた。
 未知の出来事に混乱しながらもぷるぷると頭を振って答えていると、ベスパは再び微笑みながら手を差し伸べた。




「ほら、掴まって。」
「……っ!!」




 さらに近く差し出された手に思わずアンジェラは目をつぶってしまう。
 だが、それが触れた瞬間……
 『あの時』とはまるで違う感覚が全身を包んでいた。




 あの時――――




 深淵に溶けてゆく自分を引き上げた手は骨のように硬く、そしてひどく冷たかった。
 そして何より、かつての全てだったあの場所のこと――――
 心に焼き付くイメージが、差し伸べられる手にそれを連想させていた。


 しかし今、優しく自分の掌を握り返してくるものはしっとりとして柔らかく――――そして温かかった。
 波のように広がっていく――――といっても穏やかなそれはアンジェラが初めて感じる『温もり』だった。




 ベスパは手を引いてアンジェラを立たせると、今度は自分が跪いて服の埃を払ってやっていた。
キョトンとしてされるがままのアンジェラに、ベスパは言う。


「妹がね、いるんだ。本当は双子みたいなもんなんだけどさ。あんたより体は大きいけど、結構手がかかるのよ……って、ごめん、関係なかったね。」
「あ、あの……。」
「ん、どうかした?」


 アンジェラはうつむいたり顔を上げたりしながら、自分が何を言うべきか迷っていた。
 そして、ぎこちなくベスパを見つめ、ゆっくりとその言葉を口にするのだった。




「ありがと……う。」
「……いいんだよ、気にしないで。」




 アンジェラはまだ何かを言いたげな表情で微笑むベスパを見上げていたが、やがて目線を戻して歩き出した。
 ……と思いきや、一歩だけ進んで再び彼女は振り返った。
 そしてゆっくりと……ゆっくりと右手を差し出したのだった。
 普通の子供が望み、求めるのと変わらぬように――――








(この子……)








 ベスパはやはり信じられなかった。
 あの魔導師はこんなに幼く無垢な子供を何のために……?
 これより向かう先の事実を見た時、もう後戻りできなくなるのではないか――――
 予感にも似た不安がベスパの脳裏をかすめていく。
 だが、目の前にある手はとても小さくて――――
 振り払うことなどできはしなかった……。




 そっと手を握り返した時、アンジェラはじっと繋がれた手を見ていた。
 手のひらに伝わる感覚を確かめるように、じっと……。
 やがてただ握られるままだった小さな手に力が入り、しっかりとベスパの手を握り返してくる。
 そして、顔を上げたアンジェラは小首を傾げるようにして呟いた――――








「手、あったかいね……。」








 それはまるで、小さなつぼみが花開いたような瞬間――――




 笑っていたのだ。
 着替えた時に見たようなぎこちないものではなく、それは確かな笑顔――――
 太陽の光を一杯に浴びた可憐な花のように、それは柔らかで。
 見る者の胸に優しく広がるような温かさがそこにはあった。








「へえ……そんな風に笑うんだ。」
「笑うと……ヘン?」
「……ううん。いい表情(カオ)してるよ、とっても。その方がずっといいわ。」
「えへへ……。」








 今度は少し恥ずかしそうな、嬉しそうな表情を交えながらアンジェラは笑っている。
 それにつられて温かい気持ちを感じながらも、複雑な思いがベスパの胸を駆け巡る。








 今ほど向いていないと感じた事はなかった。
 迷いを処理できない自分を――――
 小さな手を離す事ができない自分を――――








 この子は――――敵であるはずなのに――――








「じゃあ、行こ。」
「あっ、ああ、そうだね……。」




 難しい顔をして考え込んでいたベスパの手を引いてアンジェラが催促する。
 繋いだその手を離さぬまま、再び2人はローマの街を歩いて行く――――
















 ローマのほぼ中心地に位置する文化遺産コロッセオ。それと隣り合うカンピドーリオの丘の南側に『フォロ・ロマーノ』と呼ばれる遺跡群がある。
 フォロ・ロマーノは古代ローマの中心部であり、政治・経済・宗教の全てが執り行われていた。
 そして霊的に見ても、ローマを走る地脈の上に位置している重要な場所なのである。
 ちなみに入場は無料なので、観光客も気軽に古代の宮殿や広場の跡、雄大なパンテオンの柱などを見物する事ができる。




 ベスパとアンジェラはこのフォロ・ロマーノにやってきていた。
 コロッセオ側の入り口から入り、凱旋門をくぐり抜けて中心へと続く『聖なる道』を踏みしめながら歩いていく。
 周囲を見れば二千年前から変わらぬ遺跡の数々にしきりにシャッターを押す観光客、笑顔で遺跡の説明をしているガイド、そしてこの周辺に住み着いている多数の猫の姿。
 それらの間を通り抜け、2人は宮殿跡までやってきた。
 アンジェラは繋いでいた手を離すと、四つん這いになって地面を触り始めた。
 犬も一緒になって、フンフンと匂いを嗅いでいる。


(何をしてるんだろ……?)


 ベスパがその様子を見つめていると、後ろから恰幅の良い中年男性がニコニコしながら近付いてくる。
 Yシャツに包まれたはち切れんばかりの腹をゆすり、ハンカチで汗を拭きながら男性は尋ねた。


「お嬢ちゃん達、ここで何を?」
「えっと、これはその……。」


 ベスパが言葉に詰まっているのを素通りし、男性は地面に夢中になっているアンジェラに近付いていく。


「地面に……何かあるのかい?」
「……。」
「ここは貴重な文化遺産だから、むやみに地面を掘ったりしちゃいけないよ?」
「邪魔しないで……!!」


 アンジェラは肩に触れようとした男性に手をかざす。
 男性は突然見えない力で吹き飛ばされ、すぐ近くの柱にしたたかに打ち付けられてしまった。
 崩れ落ちるようにしてうなだれた男性はぐったりとして、ピクリとも動かなくなってしまった。




(やっぱり……アンジェラ――――!!)




 予想はしていた――――だが、できるならば認めたくなかった事実にベスパは目を見開いていた。
 もはや間違いない――――
 だが、その確信を得てなお、ベスパの心では感情が激しくせめぎ合って行動を躊躇わせていた。


 アンジェラはやがてある場所で手のひらを地面に当てると、今までに見た事のない目つきで地面を見つめていた。
 やがて、彼女の髪がザワザワと浮き上がり始め、その小さな体に似合わぬ強力な霊気が立ちこめ始める。
 とても人間が放つとは思えぬ霊力の強さに、ベスパは思わず息を飲んだ。








 感情のせめぎ合いはまだ終わらない。
 だが、もはや迷う余地など無かった――――
 この子が奴の――――ルシエンテスの手下ならば、その行動を黙認する事はできない。
 おそらくは『あれ』という者の復活に繋がっているだろうから。
 阻止しなければならないのだ。どんな事をしてでも――――
 ベスパはうつむき、うっすらと血が滲むほどに唇を強く噛み――――覚悟を決めた。


 無防備な今ならば……きっと――――


 ふと、妹の顔が心をよぎる――――
 それが、耐え難いほどにベスパの胸をきつく締め付けていた。
 垂れ下がった髪にその表情を隠し、ベスパはアンジェラへ向けて一歩を踏み出そうとしていた。




 アンジェラが放つ霊気はやがて大地と共鳴し、ハッキリと感じられるほどに大地を揺るがし始めていた。
 地の底から、強大なエネルギーがうねりとなって押し寄せてくる。
 彼女が懐に手を入れ何かを取り出そうとしたとき、ふと大きな影が覆い被さった。
 それを見上げようとした瞬間、丸太のように太い腕が喉を握りつぶして彼女を高々と持ち上げた。
 いつの間に気が付いたのか、それは先程のにこやかな顔とはほど遠い、まさに鬼のような形相をした男性であった。


「お前!!何を――――!?」


 ベスパは男性に飛びかかろうとしてハッとする。
 彼から発せられている気もまた――――人間のものではなかったからだ。


「こんなチビが目標とは思いもよらなかったが……間違いない。そしてベスパ、貴様が敵の行動を阻止しなかった理由も聞かせてもらうぞ。」


 途端、男の顔面が真っ二つに割れたかと思うと二本の角と鋭い牙を生やした黒い皮膚の魔物へ変身した。
 いわゆるデーモンと呼ばれるタイプの魔族で、今までとは正反対の殺気にギラついた目でベスパを睨んでいた。


「あんた……正規軍か!!どうしてここが……!?」
「報告されたデータを元にルシエンテスの手下が次に現れるポイントを張っていたのさ。そこらにいる観光客も全員……。」


 デーモンが周囲に目をやると、今まで単なる観光客だった連中の全てが魔族へと変貌していた。
 一体何人の正規兵がこの場にいるのか想像もつかない程の数である。


「少々大げさすぎるかもしれんが、命令を受けては仕方ない。それに、場合によっては貴様を始末しても構わんと言われているぞ。」
「なッ……!?」
「しょせん貴様は働きバチ。代わりなどいくらでもいるということだ。」
「待って、私は情報を手に入れようと――――!!」
「もっとも……貴様の事情などどうでもいいがな。」


 青ざめた顔で弁解しようとするベスパの言葉を聞き流し、デーモンは冷酷な口調で続けた。


「アシュタロスの件は実に不愉快だったぜ……それに、ここで万一の事が起きても作戦中の『不幸な事故』で済むよな……ククク!!」
「……!!」


 デーモンはベスパの凍り付いた表情を愉快そうにあざ笑った。
 そして高々と持ち上げたアンジェラに魔族特有の残虐な視線を向けると、その手に込める力を更に強めながら呟いた。


「このガキをひねり殺したら次は……貴様の番だ。どんな声で鳴くか楽しみだ……!!」
「てめぇ……それでも――――!!」


 あまりの非道な発言にベスパが爆発寸前だった瞬間――――
 彼女の背後から巨大な影が伸び上がり、デーモンの頭を何かがわし掴みにした。
 それは皮膚のない腕――――
 真っ赤な筋肉が伸び縮みし、真っ黒な血液が流れている……


「なっ!?何だ貴……!!」


 言い終わらぬうちに、水の詰まった風船が割れるような音と共に肉片と体液が飛び散った。
 頭部を失ったデーモンの肉体はピクピクと痙攣し、アンジェラは解放されて地面に落ちる。
 凄まじい悪寒を感じて振り返ったベスパが見たものは、かつて魔界の湖で見た怪物……ナックラヴィーの姿だった。
 以前と変わらずおぞましい姿のまま、ナックラヴィーはシューシューと奇妙な呼吸音を響かせながらこちらを見下ろしていた。
 反射的にベスパは横に転身し身構えたが、ナックラヴィーはチラリとこちらを見ただけで、後はアンジェラをじっと見つめていた。


「まさか……あの犬……気配なんて全然感じなかったのに……!?」


 突然の事に動揺していたベスパの周囲から、更なる殺気が迫る。
 いつの間にか周囲を取り囲んでいた正規軍兵士達の銃口が、アンジェラを狙っていた。
 鈍く光る複数の銃口から、確かな感情と共に弾丸が放たれる――――








 死ね――――!!








「嫌ぁァァァァァァァッ!!!!」








 爆発だった。
 それは恐怖への悲鳴か――――
 自己防衛のための本能なのか――――
 己自身に向けられたおびただしい敵意が彼女の心を引き裂き、爆発させた。








 闇よりもさらに深い……根源をなす深淵の濁流がその小さな体から溢れ出す。
 それは黒い光――――
 それを浴びた弾丸は塵となって空中で消え失せ、ただの一発も彼女やベスパの元には届かなかった。
 黒い光……ゆらめく炎のようにも見えるそれを纏いながらアンジェラは立ち上がる。




 自分に向けられるその全てを消してしまいたい――――!!




 幼いがゆえの純粋な思考はより鮮明にそのイメージを形に変える。
 雲の隙間から光が差すように、黒色のそれは光速の槍となって正規軍兵士達を襲い始めた。
 気付いた時には貫かれている――――
 正体が掴めない攻撃に兵士達は為す術が無く、次々と倒れていく。
 さらにナックラヴィーが混乱する兵士達へ躍りかかり、フォロ・ロマーナは阿鼻叫喚の地獄へと変貌していった。








「やめろーーーーーーーッ!!!!」








 ベスパの絶叫が空を裂く。
 それは味方の命を惜しんでの事か、それとも――――








 かつて――――
 彼女にとって、この世界の全ては自身に向けられた敵意でしかなかった――――








 幼い少女の双眸からこぼれ落ちる雫が、歴史の残骸に当たって弾けた。




















 応援に来たGS達やジークらが目にしたものは、魔族の血で染まった遺跡と死体の山だった。
 凄惨な光景の中を見回すと、それらの中で幼い少女と怪物、そしてベスパだけが立っていたのだった。
 彼らの姿を見た時、ベスパは心臓が止まりそうなほどの恐怖を感じてしまう。
 アンジェラは、パワーだけならルシエンテスに匹敵、あるいはそれ以上の危険度を孕んでいた。
 しかも制御が不安定らしく、彼女に少しでも害を及ぼそうとする者に一切の容赦を与えない。
 もし彼らが――――ジークがアンジェラを殺そうとしたなら、近付くヒマもなく一足先に屍と化した魔族達と同じ運命をたどる事は避けられない――――




 それだけは――――
 それだけは何としても避けたかった。
 ジークや人間達のために……
 そして――――




 可憐な笑顔を見てしまった少女の――――








「無事だったかベスパ!!今そっちに――――!!」
「来ないで!!!!」


 安堵の表情を浮かべ、真っ先に近付こうとしたジークは思わず足を止めた。
 ベスパの体からは本気のオーラが放出され始めていたからだ。




「ジークだけじゃない……みんなそれ以上近付かないで……どうしてもって言うなら、私が相手になってやる!!!!」








 裏切ったのか――――!?








 誰かがそう言った気がした。
 だが、もはやそんな言葉は耳に届かなかった。
 ベスパとジークの視線が静かに交差する。
 それはこれからの2人が辿る運命を示すかのように、複雑に絡み合っているのだった……


 

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