ザ・グレート・展開予測ショー

絶対無敵シンデレラ 後編(絶対可憐チルドレン)


投稿者名:かいる
投稿日時:(05/10/20)






――――――――最近、葵の様子がおかしい。









突然髪型をポニーテールにしてみたり、三つ編みにしてみたり、お団子にしてみたり。
しかも同じ髪型は二度としない。

服装も、フリルがやたらめったら付いた服を着たと思えば、中華街で買ったチャイナドレスを着てみたり、
昨日なんてスーツ(どこで買ったんだ?)に網タイツ(・・・流石に注意した)というとんでもない出で立ちだった。
服装についても髪型と一緒で、同じ服装は二度としないようだ。


お洒落に目覚めることに異論はないのだが・・・それにしてもコロコロと外見を変えすぎだろう。






このように、外見についての奇抜さはわかってもらえたと思うのだが――――――――






「どうかしたんか?――――したの?おにいちゃん?」










言動はもっと深刻なのだった。















           絶対無敵シンデレラ 〜後編〜












今からして思えば、葵がおかしく
・・・失礼、奇行に走り出したのは、あの「新装備」騒動からだったように思う。

こちらも煮詰まってたとはいえ、もうちょっときちんと話を聞くべきだったかも知れない。
―――――あの新装備が採用されることだけは、ないが。ないと信じたいが。(局長にねじこんだりしてないだろうな・・・)


そんな葵は今日もバッチリ迷走中である。
今日のメニューはピンクのワンピース、でっかいリボンのツインテール風味。
・・・似合わないわけではないんだが、普段の行動を鑑みるに、違和感が拭えない。


しかし、面と向かって指摘できないもどかしさ。
日本人気質と言えばそれまで。ああ、奥ゆかしいと言うべきか、臆病と言うべきか。
今日も根本的な問題点を指摘できないまま皆本の朝は過ぎゆくのだった。






―――――――皆本家の朝は、濃いブラックで始まる。



皆本家の朝食はトーストにハムエッグという、ごくふつーの洋食の形態を取っている。
それゆえ、コーヒーも当然付いてきているので先の格言も、字面通り受け取って間違いはない。



なぜか空気までもがブラックを通り越してドス黒くなってるのはご愛敬である。
黒く、重たい雰囲気の中、バターナイフを置く音が響いた。


「ハイ!塗り終わったで――――――よ――――――おにいちゃん!」


満面の笑みとともにバタートーストを差し出す葵。
心遣いはありがたい。確かにありがたい・・・のだが・・・。


薫よ。マグカップはそんなに力を入れて持つな。ヒビが入ってるぞ。
紫穂。にこやかなのは良いんだが、そのナイフはトーストを突き刺すためのものじゃない。穴だらけじゃないか。


・・・周囲の反応は怖いが、好意を無碍にするわけにもいくまい。・・・フリーフォールが怖いしな。




「お、おいしそうだな〜。んじゃ・・・」



すかっ



「おい?葵、なにやって・・・」



すかっ



「よこしてくれよ。冷めちゃうだろう。」




葵の不可解な行動に、表情を伺う。


にぱ―――――――――。音が出そうな笑顔。







「あ――――――――――――ん。」







ああ、今日も世界は平和だなあチクショウ。
いや、これは紛れもなく現実。現実を見つめ、対処するんだ皆本光一!




「あ、あのな?葵、いいか「あ――――――――――――――ん」・・・・・・うぅ、」




――――――無理だ。(0.5秒) この目はどんな言葉を並べても聞いてくれない目だ。
しかし、このままでは、薫の方が持たない・・・現に今も空間がプレッシャーで歪みつつあるし。

業を煮やした葵が畳みかける。


「おにいちゃん・・・葵のつくったトースト・・・食べてくれへんの?ウチのこと・・・・・・嫌い?」うるうる。


「うぐっ・・・・・・いや、決してそんなことはだな・・・・・・「なら好きなんやな?」・・・ぐはっ・・・・・・」




詰みである。だが、「ありません」と答えても事態が収束するはずもなく。



「好きやったら、あ―――――――――――――ん。
あ、それともトーストやなくてコーヒーの方がよかったかなぁ?」



おっ?天の助けか?



「あ、ああ、そうなんだ。コーヒ「コーヒーなら口移しでいくでー」


・・・・・・トーストでお願いします・・・」



罠でしたー。



「さいしょっからそうすればええんや。ほな、あ――――――――ん♪」



万策尽きたとは正にこのことか。徐々に覚悟を完了していく自分。
自分で嫌な汗がどんどん噴き出てくるのがわかる。もういいかげんにしないと遅刻してしまう。
そんな理由を付けて、自分の心をごまかしにかかる。人間の心のなんと脆いことか。


「あ、あ――――――ん・・・・・・・・・」


僕の顔はおそらくサラダのトマトのような色になっているに違いない。
トーストが近づいてくる。もうこうなったら早いトコ終わってくれ・・・。





さくっ。もぐもぐ。




「どや?おいしい?」

「ああ、うまいよ。」

「よかったー。ん?みな・・・おにいちゃん?口にパンのかけらがついとるで?」

「えっ?どっち側だ?」

「あん、ウチがとったげる。動かんといてや。」


そう言ったかと思うと、近づいてきて―――――――――








ちゅっ








「えへへー。取れたで?」




ぷちっ






あ、切れた。






だんっ!がしゃ。

たたきつけられ粉々になるマグカップ。続いて赤鬼が吼えた。


「朝っぱらからイチャイチャイチャイチャ・・・・・・うっとおしいんだよおお!!!!
この――――――――スケコマシがあああああっっ!!」



いかん。これはもー説得できるレベルとかそう言った段階ではない。
チカラが高まりすぎて放電してるし。




「僕が何をしたっていうんだあああ!あ、葵からも説明をだなー・・・」



間。




「葵ちゃんならとっとと逃げちゃったわよー。」

とは、廊下に避難する態勢万全な紫穂の言。



「に、逃げるなら逃げるで僕を連れてってくれても・・・」

「あら、ダメよ?薫ちゃんの力の矛先がどこに向くかわからないじゃない。
わたしの能力は戦闘向きじゃないし。がんばってね?皆本さん?」



最後の望みは絶たれた。終わりとは得てして突如やってくるものである。



「――――――――話は終わったかー?んじゃお仕置きタイムと行きますか・・・。
あたしが、社会生活における公序良俗ってもんをたっぷり体に叩き込んでやるよ!」

「日頃の生活を見るに、お前が言って良い台詞かっ!?ソレ!?」

「問答無用おおおおお―――――――――――――!!!」









轟音に揺れるマンション。響く悲鳴。この数日間の朝の恒例行事となっている風景をあとにして

「許してね?皆本さん。・・・わたしだって嫉妬くらいするんだから。」

と呟いた人がいたとかいなかったとか。
















さて。朝から最大級の災難に見舞われた皆本だが、彼の受難はこれで終わりではなかった。






BABELへの出勤の途中。




「ちこくちこくぅ〜〜〜〜!転校初日から遅刻はマジやばいって感じやで〜〜〜〜!」




しっかり朝食を取ったはずなのになぜかトーストをくわえ、
まだ小学生のはずなのだがなぜかセーラー服を着て走ってくる娘がひとり。

曲がり角からタイミング良く出てきたところにごっつんこ。
パンツが見えてまいっちんぐ、という例のアレである。



しかし、彼女にも誤算はあった。











皆本氏の通勤手段は車である。
ごっつんこしたら、再び走り出す気力はたぶん湧いては来ないだろう。


「―――――ちこく〜って、車かいな!!さすがにそこまでは体張れへんで!!」

「あ、葵ィ?ぐっ!なにやってんだあああああ!!!」

フルブレーキ!だが止まれるかっ!?


――――キィンッ


「殺す気かいなっ!」

「え、あお――――――うぶうっ!?」

助手席にテレポートした葵にビンタされる皆本。

「ホ、ホントに僕が何をしたって言うんだ・・・。」


皆本光一・20才。今日も今日とて世の不条理を感じる一日であった。




















それからしばらくして、ひとりでBABELまでテレポートさせるのもあまりなので
(本当のところは、これ以上妙な仕掛けを自分の目の届かない処で組まれても困るので)
そのまま葵を助手席に乗せ、一緒に出勤することにした。

また薫と紫穂の反応がどうなるかを考えると、後が怖いのだが。
最近の葵の動向を問いただすいいチャンスかも知れないと思ったからだった。

助手席の方を見ると、さすがにさっきの行動は軽率だったと自覚したのか、
かるくうつむいている姿が見えた。慰める意味も込めて話しかける。






「まあ、さっきのことはどっちにも怪我がなかったからいいよ。
・・・・・・それで、最近どうしたんだ?」

「どうしたって、なんのことや?」

「とぼけなくてもいいだろ。近頃の葵の様子が普通じゃないのは誰にでもわかるさ。」

「(・・・そんな奇抜な格好してたんやろか。ウチ。)・・・参考資料が薫の本だったのはやっぱまずかったんかな(ぼそ)」

「ん?どうした?何かいったか?」

「い、いや、なんでもあらへんねん。・・・せやな――――――皆本はん?シンデレラを知っとる?おとぎ話の。」

「・・・?ああ、一応は知ってるけど?」



「あのな?シンデレラは魔法をかけてもらって、舞踏会に行くことができたから、王子様のメガネにかなったんや。
シンデレラが南瓜の馬車を持ってなかったらどうなってたやろ。
舞踏会には行かれへん。少なくとも、王子様とは会えんやろな。
シンデレラがドレスを持ってなかったら、どうなってたやろ。
舞踏会に出られはしても、王子様の目には止まらんかったやろ。

王子様に会えないシンデレラ。王子様に認められないシンデレラ。
きっと―――――ツギを当てたボロを着たまま、欲しいものも手に入れられずじまいで生きてくんや。





―――――――ウチは、この話を、ハッピーエンドにしたいんよ。」


「葵・・・」


真剣な目で前を見据える葵。いったん息をつき、言葉をまた紡ぐ。

「ウチの前に、魔法使いは現れんかった。あるいは、まだウチがコドモなだけかも知れん。
でも、なんもせんとただボーッと時間が過ぎるのを・・・舞踏会が終わってしまうのを待ってるのはイヤだったんや。
魔法使いがいないなら、自力でやってやる!思てな。
あはは、シンデレラと自分を重ねてみるなんて図々しいかな?
はあ、まったく、あのふたりがおとぎ話みたいに嫌なヤツやったらもっと積極的に攻めれたんやけどなあ!」



あはは、と無理に明るく笑う葵。



くしゃっと、その黒髪の頭をなでてやる。



「んっ・・・・・・皆本はん?」

「シンデレラはさ、どう幸せだったのかな。」

「えっ?」

「シンデレラは末永く幸せに暮らしました――――――って書いてあるけど、どんな風に暮らしたのかな。
毎日美味しいもの食べて、宝石とか綺麗な服買って。そんな風に暮らすのが幸せだったのかな。」

「・・・・・・。」

「――――そうじゃないだろ?・・・たぶん、シンデレラは自分のことを愛してくれる、
自分のことをちゃんと見てくれる人ができたから、幸せに暮らせたんじゃないのかな。


僕は王子様ってガラじゃないけどさ・・・
少なくとも、僕にとって君たち三人は、同じくらい手がかかって、同じくらい生意気で、
――――――――同じくらい大切に思っているよ。」

頭をなで続ける。ゆっくり。ゆっくり。

「あせらなくてもいいさ。そのうち君たちは嫌でも大きくなるんだから。
ゆっくり、じっくり、なりたい自分になればいい。そうだろ?」

そう聞くと、彼女ははにかみながら、でも晴れやかな顔で、



「―――――――――おおきに!皆本はん!」



そう笑った。














この世界には 魔法はなくて、魔法使いも見あたらない

カボチャは馬車にならなくて ネズミも馬になりません

ボロもドレスにならないけれど、わたしはけっしてあきらめない



わたしに馬車はいりません

舞踏会にはでなくていいから

わたしにドレスはいりません

王子はいつもそばにいるから



わたしは無敵のシンデレラ 魔法使いはいらないの

自分自身のチカラでじゅうぶん

ハッピーエンドをつかんでみせる!




















一方。BABELで待ちぼうけを食らわされてるふたり組の会話。
どうやら例の葵の妄想劇場ビデオを鑑賞しているようである。

「―――――以上が、葵ちゃんの奇行の原因となった妄想のすべてよ。」

「しかし、まじめそうなヤツほど壊れると凄いってのはホントだな。」

げひゃひゃ、とひとしきり笑ってから。

「んで?このビデオをどーすんの?脅しにでも使うってんならあたしは降りるよ。」

「あら、そんなことしないわよ?そんなことしたって何の得にもならないし。」

「?・・・じゃ、何しようっての?」

くすくすっ・・・こらえきれないように紫穂から笑みがこぼれる。

「・・・皆本さん、葵ちゃんの攻勢にずいぶんたじろいでたでしょ?
だったら、私たち三人がかりでやれば・・・どうなるかしら?楽しそうだと思わない?」

しばし考える薫。


・・・

・・・

・・・にやり。

「そりゃいいな・・・じゃ、早速今夜からやってみるか!」

「葵ちゃんはイマイチ普通な衣装から抜けきれないところがあったから。
まあ、そこが可愛いところでもあるんだけど♪」

「クックック・・・皆本ぉ〜、あたしが伊達にオッサン雑誌を読んでると思うなよ〜」

ロッカーからモノを取り出す薫。形状不明の服と、アクセサリーと思わしきモノ。
一見ただのカチューシャのようだが、なぜか兎の耳らしきものがついている。

「皆本さんの深層願望を読む良い機会になりそうね〜」



げひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
くすくすくすくすくすくすくす・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




その日チルドレンの控え室から邪悪な笑い声と、黒い空気は止まらなかったと言う。





また、皆本主任が「しばらく旅に出ます」と書き置きを残して失踪したとの報告があったとかなかったとか。
真偽のほどは定かではない。









(了)

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