ザ・グレート・展開予測ショー

小笠原エミを攻略せよ! ブラドー島編2「再会と和解?」(前編)


投稿者名:輝剣
投稿日時:(05/10/20)

これは、諸般の事情で対象こそ変えたものの、それでもなお、無理めの女をモノにせんと戦う少年の、哀と煩悩と夢の物語である。




ありえないけどいつか  誰もが知ってるとある場所 




小笠原エミは大ピンチだった。

「キキキッ いいザマだな、エミ」
ベリアルの声が懐かしくも耳障りだ。

何故か蘇ってきたこいつをはじめ、祓っても祓っても湧いてくる悪霊達の群れにさしもの彼女も消耗しきっていた。
いや、ベリアルと悪霊達だけだったら、まだなんとかなる、だが――


「ホーッホッホッホ、あんたは死ぬのよ、エミ」
このド派手なボンテージに趣味の悪い仮面をつけた馬鹿女までいるとなると正直キツイ。

「令子・・・・・・前々から思ってたけど、つくづく悪役向きな女ね、オタクって」

「うるさいっ、令子と呼ぶな ! 私はメフィストよ!!」

少しは気にしていたのか、令子と呼ばれた悪役ルックなボンテージ女が怒鳴る。
しかし、すぐに余裕を取り戻すと小馬鹿にした口調でエミに宣告する。

「・・・・・・まぁ、いいわ、もうあんたにはどうすることもできないし、敗残者の戯言ぐらい聞き流してあげるのが勝者の余裕ってものよね」 

「く・・・・・・」

元から仲がよいとは言い難かったが、アシスタントの引き抜き後、決定的に敵対関係になったライバルを見上げ、エミは死を覚悟した。

あれ以来勝率はこちらに分があり、あと一回こちらが勝てば廃業寸前にまで追い込んでいたのだ。
それが、いきなり「前世」の力とやらに目覚められて、このザマだ。 

どこまでも、理不尽なほどに規格外な女。 だが――

「さぁトドメを刺してあげるわよ、この泥棒猫が」
サディスティックな笑みを浮かべ令子、否メフィストが最後の一撃を放とうとした瞬間。


パラパパパラパーン

どこからともなくトランペットが響き渡った。

「こ、この音色は!」

メフィストが赤くなったり青くなったり信号のように顔色を変えていく。
そう、理不尽なほどに規格外な人間は彼女だけではないのだ。

パパーッパラパパー

トランペットが鳴り響く中、悪霊達のど真ん中に光の珠が投げ入れられて炸裂し、一瞬にして悪霊達を消滅させた。

そして、いつのまにか近くの踊り場に現れた男がトランペット片手にどっかで聞いたような決め口上を述べる。

「己の力に溺れる者はより大きな力に必ず敗れる・・・・・・人それを『必滅』という」
「キキキッ 誰だテメェ」
「貴様らに名乗る名前はないっ! トウッ」
ヒーローな受け答えをしながら、シュタッと華麗に大地に飛び降りる。

「キキキッ 小癪な、野郎共たたんじまえ!」
ベリアルが更に湧いて出てきた悪霊共をけしかける。

男は、フッと余裕の笑みを浮かべ悪霊の群れを迎え撃っていく。

「女一人相手に粋がるようなクソ野郎共なんぞ、この俺の相手になるものか」

右手の霊波刀で悪霊達を華麗に薙ぎ払い、そして自分はクールでニヒルと信じる表情で

「俺の名はゴーストスィーパー横島忠夫だ。地獄へ行ってもおぼえとけ!」

とカメラ目線で格好をつけながらつぶやく。

はっきり言って、自分に酔ってます。

でも、何故か、本来ならありえないけど、その時のエミにはその姿がりりしく思えた。
そして、感情の赴くまま、彼の許に駆け寄っていく。

「横島! 来てくれるって……来てくれるって思ってたわ!!」
迎える横島も本来あるべき煩悩少年ではなく、余裕さえ感じさせながら、優しくエミを抱きとめる。

「ったく……世話焼かせやがって」
なんだか、ハリウッド映画のクライマックス後のような盛り上がりを見せ、抱きとめる手が背中から腰、そして危険な部位へと移りかける。


びしゅっ その時、横島の背後で大鎌が一閃した。

「ギギィーッ」
油断しまくりな横島を背後から襲おうとしたベリアルが、忽然と現れた美女の振るう鎌に切り裂かれたのだ。

その肉感的な美女は、そのまま横島の背中を守るようにして立つと説教を始める。
「鼻の下を伸ばしとる場合か! 油断しすぎだ馬鹿者が。 それに、外道に名乗る名前はないじゃなかったのか?」

「や、ワリー、ワリー。 その場のノリでつい」
なおもエミを片手に抱きながら、反省の色を欠片も見せず答える横島。

さすがに激高しかける謎の美女に微笑みながら、霊力をこめた光の珠でベリアルに止めをさす。 
余裕だ。

「……それに、俺の背中はお前が守ってくれるからな。 信じてるぜ、エンゲージ」
そう言って笑みを浮かべながら、エンゲージの腰に手を回し、エミの反対側に抱き寄せる横島。

あの契約の神・エンゲージの本体はこの美女だったらしい。

爽やか過ぎるほど爽やかな笑顔に、エンゲージといわれた美女は顔を赤らめ、エミも鼓動が早くなる。
ここでの横島の数ある超絶能力の中でも、特に強力な物の一つ、横島スマイルの威力だ。

効果範囲の外から、その光景を見た者は、誰もがこう思わずにはいられないだろう。
「お前誰だよ。というか、そういう台詞を横島が吐けること自体間違ってる!」と。

だが、今はいいのだ、ここでは横島は色々な意味で究極無敵の超人なのだから。 


「……人を無視して勝手に盛り上がるだなんて、なめた事してくれるじゃないの、横島君」
でも、ここにそんな横島スマイルが通じない女傑が一人。

「……アタシの丁稚の分際で。 どーやら、命が惜しくないようね」
怒りで戦闘力が跳ね上がっていく。 前世から800年も待たされて、これでは無理もない。

それでも戦えれば、ここでは横島の方が強いのだが、煩悩の髄にまで染み込んだ服従回路が邪魔して、身動きすらできない。
これも前世からの因縁の力か? ピーンチ!?


だが、たとえ、本人がビビッていようと、世界は横島の味方なのだ。
本人が戦えないのなら、仲魔がいる。

「待ちな、小娘」

嫉妬でパワー特盛増量中なメフィストの愛と怒りと悲しみの神通棍の一撃は、またしてもどこからともなく現れた派手めの美女の双叉槍によって阻止される。

「な、なによ、あんたは。 部外者が邪魔しないでくれるっ!」
メフィストの誰何と怒りの声にも、派手めの美女は余裕の態度だ。

「私の名前はメドーサ。 そいつの前々世と契った白蛇の精の生まれ変わりだよ。 
そいつの前世はおまえにひっさらわれたけど、今生こそ私のものにする為に眷属になったんだ。 
そっちこそ邪魔するんじゃないよ!」

「な……」
さすがに真っ白になりかけるメフィスト。 

だが、彼女もまた、生まれ変わってまで一人の男を追いかける女。 踏み止まって逆襲に転じようとする

「だったら、ここで白黒つけたげるわっ、こいつは私のモンなのよっ!」

だが、今しも激突しようとする二人の間に立て続けに銃弾が打ち込まれる。

「今度はなんなのよー」
なんとなく嫌な予感がして、涙目になりながら射撃音のした方向を見るメフィスト。

予想どおり。 女、それも美女が現れた。 ベレー帽に戦闘服、そして黒い翼が印象的だ。

「……あんたも、な訳? 今度は前々々世?」
「いや、もっと前、具体的には八世前からだ。 私は魔界軍大尉ワルキューレ。  だが、今この場には戦乙女として、私と契っておきながらヴェルハラから逃げ出した夫の魂を連れ戻すためにいる」

「……そう、それが横島君なのね。 で、私やメドーサと話をつけにきたんだ……悪いけど負けないわよ」
とても疲れた表情を浮かべつつも、メフィストは戦闘体勢をとる。

だが、それを見てもワルキューレは首を振り、メフィストよりさらに疲れた表情で告げた。
「お前たち4人だけが相手なら私も力づくで奪おうかとも思えたのだろうがな……」

「え゛」

「さすがは我が夫の魂。 女癖の悪さも半端ではなくてな。出て来い、お前達。 新入りにも挨拶ぐらいはしてやれ」 

「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」

「え゛え゛」

ワルキューレの声にこたえて、あちこちから女性が現れる。 その数、百人以上。 
竜神、人狼、妖狐、幽霊、月神族、化け猫、神族、魔族、鬼族、人魚、さらには複数の付喪神(ロボット、汽車、そして机)まで多種多様。
共通する点といえば、全て見目麗しい女性だという点だけだ。


あまりと言えば、あまりの光景にがっくりと膝を落とすメフィスト。 とても、疲れていた。 色々な意味で。

「今までの苦労は何だったのよ……」
声も虚ろだ。 燃え尽きて真っ白な灰になっている。

さすがに同情したのか、メフィストの肩に手をポンと置きながら、ワルキューレが優しく声をかける。

「無駄じゃないさ。 せっかく奴の関係者が一堂に会したのだ。 今生は誰のものになるのか、奴自身にきっちりと答えてもらおうではないか」


「な!」
美女の群れに当てられて、ポヤヤーンとしていた横島は急に風向きが怪しくなったことを察しするが、エミとエンゲージに両脇からがっちりとホールドされて身動きが取れない。 

「観念して、前世なんか関係ない、今生は今生のものだとはっきり言うワケ」
「そうじゃぞ。 ワシを呪いから解き放った以上、最後まで面倒を見るのが筋というものじゃ」

今生の縁ペアの猛プッシュに負けじと他の女性達も動き出す。

「お懐かしゅうござる! 拙者はいつか再びめぐり合える日を信じて、お力になるために剣の腕を磨いてきたのでござる」

「ダーリン! 約定どおりあれから人は食らわなかったんだよ。だから、今生も……」

「あんた、よもや金毛九尾のタマモを忘れたとは言わないわよね」

「浦島殿、今度こそ離しませぬわ」


怒涛のごとき、女性陣のアピールになにがなんだかわからなくなった横島は、本能のまま自分の思いをほとばしらせる。

「みんなっ、俺の、もんやー」「もんやー」「やー」「やー」

シーンとなったその場にいつまでも木霊するは、実に横島らしいが、最低の答え。
だが、世界はどこまでも横島に都合がよかった。


「……そうか、仕方がない。 では横島を悦ばせて一番の女と認めさせた者が正妻という事で。 皆の者、勝負だ!」
横島の答えを予期していたのか、悟りきったような表情でワルキューレが宣言する。 

今にも後光が差しそうなほどだ、魔族なのに。
多分、以前もそんな事があったのだろう。 ……意外に尽くして待つタイプなのかもしれない。 
そして、いつかは自分の許にきっと帰って来ると信じているのだろうか。 不憫な。 


一方、待たせておきながら、なおも放蕩を続ける極悪亭主の素質十分な横島は、そんな機微に気づかず、舞い上がっていた。

「ねーちゃんやー、みーんな俺のもんやー。 はっはっはっはっカムヒヤー!」
脱力している両脇の美女の頬にそれぞれ口づけすると、これまた呆然としているメフィストをはじめとする美女軍団に向かって脱衣しながら突撃……




AM5:00  都内某マンション
びしゅっ、ざくっ。
GSアシスタント・横島忠夫のさわやかな朝は、鎌がベッドに突き刺さる音で始まる。

最早習慣となった寝起きのカウンターを、陰気でむさくるしいエンゲージの顔に叩き込んで、横島は跳ね起きる。

「あ……なんだ、夢だったのか……!?」
「よーやく、起きおったな、タワケめが。 さぁ、出発の準備を……」

「何てことを――!! せめてエミさんか、美神さんといたすまで待つ情けはないのカーッ!」
「仕事に遅れぬよう、折角、起こしてやったのに、なんだその態度はーっ。 寝ぼけるのもいい加減にせーいっ!」

仕事の二文字に、今日がブラドー島へ向け、出発する日であることを思い出す。
まるで仕事中毒なサラリーマン。 横島をそこまで仕込むとは、恐るべし、エミの調教もとい教育力!


そして、今日もむさくて陰気なエンゲージと二人で味気ない朝食。

(また食べたいなーおキヌちゃんの作ってくれたご飯) 
男二人のまずい食事の侘しさに、貧しくとも華やかだった食事を思い出し、涙ぐむ。

でも、時は戻らないのだ。

(あー、そういえば、夢ではこいつ、変わってたな。 もしかしたら、もしかするかもしれんし、聞くだけ聞いてみるか)


「なー、エンゲージ?」
「なんだ、横島。 御代わりか?」
なんだかんだ言いつつ、最近かいがいしいエンゲージ。 これで萌えキャラであってくれさえすれば……

「お前、実は呪いでその姿にされただけで、正体が美しい女神様だったりしないか?」
「ブッ!」
余りの事に、口の中の物を吹き出すエンゲージ。 だが、横島はよほど未練があるのか、なおも問い続ける。

「きたねーなぁ。 で、女神様だったりしないのか?」
「んな訳あるか。 大体よりによって貴様にそんな神をくくるほどエミ殿はうかつではないわい」
呆れつつも理路整然と答えるエンゲージ。

「じゃぁ、実は昔俺が飼っていたペットが死んだ後で守護霊になったとか?」
「どこの萌えアニメじゃ」
さすがにエンゲージも呆れ果ててます。

「それじゃあ、実は前世での恋人で、俺が前世の記憶を取り戻せば昔の姿にもどれるとか?」
「ムー民はカエレ」
もう返答もおざなりです。

「じゃ、じゃあ実は、無性別だったけど術者のエミさんの霊力を受けて、エミさんそっくりのナイスバディの美女に変身できるとか?」
「できん! 大体それじゃ中身はワシじゃぞ。 それで嬉しいか?」
だんだん腹を立ててきています。

「うううっ、もーこーなったら、ナイスバディな美女とか、贅沢は言わん! 趣味じゃないけどロリでもいい!
 もっとエロを! さもなきゃ萌えでもかまわん! だから、だから俺にむさくて陰気な野郎キャラでなく、潤いをーっ!」
もう馬鹿丸出しです。
 
「とゆーか、普通こーいうマスコットキャラは萌え属性がデフォじゃないのかー! やり直しを要求するっ!」
各方面から、贅沢言うなとのお叱りの声と共に、もっともだと頷かれるであろうメタな雄叫びを上げつつ、涙ぐむ横島。 


だが、己の存在を全否定されたエンゲージは収まらない。 気持ちは分かる。 だが、いや、それだからこそ許せない。

「それを言っちゃーお終いよぉっ! ワシだって我慢してるんだぞ。 それを・・・・・・それをー!
 ワシだってな、ワシだってなー貴様みたいな煩悩小僧でなく、かわいくて優しい女の子にくくられたかったわー!!」

互いに血の涙を流しつつ、馬鹿二人は近所迷惑顧みず、早朝から拳に己の尊厳を込めて殴り合った。




同時刻 それぞれのマンション


二人の女性が夢とは思えないほど、リアルな質感を持っていた夢から目覚めていた。
二人とも今日はイタリアまで除霊、それもやっかいな事件を片付けるために午前の国際便に搭乗せねばならない。
色々と文句のつけたくなる夢だったが、気分を切り替えて準備に取り掛かる。



「なんだったワケ、あの夢は。 私が横島に助けられた上、あんな事を……。 あー気持ち悪い。
 まぁ、でもあれぐらい頼りになる男になったら、師匠として鼻が高……駄目、駄目だわ、アレじゃ」

ぶつくさ言いながらも、どこか楽しげに夢を思い出していた褐色の女性だったが、途中でなにかとてつもなく不快な事を思い出したらしい。 

彼女、小笠原エミの整った顔が引きつっている。

「今までは、煩悩が霊力源だからとセクハラにも多少は目をつぶってきたけど、やっぱりしつけなおす必要があるワケ」

とてつもなく重要で、それでいて困難な事柄なのか、かなり真剣に考え込んでいる。

「ピートと再会した時、どんな態度をとるかであいつの自覚を確かめてみるか」

この前、依頼人であるピートと横島は揉めた。 その謝罪を横島はしていない。 
協力し合わねばならない除霊の現場で、ピートに対してどう振舞うのか、それであいつの自覚と見識がどの程度のものか見極められるだろう。

素直に謝罪すればよし。 そうでない時は……お灸を据えねばなるまい。
まぁ、その場合でも自分が手を下す必要はないだろう。 なにせ、この仕事には、あのクソ女も来るのだから。
しつけを怠った責任は、元飼い主も負うべきだろう。



その「クソ女」はといえば、最悪の夢見に起きてからイライラしっぱなしであった。

「馬鹿横島がーっ、エミに寝返ったでけでなく、夢の中でまでこの私をコケにするなんてぇーっ。
 大体、私の夢なのに、なんで私がああも馬鹿なのよっ。 あんな事私がするわけがないでしょうにっ」

現代最高のGS美神令子は、そのプロ意識でイライラを押さえ込んだ。
今回の仕事は、恩師の唐巣からの紹介で、報酬も時価10億以上の大仕事だ。 裏切った馬鹿のことなど考えている時ではない。

「横島の奴、今度会ったらタダじゃおかない。 死なない程度にひねりつぶしてやるっ」と心に誓い、準備をはじめた。
それに横島に裏切られても、彼女にはまだ、おキヌちゃんがいる。



不可解で不思議な夢をみた三人。 それは神の悪戯か、悪魔の慰みか。 
その夢とブラドー島での事件が彼らの宿命を決定的に歪めていく。
運命の再会はすぐそこであった。
横島忠夫よ、君は生き延びることができるか!?


中書き
お久しぶりです。 お前の1週間は2ヶ月のことかと知人から叱られた輝剣でございます。
どーして、こんな流れ(横島の煩悩まみれの夢部分)に4000字も使ってるんだろう。そのせいでプロット段階で想定していた分の半分しか話が動いていません。 予定では次回はブラドー島上陸のはずだったのに、ローマにすらついていませんし。
そんな訳で、前後編であります。 
待っていてくださった皆様、申し訳ございません。  ただ、後編はほぼ書き終わってはいますので、今週中には投稿できるはずです。
というより、横島の夢で行数食いすぎて構成が破綻した分の帳尻あわせと校正が残ってるだけですので。
それでは、また週末に。

追伸
なお、エンゲージ女性化の予定は永遠にございませんので、ご了承ください。
ハーレムもないです、多分。

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