ザ・グレート・展開予測ショー

普通の暗殺者 (絶チル)


投稿者名:犬雀
投稿日時:(05/10/18)

『普通の暗殺者』





「だからこんなところに来るのは嫌だって言ったんだーー!」

「お前が暴走したんだろうが!」

「また来るわよ。」

「サイキックバリアー!」

薫が影から飛来した数本の細い刀状の銀光をバリアで防ぐ。
すでに彼女が防いだそれは20本にも及ぶだろう。
跳ね返されたそれは地面に突き刺さってキラリと光る。

「くっ!葵!救援はまだか?!」

「考えがあるねん。」と救援を呼びに行った葵がテレポートしてからすでに30分。
追い詰められた皆本たちに向けて再び銀光が襲い掛かった。







元はと言えばここに『普通の人々』のアジトがあるとのタレコミ電話だった。
公安やバベルの調査でただの悪戯電話ではなく、かなり信憑性が高いと判断され、チルドレンに出動命令が下ったのはいつものこと。

本来は綿密な作戦計画を立て、機動隊などと連携しながら『普通の人々』を確保すべきだったのだが、作戦立案中の皆本の心を紫穂が読みそれを薫に伝えたために公安・警察・そして桐壺が三日徹夜で立案しつつあったテロ組織掃討作戦計画は水泡に帰した。

「場所がわかってんなら奇襲あるのみ!!」

「馬鹿!僕たちだけで出来るわけが無いだろう!何をそんなにエキサイトしている!?」

背後に炎と虎を同時に背負って拳を振り上げる薫はすっかり殲滅モードに入っている。
こうなったらいかに皆本の言い分に理があろうと聞くような娘じゃないのは百も承知だが悪戯に少女たちを危険に合わせたくない。
しかしこの燃えっぷりはどうだ?
確かに『普通の人々』は宿敵だがそれにしてもいつもの薫よりは五割増しで燃えている。
もしかしたら発火能力も目覚めそうな勢いだ。

何とか説得しようとする皆本の指を握っていた紫穂に心の中で「何があった?」と聞いてみると、彼女にしては珍しく一瞬だけ逡巡したが「んー」と精一杯背伸びをして皆本の耳に口を寄せようとした。
その仕草が可愛くて思わずほころぶ顔を引き締めつつ腰を落とした皆本に明かされる真実。

(あのね…今日、学校で身体測定があって…)

何となく全部聞かなくてもわかった気がする。
しかし情報は正確な方がいい。
力の抜けそうになる膝を叱咤する皆本の耳にいつの間にか反対側に来ていた葵があっさりと真実を告げた。

(薫ちゃんの胸囲な…成長してなかったんや…)

「八つ当たりかぁぁぁぁぁ!!!」

思わず声に出た。
そしてそれは致命的なミス。
当然、今まで荒れ狂っていた薫の怒りは皆本と秘密をバラした二人に向くことになるわけで。

「なんか言ったか皆本…」

「な、なんでもないぞ!」

必死に首を振る皆本をジロリと睨みつけて薫は巻き添えはごめんだとばかりに一瞬のうちに皆本から離れた紫穂と葵に暗い視線を向けた。

「ばーらーしーたーのーかぁぁぁ…」

「ち、ちゃうで!ウチは何も言うとらへん!」

「そうよ。薫ちゃんのオッパイがこれっぽっちも成長してないなんて言ってないわ。」

「あんたは煽るか宥めるかハッキリせぇ!…はっ!」

「凄く怒ってるみたいね…」

紫穂の首を持ってガクガクと揺らして抗議する葵には、今や口から「ふしゅぅぅ」と瘴気を吐きはじめた薫に逆らうことなど出来なかった。
結果的に民主的?な多数決で『普通の人々アジト奇襲作戦』はなし崩しに決定されたのだった。

そんなこんなでアジトと思しきとある山中にひっそり立つ山荘にテレポートして見れば、すでにそこはもぬけの殻で、皆本を先頭に内部を探査しても人が住んでいたという形跡は無い。
ガセネタだったかと山荘の外に出て警戒を解きかけた瞬間、「危ない!」と言う紫穂の叫びが閑静な山中に木霊した。
咄嗟に身をかわす皆本たちの頭上を通り抜ける銀の閃光。
それはカカカと固い音を立てて木塀に突き刺さる。

「罠か!」

一度はしまった拳銃を再び構え素早く当たりに視線を巡らせる皆本の前に再び突き立つ銀の刃。
長さは30センチほど。形は忍者の使うクナイにも似たそれは皆本を追い詰めるように次々と地面に突き立つ。

「走れ!」

この場に留まれば不利と走り出そうとした瞬間、薫がその力を解き放つ。
敵の姿が見えないなら周囲ごと一度に吹き飛ばすという薫ならではの大技が銀光の飛んできたあたりを纏めてなぎ払った。

もうもうと立ち込める土煙の一角がキラリと光り一条の銀光が紫穂に向かって突き進むのを認めて皆本は横っ飛びに彼女に飛びつく。
銀の刃は紫穂を押し倒した皆本の背を浅く切り裂いて木塀に突き刺さった。

「皆本!大丈夫か!」

「僕は大丈夫だ。それよりバリアを頼む。」

下から抱きついてくる紫穂を抱きとめたまま薫に指示を出す皆本になんとなく虚ろな葵の声が届いた。

「皆本はん…これって…」

葵が指差すのは塀に刺さった敵の武器。
投擲用に作られたような細長い銀の刃は陽光をキラリと反射してピチピチと蠢いている。

「ピチピチ?」

一度メガネを外して深呼吸。
ゴシゴシと拭いたメガネに一点の曇りなし。
恐る恐るかけなおしてもう一度見れば、木に刺さっているのは秋の味覚の代表選手。
焼いて酢橘を一搾り。大根おろしがあればなおグッド。

「サンマ…だよな…」

「サンマよね…」

ユラリと周囲に張られた薫のバリアが揺らめく。
そりゃあ必殺の気迫を込められて飛んできた武器がサンマだと知れば、思わずバリアもゆるくなると言うものだ。

「サンマが襲ってくるって…ありか?」

「僕に聞くな!」

まあ川魚と違って海魚のサンマは山の中を飛び回ったりしないだろう。
それを言ったら川魚だって木に刺さったりはしないのだが。
ならば誰かがサンマを投げつけてきていると考えるのが常識的判断というものだ。
サンマを投げるのが常識かどうかという命題はこの際置いておく。
何しろサンマとは言え皆本の背を裂いた威力は本物だ。直撃すればかなりピンチなのは変わりない。

「しかし…空飛ぶサンマとどうやって戦えば…」

常識的な戦術眼を持っている皆本にとっては想定外過ぎる事態である。
どんな組織の教官が「空飛ぶサンマ」との戦い方をレクチャーしてくれると言うのだ。
皆本の額に浮かんだ汗と壁に刺さってピチピチ言っているサンマを交互に見つめていた葵がキッと唇を噛む。

「皆本はん!ウチが救援呼んで来るわ!それまで持たせておいてや!」

「葵!」

皆本が止める間もなく彼女はテレポートで虚空に消えた。












葵が救援を呼びに行った後もサンマの猛攻は終わらない。
次々とすでに何本目かはわからぬサンマが煌きとともに飛来する。
薫のバリアに叩き落されたり、木や土に刺さったそれの数はざっと数えて30本。
特売3本一パック150円ならすでに1500円相当のサンマがそこかしこでピチピチと跳ねている。活も良いらしいから3本一パック250円とした方が妥当かも知れない。

「薫!あの辺りを吹っ飛ばしてくれ!」

「わかった!」

銃を構えて薫の前に皆本が出た瞬間に念動の嵐が山際の一角を再び吹き飛ばす。
その瞬間、皆本の目には一際大きな銀の光が横に飛ぶのが見えた。

「そこおっ!」

三度響いた銃声とともに放たれた弾丸をかわして体勢が崩れたのか彼等の前に転がり出てきたのは全身銀色のライダースーツのような服に身を包んだ敵。
素早く回転し体勢を立て直して身構えるその姿は訓練を積んだ戦闘者のそれである。
両手に構えたサンマさえ無ければだけど。

「お前は?!!」

「オレは『普通の人々』の特殊暗殺部隊の暗殺者…」

まさか返事が返ってくるとは思わなかったから皆本も驚く。
言葉には本人が意識しなくても数多くの情報が含まれている。
暗殺者を名乗るものが対話に応じるなど考えられない。
もし理由があるとすればそれは二つ。

一つは単に馬鹿なだけ。
そしてもう一つは相手を必ず殺す自身があると言うことだろう。

「なんてお名前なの?」

「む?オレの名か?オレは日輪のサン・マルス!!」

「七輪?」

「日輪だっ!!」


今にも地団太踏みそうな勢いで怒っているっぽいサン・マルスである。
そのたびに鍛えぬいたのだろう、無駄な肉を感じさせない細くて小柄な体を包む銀のライダースーツが陽光を反射してキラリと光る。
その様子は何となくサン・マルス本人もサンマっぽく見せていて、なるほどサンマ手裏剣?の使い手としてふさわしい。

サン・マルスはしばし地団太を踏んでいたが、我に返ったのかビシッと皆本たちにサンマを突きつけた。

「貴様ら!なぜオレの名を?!そうか心を読んだな!」

「自分で言っていただろうが!!」

「ぬ?…言われて見れば確かに…ええい!細かいことはどうでもいい。どうせお前等はサンマの餌食になってここで死ぬのだ!」

「させるかぁ!サイキック竜巻ぃぃ!!」

薫の叫びとともに周囲の空気が渦を巻き、凄まじいまでの烈風がサン・マルスを襲う。
レスラーでも吹き飛ばしそうなその強風にしかしサン・マルスは平然と立っていた。

「うそ…なんで?」

驚きを隠せない紫穂だが皆本にしても同じである。
特殊なECCM装備をしているとも思えないのに超能力に耐性があるはずがないのだ。
ならばあの銀色のライダースーツかヘルメットが彼等の新兵器なのかも知れない。
敵の能力がわからないまま戦うのは不利と皆本の顔に焦りの色が浮かぶ。
そんな彼らの動揺を見透かしたサン・マルスは余裕ある動作で吹き荒れれる烈風を涼風とでも言わんばかりに平然と近づいてくる。

「なんで効かないんだよ!」

「ふっ…この程度の風、オレの故郷の太平洋の荒波に比べたら屁でもない!」

「いや…お前はサンマじゃないし…」

「愚か者!サンマを心から愛したオレはサンマと一心同体!サンマの気持ちはオレの気持ち!サンマの海はオレの海!オレの果てしない故郷さ!」

「愛しているなら投げるなぁぁ!!」

薫の突っ込みにもサン・マルスは動じない。
むしろ突っ込んだ拍子に集中が解けて竜巻が止まってしまったチルドレンの方がピンチである。

シャキンとサン・マルスの手が光る。
いつの間にかその両手にはピチピチのサンマが握られていた。

「さあ…そろそろトドメを刺してやる。」

「くそっ!」

皆本が自分の背後に薫と紫穂を庇ったとき、突然天の一角から雷鳴が鳴り響き、轟音とともに雷光が地面を穿ち、激しい衝撃がチルドレンや銀色の暗殺者をなぎ倒した。

土煙の中、圧倒的な威圧感を持って現れるたのは一人の偉丈夫。
分厚い筋肉の鎧を纏ったその姿はまさに世紀末救世主といった風情である。
突然の乱入者に流石に慌てたのかサン・マルスは飛び起きて彼から距離をとった。

「貴様!何者だ!貴様もバベルの仲間か?!」

暗殺者の声に皆本たちは一斉に首を振った。
さすがにバベルの全職員は知らないけれど、こんな邪魔する奴は指先一つでダウンさせれるような漢は見たことが無い。

「大丈夫やったか?皆本はん!」

偉丈夫の後ろからトテトテと走り出てくるのは先ほど救援を呼びに行った葵。
どうやらこの男は彼女が連れてきた助っ人だったらしい。
ちなみに先程の雷鳴はどういう理屈だったのかは彼女も知らない。
単に演出だろう。

「葵ちゃん…あの人だれ?」

「あー。あの人な。サンマのことならやっぱりサンマのプロに任せよう思ってな。北海道から来てくれた漁師さんや。」

「「「漁師となっ!」」」

言われて見れば確かに頭の鉢巻といい、胸まで覆うゴム長靴といい漁師さんの定番スタイルである。
驚く一同に重々しく頷く偉丈夫はギロリと圧倒的な眼光をサン・マルスに叩き付けた。

「俺は北海道在住の漁師…名は拳四郎…」

「その拳四郎さんがなぜ…」

「この少女に俺たちが命がけで獲ったサンマを粗末にしている不届き者がいると聞いた…。」

皆本の問いに重々しく答えて、ギシリと筋肉を漲らせて構えをとる拳四郎さん。
その身から立ち上る圧倒的な闘気にさしものサン・マルスも怯んだのか後ろに下がる。

「お前も超能力者に味方するというのか!」

「少女の声がサンマを守れと俺を呼んだ…サンマを愛するものに区別は無い!」

「ならはオレとてサンマを愛している!」

「笑止!食べ物を粗末にしておいて何を言うか!……貴様には聞こえないのか…焼かれることもなく地に落ちたサンマの慟哭が…」

そこで偉丈夫は拳を構えながら、ゆっくりとサン・マルスに近寄っていく。
その動きはあくまでも自然体。
自然体であるがゆえに自在。
自在ゆえに無想。

「…お前にサンマを愛でる資格は無い!」

「くっ!」

完璧に迫力負けしたのか暗殺者は再び後退すさる。しかし暗殺者には暗殺者のプライドがある。漁師さんに気圧されたなどとは認められないのだ。
その思いがサン・マルスを突き動かし、両手が閃いたかと思うと二本のサンマは閃光となって拳四郎さんに突き進んだ。

「危ない!」

薫がバリアを張るより先に必殺の矢となったサンマが拳四郎さんに突き刺さ…らなかった。

「へ?」

二本のサンマは突き出された拳四郎さんの手の指の間に挟まって止まっている。

「な?」

「ホッケ真拳を甘く見るな。」

「「「な、何!それぇぇぇ!」」」

驚く一同をものともせず拳四郎さんは捕まえたサンマを大事そうにどこからか取り出した買い物袋に入れる。
さすがサンマを愛する漢。晩のおかずは煮付けか塩焼きか?

「くそっ!お前に負けるわけにはいかん!今こそ見せようこの日輪のサン・マルス最大奥義!」

サン・マルスが再び両手に握ったサンマを交差させ闘気を一点に集め始めた。
膨大な気がチルドレンたちの肌をピリピリと刺す。
しかし拳四郎さんは顔色一つ変えずにユラリとごく自然に構えを取った。

「ならば俺も見せよう…北海道の漁師に伝わる伝説の拳…ホッケ真拳の奥義を…ほわあぁぁぁぁぁ!!」

たちまち拳四郎さんから湧き上がる闘気。
そしてそれはサン・マルスのそれとぶつかり合って皆本たちでさえ視認できるほどの火花を散らし始めた。

呼吸さえ憚られる静寂。
先に動いたのはサン・マルスだった。




「行くぞ!『惨・魔人剣』!!」
「ホッケ真拳奥義…『葬乱舞死』!!」




振り切ったサンマから発生した二条の真空波が突き進む中をユラリと踊るように突き進む拳四郎さん。
真空波は拳四郎さんに触れることなく通り過ぎる。

「馬鹿な!」
「遅いっ!ほあたぁっ!!」

怒りの一声とともに放たれた怒涛の拳圧にぶっ飛ばされるサン・マルス。
空中を錐揉みになって舞ううちにライダースーツは破れ散り、それが水揚げされたばかりのサンマの鱗の輝きにも似てキラキラと宙に散る様を薫たちは唖然と見つめているしかなかった。

どさり…と意外に軽い音がして全裸になったサン・マルスが地に落ち動かなくなる。
こうして『普通の人々』の刺客は普通の漁師さんによって倒されたのである。

「な。なあ…俺たちってさ…」

「ウチら今回何もしてへんなぁ…」

「そうよね…」

呆然とサンマを拾い集めては嬉しそうに買い物袋に詰め込んでいく拳四郎さん眺めているしかないチルドレンたち。
一つの戦いは終わりを告げ、最凶の暗殺者を倒したと言うのにその表情には精彩が無い。

皆本もどういえば良いのか…ていうか報告書はどうしようと虚ろになり始めた頭で考え始めたとき、倒れていたサン・マルスがうめき声とともに体を起こした。

身構えるチルドレンたちを片手で制してサン・マルスに近寄る拳四郎さんの体からはすでに先ほどまでの闘気は消えている。
サン・マルスは近寄る拳四郎さんに背を向けたまま身を震わせている。
ライダースーツに隠されていたその体はやはり無駄な肉を持たないスレンダーなものだった。

「な、なぜ…オレを殺さなかった…」

「女を殺す趣味は無い…」

「「「「女っ?!」」」」

爆弾発言に仰天するチルドレンたち。
しかし言われて見ればこちらに向けられているサン・マルスの背中は女性特有の丸みを感じさせる。
決定的なのは短めの髪から見え隠れするうなじだろう。
それはどう見ても男のものではなかった。

だがサン・マルスもそれなりに訓練を受けた暗殺者である。
情けをかけられて良しとするはずがない。

「情けをかけるな!失敗した暗殺者には死あるのみ…ましてや折角の初仕事で失敗したオレには行く当てもない!」

「ならば…俺の嫁にならんか?」

「え?」

「お前がサンマ好きだということは拳を交えて伝わってきた…ただその使い方を誤ったのみ。ならば次は真のサンマへの愛を俺とともに目指してはみぬか?」

一瞬、呆けた顔になってこちらを振り向くサン・マルス。
よほど慌てたのか、それともあまりに意外な申し出に思考が麻痺したのか全裸であることも忘れたらしい。
そして振り向いた彼女は大きな目が愛らしい、年の頃18歳ぐらいの美少女だった。

「え?え?…だって…あたしって…その…オッパイも小さいし…」

「確かに」と呟く薫の口を紫穂が塞ぐ。
今はいらんトラブルは避けたいのだから当然だ。
それにリアルタイムで見るプロポーズ現場など初めてなのである。
これを見逃す手はない。

「気にすることは無い…俺は小さい方が好みだ…」

毅然と言い放つ拳四郎さんの台詞がサン・マルスの心を揺らしたのか、たちまちその大きな瞳が涙で潤みだす。
ホッと吐息を吐いて俯くと少女は上目遣いで恐る恐る拳四郎の顔を見上げた。

「あ…その…あたしでいいの?」

「うむ…今一度問う。俺の嫁になれ。」

「はい…」

「「「「え?え?え?」」」」

拳四郎さんは顔を真っ赤に染めたサン・マルスに自分の上着をかけると優しく抱きかかえる。
そう、それは所謂お姫様抱っこ。
顔と言わず全身を朱に染める美少女を抱きかかえて彼は一同にペコリと頭を下げた。

「君たちのおかげで嫁を手に入れることが出来た。礼を言う。」

「あの…あたしからもお礼を言わせて…あ、ありがと…」

「「「「はぁ…」」」」

「では俺たちはこれで失礼する。」

「あ、結婚式は呼ぶから来てね〜。」

「「「「あ、どうも…」」」」

呆然と見送る一同に背をむけて、出来たてホヤホヤカップルは山を降りて行く。
その後姿が見えなくなるまで少女たちはその場に立ち尽くしていた。
やがて夕焼けの光が当たりを赤く染め始めたころ、薫が疲れたように呟く。

「なあ…皆本…」

「ん?」

「あの人ってさ。普通の人々の暗殺者だよな…逃がしていいのか?」

「でも…暗殺者って言ってもサンマを投げてきただけなのよね。」

「そうやね…」

「それって犯罪なのかしら?」

紫穂の問いに返す答えを持たない皆本の背には山へ帰る夕焼けカラスの鳴き声が妙に似合っていた。





                                 To be continued  

                                     Next character  「天震のアーマー・グリー」

                                           嘘です。


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