ザ・グレート・展開予測ショー

十字架上の七つの言葉(完結)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/10/17)

音楽が流れている。
荘厳で、明朗な妙なる調べ。
パイプオルガンの音であろうか。
横島は特別にクラシックに詳しい訳ではないので、何の曲かはわからない。
その曲が「十字架上の七つの言葉」と呼ばれる楽曲であることを知らない。




十字架上の七つの言葉




終局合唱




Symphonia




Wer Gottes Marter in Ehren hat
神の殉教者を敬い、

und oft gedenke der sieben Wort,
七つの言葉を覚えるものを

dass will Gott gar eben pflegen,
神は祝福を持って導きたもう。

hie auf Erd' mit seiner Gnad;
現世には限りなき恵み、

und dort,in dem ewigen Leben.
来世には永遠の命もて。



【同】【調】する孤独な魔神の魂から流れる音楽は、懺悔や後悔に満ち満ちているようで、
それでいて心が洗われるような朗らかさに溢れていた。




不意に楽曲が止む。
横島が足元を見るとそこには色とりどりの花々が散りばめられ、空気中には小鳥の囀りが
満ちていた。
そして―――――

「来ちゃったのね、ヨコシマ。自分が壊れそうなのに、ね。」

背中には懐かしい温もり。
彼女は、横島と背中合わせに立ちながら、優しい言葉をかけてくれる。
不思議と、横島は言葉を紡ぐことが出来ない。
この世界の空気を横島には震わせることが出来ないみたいに。

「本当に………無茶ばっかりして。」

横島には振り返ることができない。
それは強制的な束縛のようなものではなく、魚が飛べないことや、鳥が泳げないことに似
ていた。

「わかってる。とても守りたいものがあったのね。愛する人と、そしてその人から生まれ
てくる命。…………オマエはやさしいから。」

彼女は振り返ると横島を背中から抱きしめた。
懐かしい、美しい指先が横島の視界に入る。

「また会えるわよね?その日を楽しみにしてるわ、パパ。」

(ルシオラッ。)

言葉はやはり音にならなくて、けれどその一生懸命に己が名前を形作る唇に微笑すると、
ルシオラは優しく口付けした。




「そんな手が…………あったとはな。」

アシュタロスの零基中枢を横島の霊波刀が完全に打ち砕いていた。
その胸にぽっかり開いた傷口から噴出す赤い煙を、しかし魔神は一瞥もしない。
魔神が眺めるように見るのは己が長刀の剣先。
その刃は確かに横島の左胸を貫いていたが、アシュタロスの手が力なく下に垂れると、そ
のまま何の手応えもなしに横島の足元までスライドした。
まるで湖に剣を突き立てたように。

「本当に最後の文珠だけどな。お前の霊力に波長を合わせてジャミングした。攻撃も防御
も出来んように。お前はしらんだろうが、最後の戦いの時にアシュタロスが俺に使った予
防策だ。」

横島の手には文珠が二つ握られている。
発動したキーワードは【同】【調】。

「…………そうか。さすが私だ。」

そういってにやりと笑ったアシュタロスの顔からも、既に赤い煙が噴出している。
その肉体は既に煙と化していない部分の方が少なかった。

「………じゃあな。パピリオから頼まれてるし、偶に思い出したら花でも添えてやるよ。」

すると孤独な魔神は寂しげな微笑を湛えたまま首を左右に振った。

「私は・・・・思い出にはならないさ」

それが誇り高くも悲しむべき孤高の魔神の最後の言葉であり、これより後に彼の姿を取る
ものが現れることはなかった。




横島は天空に吸い込まれていく赤いのろしの様な煙をしばらく眺めていたが、やがて美神
の待つ展望台の屋根へと滑空し、最後の直列同期を解いた。

「あー、死ぬかと思った。」

「馬鹿。」

美神から笑顔が零れる。そしてその瞳からは涙が。

「ちゃんと帰ってきましたよ。美神さん。」

「私が帰って来いっつったんだから当然よ。……………お帰り横島クン。」

言葉の最後はほとんど泣き声であったが、横島の耳には明朗に響いていた。




「アシュ………様。」

ベスパは膝から崩れ落ち、それをパピリオが支える。

「ベスパちゃん…………。」

「いいんだよ、パピリオ。あの方はようやく静けさを手に入れたんだ。わかってるんだよ。
でも今は………今だけは…………。」

涙を流す姉に寄り添うパピリオの瞳もまた。溢れつつある涙を湛えていた。

その時、二人の背後から電光が走る。
それは距離や空間をものともせずに5キロは離れた目標へと正確に着弾した。
東京タワーの展望台に。

「お、お前らッ!!!!!」

「みんな…………一緒に……………。」

ベスパが振り返ると二人は立ち上る煙と化し、その場には言葉だけしか残ってはいなかった。

「ポチぃ、今行くでちゅッ!!」

パピリオは全速力で東京タワーへと飛行する。しかし霊力が底を尽いたその身体では上手
く飛翔することが出来ない。

「お願いッ、間に合ってッ!!!!!」

破壊された展望台から宙に舞った二人の男女は、万物の有する法則に従い、高速で大地に
向けて落下していた。




「っくそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!
出ろよッ。出ろよ文珠ッ!!!
美神さんが、美神さんがいるんだぞぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

必至に己の掌を睨みつけ霊力を集中する横島。
しかし激戦の後。
宝玉はその形を象れない。

(横島クン………。)

その必至の顔が可愛くて、横島に抱きかかえられる美神は場違いに笑った。



「マリアッ!!!お願い急いでッ!!!!!!」

彼女からは落下したことすら目視できない距離から必至に無事を祈るおキヌ。

「なんとか、なんとかなんねぇのかよぉぉぉぉぉッ!!
お前は横島だろうがッ!!!!!」

とっくに魔装の解けた拳で地面を殴りつける雪ノ丞。
しかしその場の何者も横島を救うにはあまりにも遠くて、本当に今一歩のところでその救
出に間に合わない。

「なんとかするワケッ!!!!あんたは私が殺すんでしょうがッ!!!!!
令子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」




友人たちの熱い思いを嘲笑うように、二人の眼前には既に冷たいアスファルトが見えてき
ていた。
まだ十分に距離はある。
しかし今ここで誰かが二人を受け止めたところで、二人の人間の肉体がその衝撃に耐え切れるかどうか。

「っくそぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!
惚れた女の一人も守れねぇで、何が霊能だッ!!!!
俺は、俺は、俺はッ!
一緒に生きるって決めたんだよッ!!!
出やがれ文珠ッ!!!!」

「横島クン。」

その時淡い緑色の光が二人を包み込んだ。
それは本当に幽かな光だったけれど、二人の身体は落下を止め空中に静止する。

「な、なんかしたの横島クン。」

「俺じゃないス。…………これは蛍火?」

「!?横島クンその手…………!?」

横島の掌に握られていたのは陰陽の模様をかたちどった一つの宝玉であった。

【浮遊】

「ルシ……オラ。」

「横島クン………。」

淡い光はやがて消え、二人は重力に逆らって、静かに降下を開始した。




---

<Special thanks(順不同)>


マヒマヒ様

橋本心臓様


---


「ったく、最後まで世話焼かせるワケ。」

「エミちゃんは〜〜〜令子ちゃんが〜〜〜大好きだから〜〜〜。」

「毎度毎度アンタはどこに目ぇつけてるワケッ!!」

「まぁまぁ。」

---

masa様

偽バルタン様

---


「ようやく身体が動くようになってきたな。ベスパの血清のおかげだ。」

「ワルキューレ急ぎましょう。」

「姉上ッ!!!」

「なんだ騒々しい。」

「それが、横島さん達、もう勝っちゃったそうなんですけど………。」

「「へ?」」


---

すがたけ様

詠夢様

---


「う〜〜む。」

「あんたあんなに遠くの二人なんかよく見えるわね?」

「どぅも二人の密着具合が気に入らんのでござるが………。」

バキッ

「シロちゃん………詳しく教えてくれる?」

「お、おキヌちゃん………?」


---

ヤタ烏様

丸々様

---


「ベスパちゃん……。」

「帰ろう、パピリオ。いつまでもグジグジ思われることをアシュ様は望んでないってサ。
見ときなッ。そのうちもっといい男を捕まえてやるよッ!!」

「極端でちゅねー………。」


---

けんのすけ様

始皇帝様

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「そう、ええ、わかったわ。神父もご苦労様でした。…え?ううん、そのときは是非神父に
お願いしますわ。それじゃあ。」

「携帯……唐巣神父ですか?結局令子ちゃんたちが勝ったんですねッ!!」

「西条君。式場って何ヶ月前から予約できるか知ってる?」

「へ?」


---

『十字架上の七つの言葉』を読んでくださったすべての方々

斑駒様

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「さっき、ほんの一瞬でしたけどルシオラに会いました。」

「横島クン………。」

二人の身体はゆっくりと大地へと落下している。
夕焼けの赤い光が、地面にこの街のシンボルの影を映し出している。
手をつなぎ寄り添う二人の影も。

「彼女に言われました。また会える日を楽しみにしてる、て。」

「…………最後の最後まで助けてもらっちゃったんだもの。幸せにしてあげなきゃね。」

そう言うと美神は真っ赤になって俯いてしまう。そんな美神の姿に横島は苦笑してしまう。

「美神さん………さしつかえなければ今ここでッ!!!」

「己は節操というものを弁えられんのかッ!!!!」

美神の両肩を掴み器用にも空中で押し倒そうとした横島が、これも器用にも空中でスリー
パーホールドを食らう。

「あぁ、ごめんなさいごめんなさい。ギブギブッ!!!」

「まったく、あんたって奴は………。」

そして二人の視線が絡み合う。
優しい夕日の明かりに照らされる中、唇を近づけたのがどちらであったのか。
今はもう分からない。




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マリアのあんてな

ザ・グレート展開予測・ショー

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地面にたどり着いても、二人の口付けはしばらく続いていた。
二人がようやく顔を離し、横島がはにかみながらなにごとかを口にしようとした時………。


二人は歓声に包まれた。


「「へ?」」

「ぷぷぷ。アンタついにやっちゃったワケね?」

「横島と旦那かッ。子供が楽しみだぜ。」

「おめでとうございます、横島さん。………いいんですね?」

「ばっちり見ちゃったのね〜。情報管理官として今回の戦いの映像記録を作らないと。」

「わっしは、わっしは………っ」

「あ、あんたらいつからいたの?」

「ひどいわ〜〜令子ちゃん〜〜お友達じゃない〜〜。」

「安心せい。4、5分前からじゃ。その間お前らはずーっとひっついておったがの。」

「イエス。正確には・口付けしていた時間・3分と47秒・です。」

「よ、横島せんせい〜。」

「う、シロ。なぜ泣く。」

「美神さん、抜け駆けしましたねッ!!」

「べ、勉強になるわね。ねぇねぇ、美神さんもう一回やってくんない?」

「いーーーーーーーーーーーーやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

美神の絶叫が赤く照らされた東京という街に響きわたる。
この後美神除霊事務所は3ヶ月もの間原因不明の休業を余儀なくされるがその真相は――――
美神美智恵と小笠原エミによって業界中に知れ渡ったのだった。



製作  nielsen



『十字架上の七つの言葉』




(終)

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