ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(30)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/20)

GSが使う武器は霊体や魔物にだけ有効であって、普通の人間にとっては、危険な物ではない―――
GSが使う仕事道具に対し、そう誤解している一般人は少なからずいるようだが、実際は、少しつつけば霊体ボウガン、神通棍など、普通の人間に対しても充分殺傷能力のある武器がごろごろ出てくる。
霊体ボウガンは急所を狙えば人間だって簡単に殺せてしまうし、神通棍は、強力な霊波の放射に耐え得るよう、表面を特殊な金属で覆われているため、痴漢撃退用に売っているその辺のスティックなどとは比べ物にならない硬度を持った、立派な対人用の武器だ。いつも令子に引っぱたかれている横島を見れば、その威力の程は言うまでもないだろう。
なので、骨董店を兼ねた古物を扱う店などで無造作に取引されているように見えても、実は、案外霊的物品の取引規制は厳しい。
ドリアン・グレイの絵の具を素人に売った時、厄珍が「警察に行けば営業取り消し」と大騒ぎしたように、素人に危険な霊的物品やGSの武器を売りつけたとなると、店側は、多大な責任を負わせられる。
まして、それが故意なら、尚更だ。
「・・・今回、違法販売したのは奥多摩の近くの、青梅市郊外にある霊的物品の販売店ね。こういう輩が組合から出ると、店の信用大変下がる。私、同業者として大変アルね」
「人を実験台にしといて信用もクソもあるかよ・・・」
困った風に眉を顰め、ため息をついているわりには、ぷかー、と呑気にパイプを吹かして喋っている厄珍に、事務所から呼び出されて、令子の後ろに立っていた横島がボソッとつっこみを入れる。
「人聞きの悪い事言う良くない!それに、実験台はボウズみたいにアホでゴキブリ並に頑丈な人間にしかやらないね」
「一人実験台にした時点で充分犯罪じゃーっ!!しかも、ゴキブリレベルのアホたあ、どーゆー意味じゃああああッ!!」
「よ、横島さん。そこまで言われてませんって・・・」
滝のよーな涙と鼻水を流し、背後に異様な憤怒のオーラを背負って厄珍に迫る横島を、後ろからキヌがなだめる。
「あれは放っといて、それより厄珍。早く、その販売業者の事について教えてくれない?」
まだ背後で何やら納得いかないように叫び、タイガーとキヌとになだめられている横島の事は一瞥しただけですませると、令子は、来客用の、非常に高さが低いテーブルの向かいに座っている厄珍に、そう促した。
「はいはい。しかし令子ちゃん。どうして急にこんな事聞くあるか?」
「・・・そうだよ。令子ちゃん。「何かとんでもない事」って・・・何か、ピート君や吸血事件の事に関係あるのかい?」
厄珍の店に出向いていた所を急に呼び戻され、厄珍も連れて事務局に戻って来た西条も、不思議そうに尋ねてくる。
その西条をはじめ、一体どういう考えがあるのかと、自分を不思議そうに見つめてくる一同の視線に、令子は、少しだけ俯き、考え込むように眉を顰めて答えた。
「私にもよくわからないんだけど・・・何かが霊感に引っかかるのよ。・・・厄珍。その販売店が素人に売った物って、何?」
「そう大した物ではないアルが・・・。吸印札や、結界を作る札アル。他にもあるらしいが、今わかっているのはそれだけね」
「お札?・・・結界札とかなら、特に危険な効果がある物でもなさそうだが・・・」
「そうだよ。美神くん。何か引っかかるって・・・何がだい?」
西条と同じように、八王子に出向いて聞き込みをしていたところを呼び戻された唐巣が、一体何を考えているのかと令子を見る。
すると、先ほどからずっと俯き気味になって考え込んでいるような姿勢を崩さなかった令子は、ふと顔を上げて美智恵を見ると、何かを確認するような声音で尋ねた。
「ママ。吸印札って・・・悪霊だけじゃなくて、魔物も吸い込めたわよね?」
「え?ええ。そうよ」
何を今更、GSの基本知識のような事を尋ねてくるのかと、不思議に思いながらも頷く。
すると、令子はまたしばし考え―――その場にいる全員の視線を受けながら、また俯いて―――そして、顔を上げると言った。
「・・・じゃあ、吸血鬼はどうなのかしら・・・」
「あ・・・!」
令子の言わんとしている事がようやく分かって、横島と冥子以外の全員が、合点がいったように声を上げ、驚きのために、無意識に手を額や口元に当てる。
「エミ。二日前にあんたを襲った女って、私達とそう変わらない体格と年齢だったんでしょう?高校生ぐらいの男子を、女一人で、目撃者も証拠も残さずに短時間で連れ去るなんて、普通はできっこないわ。ましてやピートはバンパイア・ハーフだもの。大の男が数人がかりで誘拐しようとしたって無理よ」
「だからって令子ちゃん、それはかなり突飛アルよ!?」
「・・・いや、確かに、納得できる!お札系統の道具は、効果にこそ差は出るが、誰でも使えるからな」
ピートの誘拐事件に関して、最大の謎となっていたのは、誰がどうやってピートを連れ去ったか、と言う事だった。
唐巣の教会は通りに面しているため、決して人通りの少ない場所ではないし、もう夏も近かったのだから、ピートがいなくなった時刻は、特別暗い時間帯だったわけでもない。
特に、二日前エミが襲われた事によって、犯人像が二十歳ぐらいの細身の女性だとわかってからは、そんな非力そうな相手がどうやってピートを連れ去ったのか、と言う事で、その犯人像を疑問視する現場の捜査員達への説明に、美智恵は頭を痛めていた。
「吸印札ならピートの霊気が現場で途絶えていた事も、誰にも知られずに一瞬で連れ去られた事も、全部説明がつくわ」
「そうね・・・私達はいつも武器に使っている物だから、そういう使い方は盲点だったワケ・・・まさか、素人がそんな物を買うとも思わなかったし・・・」
エミも納得したのか、令子の意見に、いつになく素直に頷く。
「・・・吸印札でピート君を誘拐・・・結界札も買ったって事は、そこに閉じ込めてる可能性が高いわね。どうりでダウジングやクビラの霊視でもわかりにくかった筈だわ」
「あの女・・・素人だと思ってたら・・・やるじゃない」
美智恵の言葉を受けてそう言うエミは、口元に苦笑のような笑いを浮かべているが、目は笑っていない。
「そんな相手に誘拐されているとしたら・・・大変だ!販売店の主人も調査をして、早く犯人の居場所を・・・」
「焦らなくても大丈夫よ、先生」
心配と不安にせかされるままに、再び捜索に戻ろうとした唐巣を、令子がやんわり引き止める。
「吸印札を買った奴がピートの誘拐犯だって確証はまだないけど、もしそうなら、捜査対象はだいぶ限定出来るわ。青梅市の店で買ったって事は、やっぱり犯人は奥多摩近辺に住んでるんだと思うけど・・・そこに住む若い女で、しかも、吸印札や結界札を何枚も買えるぐらいのお金が自由に動かせる人物・・・そんなの、そうそういるわけないもの」
自分の考えに自信を持っている時の、鋭い微笑をたたえた令子の表情。
そんな微笑みを浮かべた令子の顔を見て、エミも、その顔に不敵な笑いを浮かべる。
そして、傍らの事務机に広げたままになっている奥多摩の地図を睨みやると、呟くように、しかし、力のこもった強い声で言った。
脳裏に一瞬蘇って消える、黒ずくめの女の姿。
「待ってなさい・・・次は、あたしがアンタの所に出向いてやるワケ!!」

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa