ザ・グレート・展開予測ショー

蜂と英雄 第7話 〜GS集結〜


投稿者名:ちくわぶ
投稿日時:(05/10/14)






「ん……。」


 柔らかく包まれているような感触を憶え、小さく吐き出すような声と共にベスパは目覚めた。
 ぼんやりとした視界には白塗りの天井が映っている。次第にそれがはっきりとしてくると、彼女は慌ててその身を起こした。
 回りを見渡すと木枠の窓からは美しい海岸線と雄大な山を望むことができ、古い洋風の部屋には小さな暖炉、年季の入った樫の机が置かれ、その上に銀で造られた燭台が立ててあった。
 ベスパは清潔なシーツの張られたベッドに寝かされていたようで、暖かい日差しが彼女の周りを包み込んでいる。
 部屋のドアは閉じられているが鍵は掛かっておらず、彼女以外の人影は見あたらない。


(そうだ……私はあのジジイに連れてこられて……)


 ベッドから足を降ろして立ち上がろうとしたとき、ふいに部屋のドアが開いた。
 ベスパは反射的に身構えたが、そこには誰もいない。


「……おはよう。」
「うわっ!?」


 誰もいないはずなのに突然聞こえてきた声にベスパは肝を冷やした。
 そして、ドアがひとりでにゆっくりと開いていく。


「……?」


 ふと視線を下げると、ドアノブをぶら下がるようにして押している幼い少女が自分を見上げていた。
 少女は身長がベスパの膝より少し上くらいまでしか無く、そのため視界に入らなかったのである。
 自分を見つめる無表情な少女の瞳に、ベスパはどこか深く暗い場所へと吸い込まれそうな感覚を覚えた。


「だ、誰……?」
「朝ご飯できてるよ。」


 少女は抑揚のない声でベスパにそれだけ言い、くるりと背を向けて歩き出した。


「ちょ…待って!?」


 ベスパはしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて覚悟を決めて少女の後を追うことにした。
 どうやらここは二階の部屋だったようで、廊下に出ると少女が吹き抜けのホールの階段を降りているところだった。
 ベスパは自分の触覚をピクピクと動かし、あたりの気配を探ってみた。
 彼女の頭部から出ている触覚は飾りではない。精度の高い感覚器官としてし機能し、目では捉えにくい気配や妖気を敏感に感じ取ることができる。


 ……どうやら、この建物に妙な気配は感じられない。


 とはいえ、ここがもしルシエンテスのアジトなら油断は禁物。警戒を緩めることなくベスパは歩き出す。
 通路を渡り、階段を下りてみると左後方のドアの前で少女がじっとこちらを見て待っていた。
 少女からは妖しい気配の欠片も感じられない。表情の変化がほとんど見られないという部分はあるが、その瞳はとても澄んでいて美しく感じられた
 ただの人間の子供……そうとしか思えなかった。


(この子は一体――――)


 状況の前後から考えても、ルシエンテスに関わりがあるとしか考えられないが……あの老人のやり方を見た後でこれを納得しろというのは難しいことだった。
 しかし――――これはチャンスでもあった。
 もしこの少女がルシエンテスの縁の者なら、ここがどこなのか、あの魔導師の目的は何なのか聞き出す事が出来るかも知れない――――


 ふと、ベスパの脳裏に先日の記憶が蘇る。
 あの時、勢い込んで突進したはいいがあっさりと拉致され、ジークにもひどい怪我を負わせる結果となってしまった。
 このうえ手ぶらでノコノコ帰ったとあっては、とてもじゃないが皆に顔向けできない。
 せめてこの失態を埋め合わせるに足る情報の1つでも手に入れなければ――――
 せっかくの状況を利用してやろうと、ベスパは決意を固めた。


 少女に促されて部屋に入ると、楕円の大きなテーブルに2人分の料理が用意してあった。


 10種類ほどの角切り野菜にベーコンを加えて煮込んだミネストローネ(イタリアのスープ)
 ムール貝、イカ、エビを魚介のブロード(ダシ)とトマトソースで合わせた漁師風スパゲッティ。


 一見豪華に思えるこの料理は、イタリア・シチリア島では実に家庭的なものである。
 少女は一足先に席に着き、その傍らには目のうつろな犬もじっと座ってベスパを待っていた。
 とりあえずベスパも席に着き、自分に用意された料理を見る。
 シンプルな白皿に盛りつけられた料理は温かく、丁寧に調理されたものだった。


「これ……あんたが作ったの?」
「うん。私じゃない私が憶えてたの。」
「私じゃない私……?」
「……。」


 少女は奇妙な返答をした後、またじっと押し黙ってしまう。
 不可解な言葉ではあったが、今そんなことを気にする必要もないと思いベスパは違うことを尋ねる。


「……そうだ、あんたの名前は?」
「アンジェラ……。」
「私はベスパ。ねえアンジェラ、私をここに連れてきた爺さんがいたでしょ。そいつは今どこにいるか知ってる?」
「……早く食べないと料理冷めちゃうよ。」


 アンジェラはベスパの質問には答えず、小さな手でナイフとフォークを握りしめて料理を口に運ぶ。
 ベスパはタンパク質を主に摂取する体質であるから魚介なども平気だが、それ以外の普通の料理が食べられないわけでもない。
 質問は食事を済ませてからでも遅くはないと、自分も料理に手をつけることにした。


「美味し……!!」


 思わず言葉を洩らしてしまうほど、料理は美味しかった。
 ミネストローネは素材の味がしっかりと生きていて、温かさの中にほんのり野菜の甘みが広がってくる。
 パスタはブロードの効いたソースと新鮮な魚介が上手く絡み合い、ベースに使われているわずかな赤唐辛子がピリッと味を引き締めてコクの中に地中海の爽やかさを感じさせている。
 はじめて感じた料理の美味しさに、ベスパはつい目的を忘れそうになってしまうほどだった。
 アンジェラは時々パスタの具を犬に与えながら、黙々と食べていた。






 ベスパが食事を終えると、いつの間にか犬が大きな紙袋をくわえて座っていた。
 足元に紙袋を置くと、犬は食器の片付けをしているアンジェラの傍へと戻っていく。
 その紙袋を開いてみると、中には女性物の服が上下揃って入っていた。


「もうすぐ出かけるよ。その格好じゃ目立つからそれに着替えて。」
「えっ?」

 その声にふと顔を上げると、ハンカチで手を拭きながらアンジェラがキッチンから戻ってきていた。


「出かけるって……どこへ?それより私をここに連れてきた――――。」
「あの人は今日は帰ってこないよ。早く着替えてね……。」


 あの人――――やはりルシエンテスのことだろうか。
 今日は帰ってこないということは、今ここでじっとしていても意味がないということになる。


(……こんな小さな子供でも、私を見張る力はあるってこと?なんにせよ、解らないことだらけだね……)


 考えを巡らせながらベスパは自分の格好に目をやる。
 現在身につけているのはいつものボディスーツである。これは体の動きを邪魔することがなく、隠密性に優れていて彼女のスタンダードとも言える姿だ。
 だが、人間の世界では逆に目立ってしまうことはベスパも十分承知している。
 ということは、アンジェラはどこか街に出て行こうとしているのだろう。
 口数の少ない少女を問いつめるより、ついていった方が早いかもしれない。
 そう思い、ベスパは用意された服に着替えることにした。




 胸元がV字になった黒のキャミソールに少し丈の長い濃緑のニットカーディガンを羽織り、デニムのパンツにやや大きめの金のバックルが腰回りにアクセントを付けている。
 最後に落ち着いたデザインの黒いサンダルを履くと、元々モデル体型なこともあってベスパは都会的でありながら、しかし落ち着いた大人の雰囲気を放っていた。




「へえ、コレはなかなか……でも、あのジジイの趣味かと思うとちょっとね……。」
「……それ、私が選んだの。」
「え、あ、そうなんだ。良いセンスしてるわよ、アンジェラ。」


 ベスパはにこっとアンジェラに微笑み返す。
 アンジェラは妙にそわそわして視線を泳がせていたが、ほんの少し……そう、ほんの少しだけ嬉しそうな顔をした。
 変化に乏しい彼女の表情をベスパはようやく見た気がした。


「じゃあ、行くね。付いてきて。」
「あ、ああ、わかったよ……。」




 はたしてこの少女は何者なのか?
 魔導師ルシエンテスとの関係は?
 そして、一体どこへ向かい、何をしようとしているのか――――
 ベスパは謎の手がかりを掴むため、不思議な少女と行動を共にするのだった。
















 フランスで核弾頭が奪われたことは情報規制によって表向きには報道されなかったが、ICPO――――オカルトGメンの間では大騒ぎになっていた。
 それは核弾頭が奪われたことだけではなく、魔族によってもたらされた報告もまた大きな原因であった。


 最高レベルの緊急事態――――その報告を受けた西条は日本に名だたるGSを招集、一路ヨーロッパの対策本部へと向かった。
 そのメンツは日本、いや世界最高のGSと謳われる美神除霊事務所のメンバーやその関係者、さらに彼女らに劣らぬ霊能者達が勢揃いしていた。
 だが、情報の漏洩を防ぐという理由で西条は現地に着くまで詳細な事情を伏せていた。




 美神令子 横島忠夫 氷室キヌ ※犬塚シロ ※タマモ(※非公式) 六道冥子
 
 ドクター・カオス マリア 小笠原エミ タイガー虎吉 唐巣和宏 ピエトロ・ド・ブラドー

 伊達雪之丞 魔鈴めぐみ


 上記に西条輝彦を加えたメンバーが日本からの派遣GSである。
 なお、美神美智恵は育児中のため日本で待機することになった。







 〜オカルトGメン:ヨーロッパ本部〜






 GS一同が集められた司令室には、一足先にワルキューレとヒャクメ、そして左脚を金属板で固定したジークの姿もあった。


「で、私達をこんな所に勢揃いさせるような緊急事態ってなんなの?強力な魔物が出たと聞いてここまで来たけど、詳しいことは着いてからの一点張りじゃロクに準備だってできなかったんだから。その辺ちゃんとカバーしてくれるんでしょうね?それに報酬だって倍はもらわないと留守にしてる間の埋め合わせが――――。」


 豊かな胸を押し上げるように腕を組んで、不機嫌そうに西条を見つめる世界トップクラスの霊能者――――美神令子。
 彼女の問いに頷くようにその他のメンバーも西条を見つめる。


「装備や報酬の件はEUが充分用意しているそうだから安心してくれ。」
「オッケー、それなら文句なしね。じゃあ話を聞こうかしら。」
「説明は僕ではなく、彼がしてくれる。土偶羅魔具羅、よろしく頼む。」


 西条に促されて姿を現したのは魔界でデータの解析を行っていた土偶羅と、その横にはパピリオも付き添っている。


「あ!!久しぶりッスね土偶羅様、それにパピリオ。元気でやってるのか?」


 懐かしい顔を見て、横島は軽く手を上げて笑いかける。


「きゃー、久しぶりでちゅー!!私も土偶羅様もピンピンしてまちゅよー!!」
「おお、久しぶりだなポチ。と、すまんが無駄話をしておる時間はない。早速だが――――これから我々が話すことをよく聞いてもらいたい。」


 はしゃぐパピリオを抑え、土偶羅はジークとワルキューレを呼ぶ。
 そして、彼らは今回の事件の顛末を語ったのだった。










「つまり、アンタ達がヘマしたおかげでルシエンテスとかいう魔導師が復活して、核弾頭をかっぱらってロクでもないことを始めようとしてるのね?」


 令子はやれやれといった表情で、バツの悪そうにしているジークやワルキューレの方を見る。


「……申し訳ありません。本来なら我々魔族だけで処理すべき問題だったのですが、もはや事の重大さは人間界を大きく巻き込む所まで来てしまった……。人間――――特にアシュタロス事件で勇敢に戦ってくれたあなた方に再び協力を頼まねばならないのは心苦しいのですが……。」
「まあいいわ、その分ギャラを弾んでもらえれば良いんだし。それに放っといたら私が自由に暮らせる世界がダメになるって言うんなら――――そいつには不幸になってもらうしかないわね。」
「感謝します、美神さん……。」
「じゃあ、その魔導師が蘇らせようとしているものについて詳しい説明を聞きたいわね。」
「わかりました。土偶羅、頼む。」
「口で説明するよりアシュ様の記録を見た方が早いな。例の魔導師が求めていた物が何なのか……腹をくくっておけ。」


 いつになく重苦しい雰囲気に、横島が後ろでコソコソと動き出す。


「……どこ行くつもり?」
「あ、いや美神さん、俺なんだかとってもお腹が急降下で……ちょっとトイレに。」
「逃げたらヨーロッパに置いてけぼりにするわよ。」
「……。」
「……。」
「だ、だって怖いじゃないッスかーーーーッ!?ジャック・バウアーだって核弾頭一発でいっぱいいっぱいだったんですよ!?それを5発も盗んだ野郎とやり合うなんて……イヤやーーッ!!俺はまだヤリ残した事が山のようにふべらばっ!?」


 わめく横島を絶妙なひねりの加わった鉄拳で黙らせると、令子は土偶羅を見る。


「さてと……バカはほっといて、記録を再生してもらえるかしら。」
「うむ……。」


 土偶羅はパピリオに持たせた小さな台座のような装置を操作する。と、以前ジーク達が基地で見たのと同じように記録の1ページのホログラムと音声が再生され始めた。








 ――――今日はメフィストという使い魔を作ってみた。
 むちむちぷりんの可愛い我が娘だ。
 作った私でさえ正直たまら……いやいや、素晴らしいと誇れる出来だ。
 彼女ならアホな人間の男を悩殺して魂を集めてくれるだろう。
 無論、悪い虫が付こうものなら私自ら始末してやるがね……フフ、ウフフフ……。
 いやしかし――――これは正直たまら――――!!








「ああっ!?再生するページを間違えてしもうた!!」




 だああッ!!!!




「何考えとんじゃあのヤローは!?」
「おいコラ!!こんなもん見せるためにわざわざ呼んだってのか、ああ!?」
「お、落ち着け!!間違えただけだとゆーのに!!ワシが悪かったッ!!」
「ってゆーか、アシュタロスってああいうキャラだったの?な、なんか悪寒が……。」


 土偶羅は半ギレの横島と雪之丞にガクガクと揺さぶられてしまい、一方の令子は鳥肌が立ってしまっていた。
 ひっくり返ったGS一行は緊張感を台無しにされ、なんだか頭が痛くなってきた。


「で、では気を取り直して……行くぞ。」


 土偶羅が再び装置を起動すると、さっきと同じようにホログラムと音声が再生され始めた。










 『あれ』を蘇らせれば、地上は再生不可能な程に破壊されてしまうだろう。何としても阻止する必要がある。
 私は戦いの末、不死身だった奴を封印し魔獣も湖底に沈めた。
 仮に……もし仮に私が滅んだとしても奴の封印が解けぬよう二重に封をしておく。間違っても『あれ』に近付けてはならないのだ。


『あれ』……すなわち大地が生み出した破壊エネルギーの結晶『テュポン』が復活すれば、もはや神も魔も人間も破滅するしかない。


 とはいえ、『テュポン』の封印を破壊するには莫大なエネルギーが必要になる上、ルシエンテスも厳重に封じておいたから当分の間は安心していいだろう。


 だが……この世に『不変』などあり得ない。


 願わくばこの両者が永劫に世に放たれる事が無いようにあって欲しいものである――――








 そこでホログラムと音声は途切れていた。
 土偶羅は言った。
『テュポン』が復活したならば、核弾頭5発など些細な問題に過ぎないだろうと。
 横島をはじめとする若いGS達は『テュポン』という言葉にピンと来ずにいたが、令子や唐巣神父ら大人メンバーの顔面はみるみるうちに真っ青になっていった。


「じょ、冗談じゃないわ!!テュポンなんてどうしろって言うのよ!?」
「ど、どうしたんスか美神さん?そのテュポン、ってそんなにおっかないんですか?」
「おっかないとかそんな次元じゃないのよ……横島クン、アシュタロスの究極の魔体って憶えてるわよね?」
「は、はい……ま、まさかアレより強いとか……!?」
「……ゼンマイのオモチャ。」
「はい?」
「テュポンに比べたら、究極の魔体なんてゼンマイのオモチャ程度でしかないのよ!!」
「いっ!?」
「テュポンってのはね……。」




 憂鬱な表情のまま、令子はテュポンについて語り出した。








 〜テュポン〜




 テュポンは大地の女神ガイアが主神ゼウスの慢心に怒り生み出したというギリシア神話最大最強の魔神であり、全ての風の神の父でもある。
 その体は頭が星に届くほど巨大で、目と口からは灼熱の火炎を噴き出し、両手を広げれば世界の西と東まで届き、その先からは百の蛇の頭が出ており、腿から下は蛇の姿をしていた。


 テュポンは凄まじい破壊エネルギーの権化で、彼が歩く度に暴風が吹き荒れ、全ての物を巻き込み破壊したという。


 テュポンがその姿を現した時、オリュンポスの神々は恐れをなし動物に姿を変えてエジプトへと逃げてしまったほどだ。
 ただ1人残って立ち向かった主神ゼウスさえテュポンのあまりの強さに敗北、幽閉されてしまった。
 その後仲間の神々の助力によって窮地を脱したゼウスは反撃を開始。テュポンはモイライという運命を司る女神に騙されて弱体化の果実を食べてしまったため現在のシチリア島まで逃走したが、ゼウスの雷に撃たれて弱ったところに山を投げつけられて封じられた。


 それが現在のシチリア島エトナ火山であり、不死身の魔神であるテュポンが重圧から脱出しようともがく度にエトナ火山が噴火するのだという。


 なお、現在の台風(Typhoon)の語源はテュポン(Typhon)の英語読みである。













「……わかった?つまりテュポンっていうのは超巨大な台風がそのまま怪物になったようなもんなのよ。こいつが動き出したら世界が8度滅亡してもおつりが来るわね……。」




 令子の言葉に場の空気が凍り付く。
 アシュタロスの究極の魔体の時でさえ人間VSゴ○ラみたいな対比だったというのに、今回の相手はもはや対比云々の話ではなくなっている。


 正直、GSメンバー達は何で自分はこんな所にいるんだろうといった心境であった。
 そんな彼らの前に、ジークが一歩踏み出した。


「皆さんに集まってもらったのはテュポンと戦うためではありません。奴はまだ復活していませんし、あれほどの怪物を復活させるとなればそれなりの手順というものが必要になるのです。これを見てください。」


 ジークが巨大なディスプレイを指すと、ヒャクメが自分の心眼ケーブルを繋げたノート端末を操作する。
 画面にはまず最初に地中海周辺の地図が現れ、続いてその上に複数の点が表示された。


 ジークはその内の1つを指し話し始める。


「核弾頭が奪われる少し前、ルシエンテスの反応を追ってたどり着いた村では大地のエネルギーが根こそぎ奪われていました。それがこの点です。後の調査の結果、ここは大地のツボとも言うべき龍脈のエネルギーが集まる場所でした。そして時間の経過と共に、その他の地域でも次々と同じ現象が起こっています。ルシエンテスの反応は感じられませんでしたが、現場周辺の住人が例外なく殺害されているところを見ても奴の手下……もしくは仲間が別に活動していると思われます。この行動もテュポン復活に関わるものと見て間違いないでしょう。ということは、これを食い止めることでルシエンテスの目的を阻止できるはずです。皆さんには予測される次のポイントで敵の行動を阻止してもらいたいのです。」


 ジークの説明に一行は聞き入っていたが、雪之丞が1人不満そうな声を上げた。


「いちいちそんな回りくどいマネしなくても、その腐れ魔導師のヤローを見つけ出して始末したらどうだ?何なら俺が行ってやるぜ?」
「ルシエンテスの所在は不明です……どこかに潜伏しているのかレーダーにも奴の姿は映りません。それに……奴は強い。アシュタロスでさえ止めを刺せなかったほどの強敵です……その手下も非常に強力な魔物ばかりでした。みんなで力を合わせなければ勝ち目はないでしょう……。」


 あくまで平静に語るジークであったが、その拳は握り締められ瞳の奥には激情の炎がわずかに見え隠れしていた。


「ちっ、しゃーねえ……わかったよ。」
「すでに魔界の兵士達が現地で警備に当たっています。皆さんは彼らと合流して最悪の事態を防いでください。くれぐれもお気を付けて――――。」




「いよいよ後には引けなくなっちゃったわね。でも……久しぶりの大仕事だし、やってやろうじゃないの!!」




 美神令子らGSが司令室を後にする中、横島と雪之丞だけがその場に残っていた。
 2人はジークの元へ近付き、小さな声で話し始める。



「なあジーク、さっきから気になってたんだけどさ……。」
「なんですか?」
「どうしてベスパがいないんだ?アンタらと同じ軍に入ったはずだろ?」
「ああ、俺もそれを聞こうと思ってたんだ。」
「彼女は……。」


 横島の質問にジークの表情は曇り、うつむいてしまう。


「……なんか訳ありみてーだが……良ければ話ちゃくれねーか?」
「ああ、同じ釜のメシを食った仲間、だしな。」
「横島さん……雪之丞……ありがとう。」


 横島も雪之丞も自分の立ち振る舞いには無関心なくせに、他人のこういう時だけは妙に勘が働くのである。
 少しだけ苦笑しながら、ジークは事情を話すことにした。







「……結局、ベスパは拉致され行方は判らない。だが……もし人質として盾にされた場合、正規軍は彼女もろとも目標を処理するだろう……。」
「なんだって!?」
「おいジーク!!テメェそれで納得してんのか!?」
「納得など出来るものか!!だが……彼女1人の為にテュポン復活を許すほど軍は甘くない……!!」
「……よし、だったら俺達もベスパの救出に手を貸すよ。事が始まったらこっそり援護するから、なんとか助けてやろう。」
「俺も協力するぜ。大体正面切って思いっきり闘えないんじゃストレスがたまるからな。」
「餞別代わりに俺の文珠を1つやるから、いざというときに使ってくれよ。このことは美神さんには内緒だぜ?」







「すまない2人とも……本当に……ありがとう……。」








 気の良い修行仲間の気遣いに、ジークは心底救われた気がしていた。


 だからジークはそんな彼らが――――人間が好きだった。


 その世界を蹂躙し、破滅させるというテュポン、そしてルシエンテス――――


 断じてこの二つの存在を許しておくことは出来ない。








 次こそは必ずルシエンテスを仕留めてみせる――――








 そしてベスパを無事に救い出す――――








 ジークはある決意を胸に秘め、新たな戦いの舞台へと赴くのだった……



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