ザ・グレート・展開予測ショー

夢のはじまり


投稿者名:かいる+豪
投稿日時:(05/10/14)

僕が、もう少しだけ賢かったら。

あんなことは起こらなかっただろう。


世界が、もう少しだけ優しかったら。

あんなことにはならなかっただろう。


でも、そうはならなかった。

ならなかったんだ。


もう少しはもう少しのまま。永遠に埋まることはなくて。

ぼくは、がらんどうのまま。今、ここに立っている。



――――――――赤い夕日のなかに。










          夢のはじまり (絶対可憐チルドレン)













―――――超能力者と普通人の壁は何であるか。
もちろん、超能力の有無である。
超常的な現象を引き起こす力。ESP。
ヒトはいつの時代も未知なるモノを恐れる。

夜の闇。
中世の魔女。
神話の悪魔。
死。

曖昧模糊として、捉えがたいモノ。
現象を起こす、原理がわからないモノ。

そういったモノはこれまでの人類の歴史に数多く存在した。

時にそれらに恐怖することもあっただろうが、
人類は勤勉さ、根気強さ、時には閃きを持ってそれらを制してきた。



「科学」



それこそが、ヒトが闇を切り裂いてきた刃であり、
ヒトをヒトたらしめてきた光であった。

だが、この剣は諸刃の剣であることを忘れてはいけない。
この武器が人類を滅ぼしかねない威力を持っていることは証明済みである。
また、刃が使い手に仇なした例は枚挙にいとまがない。




僕は、それに気がつかなかった。




僕は、科学に取り憑かれていた。
世界の全ては数式で表せると信じていたときもあった。
論理で説明できないものは切り捨てた。

―――超能力。・・・数式で表すことができないモノ。
その解析に追われ、論文を書き連ね、日夜終わらぬ思考を続けた。

気付いたら、BABELに在籍していた。
資料を追い、研究に最適な環境を追っていったらここに辿り着いたのだ。

予期せぬ特務エスパー管理官という仕事をあてがわれ、
あの三人娘にはさんざん苦労させられたが、研究は順調に進んでいた。

手を焼かせる子ほどかわいいとはよく言ったもので、
一年もともに過ごせば彼女たちにも愛着が湧いてきた。

彼女たちが笑顔で暮らすことのできる世界をつくりたいと、
そうすることが自分の使命なのだとさえ思うようになった。


そして、また研究に向かった。













―――――今一度、問おう。
エスパーとノーマルの壁は何であるか。

それは超能力の有無である。




―――――では続けて問おう。
何故超能力はノーマルに恐れられるのか。

何故なら超能力はノーマルにとって未知なるモノだからである。




―――――ならば最後に問おう。
これまでの論をふまえて考えられる、エスパーとノーマルの垣根を無くすための方法とは何か。


―――――――超能力を、「既知」のものとすること。



僕は、そう結論づけた。







――――――結論づけて、しまった。
























超能力の解析。それは、確かに僕の願いを叶えたように見えた。

足の速い子。頭の良い子。不思議な力が使える子。
そんな子たちはちょっと周りから羨ましがられる。

時間はまだかかるだろうが、そんな世の中になってくれれば。
今はだいぶ大きくなったあの子たちも、笑顔で暮らせるだろう。

幸せなビジョン。
楽観的な未来予測。




いまでもあの頃のことを夢に見ることがある。
汗だくで夜中に目が覚め、そんな甘い考えを持ってあの研究を
世間に打ち出してしまった自分を・・・・・・絞め殺したい衝動に駆られる。

何度死にたいと思っただろうか。覚えてない。
常人よりも発達していると言われる、理性がそれを許さなかった。
そんな思いも摩耗しきって、生きて今ここにいる。







―――――あの研究は、悪魔の研究だった――――――







超能力を、「既知」のモノとする。
これは、超能力を制御可能なモノとすることに他ならない。
ECM、ECCMは前からあったものだが、それは「超能力」の発現を抑えるものだ。
よりにもよって僕は「超能力者」の発現という禁忌に手を染めてしまった。

これはあるひとつのことを意味した。





計画された、高超度超能力者の「量産」――――――それが悪夢の名前だった。







戦争にはいかに相手方に損害を出し、味方の損害を抑えるか、という
経済的な側面が厳然として存在する。

その意味でエスパーとは、非常に対費用効率の高い「兵器」だと言える。
かかるコストは兵士ひとり分。そして武器も持たずに戦車をもなぎ倒す。
弾薬の射耗もなく、攻防ともに役立つという夢のような存在なのである。

また、戦争は敵と戦うだけではない。
物資の輸送にはテレポーターが。
捕虜の尋問にはサイコメトラーが。
秘匿性の高い通信にはテレパシストが。

様々な場面においてエスパーはノーマルに出し得ない力を発揮する。



そんなエスパーが安定供給される技術が生まれたと聞いて、
各国の軍事組織が飛びつかないわけがなかった。



BABELと言えども、世界各国の情報組織からのクラッキングに、常時耐えることは難しい。
ある程度の情報漏洩は承知の上で、相手の裏をかくことがこの世界のスタンダードなのである。

僕の研究・・・それに伴う技術は、世界に分散してしまった。







各国に設置される超能力部隊。

超能力者を「兵器」としてしか見られない奴ら。

量産され、戦場しか世界を知らぬままに死んでいく超能力者たち。























暗転。








光が、見えると思っていた。道が、拓けると思っていた。



世界がもう少しだけ、もう少しだけ、優しかったならば。



何度つぶやいても、この世界は闇のままで。



闇の中、目を閉じると、光の当たる道を歩けなかった、



なににもなれなかった、どこにもいけなかった、



顔も知らない、子供たちの、なきごえが聞こえたような気がした。




















科学は、僕に幸せをもたらしてはくれなかった。
論理では、あの最後の命題を解くことはできなかった。





僕はあの日から、科学への信仰を捨てた。
結局のところ、わかっていなかったのだ。

科学とは、知識の産物。知識によって世界にはたらきかけた結果、
超能力者という異端を、世界は「異端として利用する」ことを選んだ。



僕が目指した、超能力者を世界に「異端として認めてもらう」こと・・・
それに必要だったのは、知識ではなく心だったのだ。






なにもわかっていなかった。
ヒトのココロ。その光の部分も、闇の部分も。

光を、希望を、あの三人が教えてくれた。
闇を、絶望を、世界に思い知らされた。




愚かだったこの僕は、今も地を踏みしめて立っている。
世界から受けた、胸の鈍い痛みは続いていて。力が抜けそうになるけれど。

彼女たちと過ごした、あの日々が、僕を支えている。
あの日、心に立てた誓いが、僕を動かしている。






夕暮れの廃墟を歩きながら、祈る。
彼女たちが、笑顔でありますように。





祈る神は、もういないけれど。
僕の神は、たぶん、彼女たちなのだ。







―――――大きな力を使うには、大きな責任がともなう。



自分がよく彼女たちに説教するとき、使っていたフレーズがよぎる。
今頃になって、自分の言葉が重くのしかかることに、苦笑する。

僕は、自らがどれほど大きい力を持っているのかを、わかっていなかった。
無知は時として、何より重い罪となる。それが僕の罪。



そして、驕った道化に罰を下すのは―――――神、と相場が決まっている。










・・・さあ、僕の神に会いに行こう。









手には使い込まれた熱線銃。

鈍い光を放ち、氷よりも冷たい感触をしたそれを携え、
僕は、血よりもなお赤い夕日の中を、
終局に向かって歩き出した。










突き抜けるかの如き、赤色をした空の下で。
一人の男と、一人の女とが距離を開けて対峙していた。
男は緊張した目付きで、女の方に向けて銃を構え
けれど無手にしか見えない女は、微笑すら浮べている。

優しく微笑み続ける女の名は、明石薫。
あるいは『破壊の女王』と言った方が解りやすいだろうか。
彼女を今にも撃たんとしている男は、皆本光一。

ずっと昔は、一緒に暮らしたことさえあった二人。
今となっては、敵同士の二人。



「なぁ、知ってる?皆元」



語りかけながら、薫は片手を挙げる。
反射的に、皆本は手にした熱線銃に力を込めた。




「あたしさ―――――――――大好きだったよ」



しかし、銃を構え続けていた腕は微かに痺れ
ほんの少し、ほんの少しだけ皆本自身も意図しなかった力が入る。
ずっと、引き金に掛けっ放しだった人差し指へと。
無機質な、けれど確かに響く銃声が―――――――――





「愛してる・・・・・・・・・」




―――――――――紅い空を切り裂いた。










「・・・・・・・って、ホントに撃ちやがったなテメーーーーーーーーッ!!!!!」

「ぇ―――――――ごぐはぁっ!」



即座に立ち上がり、瞳を釣り上がらせて睨みつけてくる薫。
そんな彼女の無事な姿に驚きを示す暇も無く、皆本は傍の壁に叩きつけられた。
あー何か懐かしいなぁ、と考えている所を見ると、まだまだ余裕がありそうである。















「・・・・・・・・ぉーぃ」



―――――――ぅーん・・・・・?



「ぉーい、皆本ー!?」



―――――――――ん、薫・・・・・・・・夢、か?



「・・・・・・・・起きないとキスするぞ」

「今起きたっ!!!!」



布団を放り投げるようにして、跳ね起きる。
直後、布団を被っていたというおかしさに皆本は気が付いた。
周囲を見渡してみると、屋根も壁も床も確認され
どうやら何処かの部屋の一室のようだと思い至る。
そして、自分がベッドに寝ている事にも。
横の椅子には、憮然とした表情の薫が座っている。



「やっと起きたなこのヤロー。
 まったく、葵が助けてくんなきゃ諸共お陀仏だったぜ」

「薫・・・・何で・・・・・・?」



皆本は視線で問い掛ける。何故、自分が此処に居るのか。
恐らく、此処は薫達のアジトの一つ。
先ほどの場所から逃げ出したのは解る。
しかし、自分を連れてくる意味などは無かった筈。



「フン、あたしを撃てなくて残念だったな。
 でもそんな簡単になんか殺されてやんないもんね」



しかし、薫はその疑問の視線を別の意味に捉えたようで
不機嫌そうに一息に言い切った後、ぷいと顔を背けた。
その顔付きが、その子供っぽい仕草が
どうにも懐かし過ぎて、在り得ない筈の幻のようで。
まるで、遠い昔に無くした宝物と再び出会えたかのようで。



「・・・・・・・いきなり黙るなよ。
 何か言いたい事あんなら、って、何で泣いてんだ皆本っ!?」



驚き慌て始める薫だが、今の皆本に説明など不可能。
彼には一言しか口に出来ない。
ただ、ごめん、と。
それだけを繰り返す事しか出来なかった。
何度も、何度も。










「皆本、昔より泣き虫になっちまったのか?
 やっぱ、あたしらが居ないと駄目なんだなー」

「・・・・・・・ごめん」

「あはは、もーそんな謝らなくていいって。
 でも、何だかこうしてると変な感じだな。
 勿論、悪くないんだけど、さ」



へへ、と恥かしげに笑う薫。
ベッドに座り込んだ皆本の頭を撫でながら。
その関係は、昔とはまるで逆で
でも、決して嫌なものではなかった。
それは心地良い時間、しかし、ずっと続けている訳にも行かない。



「薫、僕はお前をもう止められない。
 お前等を、傷付ける事が出来ない。
 でも、世界がこんなになった責任は僕にも在るんだ。
 だから、僕は――――――――――」

「うん、それで一つ、皆本にお願いがあるんだけど」



皆本の発言を切るようにして
手を止めて、薫はじっと彼の瞳を覗き込んだ。
突然、至近距離に来た彼女の顔に、皆本の胸は一つ高鳴る。



「用件だけ言うとさ、あたしらの方に付いて欲しい。
 そんで、やって欲しい研究がある」

「研究、だって?」



皆本は、己が耳を疑った。
今更、自分が何の研究を出来るというのか。
しかし、続く薫の言葉に更に驚かされる事となる。



「ああ、それでエスパーとノーマルの闘いも無くなる」



確信を込めて頷く薫。
皆本には、もはや混乱するしか出来ない。
薫は、そんな彼の様子を見て呆れた様に



「考えてみろよ皆本、簡単なことじゃねーか。
 エスパーとノーマルが戦うっつーんだったらさー









 世界人類、皆エスパーにしちまえばいいんだよ」









・・・・・・その時の皆本をどう表そうか。

目が点になる。
顎が外れる。
開いた口が塞がらない。

まぁ、そんな顔付きでビッと親指を突き出した薫を眺めていた。



「い、いや、ちょっと待て薫!
 確かに、僕はエスパーを作り出す研究してたけど
 全人類って幾らなんでも無理がないかっ!?」

「ECMがあるんだったら、その逆だって出来る筈っ!
 頑張れ皆本! あたしは信じてるぞっ!!!」



ぽん、と輝くような笑顔と共に肩を叩かれる。
そうすると、もはや反論も出来やしない。
不可能事に等しい無理難題とは知りつつも
かくり、と首を縦に振る事しか出来なかった。
頬に微かな苦笑を浮べつつ。


これだ。この懐かしさすら覚えるムチャクチャさ。
こちらに無類の信頼を、無条件で置いてくるところ。
変わっていない。何も変わっていない。
変わったのは、自分の方なのだろうか。おそらくそうなのだろう。

でも、薫が、彼女たちがいるならば変われるような気がした。
もういちど。







「よーし、それじゃ・・・・・・」



皆本の返答を聞いて、いそいそ、と薫は動き出した。
待て、その手にした枕は何のつもりだ。
そんな問いを視線に乗せて、皆本は彼女を見る。
返ってきたのは満面の笑み。



「ほら、仲間は多いほうがいいだろ?
 あたしも結婚できる年になった事だし、さ」



どういう意味だろう。
皆本の脳は、理解を拒否していた。
逃げなければ、いやしかし逃げられるわけがない。
第一、考えれば此処が何処かも解らないのだから。
ベッドに座る皆本へと、薫はにじり寄ってく。
そんな彼女の浮べている表情を見て



―――――――ああ、コレも懐かしいなぁ今畜生



などと、皆本は諦めたように考えていた。
圧し掛かってきた薫に、優しく押し倒されながら。






僕の神は、天には居ない。
僕の神は、僕を裁いてはくれなかった。
僕の神は、共に生きろと言ってくれた。

ムチャクチャで。
がめつくて。
狡猾な。

いつも僕に光を与えてくれる、僕の女神たち。

とても思惑通りに動いてなどくれない彼女たち。

彼女たちの間で弄ばれるのも、そんなに悪くない未来だと、

諦観の中で思ってしまった。


相手は全世界。面白くなってきそうだ。


―――――――さしあたり、今の状況を何とかしてからだがっ!










なお、余談ではあるが。
この後、危機を感じて跳んで来た懐かしい顔ぶれと、更なる一悶着があったのは
・・・・・・・まぁ、言うまでもない事である。




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