ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(29)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/20)

「え〜〜〜とお〜〜〜〜〜・・・」
オカルトGメン事務局のオフィスに響く、おっとりした柔らかな声と、間延びして、やたらと語尾を延ばす子供っぽい口調。
のんびりとした性格をそのまま表しているような、美人と言うより、子供っぽさに共通する可愛らしさを持った、のほほんとした顔に、それでも一応の緊張を滲ませて、冥子は、奥多摩近辺の拡大地図を手前におき、霊感を集中させていた。
彼女の子供っぽさをことさら強調しているようにも見える、おかっぱ頭の艶々とした黒髪の上には、サザエの貝殻を丸っこくしてネズミの尻尾とレンズのような一つ目をくっつけたような不思議な形の式神―――霊視能力を有する、クビラがちょこんと乗っかっている。
頭に乗せたクビラの『目』を通して、地図からピートの行方を霊視しようとしていた冥子だが、やがて、その可愛らしい目元を潤ませると、向かいの椅子に座って、自分以上にピリピリと緊張しているエミに言った。
「ダメ〜、よくわかんないい〜。範囲が広すぎるの〜」
「泣くんじゃないワケっ!!現地に行って霊視が出来ない以上、式神を使えるおたくに一番期待がかかってんだからねっ!!」
「だって〜だって〜」
「ま・・・まあまあ、エミさん・・・」
両手を胸の前で揃えて握り締め、いやいやポーズをしながら首を横に振る冥子と、その冥子の方に、テーブル越しに身を乗り出して、突っかかるように大声で言うエミを、傍らにいた美智恵がなだめる。その美智恵も、手前の事務机に地図を広げ、片手にダウジングストーンを持っており、そちらの事務机の向かいには、同じようにダウジングストーンを持った令子が腰掛けていた。
「全くもー、ちょっと居場所がわかりかけたってだけでそんなに騒ぐんだから・・・そんなに怒鳴ってるヒマがあるなら、あんたもさっさと続けなさいよー」
「・・・わかってるワケ!」
軽くからかうような口調で令子にも言われ、冥子の方に乗り出していた体を、すとんと椅子に収めると、自分のダウジングストーンを持ち直し、地図の上に掲げる。
そのエミの後ろ姿を横目に見て、美智恵は、だいぶ焦っているわね、と、感じた。
傍目には至極落ち着いて見えるが、十分に一度ほどの割合で座り方を変える、しきりに手を口元にやるなど、イライラしたり考え込んだりしている人間が見せる典型的な仕草が、ちらほらと見て取れる。
(捜す対象を・・・ピート君を心配する事は、意識の集中に繋がる面もあるけれど・・・)
心配は、時に不安や焦りとなって、集中をかき乱す。
エミの事務所が加奈江に襲われてから二日。
エミが得た情報を元に、ピートの捜索範囲を二十三区内から奥多摩方面に変えたものの、捜査は、一向に進んでいなかった。
ピートを誘拐した犯人が、吸血事件の犯人でもあると言う事で、二つの事件の捜査本部が一つに合体したため、捜査に派遣できる動員人数は増えたが、奥多摩と言う捜査対象地区の地理的条件が、捜査の新たな妨害となった。
まず、山間部と言う事であちこちをうろついている自然の精霊や雑霊の気配が多いため、まだ未熟なシロ達に、現地でピートの気配を霊視させるという事は、ほぼ不可能だ。
奥多摩近辺の八王子や、あきる野市辺りならまだともかく、山間部に入って行くに連れて、どんどん過疎になっていくと言う事も、移動の困難さや聞き込み対象の少なさから、捜査を困難にしていた。
相手のいる場所が完全に奥多摩の中だとわかっていれば、一斉に山狩りするなどといった思い切った手段も取れるが、いかんせん、そんな大々的な事を発動できるだけの決め手がまだない。
相手にくっ付けた霊気を追って、対象の行方を追跡すると言うエミの追跡方法には、本人も認める不確実な要素がいくつもあった。
くっ付けた霊気が途切れたのが奥多摩だったわけであり、犯人が、そこに留まったと言う証拠は無い。奥多摩よりさらに遠い所に行ったかも知れないし、もしかすると、霊気を付けられた事に気付いて、逆に捜査をかく乱してやろうと、わざと霊気を付けたまま、自分の本拠地とは全く違う場所に飛んで行ったのかも知れない。
仮に、犯人が本当に奥多摩にいるとしても、こんなちまちました捜査を続けていては、決め手を掴む前に感づかれて、逃げられる可能性もあった。
唐巣や警官が、現場に出向いて地道に動いているが、早期解決にはやはり、もっと捜査範囲を狭めなければならない。
なので、二日前からエミ達は、地図とダウジングアイテムを使った間接的な霊視で捜査範囲の限定を試みているのだが、結果は芳しくなかった。
ピートが行方不明になってから、すでに二週間。
唐巣やエミは勿論、犯人が吸血事件の犯人と同一人物と言う事もあって、美智恵達の方にも、はっきりとした焦りと不安が出るようになっていた。
特に、犯人と直接対峙し、個人的な感情の爆発をぶつけられたエミは、尚更だろう。
(エミさんはだいぶイライラしているし・・・冥子ちゃんのクビラも、そろそろ消耗してくるわね。少し休ませた方が良いか・・・)
「・・・根を詰めすぎるとかえって良くないわ。一旦休みましょう」
ストーンを置いて、ゆっくり立ち上がると、お茶を入れようと隣の給湯室に向かう。
令子も、うーん、と両手を頭上に伸ばして伸びをすると、はあ、とため息のような深い息をついた。
「そうね。さすがに二日間ぶっ通しで霊視のやりっ放しはツライわー」
「・・・私はもう少し続けてるワケ」
「ダメよ〜。エミちゃんも休まなきゃ〜」
「そうよ。休まないと、もともと低い的中率が、さらに下がるんじゃないの?」
「な、何ですって!?おたくほどじゃないワケ!!」
「あーら、やる気?」
「あああ〜、二人とも、こんな時にケンカはダメよ〜」
「・・・・・・」
背後から聞こえてくる痴話ゲンカと、それを宥める冥子の声に、いつもの調子が少し戻ったかしらと小さく微笑む。
こんな時なので、本気のケンカにはならないだろうが、そのまま、ちょっとした睨み合いぐらいにはなるだろうかと思っていたら、ふと、令子がケンカを中断して、思い出したように尋ねてきた。
「そう言えばママ、西条さんは?先生と一緒に、現場に行ってるの?」
書類仕事を広げたままにしてあるのに、朝から姿が見えない『お兄ちゃん』の事が気にかかったのか、西条がいつも使っている事務机を目でさして尋ねてくる。
「ああ・・・西条クンは、別の仕事で今朝から厄珍堂に行ってるのよ」
尋ねた令子の後ろで、いつも、ピートに絡む時のエミに令子が向ける視線と似た、呆れたような、冷やかすような目で令子を見ているエミの様子に、微苦笑を浮かべながら答える。
「厄珍堂・・・って、あいつ、また何かやらかしたの?」
ひどく小柄な体躯に、商魂逞しい心と、客を珍しい商品の実験台にする、なかなかトラブルメーカーな性格を持った、主に仕事用の武器の調達先として馴染みのある店の主の顔を思い浮かべて、令子が呆れたような表情で髪をかき上げる。
冥子はいつものようにキョトンとしているが、エミも、厄珍と聞いた瞬間に令子と同じような反応を見せ、美智恵は苦笑すると、軽く手を振って言った。
「今回は厄珍さん本人のトラブルじゃないわ。何でも、商売上の組合に加盟してる店の中で、素人にGSが使う危険な武器とかお札とかを売った店があったらしいのよね。だから、厄珍さんから、組合内の調査を手伝ってくれって言う依頼がきたの」
「ふーん・・・って、え・・・?」
ごく素直に納得しかけて、ふと、令子がハッと目を見開く。
「令子・・・?」
その彼女の様子に、日頃から勘の良い娘が何か感じたのかと思い、話しかけた美智恵の顔を、食い入るようにして見つめると、令子は少し考えてから尋ねた。
「・・・その、素人に道具を売った店って、どこにあるかわかる?」
「え?ええ。調査はもうだいぶ進んでる筈だから」
「教えて!」
「別に良いけど・・・でも、何で・・・」
「何か霊感に引っかかるのよ!ママ、早く!」
「わ、わかったわ。資料を取ってくるから・・・」
急に何かを感じたらしい娘にせかされ、美智恵が資料室へと走り去っていく。
「どうしたの〜。令子ちゃん〜」
「そうよ。霊的物品の違法販売ぐらい、時々あるじゃない」
「・・・・私にもわからないわよ。でも、何か感じたの」
眉を軽くひそめ、何かを考えているらしい令子に冥子とエミが話し掛けると、令子は、呟くようにそう答えた。
「・・・よくわからないけど・・・何かあるの・・・何か、とんでもない事が・・・ね」

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