ザ・グレート・展開予測ショー

貴方を手に入れるために(絶対可憐チルドレン)


投稿者名:NAVA+豪
投稿日時:(05/10/11)



今日も兵部京介という男に会った。
私にせよ、薫ちゃんにせよ、葵ちゃんにせよ。
ひとりで居るところへ、ふら〜っと姿を見せては消えていく。
私達に対して王子様らしく振舞い、良き理解者を演じている。
言外にノーマル、皆本さんを揶揄しながら。




彼の話は正直なところ、興味深いと感じる。
彼の経験は多かれ少なかれ、私達にも訪れる可能性があり
その結末を知ることは私達の身の安全に繋がる。
彼には、かつてノーマルの親友が居たそうだ。
今のBABELの前身『異能開発研究所』に所属していたらしい。
そして兵部京介もその親友の熱意に絆され、度々協力したとの事。

その結末がこの様さ。と額の傷を見せる。
私達の超能力は脳の働きのひとつというのが
現在の世界で主流を占める仮説であり、恐らくそれは正しい。
あるいは、科学の力が発達すれば
超能力を人為的に生み出すことも、消し去ることも可能なのだろう。

だがそれは自然なことではないと兵部京介は語る。
人類のひとつの進化の形なのだそうだ。正直、私もそう思っている。
猿が便利さを求めて二本足で立ち、両手を使い始めた。
たったそれだけのことだと思う。
器用に使いこなすために、次第に脚も手も洗練されていき、今の形質に至った。
ならば今の私達もまた進化の過程という意味では、ほんの半歩だけノーマルから進んでいるだけなのだろう。

この考えは兵部京介に出会う前から私の脳内に存在し、彼の思惑によるものではない。
だから私には分かる。彼の考えが分かってしまう。
彼は私たちに種を植え付けようとしているのだ。彼の花嫁にするために。

兵部京介はしばしば皆本さんを例に挙げる。
彼は皆本さんの話をする時、刹那だけ目を細める。
それは標的を狙う鷹の目の鋭さではなく、かつてを思い起こす懐古の瞳。
 
そんな兵部京介も皆本さんという人間そのものは否定しない。
先日の薫の一件を省みて、皆本さんが非常に細やかな配慮を私たちに施していることを素直に認めていた。

だから彼は言う。
『今はまだ、彼の庇護下にあることが君たちにとっても望ましい結果をもたらすだろう』と。
しかし彼の言葉はそれで終わらない。いずれは彼の元を去らねばならぬ時が来ると。
彼の裏切りが先か、私たちの不信が先か。それは分からない。
だがそれが定めなのだと兵部京介は言う。

その言葉を初めて聞いた時。
私は悟った。




 ――――彼もあの未来を知っている――――




薫ちゃんや葵ちゃんならいざ知らず。
私を舐めるなと言いたい。
所詮、海豚風情が施したプロテクト。
時間さえかければ私に解けぬはずが無い。
頻繁にあの海豚がした予知を思い出させ続け
プロテクトを何度も発動させ、そして磨耗させる。

皆本さんは私たちが想像している以上に、私たちのことを気にかけてくれている。
その想いの深さがプロテクトの疲弊を招くほどに、私たちのことを想っていくれている。
その事実は私の身体へ麻薬の如く染み渡り、犯していく。 

だから私には兵部京介という麻薬は通じない。
私は皆本光一という麻薬に犯され、もうこの身体は他の麻薬を受け付けないのだ。



そして私はひとつの確信を持っている。



あの未来において、私は登場しなかった。
出番が無かったということではない。



――――私は裏切らなかったのだ――――



今、こうして未来を知っている私は確信している。
未来を知っているからこそ、裏切らなかったのだ。
其の事に、私は残酷なまでの喜びを感じていた。

薫ちゃんや葵ちゃんや、同胞であろう超能力者ではなく、私は皆本光一を取ったのではないか?
あるいは、薫ちゃんや葵ちゃんが裏切るように仕向けたのは、私なのではないのか?
皆本さんが絶望を味わった、あの未来。
きっと、彼は兵部京介という男を絶望への担い手と感じているだろう。
だがしかし。果たして私がどう関わっていくのかまで留意しているのだろうか。








全ては――――――――










『チルドレンを、辞める?』

『ああ・・・・・・色々考えたんだ。
 皆本や局長は嫌いじゃないんだけど、さ。
 紫穂も見ただろ? ナオミがどうなったか』

『・・・・・・兵部京介のところへ?』

『とりあえずは、な・・・・・・』

『そう、ね。手伝ってはあげる。
 でも絶対に私だけには連絡頂戴。
 それが条件』

『分かった、約束する。
 こんなことするアタシが言えた義理じゃないけどさ。
 葵を頼むよ・・・・・・・それと、皆本も』

『分かってる』












全ては――――――――










『紫穂、ウチにはアンタが何考えてるかわからへんわ。
 いっつも笑てばっかやから、かな?』

『皆本さんも、薫ちゃんも、葵ちゃんも大事。
 私が言えるのは、ただそれだけ』

『・・・・・・聞かへんの?
 何で、ウチが抜けるんか、とか』

『今更それを私に言わせる気?』

『それも、そうやな。
 ゴメン。アホなこと言うたわ』

『別にいいわ、気にしてないし。
 それじゃ、薫ちゃんの居場所も教えてあげるね』

『――――――――知っとるんか?!!』












全ては――――――――









『君からの贈り物には感謝してるよ、紫穂君』

『そう、気に入って貰えて嬉しいわ』

『初めて逢った時から気付いていた。
 君は僕とは同種であり異質。
 どちらも共に、エスパーの中での異端だ』

『それは誉め言葉なのかしら?』

『もちろんさ。
 僕の三人目の花嫁に相応しいよ』

『あらあら、プロポーズされちゃったわ。
 未だに皆本さんもしてくれないのに。
 私の初めて奪われちゃった』

『―――――――ッ!!?』

『あら、やっと気付いたの?
 予想してたより遅かったわね。老人ボケかしら?』

『・・・・・・・馬鹿、な。
 こんな――――――――!?』

『アンチ・エスパーなんてもう時代遅れ。
 今後の主流はデリート・エスパーよ?
 妨害ではなく消去。さすがの貴方でも効果あるでしょ?』

『き、君まで能力を無くすことになるぞっ!!!』

『見解の相違ね。
 私にとって、エスパーとしての力なんて言わば道具に過ぎない。
 能力が無くなるなら、無くなるのでも一向に構わないわ。
 まぁ、ただ無くすだけなのも勿体無いから
 今はキャンセラー代わりのブレスレット付けてるけど。
 これで、デリートされるのは貴方だけ』

『こんな事をしても、もう遅いっ!
 例え僕が消えたとしても、あのふたりが組織を動かすっ!』

『全く問題ないわよ。むしろ好都合ね。
 ・・・・・・さよなら、兵部京介。
 貴方は色々と都合が良かったわ』












全ては――――――――











『皆本さん・・・・・・』

『・・・・・・紫穂、か』

『泣かないで』

『泣いてなんかないよ』

『薫だけではなく、葵まで。
 どうして? 僕が悪かったのか?』

『頼むから、止めてくれ。
 興味本位で覗くのは止めろって言ったはずだぞ』

『覗かなくてもそれくらい分かるわ
 だって、そんなに寂しそうな顔をしてるもの』

『・・・・・・・』

『大丈夫。
 ――――――私は。
 私だけは貴方を裏切らないから。
 私だけは貴方に優しくするから。
 私が、ずっと貴方の傍に居るから。
 だから・・・・・・泣かないで、皆本さん』

『紫穂・・・・・・・ありがとう』












全ては――――――――
























































「貴方を手に入れるために」



夢にも見た光景が、ついに現実のものとして繰り広げられていた。
破壊の女王(クィーン・オブ・カタストロフィ)のふたつ名を抱く薫ちゃんと皆本さんとの語らい。
何を言い合っているのかまでは解らないそれは、幼い頃から何度も反芻していたシーン。



「流石に恋する乙女。オヤジ臭さはなりを潜めてるわね」



何が破壊の女王なものか。
親友に裏切られ、最後の告白をしようとしている。
そんな彼女を誰が破壊の女王と呼ぶものか。
彼女はさしずめ悲劇の女王(クィーン・オブ・トラジディ)
 


『知ってる? 皆本・・・・・・』 



望遠スコープに映り込む薫ちゃんは女の顔をしていた。
その彼女へと、私は冷たい銃口を向けている。



『あたしさ、お前の事―――――――』



カチャリ、と無機質な金属音が耳に響く。
そうして、私は引き金に指を掛け――――――――――







『大好きだったよ――――――――――愛してる』







聞えない筈の彼女の声が、何故だか耳に届いた気がした。















何時の間にか止めてしまっていた息を、大きく吐いた。
現実を否定するように、一旦、目を閉じる。
そうしてすぐに、私は目を開いた。
眼前の光景を、現実を直視する為に。



「それで――――――――」



其処に居るのは、一人の少女。
いや、もう少女というのは誤りに等しい。
目付き体付き共に、一人の女性として差し支えない彼女。
過去と現在とが、私の記憶を元に混ざり合っただけ。
遠い場所から、銃声が風に乗って届いてくる。
結局、引き金を引かなかった銃を彼女へと向けながら



「―――――――何故、貴方が此処にいるの?」

「お言葉やなぁ、久しぶりに会うダチに対して。
 せっかく殺人未遂を助けたったのに」



へらり、と笑いながら軽く片手を挙げた女性が
もうずっと昔に別れた葵ちゃんが――――――其処に居た。











「んー、どないしてん、鳩が銀玉鉄砲喰らったよな顔して?
 ひょっとして、久々にウチと会えて驚いたんか?
 でも、それはこっちの台詞やで」



こないなトコにあんたが居るやなんてなー、と。
そんな風に話す彼女は、旧知の間柄との会話を楽しむようで。
笑いかけてくる彼女に向けて、私も同じような微笑みを返し
―――――――――そして躊躇無く引き金を引く。
人体など軽く突き破る熱線が、彼女を貫通するかに見えた。



「・・・・・・・・・怖いなぁ。
 そない、いきなり殺そうとせんでもええやん。
 今は敵同士とはいえ、ウチらの仲やないの」



けれど私が見ているのは、先と変わらない笑顔。
体どころかその服にさえ、焦げ目一つとて存在していない。
彼女が立つ場所は、一瞬前まで居た所からほんの少しだけずれていた。
無言のままで居る私に向けて、彼女は更に笑みを深くする。



「上手いもんやろ?
 攻撃が当たる、そのタイミングに合わせて瞬間移動。
 たったそんだけの事で、どんな攻撃も無意味になる。
 防御のための力なんか必要無い。当たらんかったらそれでええ。
 ちなみにコレ、ウチだけやのうて他の誰かにも使えるんやで」



それは言外に、『薫ちゃんを助けた』と言っているのだろう。
そんな事、今更聞くまでも無い。想像の範疇だ。
先程、自分が撃っていないにも聞えた銃声。
遠くに見えている、座り込んだままの皆本さん。
これだけならば、まだ彼が撃ち殺したのだろうと思えた。
だが、眼前で笑っている彼女の存在。
そして、先程見せられた手品紛いの力。
この二つが加わってなお首尾良しと考えられるほど、私は楽観主義ではない。



「ほんで、どない思う?
 さっきのは皆本はんが撃ったんか。
 それとも、薫が皆本はんに撃たせたんか」



私の瞳を覗き込むようにして聞いてきたが
そんなもの、どちらだろうと知った事じゃない。
皆本さんが薫ちゃんを撃った、それは二人の仲が壊れたという事。
私にとって都合が良いという、ただそれだけの結果に過ぎない。
ああ、でも確かに皆本さんは傷付いているかもしれない。早く慰めてあげないと。
だから、早く始末しないといけない。この、目の前に居る女を。
ニコニコと微笑み続ける彼女を見据えながら、彼我の戦力差を考える。
彼女は無手。私の手には熱線銃。
しかし、この差は私に有利ではない。
攻撃が無為である事は、既に事実を以って証明された。
どうにかして隙でも作らない限り、彼女を傷付ける事は叶うまい。
次にエスパーとしての能力。私は接触感応能力者(サイコメトラー)
触れれば全てを見通せる代わりに、触れられなければ何も解らない。
そんな私にとって、瞬間移動能力者(テレポーター)である彼女はまさしく最悪の相手。
光明が見えない現状の打破を狙い、私は笑みを浮べながら口を開いた。



「・・・・・・・今日の事は、全部葵ちゃんが?」

「せや。わざわざ確認するような事でも無いやろ。
 此処最近忙しかったんで、薫もええ加減にテンパっとったみたいなんよ。
 やから、いっちょショック療法をと思て、ちぃっと裏の方で手ぇ回してな。
 ほんで、万一の備えっちゅーことで事の成り行き見てよ、って――――――――」



言葉半ばまでを聞き、銃撃。此方が浮べた笑みはそのままに。
彼女が居る場所に向けて、特に狙いもつけず連続して引き金を引いた。
幾つもの熱線が連なり、限定された空間に紅蓮の地獄が展開する。
熱された空気は、風が吹くと共に吹き流され
生じた陽炎は、同時に揺らぎながら消えて行った。
そして――――――――彼女は無傷のまま。
ただ、その顔からは微笑みだけが消えていた。



「・・・・・・・あんなぁ?
 そんな程度でどうにかなると思たんか?
 あんま、舐めんといて欲しいんやけど。
 ウチらかて遊んどったわけと違うんやで?」



そして、再び笑みを浮べる。
先とは違う、目だけがまるで笑っていない笑顔。
昔のように眼鏡を掛けて、けれど浮ぶ表情は昔よりずっと意地悪に。
そんな彼女のにやけ顔が、どうしてか酷く癇に障った。
何の前触れも無く、す、と彼女が空を見上げた。
そのあまりに自然過ぎた動作に、此方の動きが一瞬遅れる。



「なぁ、紫穂・・・・・・・・・・・
 皆本はんと別れてな、色々あったんよ。ホンマ、色々な。
 手ぇ汚したんは一度や二度やないし、死ねて命令した事もある。
 たまに死にたいて思う時も在るし、殺したいて思うんはしょっちゅうや。
 そんでようやく解ったんや、人と人とは解りあえんてな。
 ノーマルだから、エスパーだからやのうて
 単純に、人間やからこそ解りあえんのやろな。
 そのこと、紫穂はずっと昔から気付いてたんやろ?」



何を今更。そんなのは私にとって当たり前でしかない。
だが、その発言はただの牽制に過ぎなかったのか。
此方に視線を戻した彼女に気付いて、絶好の機会を見逃した自分に歯噛みする。



「そんでウチらが、薫とウチが諦めたと思うか?
 もうええわー、いうて絶望したと思うか?
 もうこんなんやったら皆本はんと居られへんー、て。
 そんな風に考えた・・・・・・・て、アンタは思たんか?
 あっはっはっは――――――――――










 ――――――――――舐めんなっ!!!!!」










襟首を掴み上げられ、傍の壁に背中を叩きつけられる。
強い衝撃に肺から空気が追い出され、息が詰まった。
けれど、物理的なもの以上に私にとって衝撃だったのは
彼女の手から伝わって来る、荒々しく猛り狂う感情。
その熱さは憤怒に似ていて、憤怒ではない。
その冷たさは憎悪に似ていて、憎悪ではない。
その鋭さは殺意に似ていて、殺意ではない。
そう、それは単純にして凶悪なまでの―――――――嫉妬



「なぁ知っとるか、紫穂?
 会えへん時間が想いを育てる、てな。
 遠距離恋愛も、なかなかにええもんやで。
 覚えとるか? あん時、ウチは言ったよなぁ。
 『アンタが何考えてるか分からへん』って。
 今なら分かるで。アンタが何を考えて、ウチや薫を放り出したか。
 今のウチは、そん時のアンタときっと同じ気持ちやからな」



ぎりぎりと押し付けられる拳。それに応じて首は締まって行く。
先程まで持っていた銃は、既に取り落としてしまっていた。
至近距離で見た彼女は、笑っている。
心から楽しそうな笑顔を浮べている。
これほどの感情を胸に秘めながら、それでも人は笑えるのだ。
そんな当たり前を、久方ぶりに思い出していた。
今、私が形作っているのも、きっと同じような笑顔。



「・・・・・・・私を・・・・・・殺す、の?」

「せやなぁ、生きたままに埋めたってもええんやけどな。
 今のウチがテレポート使たら、地中奥深くまで飛ばせるで。
 なーに、安心し。すぐ死ねるみたいやから」



にこり、と口にした言葉は脅迫でも忠告でもない。ただの事実。
経験に裏付けられた言葉は、何処までも重く深かった。
こと此処に至っては、自分の能力がただただ恨めしい。
失望、悲嘆、嫉妬、羨望、覚悟。彼女の想いの全てが知れるから。
特に許し難いのは、皆本さんに向けられた慕情。
それを抱いていいのは、それに報われていいのは
この世でたった一人、私だけだ。
他の誰にも許しはしない。
満足な抵抗も出来ず、ただ視線にだけ力を込める。
そして突然、引き摺り倒すようにして手を離された。
地に倒れ込み咳き込む私を、彼女は冷たい目で見下ろしながら



「なあ、紫穂?
 何で薫が生きとる事を、あんたに教えたんやと思う?
 当然やけど、慈善事業のつもりは無いで。
 そんな可愛らしい気持ちなんか、当の昔に死んでしもたわ」



そして、彼女は開会の言葉を紡ぐ。
その言葉には、笑みさえも交えさせながら










「さぁ、世界を舞台にしたゲームを始めよやないか。
 ウチら三人で、一人の男だけを狙ってな。
 言うまでも無いけど、アンタに拒否権はない。
 最初にゲーム始めたんはアンタなんやから、な」










はっ、と顔を上げて見れたのは風一陣。
もはやこの場には、自分以外の誰も存在していなかった。
座り込んだ私は、遠くで同じようにして座り込む皆本さんをただ呆然と眺めていた。
















どれくらいの時間、そのままで居たのか。
刹那の短さにも似て、永劫の長さにも感じられ。
けれど、視界の端に映る皆本さんが座ったままだから
さほどの時は経過してないのだろうと解った。
茫洋とした思考で、私は遠くの彼を眺めながら考える。


皆本さんが疑いを抱き始めたのは、何時からだったのだろう。
ナオミさんが消えて、薫ちゃんが居なくなり、葵ちゃんも失って
そして私だけが残った事は、逆に私へと疑惑を集中させる結果ともなった。
疑心に満ちた視線から私を庇いながら、皆本さん自身の心にも芽生え始める疑惑。
其の度に、首を横に振り続けた。私を信じようとし続けてくれた。

私の無実を信じるために、足掻き続ける皆本さん。
彼のひたむきな行動の愚かさを、私だけが知っていた。
それらは全て、私の為を想っての事。
だからこそ、その純粋な愚かさまでが愛しくて。
彼の抱く想いは、今や全てが私だけの物。
誰にも渡したりなどしない、絶対に。



私にとって、皆本さんは幾つもの面を持っていた。
何時も傍で守ってくれる保護者。
誰にも渡したくなんてない愛する人。
そして今では・・・・・・ゲームの景品。





――――――――ゲーム、か。
其れを思うと、自然と笑みが浮んできた。
面白いじゃないか。嗚呼、実に面白い
『女王』は薫ちゃんだけではなかった。『女王』は三人居たのだ。
これより女王達は戦争というゲームを開始する。
この世でただ一つ限りの宝を巡って。

さて、誰が有利だろう?
ずっと傍に居て、時間を共有してきた私か?
罪悪感という武器を手にした薫ちゃんか?
私達二人を手玉に取った葵ちゃんか?

もっとも、誰が現在有利だろうと関係は無い。
今も昔も、未来とて変わりなど無い。
私はただ一つの目的のために動くだけ。
此処において、私は一つの宣誓を行った。
立ち上がろうとしている彼の姿を見詰めながら。






そう、全てはただ――――――――――


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