ザ・グレート・展開予測ショー

十字架上の七つの言葉(5)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/10/11)

「オーシュゴードッ!!!」

漆黒のレザースーツに身を包んだデュルクスの両の掌から暗黒色の雷が放たれるッ!!
対峙するベスパは高速移動でそれをかわす。

「大した出力だけど当たらなければ意味ない…………………!?」

驚きの表情を見せるベスパの視線の先には既にデュルクスが待ち構えていた。岩石のよう
な両の拳をがっしりと組んで振り上げ、思い切り叩きつけるッ!!

「潰れろッ………!!」

「っく…………!?」


ベスパは両手でそれを受けるがその威力は凄まじく、眼下のビルの屋上に叩きつけられる。
ベスパが落下した衝撃でビル全体が軋み、コンクリートの屋上は彼女を中心に放射状にひ
び割れていた。

「……あ………………が…………。」

氷河のような屋上にす、とデュルクスが降り立つ。
デュルクスは何食わぬ顔ですたすたとベスパの元まで歩き、その襟首を掴むと長身のベス
パを苦も無く持ち上げる。

「お前は父さんを愛していないのか?父さんの願いを感じないのか?ちんけなGSたちが
憎くはないのか?えぇ、おいッ!!!!」

ベスパのボディに黒い稲妻を纏った重い一撃が加えられる。航空機と衝突したような衝撃
にベスパは苦悶の表情を浮かべる。

「ごふッ………。」

紫の体液を吐くベスパをデュルクスはその場に投げ捨てる。

「今ので死なないなんて頑丈だな、姉さん。でもな――――」

「っなめるなッ!!!」

立ち上がるとベスパはノーガードで不用意に近づいてきたデュルクスの顔面に、全力の拳
をヒットさせる。ビルが倒壊したような轟音が空気を震わせる。それは必殺の一撃となる
はずであった。
しかし実際には血を流していたのはベスパの拳のほうであった。デュルクスはベスパの手
首を無造作に掴むと、その拳についた血液をぺろりと舐めた。

「俺はもっと頑丈なんだよ。」

豪腕がベスパの腕を掴んだまま無造作にスイングすると、ベスパの身体はあっけなく宙を
舞う。

「ほらほらほらほらッ………………おらぁッ!!!」

ひとしきりベスパを振り回した後、デュルクスは再度ベスパを屋上に叩きつけた。

「…………………あぁ……………あ…………………。」

ベスパは呼吸することも出来ずにぴくぴくと痙攣している。

「まったく拍子抜けだな姉さん。姉さんが姉妹の中じゃあ一番強いって聞いてたのによぉ。
期待して損したぜ。」

デュルクスはベスパの腹を踏みつけ、黒い短髪をぼりぼりと掻きながら毒づく。

「おいおい、姉さん。何か言い返したらどうなんだ?もう声を出す気力も無いってワケか
い?」

苦しそうに唸るべスパはしかしそっと目を閉じる。
まるで何かをじっと待っているかのように。




疾風という表現がその剣戟には相応しかった。狭いビル内をすばしこく移動するパピリオ
に対して、テノデラは無造作に壁面を切り崩しながら進む。
コンクリートの壁はバターやチーズのように、アッサリとその役割を失っていく。

「逃げるのは上手だね、姉さん。でも楽しいよ。こんなに楽しいのは初めてだッ。知って
るかい姉さん。蟷螂は決して死肉を食べるようなことはしない。獲物は生きたまま、苦痛
の表情ごと賞味するのがおつってもんさ。」

逃げるパピリオは必死に打開策を考えている。なにせ間合いが違いすぎる。もともとの身
長差に加えテノデラは二本の鋭利な刃物で武装している。パピリオが接近戦を挑んでも切
り捨てられるのが落ちである。かといって霊波砲の照射もあまり意味が無い。さっきの立
ち回りを見ても、あっさりかわされるのが関の山だ。

「っく、変態の癖に馬鹿強いでちゅ。仕方ありまちぇんね。出来ればこれは使いたくなか
ったんでちゅが・・・・・。」

「動きが止まったよ、姉さんッ!!」

どこかの会社のオフィスなのだろう。ブラインドが上げられた窓を背にして、テノデラを
迎え撃つように踵を返したパピリオに、凶悪な二刀の刃が襲い掛かるッ。
がしかし………。

ガキキンッ!!

「なにぃッ・・・・・・?」

部屋に響いたのは高い金属音。丸腰だったパピリオはまるで担ぐように、その身には大き
すぎる竜神族の神剣を携えていた。

牛刀のような異様な幅広さが特徴的な、自分の身長よりもやや大きい大刀を器用に振るい、
テノデラを跳ね飛ばすパピリオッ。
テノデラは窓を突き破り中空へと投げ出される。

「・・・・・・・魔族の姉さんが神剣だと?どういうことだい?!」

「大人にはいろいろ複雑な事情があるんでちゅよ。」

大刀を下段に構えたパピリオは2歳ほど年下の弟に向かって、不適に笑ったのだった。



まるで血の雨を蓄えているような、真っ赤な曇天の空を背景にして、この都市のシンボル、
東京タワーは聳えていた。
人影は無い。
眼下を見下ろしても、車の一台も走っていない。
戦いの間に避難はとっくに完了していたようである。

タワーを足元に浮遊するスコルピオの前に、横島と美神の同期体が対峙していた。
赤髪の美貌の少年は片手にアシュタロスの霊破片を抱えながら、憎悪の瞳で二人を睨みつ
けている。
しかしやがて視線を眼下の東京タワーに移すと、その表情は嘲りに変わった。

「……………懐かしいかい、兄さん?資料によれば、ここでルシオラ姉さんは死んだそう
だね。兄さんの身代わりになって。」

合体する横島の霊波が大きくぶれるのを感じる美神。同期合体には魂の同調が必須である。
ここで横島の集中を乱されるわけにはいかない。

「横島クン、挑発に乗っちゃだめよ。何が言いたいわけ?そんなアシュタロスの残骸を大
事そうに抱えて。今更あんたに何が出来るって言うの?死んだアシュタロスの使い走りご
ときがッ………?」

横島を気遣う美神が挑発に挑発を返す。しかし肝心なことを彼女は失念していた。

『…………美神さん、それルシオラもそうなんですけど………。』

「え?…………あ………あはは、ごめん横島クン。」

勢い言い放ってしまった美神が乾いた笑いを浮かべる。

「そしてあんたもね。美神令子。元を辿ればあんたも僕らの姉さんなんだ。その癖に……
………、あんたは父さんを殺したッ!!!!」

スコルピオから物凄い怒気が放射される。大気が振動するほどの感情をまともに受けて、
しかし美神は涼しい顔で挑発を続ける。

「そう。私と横島クンはアシュタロスを倒したわ。それがどういうことかあんた分かって
るの?あんたは決して私たちには敵わないってことよッ。」

「……っく。」

美神に核心を衝かれたスコルピオは苦い顔をする。勿論スコルピオもアシュタロスが滅ん
だのは人間たちの連携と、宇宙意志が彼らにもたらした追い風、そして種々の偶然が重な
った結果であるということは認識している。しかし彼が切り札に考えていた『ベヒーモス』
がこの二人の同期体に倒されたのは事実である。純粋な戦闘でまともに倒せる確率はかな
り低い。
美神が勝ち誇った表情で更に言葉を綴ろうすると、体内の横島が何事かを美神に告げる。

『………美神さん、言いにくいことなんですけど…………。』

「何よッ、横島クン?今いいところなのよ。」

相手を心理的に追い詰めるという楽しみを中断されて横島に憤る美神。

『それが………さっきの出力のせいでもう合体が保たないんスけど………?』

「へ?」

その瞬間、同期合体の効き目が切れ、生身の人間である美神と横島は空中に放り出された。
当然重力に従い真っ逆さまに東京タワーめがけて落下する。

「き、きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

勝機と見たスコルピオが落下する二人に急接近する。しかしあの横島が時間切れを知りな
がら何の手も打っていないわけがなかった。

【模】【造】ッ!!

【同】【期】ッ!!

横島を中心にまるで小型の太陽のようなとてつもない光量が放たれる。溢れかえる金色の
光の中央にて美神を抱きかかえる横島は、直列同期した銀色の姿をしていた。

「ハンズ・オブ・グローリー。」

美神の体重をその身体で支えながら、振り下ろされた赤い大刀を極限まで絞り込んだ霊波
刀で受ける横島。スコルピオは片手で霊破片を抱えながら器用に大刀を振るう。

「精霊石よッ。」

美神が露出された胸元の精霊石を発動し、至近距離でその霊波を受けるスコルピオ。ダメ
ージは無いまでも目を焼いたらしく、呪いの表情で一旦その場を離脱する。

「っち。」

顔を押さえながらなお赤い剣を振り上げるスコルピオを霊圧で牽制しつつ、横島は東京タ
ワーの展望台の屋根にそっと美神を降ろす。
横島の魂の状態に気付いた美神が驚きの声を上げる。

「よ……横島クン、それは?自分の魂を無理矢理振幅させてるっていうの!?なんて馬鹿
なこと考えるのッ!!魂はアンタが思ってるよりずっとデリケートなのよ。そんなこと続
けてたらいつか粉々に砕けちゃうに決まってるでしょうッ………!!」

「だから………。」

横島がヒステリックに叫ぶ美神に困ったような微笑を向ける。

「だから、これが俺の最後の直列同期です。これを最後にこんな無茶はもうやりませんて。
俺、思い出したんスよ。二年前に決めてたんです。アイツの分まで生きるって。」

「横島クン………。」

「取り敢えず、美神さんはこのまま下に降りてください。それまでアイツには何もさせま
せんから。」

「……………ここでいいわ。あんたがアイツを倒すのをここで見ててあげる。」

「………!?……………」

「ど、どうしたの?」

明らかに表情の変わった横島に驚く美神。何かを懐かしむような表情はしかし、数瞬の後
決意に満ちた男の顔になる。
空は、まるであの日を再現するように赤い。

「ちょうど、今美神さんが座ってるところで、二年前アイツもそう言ったんです。あの時
はアイツを助けることができなかった。アイツが死を覚悟してることに気付いてやること
もできなかった。あんなのは…………もう御免です。美神さん、俺絶対に生きて返ってき
ます。何が起ころうと、絶対に。だから、俺が帰ってきたら…………。」

美神はしなやかな瞬発力で立ち上がると、いつにない真剣な表情をする横島の襟首を掴み、
無理矢理自分のほうに引き寄せ………その唇を優しく奪った。
横島の首に両手が回されぎゅっと抱きしめられる。横島も無意識に美神の背に手を回して
いた。
寄り添うようにしなだれる美神。
驚くほど軽いその体重を受け止める横島。
そっと二人の顔が離れる。

「び、美神さん………?」

「ルシオラはともかく、蛇女の後ってのがどう考えても癪だけど、まぁ、一応人間の中じ
ゃファーストキスってことにしといてよね。ア、アンタの力の源は煩悩でしょ?
私がここまでしてあげたんだから、ちゃっちゃと終わらせてきなさいよね。」

首に手を回したまま、美神は真っ赤になってそっぽを向いている。横島は初めてテレビを
みた昭和の人みたいに口をパクパクとしてやっと声を絞り出す。

「美神さん………………………………………俺…………………………………………………
突然のことで感触がようわからんかったーーーーーーーーーーーッ!!!なんたる不覚ッ!
何をやっとるんや俺はッ!!!この為に何年も頑張ってきたんちゃうんかい!?俺の
アホーーーー、俺のア――――――」

もう一度、今度はさっきよりも激しく、横島の顔と美神の顔が重なる。
実際にはほんの2,3秒のことなのだろうが、横島にとり永遠に感じられるほどの時間の後、
ぷは、と息を吐いて、美神が唇を離した。

「…………行ってきなさい、私が見ててあげるから。」

「美神さん……俺………」

「横島クン………………………………同じこと何回言わせるのよッ!つべこべ言わんとさ
っさといかんかい!?アンタのそれ長時間はもたないんでしょうがッ!!!」

「あぁ、こんなとこまで懐かしいッ!!」

慌てて飛び出した横島は、目が治ったあともなんとなく割って入れなかったスコルピオの
眼前に飛翔した。

「待たしちまって悪かったな。」

「良いけど、何で兄さん前かがみなんだい?」

「お、大人にはいろいろと複雑な事情があるんや。」

ジト目で睨むスコルピオの前で海老反った姿勢の横島を見つめながら、早まったかなとい
う思いと、嫌な汗を隠せない美神であった。




「どういうことだ…………!?」

圧倒的な優勢にありながら、地に伏していたのはデュルクスのほうであった。
ベスパは重たい身体を大儀そうに持ち上げてその黒い巨体を見下ろしている。
デュルクスはなんとか立ち上がろうとするが手足が思うように動かないらしく、浮き上が
ろうとした身体は途端に崩れ落ちてしまう。

「あんたみたいなパワー馬鹿と正面からやりあうつもりはないよ。スズメバチの真骨頂は、
噛み砕く顎の力と強力な毒性なのさ。」

「毒だと………!?馬鹿な。俺には抗体が働いているはず……………。」

何がなんだか分からないと言った顔をしたデュルクスに、超然とした笑みを返すベスパ。
ベスパは先ほどデュルクスにされたようにその腹を踏みつけると、妖艶ささえ感じる仕種
でつま先を器用に使い、レザースーツの胸部を開け、右腕を露出する。
そこには十字架上の傷跡があった。

「アンタらにお揃いの聖痕ってのは、何でも零基構造のアレルギー反応らしいね。妙神山
で暮らしてたパピリオや、魔界正規軍に所属した私にはそんな傷は現れなかった。聖痕っ
てのは若い妖魔の強すぎる生命力が、体内に侵入した魔素に過剰な反応をしちまうことが
原因だそうじゃないか………。アナフィラキシーショックってのを知ってるかい、坊や?」

日本の在来種で人間を単体で死に至らしめる程の毒性を持つ昆虫は存在しない。スズメバ
チの猛毒にしても、棍棒で殴られたような激痛を伴うと言うし集団で襲われたときは確か
に危険であるが、健康な肉体であれば余程のことがない限り死亡には至らない。
しかし毎年必ずと言いっていいほど、スズメバチに刺されたことが原因で死亡するケース
が相次ぐのは何故か?その原因こそがアナフィラキシーショックである。
免疫反応は細菌などの外敵(抗原)が体内に侵入した時にこれを排除する仕組みで,抗原
抗体反応とも呼ばれるが、最初の侵入により体内に抗体が作られるため,同じ抗原が2回
目に体内に侵入した時には,1回目よりも急速で強い反応が起こる。
 この免疫反応が生体に不利に働き,さまざまな障害を引き起こす場合をアレルギーと言
うのだ。
 ハチ刺されによる死亡例は,ほとんどがアナフィラキシーショックによる血圧の低下と
上気道の浮腫による呼吸困難が原因である。ショック症状は顔を含む頭部や頸部を刺され
た場合に多く発現する傾向がみられ,極めて短時間(刺傷後数分〜10数分)で症状が現れる。
症状がでるまでの時間が短い程重症になる可能性が高いと言われる。

「元々霊的防衛能力の低い人間やある程度年食った妖魔は別なんだろうがね。育ち盛りの
アンタの霊的抗体は聖痕を作り出すほど過剰な働きをする。私の血液を口にした時点で、
アンタの負けは決まってたんだ。」

「き………貴様、それを見越して………?」

ベスパはその美貌に似合わぬいたずらっぽい視線をデュルクスに投げかける。

「人間界で戦う時は、正攻法使ったほうが負けなんだよ。覚えときな、坊や。」

次の瞬間には、ベスパの体重と全魔力を込めた踵落しが、身動き一つできぬデュルクスの
顔面に決まっていた。




天空を駆ける二つの流星があった。流星は時折交錯し、激突しては離れる。
流星の一方、緑色の髪とレザースーツに身を包んだテノデラは、明らかなあせりの色を浮
かべていた。

「何故だッ!何故あたらないッ!スピードも、瞬発力も僕のほうが上のはずだッ!!!
何故っ、何故奴の攻撃のほうが僕に当たってるんだッ!!!!!」

テノデラは既に全身に傷を負い、スーツは所々が痛々しく破れ、紫色の体液を垂れ流して
いた。
テノデラは一つ大きな勘違いをしていた。それは戦闘の結果と言うものが必ずしも個体の
基本性能に依存するものではないということである。
末席とは言え神剣の使い手として名を馳せる竜神小竜姫の下で日々修行するパピリオの剣
に対し、圧倒的なスピードと本能的な反射神経から繰り出されるテノデラの剣はあまりに
も我流であった。
逃げるのが上手いとテノデラは評した。
しかしそれも間違いである。

「軌道が大振りで単純すぎるでちゅ。刀を二本持ってる意味がまるでないくらいに………。
そんなんじゃ格下の相手はともかく同格以上の相手には通用ちまちぇんッ!!
この、ヘタクソッ!!!」

「っくそがぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁ…………あぐッ…………」

テノデラの二刀をアッサリとかいくぐり、またしてもパピリオの一撃がその緑のスーツを
切り刻む。
無論パピリオの勝算はそれだけでなかった。経験と武芸の差に加え、パピリオが手にして
いたのは小竜姫から託された神剣だったのである。
神剣にはすべからく魔を祓い邪を滅するエンチャントがある。
神気によって受けたテノデラの全身の傷からは、黒い煙が上がっている。

「自分より弱いものばかり斬って来たお前の剣に、負ける道理なんてありまちぇんッ!!」

「ッくそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

流星が次に交差したときテノデラの二本の刃は悉くへし折られ、大刀を用いたパピリオの
流れるような一撃によりテノデラ自身眼下へと叩き降ろされていた。

「へ?」

轟音を立ててテノデラが激突したのは、己の兄弟の顔面が突き刺さるビルの屋上であった。

「ぱ、パピリオか!?」

ぴくぴくと痙攣するテノデラの動きは、パピリオがその上に落下してくることによって完
全に止まったのだった。

「へへ〜、楽勝でちゅ。ベスパちゃんは相当苦戦したようでちゅね?」

ぼろぼろのベスパの姿を見てパピリオが誇らしげに無い胸を張る。しかしその両の掌は神
剣を使った影響でずたずたに焼き切れている。

「っうるさいねェ、経験不足の弟に花を持たせてやったのさ。…………あんたその手、しば
らくは拳も握れないし霊波砲も撃てないんじゃないのかい?まったく無茶して。」

「ベスパちゃんにだけは言われたくないでちゅ。」

「まぁしかしこれでなんにせよ後は――――!?」

「ベスパちゃんこの気は……!?」

「そ、そんな……………。」

暗雲は黒と赤の交じり合った不吉な色で、その存在の頭上に渦巻いていた。





「お前、なんてことを考えやがる…………。」

どうあっても横島に敵わないと悟ったスコルピオは、己が父と慕うアシュタロスの霊破片
を、あろうことか自分の零基中枢の中に取り込もうとしていた。

「はぁ、はぁ、何を今更。あんたがルシオラ姉さんを取り込んだように、別に不自然なこ
とじゃないだろう?」

「だからって、さっきまで大事にしていた父親の霊破片でパワーアップか?」

横島が明らかな嫌悪感を滲ませてスコルピオを睨みつける。

「あんた勘違いしてるよ、兄さん。はぁ、はぁ、僕がやろうとしてるのはそんなちんけな
ことじゃない。僕と父さんはこれで一つになるんだ…………はぁ、はぁ。」

スコルピオが愉悦に溢れた恍惚とした表情をする。熱い吐息が漏れる口の端からは唾液が
垂れ、全身は小刻みに震えている。

「い、いちいち気持ちの悪い奴………。」

「ボ○キしてる兄さんに言われたくは無いねッ!!」

「ボ○キは正常な反応じゃいッ!!」

そうこうしてるうちに光り輝く霊破片はスコルピオの薄い胸にすっかり吸い込まれてしま
った。

「見せてあげるよ。僕のネオジェネシス…………。」

暗黒の凍気がその全身から発せられる
直列同期によりとてつもない霊圧を得ているはずの横島の背筋がぞくりと震える。

「っく。」

気圧されまいと、手にした霊波刀で切りかかる横島ッ。

「駄目よ、横島クンッ!!!」

美神の悲鳴に近い声にもかまわず刃を振り下ろす横島。

ガキンッ!!

鳴り響く金属音。もの凄い圧力により爆発的に押し出された空気が、美神の座する東京タワーにまで伝わる。

「っく。あれは――――。」

しかしその一撃を受けたのは赤い大刀ではなく、見たこともない鋭利な曲刀であった。
そして、恐怖侯は呟くように言うのであった。

「久しぶりだな、少年。」

「………貴様ッ………」

「ルシオラは元気かね?」

「ぬおっ………」

その剣の一閃で弾き飛ばされる横島。
その一撃を放ったのはスコルピオではない。紛れも無くそれは―――

「アシュタロスッ!!!!!」

「さぁもう一度、私の創世記を編み出すとしよう。」

腰までたなびく長髪に魔族的な意匠。逞しい肉体をして身の丈ほどの白い曲刀を横島に向
けるのは、己の隠された望み通りに無に帰したはずの、魔神アシュタロスの姿であった。





(続)

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