ザ・グレート・展開予測ショー

オカG極楽大作戦〜カオスの遺言〜


投稿者名:ふぉふぉ
投稿日時:(05/10/10)

ピエトロ・ド・ブラドー卿。

オカルトGメンの極東本部の本部長であり、かつては亜ヒューマンギルドの代表でもあった彼は、現時点において地上で最も権力を持った純粋な人類以外の者のうちの一人であろう。

国家間の争いが縮小し、軍隊は警察組織へと吸収される一方、一般犯罪とオカルト犯罪の境界が曖昧になりオカルトGメン=(イコール)ICPOはもはや地上における唯一の国際的治安維持組織となっていた。亜ヒューマンギルドは人間と人外との混血が進み純粋な人間が全人口の8割を切った時点でその役割を終え、解体してすでに久しいものの、その威光は彼の存在そのものであり発言力にいささかの衰えもない。

今日は公私ともに多忙であるそんな彼の久しぶりの休日だった。そう、一年前から予め定められていた休日であった。

一年前、その日は人間界の発展に対する偉大なる貢献者であるドクター・カオスが永眠した日であった。生前の遺言によりカオスの財産は全て公的機関に寄付され、個人的な所蔵物と本人の遺体は後見人であるブラドー卿に託された。ブラドー卿は遺言に従い、自らの私有地に墓所を作りその遺体と遺物を埋葬した。一年後の墓参りの約束と共に。今日はその約束の日であった。




広大な私有地の一角にカオスの墓はあった。飾り気のない中世ヨーロッパ風のそれは花々であふれる草原の中のオブジェの一つのようにひっそりと埋もれていた。

「カオスさん、お久しぶりです。」

花束を持ったブラドー卿が墓の前でそう呟いた。

「古い友人の最後の一人だったあなたがいなくなってもう一年ですね。僕達の思い出はもう歴史の物語でしか語られないようになってしまいました。」

そう言いながら墓前に花束を置いたとき、ゴトン!と墓の下で何か物音がした。一歩後ずさり、緊張して見守るブラドー卿の前で墓石が動き出し白煙が地上へと漏れ出す。墓石の動く物音が止むと白煙の中から人影が現れた。

「ピート・さん。よく・来てください・ました。」

「君は・・・マリア!」

驚きながら見つめるブラドー卿、いや、ピートの前でマリアはカオスの立体映像の投射を始める。

『さすがに義理堅いのー、ピート。おぬしに頼んだのは正解じゃったな。そんなおぬしを見込んでの頼みじゃ。もう一つの遺言を頼まれてはくれんかの。神・魔界との接触がほとんど無くなった今では昔の事情を知ってるのはピートしかおらんのじゃ。古い友人の最後の願いとして、ぜひとも聞いて欲しい。詳細はマリアに託してある。では、よろしくの。』

投射を終えたマリアが箱と手紙をピートに差し出した。

「ピート・さん。ドクター・カオスの・遺言です。」

ピートは無言のままそれを受け取る。

「最終コマンド・実行完了。このまま・無期限スリープモード・に入ります。」

そう言い終えるとマリアは墓の中へと姿を消し、墓はまた以前の状態へと戻っていった。





自室に戻ったピートはさっそくマリアから託された手紙を広げる。

−−−−
 この手紙を見てるということはどうやらこの体にも限界がきたようじゃな。脳の痴呆が進行してマリアのことが判別できんようにまでなったらわしの肉体の活動停止をするよう命令しておいた。マリアのことまで忘れて生きることにまで意味はないからの。

 まず最初におぬしに謝っておかねばならぬことがある。この遺言を書いているわしはわし自身のバックアップじゃ。いや、ある意味ではこっちが本体かの。アンドロイドボディに移ってボケしらずで過ごすこともできたのじゃが、ある事情によりこっちのわしは表にでられんかったのじゃ。そのせいでおぬしには色々と世話をかけてしまったのう。おぬしのこともわからんようになってしまった痴呆老人の相手をさせてしまって申し訳なく思うておる。すまんかった。

 さて頼みというのは他でもない、人間界の行く末のことじゃ。いやいや、大げさな話ではないぞ。『現在の人間界』にはまだ持て余す力を得る方法を解明してしまったのでな。わしの考えについては日記を読んでもらえばわかると思うが現時点での結論は『保留』じゃ。いつ、どう使うかの最終的な判断はおぬしに託そうと思う。

 わしはまだ未来に絶望しておらん。おぬしの、そして人間界の未来に幸あらんことを祈って。
 カオス
−−−−

ピートはさらに箱の中にあった日記を読み進める。

−−−−
○年○月○日
アンドロイドボディでの起動初日、今日より日記を始める。
オカルトGメンに顧問として雇われたためマリアが定期健診を受けねばならんことになる。何かと不都合なメモリーもあるので一部を抜き取ったところ未起動コマンドとプロテクト領域を発見。10年前に起動するはずだったものが残っていたものだ。解析したところ、未来の美神令子達より700年後の自分がボケてしまうことを知った自分が封印していた記憶と知識と判明。さすがわし!
人格交換装置を転用し、マリアのスペアボディにて自分自身を起動する。広大な魂の領域に比べて人間の脳というものはなんとちっぽけなものであることか!全てが鮮明に理解できる感覚は久しぶりのことだ。
オカルトGメンで不穏な動きもあるようなのでしばらくは表向き今までの自分のままでいることとし、完全体のカオスとしての活動は限られた時間のみ行うこととしよう。知らぬフリをしていても隠しとおせるものでもないからの。原始的な方法ではあるが日記というのも有効なものだ。
−−−−
○年○月○日
普段のわし(いや、主にマリアだが)の仕事にはここ数年に新生した妖魔の調査も含まれるわけだが、やはり原因は行き場を失った霊力・魔力の実体化現象のようだ。人間界における新・魔界の拠点の減少は、そこに閉じ込めていた霊力の開放を意味する。しかし霊力の受け皿である魂をもつ生物の量が変わらぬ以上、急激な霊力の増加は霊体の実体化へと流れる。どうやら創造主とやらはアシュタロスの『死』の決定に伴い、ずいぶんと大きな賭けにでたようだ。人間が妖魔を退治することにより妖魔という風船から拡散した霊力は次の世代の生物の魂へと加算されるだろう。わしの計算では人間界の霊的ステージの上昇速度が5%ほど増加することになる。
美神美智恵はどうやら妖魔の全滅を望んでおらんようだが。
−−−−
○年○月○日
妖魔の絶対数のコントロールという方法はちと危険性が高くはないだろうか。オカルトGメンでは『人間という種の霊能力強化』という方針を持つものがいるようだ。確かに魂はそれだけの器があるものだが肉体には限界があるのだよ。
このままでは創造主の想定した速度以上に加速してしまうかもしれん。
−−−−
○年○月○日
わしの知る限りでは美神美智恵が一番人間というものを理解しているようだ。『人間の霊能力強化』をもくろむオカルトGメンの急進派の抑え込みは成功したらしい。個の能力ではなく全体としての組織力を養い、そのために妖魔という外敵との戦いを維持していく方法も、現時点ではおそらく正しい。
人外との混血を推進し血を強めつつ器を少しずつ大きくしていくこともよいことなのだろう。
わしも『道具』を増やして人間における霊的負担を減らす手助けをしてみよう。
−−−−
○年○月○日
Mシリーズの量産準備は整った。メタソウルも人工とはいえ魂とほぼ同量の霊体保持能力があるからの。機械的な補助による心霊装備はもう少し増やしたほうがよいかもしれん。人造精霊石の製造法のリークも前倒しにしよう。
そもそも美神令子やら横島の小僧といった能力を持つ者はあくまでもイレギュラーな存在なのだから。神や魔の干渉が減った今の時代、以前ほど突出した霊能者はいらんのではないだろうか。むしろアシュタロスという存在のカウンターウェイトとして人間界に現れた一過性の者達であったのかもしれぬな、わしも含めて。
−−−−
○年○月○日
わしの体もだいぶガタがきた。不老不死といっても魂の転生を妨害し肉体の老化を遅らせる一種の呪詛であったのだから肉体が朽ちれば本来は魂は行き場を失うはずだったが・・・わしは知識という欲望のために自分自身に二重に呪いをかけてしまったのだろう。もはやヒトとは言えぬな・・・
小僧達がなつかしい。
−−−−
○年○月○日
文珠。
あれは神界や魔界に属するものだと思っていた。空文字の文珠なぞヒトの持つものではないと。横島の小僧の文珠も集積力の上限は小僧自身の能力に依存しておったし、さらに持って生まれた資質だけでなく能力発現の順番やら条件が再現不可能だと思っていた。
理屈はわかっておった。ニュートラルな霊力の圧縮。ただ地上で実現する手段がないだけだと思っておった。圧縮という行為自体に意思力が必要なのだから。人間界のような霊的濃度の薄い場では無理だとあきらめていた。太陽では自身の質量と核融合のエネルギーによりさらに核融合が進むが地上の開放系における連続的な核融合は困難であるように。
本来、人間界とて絶対的な霊力の総量は多い。ただ地脈やら生物やらに分散されて蓄積されているから一度に取り出せる量には限りがあり、取り出してしまえばそれ自身の存在が崩れてしまうから無理があるのだ。
だが・・・地脈も生物もなかったらどうだ。地球上ではありえないが、かつて地球の一部であり、質量比で均等な霊力ごと地球から切り離されたものがあるではないか。
そう、『月』
マリアの記録によれば月面の霊的濃度は地球上の全霊力を空気中に満たした場合と計算上一致する。月面という濃密な場で、霊能ではなく機械的に圧縮するならば文珠を形成できる圧縮臨界点を・・・突破できてしまう。
−−−−
○年○月○日
文珠製造装置の設計図が完成した。
現在の技術があれば現実に建造可能だ。生産能力も高い。
複数の文珠の同時発動装置もできた。
これで理論的には美神令子や小僧達の時代程の能力者が揃ったならば瞬間的にだがアシュタロスに匹敵する能力を使うことが可能になってしまう。主神クラスと対峙できてしまうではないか・・・
わしが魂を売り渡した科学というものはいつのまにか悪魔より強大になってしまったようだ。
しかし全ての人間が美神令子や小僧のようにはいくまい。これは世に出してはいかん。
正しく使える者も導いてくれる者も、もうこの世にはおらんのだから。
−−−−
○年○月○日
わしの生身の体の限界が近い。アンドロイドボディに一度宿ってしまった魂は不老不死の呪縛を受けて死ぬことはできぬが、せめて時が来たら人として眠りにつこうと思う。その準備はすでに済ませてある。
オカルトGメンは十分成熟した組織になったが、未来の業まで背負わせるわけにはいくまい。
見届け役は古い友人に託してみようと思う。人間を思う愛が誰よりも深い彼ならば道を誤ることはないことを信じておるからの。
−−−−



一通り読み終えたピートは、暗くなり始めた窓の外に目をやり小さく呟いた。

「カオスさん・・・僕にできるでしょうか。いや、誰かがやらなければならないのですね。それが僕なのか未来の誰かはまだわかりません。でも僕にできることをやってみます。」
「横島さん、美神さん、みんな。僕を導いて下さい・・・・」


今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa