ザ・グレート・展開予測ショー

十字架上の七つの言葉(4)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/10/ 9)

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

天空を飛翔する巨大な悪魔。そんな呼称がその魔体には相応しかった。体長20メートル程
の魔体に比べれば、直列同期により人外の力を得ているとは言え、横島との体格差は歴然
である。
二年前、世界を震撼させた魔体に比べれば幾分小型であるとは言え、翼を広げれば40メー
トルには達するのだ。

都心某所に存在するICPO地下施設、その上空数百メートル。
横島は極限まで練り上げた霊波刀を用いて、魔体はその質量に見合わぬスピードで繰り出
す巨大な爪によって、互いの肉体を破滅させようとしていた。

市外では逃げ出す人々がパニックに陥っている。
車のクラクションの音が絶えず鳴らされ、人々の罵倒の声が聞こえる。

横島は善戦していた。

魔体の巨爪を霊波刀で捌き、或いは超常の速度でかわし、何とかその巨体に決定打を加え
ようとしていた。実際に攻撃の幾撃かは魔体に届いている。

「『宇宙の卵理論』が適応されてないのは有難いが、なんちゅう堅い装甲じゃッ!こりゃあ、
相当気合の入った一撃じゃねぇとダメージにはならんぞ………。」

言いながらも魔体の猛攻をかわしているのである。強力な一撃を急所に加える為のタイミ
ングと集中がなかなか作れない。

「っくそ………ッ!!」

一旦間合いを取る横島。

しかしそれは完全な間違いであった。ジリ貧の戦いながら、横島は魔体と距離をあけるべ
きではなかったのである。

「兄さん、やっちゃったね。その魔体『ベヒーモス』には対GS戦を想定した戦闘プログラ
ムをインストールさせてある。僕が『ベヒーモス』にコマンドしたGSに有効な戦闘方法を
教えてあげようか………?」

スコルピオは彼が『ベヒーモス』と呼ぶ魔体と横島との戦闘を静観しながら、金色の霊破
片を抱え、赤い大剣をおもちゃのように振り回している。

「それは『本人よりも仲間を狙え』さッ!!」

「な…………!?」

『ベヒーモス』はその邪悪な口中に凶悪なエネルギーを充填していた。横島の脳裏に二年
前東京を壊滅させかけた究極の魔体のエネルギー砲が思い起こされる。
そしてその口は横島にではなく、横島が守るべき子供たちのいるICPO地下施設に向けら
れていたのである。

「やッ…………やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

『るおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんッ!!!!』

油断とすらいえぬ一瞬の隙。
『ベヒーモス』は己の足元に向けてエネルギー砲を照射したッ!!。

(文………、クソッ!!何も間に合わんッ……!?)

「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっ…………!?」

砲撃をその身で受け止めようとする横島。
しかしその身体は砲撃の直撃を受けきれず弾かれ、ビルの側面に叩きつけられるッ!!
ガラスをぶち破り、ビル内に叩き込まれる横島。

「…………あ………ぅ……が…。」

ショックで直列同期が解除された横島の生身は全身がガラスの裂傷に覆われている。
そして無情にもエネルギー砲はなお生物の殺傷には十分過ぎる威力を保ったまま、むき出
しのICPO地下施設にスコールのように注ぎ込まれたのであった。

「う、う、う、うっぁああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああッ……!!!」

横島の絶叫が轟く。

「ふふふふふふふふはっははっははははっはははははははははッ!!!そんなだから結局
兄さんには何も守れないのさ。あのまま続けてれば『ベヒーモス』を倒すことも出来たか
もしれないのに。さぁ、『ベヒーモス』、死に損なった可愛そうな兄さんを、もっと可愛そ
うな子供たちのところに送ってあげるんだッ。そして僕らはそんな魂たちを材料に、エネ
ルギー結晶を作り出す。そして…………父さんを蘇らせるんだッ!!」

叫笑を続けるスコルピオ。
デュルクスとテノデラも笑い転げている。

『ベヒーモス』は横島の呆けた顔を確認すると、にんまりと笑ったような気がした。

『るおおおおおおおおんッ!!』

『ベヒーモス』が再び口中にエネルギーを溜める。横島は………、何一つ感情の浮か
ばぬ顔でスクリーンの映像を見るように、そんな巨獣の様を見るともなしに見ていた。

今にも莫大なエネルギーが放射されようとするその時、しかし運命は再びこの青年に味方
したのであった。

「「ダブル・ゴーストスイーパーキック!!」」

『ベヒーモス』の頭が真上から踏みつけられる。
堪らずエネルギーを散らしのけぞる巨獣。

「……ピート………雪乃丞………!?…」

ピートは空中に浮かんだまま『ベヒーモス』を妖魔の瞳で睨みつけ、魔装した雪乃丞は魔
獣を蹴りつけた反動で横島のいるビルに降り立つ。

「テメぇ、何惚けてやがんだッ!!俺と闘る前に死にやがったらぶっ殺すぞ、横島ッ!!」

「………本当に俺は何も守ることができないんだな………。」

「ああん?」

「そんなことありませんよ、横島さん。下を見てください。」

ピートの声に促され跳ね起きた横島は、ビルに空いた風穴からかつてICPO地下施設があ
った場所を見下ろす。
その表現はしかし全く正しくなかった。ICPO地下施設はその瞬間にもちゃんと横島の眼下
に存在したからである。



「主よ………咎なき子供たちを守りたまえ………。」

「ちょっと横島ぁッ!!!ピートに手を出したのは誰なワケ!?」

「みんな〜、お願い〜、がんばって〜。」



「神父、エミさん、冥子ちゃんッ!!」

唐巣神父の張った聖の結界。小笠原エミの張った魔の結界。そしてそれを強化する六道の
12神将。
南極の決戦でも用いられた超硬結界が地下施設と子供たちを守ってくれていたのである。

「横島君が威力を半減させてくれていなければ、流石に防ぎきれるものではなかったがね。」

《………!?………雪乃丞さん、右後方に霊波砲を撃つのね〜ッ!》

「うぉりゃーーーーーーッ!!」

雪乃丞が言われたように高出力の霊波砲を放つ。
脅威のスピードでビルに向かってきていた『ベヒーモス』は不意を衝かれて苦悶の声を上
げるッ!

「今の声は………ヒャクメ?」

《わっしもおりますけんの〜ッ!》

向かいのビルを見遣れば、大柄な男の傍らに心眼を持つ神界の情報操作官の姿を認めるこ
とができた。

《私が心眼で捕捉した情報を、タイガーさんの能力で皆に伝達してるのね〜。これで魔体
の高速移動にも対応できるのね〜。》

「自惚れんなよ横島。ちっと強くなったぐれぇで目の前のもん全部を一人で守れるわけね
ぇだろうがッ!!」

「横島さん一人では無理でも、皆で力を合わせれば………今までなんとかなってきた
じゃないですか?」

横島を背に飛び出す雪乃丞。
ピートが牽制する魔体を蹴りつけ、霊波砲を浴びせるッ!!
するとその背後に迫り、彼の肩を掴むものがいた。

「よし、俺を奴に思い切りぶち当てろッ!」

「イエス・雪乃丞・サン」

「マリアまで……。」

空飛ぶ人造人間マリアは雪乃丞を思い切り『ベヒーモス』に叩きつけた後、マシンガンで
魔体を牽制しながら、再度彼を空中で回収する。

《小僧、わしも来とるぞ。》

「カオスのおっさん………!?」



結界に守られたICPO地下施設では、Dr.カオスが妖魔の子供たちの診断をしていた。

「ここの子供たち全員命に別状はない。ちょいと限界以上に能力を酷使させられただけじ
ゃ。」

「シロちゃんッ!タマモちゃんッ!!」

「お、おキヌ殿…。」

「なんてこと、ないわよ…。」

「良かった………………横島さん。タマモちゃんもシロちゃんもちゃんと無事です。
横島さんが誰も守れないなんてことありませんッ!!
…………………病気のこと何で隠してたんですかッ!!
何で一人で戦いに来てるんですかッ!!
私たちはそんなに頼りないんですかッ!!」

《おキヌちゃん…………。》

「あとで……あとで一杯叱らせてもらいますッ!だから、だからちゃんと元気で帰ってき
てください…………。」

おキヌの瞳には一杯に涙が溜っていた。念話で話す横島にその姿を見ることはできないが、
その様子は横島の脳裏にありのままに映し出されていた。

《あ……………。》

《悪ぃ、横島。魔体がそっちに行く………。》

「え゛。」

見遣れば巨大な魔体の顔が横島の眼前にまで迫ってきている。

「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

魔体の爪がビルごと横島をえぐろうとした時、横島の後方から魔体に向けて洪水のように、
無茶苦茶に光の束が叩きつけられた。

『ぐるおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんッ』

叫び声を上げながら、ビルから離れる魔体。

かち、かち、かち。

手ごたえの感じられない摩擦音がした時、光のでたらめな本流は止んでいた。

「っちぇ。このくらいの連続照射でがたが来るなんてワルキューレの装備もたかが知れて
るわね。」

その女性はそうひとりごちると、役立たずになった精霊石砲を無造作にその場に投げ捨て
た。

美しい女性であった。

事実、その女性は横島の知るどんな女性よりも美しい。
横島はそう思っている。
完璧なプロポーション。
セックスアピールを強調する張り出した双丘。
限界寸前のスカートの丈からすらりと伸びたうつくしい脚。
腰までたなびく栗色の絹のような髪。
そして美の女神すら嫉妬するほどの完璧な造形を誇る相貌。

「美神さん…………………。」

「アンタねぇ、丁稚のくせにこの私に働かせといて、何ぼっとしてんのッ!!
………………行くわよ、横島クン。」

差し出された美しい手を取った時、横島が抱えていた迷いや悩みといったものはすっかり
氷解していた。

「美神さん……………これはOKという意味にとっていいんですねッ?!」

「己の頭の構造が知りたいわッ!!」

飛びかかる横島を神通棍で返り討ちにする美神。
なおもつかつかと歩み寄ってくる美神に本気でビビる横島。

「堪忍やーッ。仕方なかったんやーッ!!霊力補給の為やったんやー。決して、決して最
近自粛しとったサービスを求めたわけじゃ……。」

「横島クン。」

「………はい……?」

美神は跪き、横島の頭をその豊満な胸にきつく抱きしめた。その思いの分だけ、力が込め
られている。

「二度と…………勝手に私の前からいなくなるんじゃないわよ…………。」

「……………はい…………。」

胸に暖かい何かが染みているのを、美神は感じていた。
自身も涙を流しながら。





「っくそ、デュルクスッ!下の人間どもを皆殺しにしろッ!!テノデラッ!心眼の神族を
切り刻めッ!折角、折角父さんが生き返るんだッ!ゴミみたいな奴らに邪魔させるんじゃ
ないッ!!!」

頷くと、デュルクス、テノデラがそれぞれの目標へと飛翔する。

しかしデュルクスがビル沿いに急降下しようとした時、横っ面から強力な一撃が加えられ
るッ!

「ぬぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

吹き飛ばされながらもなんとか体制を整えるデュルクス。

「っくそぉ、何の冗談だッ!!俺にダメージを与えられる奴なんざ………。」

目を見開くデュルクス。
そこに浮遊していたのは殺人的なプロポーションをした一人の女魔族であった。

「お初だね、デュルクス。私はベスパ。アンタと同じでアシュ様によって生を受けた眷属
だ。卵のアンタは何度か基地で見てたよ。」

「………わからんな。なんで俺の邪魔をするんだ?
俺たちは………父さんを生き返らせようとしてるんだぞッ!!!!」

デュルクスは黒い身体をしならせ、その野太い腕から強力な一撃を放つ。
それを両腕で交差に受けるべスパッ。

「………………アシュ様が、そんなこと望んでるわけないだろッ!!」

甲虫と蜂の空中戦が始まった。






テノデラは後ずさるタイガーとヒャクメを壁際に追い詰めていた。

「楽しいなぁ。」

「楽しくなんかないのね〜ッ!!!」

「わっしは…わっしはもう……」

そのあまりに高い霊圧に気圧されパニックに陥る二人。
テノデラは変質的な表情で二刀のうちの一刀を己が舌で舐める。

「切り刻まれて死ぬのと死んでから切り刻まれるのと…………どっちがいい?」

「「どっちもいやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」」

二刀を振り上げるテノデラに向けて突然霊波砲が放出される。

「…………!?……………」

文字通り目にも留まらないスピードでそれをかわしきるテノデラ。

「ひゅ〜、こんな出力の霊波砲撃てるやつが人間界にいるなんて…………。あぁ、
アンタ、僕の姉さんだね?」

「ポチを虐めてたのはお前らでちゅね?覚悟するといいでちゅ。」

三姉妹の末妹、パピリオはまだ煙を吹くその掌をテノデラに向けていた。

「ふ〜ん、聞きしに勝る幼児体型だね。あ〜、いいね。柔らかい身体にこの刃が通る感触。
最高のエクスタシーだッ。姉さん、アンタは最高に僕好みだよ。」

「な、なんなんでちゅ、コイツ。」

勢い込んでいたパピリオは途端にドン引きする。

「ふぁ、ファザコンでロリコンで両刀の切り裂き魔ッ………。」

「し、史上最悪の敵なのね〜。」

心眼と精神感応とで一部始終を見ていたヒャクメとタイガーも、勿論ドン引きしていた。





「うらうらうらうら、くらいやがれーーーーーーーーッ!!」

「うおおおおおおおおおおおお。ダンピール…フラッシュッ!!!」

決定打を当てられぬものの、GSたちは善戦していた。ヒャクメが動きを捕捉する以上彼ら
に隙はなかったし、慢心や油断も一切なかった。

「っくそ。『ベヒーモス』ッ!!!もういい。上空から最大出力ですべてを焼き尽くすんだッ!!
ふふん、僕たちは寸前で離脱すればいいけど、下にICPOの基地がある以上貴様らはこの場を
離れるわけにはいかないからねッ。」

無理やり雪乃丞たちを振り切り、突如上空高く飛翔する『ベヒーモス』。

「な、なんだぁ!?」

「あれは………まずいッ!」

曇天の天空をその背に背負うと、その口中に先ほどとは比べ物にならない出力のエネルギ
ーを充填する。

「威力の大きい分さっきより時間はかかるけど、一切合財を綺麗に消滅してくれる。あは
ははははは、結局お前ら皆死ぬんだよ。ごみがいくら集まったって、結局ごみでしかない
んだからッ!!あは、あははははははあっはははははは……は…………
へぶらッ!!!!」

スコルピオの哄笑はしかし眼下から急上昇してきた強力な霊体との衝突により中断させら
れた。

「へ………馬鹿が。遅ぇんだよ。」

雪乃丞は超高速で飛翔する霊体の相貌を一瞬だけその目で捉えていた。美神令子と同期合
体した横島の、決意に満ちた相貌を。

『横島クン、今なんかぶつかんなかった?』

「え……そうスか?」

横島は何も見なかったフリを決め込むことにした。



「なんなの、このでたらめな霊圧はッ………!?」

「そうか、タマモちゃんは知らないのね。」

「小僧と美神令子の魂を文珠で同期させ反響、増幅させることで本来人類が備えることの
ない滅茶苦茶な霊力を生み出しているのじゃよ。」

「相変わらずなんでもありね………。」

「流石先生でござるッ………!!!」

シロが心の底から嬉しそうにパタパタと尻尾を振っている。

「でも〜〜〜〜大丈夫かしら〜〜〜〜?」

「冥子のいうとおりなワケ。同期合体の力は認めるけど、あのデカブツがさっきのヤツを
撃ってくる前に決めなきゃ何の意味もないわけ。」

じゃなきゃ結局私たち皆お陀仏なわけよ、そういってエミはげんなりした顔をする。

「大丈夫ですッ!!!」

おキヌが自身ありげにその問いに答える。

「そう言えばあんた、令子と一緒に妙神山に行ってたわね。何か秘策でもあるわけ?」

一同の注目がおキヌに集まる。

「そ………それは…………なんとなくです。」

だぁ、と一同がこける。

「説得力の欠片もないわけよッ!!!」

「あ〜ん、なんていうか、そういうんじゃなくて、その〜………。
美神さんと横島さんはいつだって、あの時だって、なんとなくなんとかしてきたんです。」

「主の御心を推し量る勿れ………というところかね?」

神父が誰に言うともなく呟く。
皆は中天を見上げ、巨獣に立ち向かう勇猛な戦士たちを見守るよりなかった。





「美神さん、あの魔体は装甲がめちゃめちゃ堅いんス。通常攻撃じゃアイツがアレをぶっ
放すより先に倒すのは難しいッスよ?」

横島は高速で高度を上げながら、己の中の美神に話しかける。

『大丈夫。私に考えがあるわッ!横島クン、タッチッ』

横島がキャラクターを譲ると銀色の霊体は女性特有の曲線としなやかさを備える。

「汝が主の求めに従い、出でよバルムンクッ!!」

『へ?』

美神が右の手を翳すと、空間が収束しジークの有していた魔剣バルムンクが出現する
ッ!!

『ゲギャギャギャギャギャギャギャ、血だぁ、血をよこしやがれーーーーーー!!』

『アンタ、そんなもんまで……。』

「ほほほ、私は利用できるもんはなんでも利用する主義よ。…………横島クン。
一撃で決めるわ。霊力をバルムンクに集中してッ!!」

『はい。』

同期によって増幅されたとんでもない霊力がバルムンクに注がれる。

『ゲギャギャギャギャギャギャ………ギャギャ………ゲギャーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』

『む、むごい。』

「気にしない気にしない。さあ、行くわよ。未だに私に迷惑かけるアシュタロスの後始末。
この美神令子がきっちり落とし前つけてやるわ。」

そう言って速度を上げる美神。強力な力を解放せんとする邪悪な魔獣は、もう直ぐそこま
で迫っていた。

『るおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんッ!!!』

美神が巨獣に向けて突進する。巨獣は今にもそのエネルギー砲を放射しようと吼えるッ!!

バルムンクにひびが入り高出力の霊波が漏れ出すッ!
美神がその魔剣を大きく振りかぶる。
防御も回避もまるで念頭に置かぬ構えであった。

正に刹那の交差ッ!!
高エネルギーの塊となったバルムンクを美神の両腕が渾身の力で握り締めるッ!!

「さぁ…………。」

『極楽に………』

「行かせてあげるわッ!!!」

『ゲギャーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』

ヒビの入った魔剣から漏れ出した巨大な霊波刀とともに、バルムンクが『ベヒーモス』に
叩きつけられるッ!!

『るおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんッ!!!!』

「極楽に…………」

『行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!』

『ぐるおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』

天を焦がすかのような巨大な霊波の衝撃波が空全体を赤く染め上げる中、アシュタロスの
残した巨獣はその役割を負え、天空の彼方へ霧散したのだった。



「目標・完全に・消失。霊体反応・ロスト。」

「や……やったッ!」

「流石俺のライバルだぜッ。」


「な、なんとなくなんとかなったわけね。」

「横島さんッ、美神さんッ!!!」



「くそくそくそくそッ!!!まだだ。まだだッ!!!!!」

スコルピオはそう叫ぶと、光り輝く霊破片をその手に抱えたまま全速でその場を離脱する。

『美神さん…………。』

「………行くわよ。すべての決着を着けに…………。」

大気をかき乱された天空はまるで夕焼けのように真っ赤に染まっていた。
美神自身も意識していたわけではなかったが、この決着は戦いの決着だけを意味しない。
なぜなら身を翻すスコルピオの向かう先は奇しくも、因縁の東京タワーであったのだから。
燃える空は、見るものすべての不安を掻き立てるのだった。




(続)

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