ザ・グレート・展開予測ショー

ハートの女王(絶対可憐チルドレン)


投稿者名:浮き夢
投稿日時:(05/10/ 8)


「よくやった、ナオミ。 今日も完璧だな」

 そういって主任は私の頭を撫でてくれました。
 今日の特務エスパーとしての仕事はATMをまるごと盗むという大胆不敵な犯行をする強盗グループを失神させ、ただそれだけで終わりでした。

「どうだ、ナオミ。 今日はお疲れだったな、よし私が飯でも奢ってやろう」
「え、いえ・・・・・・あの・・・・・・今日は・・・・・・」

 私を育ててくれた谷崎主任はいい人です。
 超度6という強力で珍しいエスパーの私に優しく、ときには厳しく接してくれます。
 ですが・・・・・・少々・・・・・・その・・・・・・最近、私を見る目が変わってきたような気がしてきてなりません。
 こう、舐めるような視線・・・・・・というか、じっと見据えてくる瞳からは今までとは違う何か他のものを感じてしまうのです。
 主任にそう見られると何故か背筋がゾッとするような感じがします。
 恩人である主任にそんな風に感じてはいけない、と思うのですが・・・・・・。

「遠慮するな、私が来いというんだから素直に付き合ってくれよ」

 それに視線だけではなく、最近何故か私に対してやたらしつこく接してくるのです。
 今のように本当に用があるときにも、やや強引に食事に誘ってきたり・・・・・・。

「は・・・・・・はい・・・・・・わかりました」

 今日は本当に用があったんですが、谷崎主任の頼みは断れません。
 谷崎主任は満足した表情で私の頭にぽんぽんと手を乗せました。
 しょうがなく見たかったテレビドラマを諦め、今日もまた主任と食事、という名の晩酌に付き合わされました。




「はっはっは、ナオミも呑め。 遠慮はいらんぞ、こう、ぐいっとな」
「いえ、主任、私はまだ未成年ですからお酒は・・・・・・」

 主任はお酒を何杯も飲み、いつも通り顔を真っ赤にして酔っぱらい私にお酒を勧めてきます。
 いつも私は未成年だから、とお誘いを断っているのですが、今日は特に主任は強い口調で勧めてくるのです。

「毎日毎日誘っているのに私の勧める酒が飲めんのか・・・・・・。 な、ナオミ、今日一日ぐらい」

 毎日毎日誘いを断る私の身を考えない発言でした。
 しかし、主任は主任、私の上司であり恩人ですから、あまりキツイことは言えません。
 心の奥にぐっと言いたいことを押し込め、息を軽く吸いこみます。
 ・・・・・・よし。

「そういう問題ではないですよ、主任。 ルールはルールなんですから。 私はお茶で十分です」
「つれないなぁ、ナオミは。 そういうところがお前の美徳だが、もう少し物事に柔軟にならんといかんぞ」
「・・・・・・そういう問題でもないですよ、主任」

 私も主任の自分勝手な発言にそろそろうんざりしてきました。
 今思うと、見逃したテレビドラマが残念でなりません。
 放送開始から高視聴率をずっとキープし、今日でようやくクライマックスを迎え、感動の最終回と銘打たれていたというのに・・・・・・。
 もちろん私だって一話目からずっと楽しんで見ていました。
 何故録画をするのを忘れてしまったのか、と今ではものすごく後悔しています。

 とはいえ、これも一つのつきあいなのだ、と割り切って考えなければやっていられません。

「ちっ。 じゃあしょうがない、代わりにナオミに肩でも揉んでもらおうか」

 どうやら主任は諦めてくれたみたいです。
 いつも通りの台詞を言い、主任は私に背中を向けてきました。
 主任の・・・・・・いえ・・・・・・その、あまり男性の体には触りたくないのですが、主任の言うことは逆らえません。
 ずっとやらされているのに未だ慣れる気配のない肩もみを、恐る恐る私は始めます。

 主任のブラウスは・・・・・・じっとりと汗で濡れていて・・・・・・あまりさわりたくないのですが。

「ん・・・・・・あっ・・・・・・いい、いいぞ、ナオミ、そ、そこそこ・・・・・・」

 私が指先を動かして肩を揉むと、それに反応するかのように主任は声をあげます。
 声を上げるたびに主任は体を動かすので、あまり触らないように肩を揉もうと努めている手に肩が触れます。
 背中にぞくぞくするものを感じ、今すぐにでも手を離したいのですが、主任が止めていいといっていないのに止めることはできません。
 洗面所に行って手を洗いたい欲求を心の奥底に戻し、主任の肩もみを続けます。

「う、いい、いい、うまくなったな、ナオミ。 これからも頼むぞ、よしやめていい」

 ようやくやめていいという言葉を言われ、すぐに手を引っ込め、主任には見えないように服の裾で手を拭きました。
 「これからも頼むぞ」と聞いて、うっかり顔から笑みを消してしまいましたが、主任はかなり酔っぱらっているのか気づかなかったようです。
 ともあれ、これでようやく解放されました。
 今度は一体何をされるんでしょう。
 前回付き合わされたときには真夜中まで解放されず、私も主任も終電ギリギリで・・・・・・。
 何故か主任は最後まで電車に乗るのをしぶるようなそぶりを見せていましたけど、一体どこに連れ込むつもりだったのか・・・・・・。

 主任も、私に顔を見せず、手も触れず、ただ現場で指揮をしてくれるだけならとてもいい人なんですけど。

 そう私が一人で考えている最中、主任はまたお酒をコップ一杯飲み干しました。
 今日は特にペースが早く、もう顔も真っ赤です。
 呂律は乱れていないようですが、本当のところはかなり酔っぱらっているのでしょう。
 アセトアルデヒドの臭いを口から吐いて、ふにゃふにゃと不安定に体を動かしています。

「主任、そろそろお酒はやめておいたほうが」
「だいじょうぶだーいじょうぶ。 ナオミちゃんがいるから、いざとなったら・・・・・・」

 いざとなったら? どうするつもりでしょうか。

「ほら主任、本当にもうダメです」

 流石にこれ以上酔わせると主任の体に障りそうで、主任からコップもお酒も取り上げました。

「うー、ナオミは女房みたいだな。 お酒くらい飲ませてくれたっていいだろー?」
「主任はまだ独身じゃないですか。 お酒くらい、ってもう浴びるほど飲んでますよ」
「そうだよ。 独身だよ。 だがな、俺には理想の女性がいるんだっ」

 なんだかこれ以上主任の話を聞いてはいけない気がしてきました。
 とりあえず水を貰ってこようと、主任に背中を見せたときでした。

「うおおー、ナオミー! 愛してるぞー!」
「きゃッ、しゅ、主任! 何するんですかッ! や、やめてください」

 あろうことか、主任は私に飛びかかってきたのです。
 完全にべろんべろんに酔っぱらい、もはや正気もないほどに。
 必死に振りほどこうと思いますが、主任の体はやはり思ったよりも重くて。

「んー、ナオミー、ちゅーしてくれ、ちゅー」
「しゅ、主任、しょ、正気を取り戻してください」

 主任の体が私に覆い被さってきます。
 臭いはするし、中年の男性の脂っぽい感じが私の体まで移ってきそうで。

 主任は恩人ですが、もう我慢できません。

「サイキック スタン・サブジエク・・・・・・」

 念力を使い、気絶させようとしたそのとき。

「んー、むにゃむにゃ。 ナオミー、あいして・・・・・・る」

 どさり、と主任は地面に落ち、そのまま勝手に眠り込んでしまいました。
 私は、助かったことと自分の恩人に手を出すことがなかったことに安堵の溜息を漏らしました。
 なんだかどっと疲れが出てきたみたいに、体がだるいです。
 この後はこの主任を、念力を使って家に運ばなければならないのです。
 もちろん電車の中では念力を使って運ぶことなんてできませんので、私が大人の男性である主任に肩を貸して半ば引きずって持って帰らねばなりません。

「はぁ」

 ふと、主任から取り上げたお酒が目に入ります。
 なんだかもうやけっぱちになり、ぐいとそれを瓶ごと飲み干しました。
 お酒でも飲まなければやってられません。


「ふぇ・・・・・・」

 ぽーっと頭がくらくらし、顔がほてっていくのがわかります。
 それに何か、今まで押し込めていた私のようなものが・・・・・・。

「脂くせぇんだよ、このエロオヤジがッ!」

 脳が正常な思考をやめ、目の前が二重三重に見えたとき、それは来ました。
 沸々とわき上がる怒り。
 ずっと今まで我慢してきたそれが、お酒という半ば反則気味な手段で堰を切って流れてきたのです。



「あ? 納豆食ったときにもったないからって使わなかったからしを冷蔵庫に溜めてんじゃねーよ、このドベがッ!」

 エロジジイの頭に華麗な私がサッカーボールキック。
 日本代表に出ても遜色ねーくらい、エロジジイはきれいにふっとんだ。
 これが本当のサイ『キック』能力ってな。

「それによ。 人に、自分の生ゴミ捨てにいかせっけどよ、なんか変な汁がビニール袋からにじみ出てんだよ。 人が毎回毎回どんな気分で持って行ってるかわかってんのか? あ、このクズ大魔王がッ!」

 足を振り上げ、ねぼけて起きようともしねーエロオヤジに思いっきり蹴りをかます。
 一発、二発、三発・・・・・・エロジジイはスタンピングを受けるたびに跳ね上がり、しかもしんじらんねーことになんだかうれしそうな表情をしてやがる。

 このドマゾが!
 死んじまえ、クソ、クソ、ゴミ上司が!
 お前の体臭は、空気中にいる微生物を全滅させるくらいくせぇんだよ! この歩くラフレシアがッ!
 私と同じ空気吸うな、ツインテールがッ! てめぇなんてグドンに食われちまえ!

「てめぇが私の体を狙ってんのはよぉ、とっくに知ってんだよ。 キモイよお前。 何考えてんだ、このブリキ頭。 中年のくせして、精神年齢まだ赤ん坊じゃねぇのか? あ? そのルックスとちんけな頭で光源氏ぶってんじゃねーよ!」
「にゅー、ナオミー、ステキだー」
「黙れエロオヤジ! ナオミとか気安くよんでんじゃねーよ! おめーがいつもあたしの名前を言うたびにこっちは死んじまいそうなほど寒気が走ってんだよ! 人の迷惑を考えやがれ!」

 最大出力で念力投射。
 エロジジイは壁にめり込むオブジェになりさがりやがった、けっ、ざまあみさらせ。

「ゴミが! 勝手にそこで沈んでろ!」

 あのエロジジイはもう死ねって感じで放置して、あたしはあたしで楽しむことにするか。
 ドアを開け、エロジジイと一緒の空間から出ると新鮮な空気があたしの肺に入ってくる。
 自動車の排気ガスを胸一杯に吸ったほうが、あんなエロジジイの一緒の空気を吸うよかマシだ。
 あのエロジジイは、何か食べるたびにくちゃくちゃ音を立てやがって、喋ると口の中のものを飛び出させるしな。

 あー思い出しただけでイライラしてくる。
 あいつは絶対に死ぬべきだ!
 何故政府は公共の福祉を守るために、あいつを処刑しないのか、それがわからん。

 空気を胸一杯に吸ったあと、ふっと意識が遠のくのを感じた。

 あ、あれ?
 このあとあたしは楽しむつもりだったのに、もう終わり?
 なんだか猛烈に眠い。
 ようやくあたしの本音がためらいなく出せるようになったのに。
 まだ色々と楽しみたいことがあったのに。

 ・・・・・・買い物に・・・・・・遊園地に・・・・・・デート・・・・・・みな・・・・・・もと・・・・・・





「ふぅむ。 私は、昨日一体何をしたんだ。 なんでか知らんが体がやけに痛い。 起きたときには壁がぼろぼろだったしなあ」
「私も起きたと思ったら廊下に倒れていました。 なんだか頭も痛いですし」

 寒い寒いと思っていたら、そこは料亭の廊下でした。
 幸いにして通りかかった店員の人が起こしてくれたのですが、あのときの記憶は全くありません。
 ですが、主任が「体が痛い」と言うたびに何故か嫌な冷や汗が背中に浮かぶのを感じました。

 一体私は何をしてしまったんでしょう
 まさか、ね。

「それで、起きたときにはサイキック能力がうまく使いこなせなくなっていた。 つまりはスランプになったということか」
「ええ、そうみたいです」

 主任が今言ったとおり、私は生まれてはじめてスランプというものに陥っていました。
 念力がうまく練れないというか、とても不安定で、うまく標的をねらえなかったり、力が強すぎたり弱すぎたり・・・・・・等々。
 このままでは主任の力になることはできません。
 それで主任が私に何を言ってくるのか不安で不安で。

 それにしても一体昨夜、一体何があったんでしょう。
 本当に何も思い出せません。
 きっとそれがスランプのきっかけになったと思うのですが、記憶はまるで指を開いたままの手の中の水のように捕まえることができません。
 超度5のサイコメトリーの人に頼んで、そのときの記憶を引き出してもらおうとしても、「何故か見ることができない」と言われましたし。
 なんだかとっても気になります。
 スランプのきっかけではなく、もっと他の、大事なことを忘れているような気がするのですが。

「ふむ。 幸い今日は『ザ・チルドレン』の超度7のサイコキノがBABELに来ているらしい。 一つ、話を聞いてみたらどうだ?」
「ざ、『ザ・チルドレン』って、あの皆本さんがいる特務エスパーのチームですかッ!?」
「そ、そうだが。 なんだ、ナオミ、皆本君を知っているのかね?」
「え? いえ、前に一度、見かけたことがありまして」

 なんで私、皆本さんに過剰な反応をしてしまったんでしょうか。
 前に一度みかけたことがあるのは確かでしたが、特に今まで仕事の関係で関わったこともないはずなのに。

 主任の妙な視線を感じ、はっと我を取り戻しました。
 主任は何故か気分を害しているみたいです。

「い、いえ、いつも壁にめりこんでいて面白い人だなぁ、って思って印象が強かったんですよ」

 そういって必死に作り笑いを浮かべます。
 なぜかわからない、なんでかわからないんですが、私は皆本さんに会いたいみたいです。
 例え話はできなくても、ただ会うだけでも。
 だから変に主任の機嫌を悪くするのは、あまりよくないようです。

「ははは、そうだろう。 彼はまだ十歳の子どもに振り回されっぱなしだからなあ。 ん、ちょっと待てよ。 壁、めりこ、む?」

 なんだか主任が頭をかかえました。
 なぜか、このまま主任に何かを思い出させてはいけない、と感じます。

「さ、さあ、行きましょう、主任」
「ま、待ってくれ。 何故か壁にめり込むと聞いて頭によぎるものが」
「私、早くスランプを抜けて主任の力になりたいんです」

 何故でしょうか。
 ごく自然で、自分でもすがすがしいほどの笑顔が顔に浮かんでしまいました。
 こんな表情をしたのは何年ぶりかわかりません。

「あ? ああ、そうか、そうだな。 行こう」

 主任は何故かとまどった様子で、ぽかんと私の顔を見つめてきました。
 そんな主任をあたしはヤニの臭いがちょっとキツイ手をためらいもなくつかんで、引っ張っていきます。

「な、なあ、ナオミ。 今の表情。 もう一度してみてくれないか?」
「はい? 何言っているんですか、主任。 まだ酔っぱらってるんですか?」
「い、いや、そうじゃないんだが」

 一歩一歩進む事に胸が弾みます。
 こんな気分は初めてです。

 それにしても私はスランプを抜けることができるのでしょうか?
 もしスランプがずっと続いて、能力が使えなくなったとしたら。

 ふと、そんなことを考えながら、少々困った顔をしながら三人の超度7のエスパーのお相手をしていらっしゃる方のいる部屋のドアのノブに手をかけました。

「失礼します」

 >プリンセス・メーカーに続く

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