ザ・グレート・展開予測ショー

十字架上の七つの言葉(1)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/10/ 2)





かつてこの世界を愛し
今尚この世界の仲間たちと共に過ごす人々へ。
存在したかもしれないこの展開を捧ぐ―。













南米。旧アシュタロス拠点。



「先生ッ!!これを見てください。」

 かつてアシュタロスという魔神がその拠点としていた南米の遺跡にオカルトGメンが調査に入ったのは、太陽が中天に昇りさんさんと輝くある日の正午であった。美神美智恵と西条輝彦を中心としたGメンの捜索チームは遺跡内を隈なく調査し、その地下に巨大な軍事施設を発見する。

「これは・・・・・・・、『究極の魔体』?」

そこにあったのは2年前、人類を滅亡の手前にまで追い詰めた究極の魔体に似ていた。しかしその形状はあの時の魔体とは少し違っていたしその大きさも二周りほど小さいものではあったが。

「魔体のβ版といったところかしらね・・・?」

美智恵の美しい頬を汗が一筋流れる。それは暑さの為ばかりではなかった。

「先生・・・・・、これがこの魔体の中に保管されていました・・・・。」

西条が美智恵に渡したのは黄金色に輝く一抱えほどもある物体であった。その神々しい輝きに反し、何か禍々しい予感を人に覚えさせる。

「この霊波の波長は・・・・・・・・・・・・・、まさか!?」

『・・・ジジ・・・西条捜査官ッ!!!!』

突然西条の持つレシーバーから甲高い呼び声が発せられる。調査隊の捜査官からの通信であったが、その声は緊張と、そして恐怖で荒げられていた。

「どうしたッ?」

『・・・ジジ・・・・な、何者かが・・・我々に攻撃を・・・ジジ・・・・う、うわぁぁぁぁぁぁッ!!何だッ!!なんなんだお前らは――・・・・ジジ・・・・・プッ・・・・。』

西条と美智恵は顔を見合わせる。
危険がないとは言い切れなかった。だから今回の調査には世界のICPOから特に腕利きの捜査官を連れてきたはずなのだ。何者に襲われようと、彼らがそう簡単に敗れるはずがないのだが・・・・。

美智恵はその発光体に結界を施しザックに詰めると、西条とともに件の捜査官の持ち場に向かう。その部屋は計測器のようないくつもの装置やケーブルが縦横無尽に配置されており部屋の中央には巨大な三つのカプセルと孵化したばかりの何かを連想させる、濡れた卵のようなものの破片が散らばっていた。カプセルの中からあふれ出した液体が、二人の脛の辺りまでを浸水している。

「こ、これは一体・・・・・・・・。」

西条は絶句した。
部屋の異様に驚いたわけではない。正直に言えば、西条には部屋の様子を観察する余力がなかったと言ったほうが正しい。浸水した部屋の水底には朗らかな朝食を共にした各国の捜査官たちが、炎をも凍らせるほどの必死の形相で息絶えていたからである。


ひた、ひた、ひた・・・・・。


「!?」


何者かの足音が聞こえる・・・・。静かにゆっくりと、しかし明らかな正確さをもってその足音はこの部屋に近づいてくる。
聖剣ジャスティスを構える西条を美智恵が視線で制す。

「西条君。生き残ることを第一に考えなさい。私たちはここで見たこととこのザックの中身を本部に持って帰らなくてはならないわ・・・・。」

「先生・・・・・。」

「西条君、来るわよ・・・!?」


ひた、ひた、ひた・・・・・・。


きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。


ドアをゆっくりと開けて入ってきた者たちからは、生まれたばかりのものが纏う粘着液の臭いと、ついさっき浴びたばかりの新鮮な返り血、そして死臭の臭いがした。









宇宙意思。
それは宇宙の示すベクトルへの復元の力。
宇宙と、宇宙を廻るすべての命を定める無限の意思力。

魔神アシュタロスは宇宙の成り立ちを根本から改変する方法を見つけました。
この世界に自分を捕らえ続ける宇宙の意思に反発する為に、宇宙そのものの書き換えを行おうとしました。
そんな魔神に立ち向かう人々がいました。
多くの戦いがありました。
闘いの数だけ悲しみがありました。
あの日、運命の日、その魔神は宇宙に拒絶されました。
魔神はその隠された望みの通り、無に帰りました。
けれど横島さんの愛した女性も、この世界からいなくなりました。
悲しみと引き換えに、世界は平安を取り戻したかのように見えました。









GS美神極楽大作戦!!



『十字架上の七つの言葉』










『動くなッ!!』

『ちらっとでも動けば・・・・・結晶を破壊するッ!!』


『悪い冗談だな。そいつを壊せば困るのは私だけではないぞ。ルシオラを・・・・・・見捨てるのかね?』


『彼女は君のためにすべてを失ったのだろう?このまま死なせるのは酷すぎると思わんかね?』


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』


『横島クン・・・・・・・!!』




「・・・・・こしまクンッ。横島クンッ!!!!!」

「っは。」

「あんたねぇ、この私に運転させて居眠りこくなんて、いい度胸してるわね?」

「は、ははは。あ、あれぇ・・・・・・?」

「あれぇじゃないッ!!!」

都内某所。
信号は黄色に点滅し、車の通りも少ない真夜中の車道。
路肩に停められたジャガーの上で、横島はぼこぼこに殴られていた。

「す、すんません。もうしません、か、勘弁して貰えませんでしょうか・・・・?」
「分かればいいのよ。分かれば。」

手をはたく美神。

「・・・・大体あんたさっきの除霊中もなんかぼーっとしてなかった?なんか悪いもんでも食べたんじゃないの?」

憎まれ口を叩いているようであるが、目は笑っていない。ストレートな表現が出来ないだけで、本当は横島のことを誰より気遣っているのだ。

美神は・・・・・・・、横島に対して決して返すことの出来ない借りがあるのだから。

「この女は殴る前に聞くことが出来んのか・・・・・。」

「何か言ったかしら、横島クン?」

「なんでもございませんッ!!!さささ、早く帰りましょう美神さん。・・・・・・・・・・・・・・シロとタマモが心配です・・・・・・・・・・・・。」

「そう・・・・・・・、そうね。だけどね、横島クン。・・・・・・本当に心配だったらグースカ寝てんじゃないわよッ!!!」

「しまったーッ!!あぶり返してもうたッ!!!」

「・・・・・・・・・・。」

頭を抑え暴力に備える横島だったが、しかし美神は手を上げようとしない。

「美神さ――――」

「横島クン。もしも私が・・・・・・・・・・ううん、なんでもないわ。」

「・・・・・美神さん・・・・・。」

美神はイグニションを回し再び車を走らせる。
馬鹿に暗い夜だと思えば月が出ていないせいなのだと、横島は一人思い当たった。





「どうだ、まだ痛むか?」

「うぅ、へ、へっちゃらでござるよ。」

横島はシロの手に巻かれた包帯を巻きなおしている。長く美しい指先が伸びる手のひらにはしかし、痛々しい傷跡が生じている。

聖痕―――。
年若い妖魔たちを突如襲った謎の病。
体の一部分に謎の裂傷が出来、時折激痛を伴う。

「・・・・・妖怪の病気の専門家なんていないのが現状だし、今はこうして小まめに包帯を取り替えて行くしかないわね・・・。」

「別に平気よ。死ぬような病気じゃないみたいだし。」

タマモがおキヌに取り替えてもらったばかりの腕の包帯を擦りながら言う。

「・・・・・・あんたたち、早く良くなりなさいよね。」

「美神殿・・・・・・。」

「あんたたちが元気になんないと・・・・・・・いつまで経っても仕事の量を増やせないわッ!!!あぁ、イライラするッ!そんな病気ぐらい気合で直しなさいッ!!!」

「きゃいんッ!」

「(美神さんったら素直じゃないんだから。)」

おキヌがくすりと笑う。

「学生のおキヌちゃんにあんまり働いてもらうわけにはいかないしね。」

「あんた俺が学生の頃散々使い倒し取ったじゃないですかッ!!」

「あんたと比べられるわけないでしょ?おキヌちゃんは優秀なのよッ!!」

「え、えこひいきーーーーッ!!優等生なんて嫌いやーーーーーーーッ!!!」

なにやら叫びながら横島がその場を走り去る。

「うぅ、私を悪者にしないでくださいよ、美神さん。」

「ご、ごめんごめん。」


トゥルルルルルルルルルルルルルルル。
トゥルルルルルルルルルルルルルル。


「こんな時間に誰かしら?はい、美神除霊事務―――、はい?な、なんですってッ。ママが重体ッ!!!」



一人洗面所の鏡の前に立つ横島はゆっくりとした動作で額のバンダナを外した。バンダナに隠れて普段は分からないが、その額には包帯が巻かれている。そしてその包帯の中央には、真っ赤な血が滲んでいたのだった。






その病院はかつてないほどの重苦しい雰囲気に包まれていた。真夜中の冷たい夜気すら、この一角を通り過ぎていくような。暗黒の淵を垣間見たような表情をして、美神美智恵は娘に向かって語りかける。

「格好悪い姿見せちゃうわね。」

「ママ・・・・。」

美神美智恵の全身からチューブが伸びている。その身体は包帯を巻いていない部分を探すほうが大変で、左目には眼帯を巻き右足を天上から吊っている。

「隊長ほどの手練にこんな傷を負わせるなんて・・・・・・。」

「・・・・・私はまだましな方なのよ、横島クン。・・・・・・・・・私を庇った西条君は今、集中治療室で意識不明の重体です・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・!?」

タマモとシロを事務所に残し、美神と横島、おキヌの三人は白井総合病院に急ぎ駆けつけた。そこにいたのは変わり果てた姿をした母親だった。

「でも、なんでこんなことに・・・・・・?」

「・・・・・・私たちICPOはアシュタロスの残した影響の調査を開始しました。かつてアシュタロスが拠点としていた南米の遺跡を調査して、そこで『究極の魔体』のβ版を見つけたわ。ひょっとしたら令子、あなたの前世が見たという魔体の旧バージョンかもしれない。」

令子の記憶に一瞬その姿が過ぎる。実際に戦った魔体より幾分魔族的な姿をした1,000年前の魔体。

「そしてその中に・・・・・・・大きなアシュタロスの霊破片が封印されていました。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?」

「アシュ・・・・・・タロスッ!!!」

横島が握る堅い拳が小刻みに震えるのを、一同の誰一人として見過ごさなかった。

「・・・・・・・・その直後、私たちは三鬼の魔物に襲われました。三鬼とも外見はシロちゃんやタマモちゃんくらいの年齢の男の子。その実力は・・・・・・、まあ言うまでもないことね。ICPOの調査隊は全滅。私はこの座間で、西条君は妖毒に苦しんでいます。私は抗体があって助かったけど・・・・。」

「・・・・・・・!?ママッ、それって・・・・・・・。」

「リーダー格の少年は自らをスコルピオと名乗りました。恐らくは蠍の化身。スコルピオたちはアシュタロスがルシオラたちの前に投下を予定していた3体の魔物なのよ。」

「・・・・ル・・・・・シオラ・・・・・・。」

「・・・・・・・・霊破片は現在ICPOの地下シェルターに厳重に封印されています。アレを破るのは小竜姫様にだって無理だけど、それでも万全とは言えない。彼らの目的は不明ですが、スコルピオたちがアシュタロスの残党だとするならば、令子にも危険が及ぶかもしれない。」

おキヌが知らず美神の服の裾を掴む。美神は、横島の横顔をじっと見ていた。怒りや悲しみや後悔といったものを、その表情はすべて含蓄していたのだ。






夜の街を見下ろす様に、三人の少年が空中に浮遊していた。

「ここが兄さんの街かぁ・・・・・。」

左側の少年。緑の髪をして緑色のレザースーツにその身を包み、腰に二本の刀を差した少年が誰に言うともなく呟く。

「兄さんは僕たちを受け入れてくれるかな?」

「無理、無理。」
真っ赤なレザースーツに身を包んだ中央の赤髪の少年が大げさに首を振ってみせる。

「泣くなよ、テノデラ。」

「う、うぐ、ひっ、ひぐ・・・・。」

「ええいッ!!鬱陶しい、めそめそするなッ!!!!」

右側の少年。他の二人より一回り身体の大きい黒髪の屈強な少年が、筋肉で膨らんだ黒いボディスーツを軋ませながらテノデラと呼ばれた少年に言い放つ。

「・・・・・・・父さんは、どこにいるんだろうな?」

「さぁ。」

赤髪の少年は再び大げさに首を振る。

「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・泣くなよデュルクス。」

「な゛いてな゛んかな゛いッ。」

「大丈夫だ。絶対に探し出す。父さんは僕らを待っているんだ・・・・。」

「スコルピオ・・・・・。」

「そして・・・・父さんに会って・・・・褒めてもらって・・・・・・なでなでしてもらって・・・・・一緒にお風呂に入って・・・・・・。」

「え・・・・えへ・・・・・えへへ。」

「う・・・うふ・・・・・・うふふ。」

恍惚とした表情で妄想するスコルピオたち三人・・・・・。
その様は見るものこそいないが、かなり危険なものであった。




「横島君ちょっといいかしら?」

事務所に帰ろうとする面々とは別に横島が呼び止められる。

「なに、ママ?」

「・・・・・・・・・美神さんたちは先に帰っててもらっていいスよ。俺直接上がりますから。」

「横島さん・・・・?」

「・・・・・・そう・・・・・・・わかったわ、横島クン。」

釈然としない顔をしたおキヌをつれて部屋を出る二人。横島はそれを確認すると美智恵に向き直る。

「・・・・・・横島クン。人類は・・・・・、いえ、私はあなたに大きな借りがある。その上でこんなことをあなたに頼むのは、本当に恥知らずなことだと思う。
・・・・ひのめは夫に預けてあるわ。あの子に戦略的な要素は何一つないから大丈夫だと思う。でも令子は私が言って大人しく引っ込んでるような子じゃないわ。あの子のことはあなたにしか頼めないの。頼むわ、横島君。」

「・・・・・・・・・・・なんで俺なんスか隊長・・・・。」

「横島君?」

「・・・・・・・・・だって、俺はアイツを見殺しにしたんスよッ。・・・・・・・俺には・・・・誰も守れないと思ったんスよ・・・・。」

「横島君・・・・・・・・・・。」

その声は重くあまりにも悲哀の色が濃く、美智恵はそれ以上言葉を連ねることが出来なかった。




「いたよ、ほら、兄さんだ。」

一人、病院から歩いて帰る横島に向けて三鬼の魔族が飛来しようとしていた。長い、あまりにも長い夜が帳を開け、空はうっすらと白み始めていた。
夜明けの方角に光る青白い明星は、少しの吉兆をも伝えてはくれなかった。





(続)


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