ザ・グレート・展開予測ショー

とれじゃーはんと!


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(05/ 9/30)


「シロ、宝捜しに行こう」

「は?」


 いつものように師匠の部屋にサンポをねだりに来たシロは、唐突にそう切り出されて戸惑った。

 付き合い自体は一年未満と短いが、それなり以上に濃い付き合いをしてきた自信はある。奇矯なところのある師の言動にも、耐性とリアクションの用意は出来ているはずだった。

 しかしまさか、日曜の朝っぱらから挨拶よりも前にこう来るとは。


「さすがは先生、いつも拙者の予想を越えてくれる…!」


 実は昨夜、そんな特番がやってただけなのだが、早寝早起きのシロには解らない。

 ぐっ、と握りこぶしを固めてそう言うシロに、横島は承諾したのだと判断して盛り上がる。もともとテンパリ気味だったのだが、そこにムチ入ってしまった。もう止められない止まらない。


「そうかそうか、さすがは俺の弟子っ!さあ行こう、すぐ行こう!宝捜しに今行こう!」


 イイ笑顔でそう言って強引に連れ出そうとした横島に、シロはサクッと言い放つ。


「あ、それとこれとは話が別でござる」
 ズザザァ


 横島は思わず、勢いのままに地面にダイブして砂煙を上げた。そしてすぐに立ち上がって抗議一発。なぜどうしてなにゆえにWHY?


「なんでだっ!?」

「サンポが先でござるよっ!!」


 裏切られたような悲痛な顔で問う横島に、間髪いれずに返すシロ。

 何はともあれサンポが大事。だって生きがいなのですから。


「宝捜し!」

「サンポ!」

「宝捜しー!」

「サンポー!」

「たーかーらーさーがーしー!!」

「さーーんーーぽおおおおぉ!!」


 朝も早くから近所迷惑顧みず、大声で主張しあうバカ師弟。

 しばらく、うぬぬぬぬ…と睨み合っていたものの、このままでは埒があかないと思ったシロがこう聞いた。


「先生……そもそも何で宝捜しなどと考えたのでござるか?」


 その問いに肩を落として俯き、今までのテンションはどこへやら。横島は激しく落ち込んで、こう答えた。


「………………………金がねぇんだよ…」

「い…」


 いつもの事ではござらんか。

 つい、そう言ってしまいそうになって、シロは慌てて自分の口をふさいだ。

 空気が読めず、直情ですぐ行動に移してしまうシロは、失言が多い。この時も横島の様子がいつも通りだったなら、言ってしまっていただろう。

 だが、今の横島は下手な事を言ったら、首でも吊ってしまいそうな雰囲気があった。さすがにシロも、そのただならぬ様子を察して自重したのだ。


「せんせえ……何が、あったのでござるか?」


 恐る恐る問い掛ける弟子に、師匠は答えた。


「こないだの一件(ゆうかい参照)でな?給料がカットされちまってなぁ…」


 ああ、そんな事もあったなぁ。あの時ちょっとやり合った、あの喋る犬は元気だろうか。

 思わず現実逃避するシロ。人はどうしようもない現実に直面した時、心凍らせるか目を逸らす。

 しかし曲がりなりにも、いや曲がってはいるが、そのどちらもせず立ち向かう漢がここにいた。


「だから、行くんだ。宝捜しに。付いて来い、シロ!」

「先生…」


 力強くそう言う横島は、少し輝いて見えた。ちょっとだけ見直すシロ。

 しかし。


「わかったでござる!それではサンポに行った後に宝捜しという事で!」

「わかってねぇぇえ!!お前とサンポに行った後で、んな体力も時間も残っとるかぁ!?」

「それはそれ!これはこれでござるよ先生っ!!」

「納得できるかぁぁ!!」


 再び怒鳴りあいの掛け合い漫才、もとい交渉…いや、何だろう?

 とにかく再びご近所に騒音を振りまいて、2人は言い争った。

 そして、15分後。


「はぁ…はぁ…シロ。どうしてもサンポに行きたいのか?」

「はいでござる!」


 息を切らして確認する横島に、まだまだ元気いっぱい、力いっぱいに肯定するシロ。


「サンポはまた今度にして、宝捜しに付き合っちゃくれねぇか?シロ…」

「う……い、いやだって、先生……サンポは拙者の生きがいで…」


 どっちも必死だ。だが、ここに来ての横島の涙目の懇願にひるむシロ。そんな目で見られたのは初めてだ。

 そして続く横島の一言が、これ。


「宝を見つけて、一緒に幸せになろうぜ……シロ」

「さぁ先生、支度をしてくだされ。宝捜しに行くでござるよ!」


 横島の一言で、とつぜんコロッと意見をひるがえすシロ。その変わり身の早さは師匠に勝るとも劣らない。

 そして横島も、自分が何を言ったのか正確に理解しないままに、それを受け入れた。

 一応補足しておくと、横島は宝を山分けして、一緒に金持ちになろうぜ。という単純な意味でしか言っていないし、シロはプロポーズだと受け取っている。


「よっしゃあ!んじゃ行くぞシロ!まずは唐巣神父の教会だ!」

「ラジャー!…って、あそこに宝などあるのでござるか?」

「ふっふっふ、いいから黙って付いて来い!」

「はうっ!?わ、わかったでござる……あの、ふ、不束者ではござりますが、末永くお願いします」

「お、おう?」


 勘違いを誘発させる横島に、炸裂させるシロ。

 2人は、何はともあれようやっと宝捜しに出発した。




「ピート」

「横島さん」
 ガシィ!!


 教会の中、ステンドグラスから差し込む明りの下、神の像の前で2人は固い握手を交わした。

 盟約成立。ピートが仲間に入った!


「あんな思わせぶりなヒキをしといて、それだけでいいのでござるか?」

「いんだよ。そもそも、誰もこの教会に金目の物があるだなんて、思っちゃいねー」

「その通りですね」

 ギリギリな発言をするシロに、もっともかつ事実で反論できないが、でも目の前で言われるとなんだかな〜、な返しをする横島とピート。失礼きわまる彼らに、唐巣神父は笑顔を引きつらせて控えめながらも抗議する。

 さすがに実際に一緒に住んでる自分の弟子に断言されたのは、切ないものがあったらしい。


「き、君たちねぇ……もうちょっと他に言い方が…」

「神父……」


 横島はやけに透き通った、それでいて疲れ果てた笑みを浮かべ、首を横に振って答えた。


「俺とピートは、いや神父も含めて。俺達は、ここに来る前から仲間だった。そうでしょう?神父……」

「…横島君…」


 その笑顔には何かに、そして誰かに虐げられ、それでも耐えて頑張ってきた者だけが持つ、何かがあった。

 (誰かさんのおかげで)苦労した者だけが解る、何かが。

 神父は無言で手を差し出し、横島もそれを力強く握り返した。


「で、なんでピート殿を誘ったんでござるか?」


 男たちの感動を理解できず、空気をぶった切って質問を放つシロ。

 まだこの類の苦労は、彼女にはわからなかったらしい。


「なに。昔から言うだろ?3人寄れば『文珠』の知恵ってな」

「なるほどっ!さすがは先生」


 手の平に霊気を集中して文珠を作り出しながら、横島はシロに得意げな顔でそう言った。

 どうやら文珠を使った宝捜しをみんなで考えようじゃないか、という事らしい。

 しかしもんじゅの知恵のもんじゅは、文殊菩薩のもんじゅなので字が若干違うのだが……この場で唯一それを知る、心優しい唐巣神父はツッコまないであげた。




「で、だ。具体的にはどんな文字を込めるかだが」

 教会の一角に、どこから取り出したのかホワイトボードとパイプ椅子を設えて会議室を作り出し、指示棒片手に会議を進行する横島。議題は文珠に何の文字を込めたらいいのか?である。

 それに、はい先生。とばかりに挙手してから発言する、優等生ピート。


「単純に“探”すと入れれば良いんじゃないですか?ほら、もしかしたら埋蔵金とか見つかるかも知れないじゃないですか」

「確かに。隠れていたり、埋まっている価値ある何かを見つけられる可能性はあるね」

「んじゃ、採用とゆーことで」


 正式には誘われていないのに、ちゃっかり参加している神父も賛成し、この案は採用となった。

 横島がホワイトボードに大きく“探”と書き、丸で囲む。そこから矢印をつけて、下手だが勢いのある文字で『誰が使うのか?』と書いた。


「どういう事ですか横島さん?」


 ピートが不思議に思い、問い掛ける。てっきり、文珠を作れる横島がそのまま使うものだとばっかり思っていたのだ。


「ん〜……まー、なんだ。言い難いんだがな……」

「なんですか?横島さん、僕らは一緒に貧乏を脱出しようと、さっき神に誓った同士じゃないですか。何でも言って下さいよ」


 らしくもなく言いよどむ横島に、少々熱血入った説得をするピート。しかしそんなん誓っていいのかクリスチャン。


「そうだな。ま、大したこっちゃないんだが………」

「なんです?」

「俺が使っても、金に縁がある物は見つけられないような気が…」

「「「………」」」


 自分で言っていて哀しくなったのか、涙目で語る横島。また聞いてしまった一同も、つい納得してしまって否定が出来ず、フォローが入れられない。

 横島忠夫。一流商社の、やり手ビジネスマン:現在海外支社長の一人息子という、一応ええとこのボンのはずなのだが、現在貧乏が魂にまで染み付いてしまった感のあるGS助手。

 何が、というか誰が原因なのかはあえて言うまい。本人の責任も半分くらいあるし。


「え〜〜っと、そ、そういう事なら私も使えないな。私も、お金とは縁がないのでね」

「そ、そうですよね。この教会だって、本当に何もないですからねー」


 やりきれない空気を何とかしようと、唐巣神父が自爆気味に話を進め、ピートが乗っかる。

 そして貧乏男3人の視線が、残った1人に集まった。


「………………………せ、拙者でござるか?」

 YesYesYes


 何故かアイコンタクトで肯定する貧乏3人衆。


「で、でも拙者は犬ではなく狼でござるから、ここ掘れワンワンとかそーいうノリはちょっと…」

 BuuBuuBuu


 昔話的理由を持ち出して断るシロに、アイコンタクトでブーイングする3人衆。なんか無駄に器用だ。

 そしてブーインングから、発煙筒を投げ込んでからの会場乱入へとアイコンタクトが更なる進化を見せるに至って、ついにシロは折れた。とゆーか、そこまでされたら折れにゃしゃーない。




「ではいくでござるよ」


 会議室のセットを片付けて。普通に戻った教会の中央、神像の前で正座して文珠に念を込めるシロ。

 文化とか宗教的にはともかく、漂う雰囲気は真剣で、重い。

 ギャラリーと化した3人衆が固唾を飲んで見守る中、シロの手にした文珠は輝き、そしてシロの手から飛び出した!


「「「おおっ!!」」」


 この文珠の行き先にお宝が。とB嬢のような眼をして意気込む3人衆。シンクロ率はかなり高めだ。

 だが勢い良く飛び出した文珠は、すぐに失速して、歩くくらいのスピードにまでなってしまった。


「「「おお?」」」


 まさか、この教会にお宝が?

 こんな教会に!?

 弟子とその友人が失礼な事を考えた分、若干シンクロ率を落しつつも、まだシンクロし続ける3人衆。

 だが、それも文珠がお宝に行き着くまで。


 とん。


 そんな軽い感じで、文珠は目的地に到着した。


「へ?」


 わけがわからない。そう顔に書いてある、横島忠夫の胸に。


「え〜〜と?」


 これがどういうことなのか、考え込む横島。

 だが、彼にそんな余裕は与えられなかった。


「横島くぅん?」「横島さん?」
 ガシ      ワシッ

「は、はい!何でしょうか!?」


 左右からピートと神父に肩をワシ掴みにされ、ビビって下手に出る横島。しかし、そんな事では師弟は止まらない。


「な〜んだ。持ってるんじゃないですか。人が悪いですねー、横島さんも」

「全くだ。だがね、知っているかい横島くん。分け与え合える者がいる事は幸いだ。主はそう言っておられるんだよ」


 にこやかかつフレンドリーだが、掴んでいる肩にかかる握力は緩めるどころか増す一方。

 そんな師弟に、答えを薄々気付きながらも、横島はあえて問い掛ける。


「お2人とも、何を言いたいのか良く解らないんスけど…」

「ん〜?そうか。解らないのか横島くん」

「そうですかー。解らないんですかー」

「そ、そうなんスよ…お、俺アホなもんで…はは…あははは」

「「「あっはっはっはっは」」」


 朗らかな笑い声と、引きつった笑い声が、神の家たる教会に響き渡る。ハレルヤ。


「困ったものだねー。ピートくん」

「ええ、困ったものですねー。でも本当に解らないようですから、教えてあげましょうか先生」

「そうだね。いいかい、横島くん。ま、要するにだ…」

「「出すもんだしな」」

「やっぱカツアゲーー!?」


 できるだけ引き伸ばしたが、やっぱり予想した通りだった回答に絶叫する横島。

 さすがの彼も、宝捜しに教会に来て神父にカツアゲされるとは思ってもいなかっただろう。


「だーー!おりゃ、何も持っちゃいないっスよー!!」

「文珠が反応した以上、何か持っているはずだっ!!逃がすなピート君っ!」

「解ってます、先生!さぁ横島さん、調べれば解ることです。大人しく脱いでもらいましょうか!」

「なんでやーーー!?」


 横島はいつもの如く、無駄に高い回避力を駆使して逃走する。教会の扉を一直線に目指す…と見せ掛け、直角に曲がって窓から脱出。ヴァンパイア・ミストで先回りしたピートをかわす。


「追うぞ、ピートくんっ!」

「はい、先生!」


 ピートも、追いついてきた唐巣を伴ってミスト化。横島の出て行った窓から追いかけていった。

 そして一人、シロだけが教会に残された。

 文珠が横島目指してゆっくり飛んでいた時からずっと固まっていたので、気付かれなかったのだ。


「………………………まったく。男とゆーのはどいつもこいつも女心とゆーものを分かっとらん、というのは真でござったか」


 ため息をついた。

 女心というのは、あれだ。ほら。

 お宝を“探”せと文珠に念じて。

 それでもって、それが横島に飛んでいったという事で。

 まぁ。つまりは。犬塚シロにとっての一番のお宝は、アレだとゆーわけで。


「気付かれるかと、ドキドキしたのがバカみたいではござらんか」


 いつも飛びついたり、顔を舐めたり、好きだと言ったりはしているけど、こうやって自分でも思いがけずに、本心を確認してしまうのは照れるわけで。


「う〜〜ん…しかし、なにかスッキリしないでござるな〜…」


 気付かれなかったのはホッとしたけど、でも残念で、少し腹が立つ。

 そしてシロは少しばかり考えて、決めた。よし。明日のサンポはいつもより長〜くしよう、と。

 それでもって、気付いたら近くまで来ていたから、と人狼の里に寄り道したり。

 遅くなったから、とその日は一緒に犬塚の家に泊まったり。

 もののついでに、先生が一緒に幸せになろうって言ってくれた、と長老に報告したり。

 そのまま勢いで祝言挙げて、里に居着いちゃったりしても――

 ま、報復としては軽いものだろう。とシロは考えた。女心を解らなかった代償は大きいのだ。


「拙者の里ならお金もいらないし、一石二鳥!うんうん、我ながら名案でござるよ!」


 尻尾をパタパタ振りながら、シロも教会を後にした。

 誰もいなくなった教会で、何の魔術も奇跡も宿っていないはずのキリスト像が十字を切ったらしいが…

 それは、誰のためだったのだろうか?

 アーメン。

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