ザ・グレート・展開予測ショー

初めての―――――前編(絶対可憐チルドレン)


投稿者名:NAVA+犬雀+豪
投稿日時:(05/ 9/29)





どのような物事にも、『初めて』は存在する。



初めてのお使いであったり、料理であったり

それは具体的、あるいは抽象的の区別など無く

可愛い失敗や、拙い成功を付き物として

たとえば―――――――――恋愛も、また同じように










「お見合いをして欲しいのだヨ」



実は、という前置きの後に続けられたのは、たったそれだけの簡潔極まる一文。
その部屋に居るのは、むさ苦しくも大の男ばかりが二人。
また叱責か、と内心ビクビクしていた片方の男―――――皆本は思いがけない言葉に目を丸くした。
そんな彼の前に座っているのは、もう一人の男。
にこにこと微笑みながら座る姿は、まさに好々爺然として。
ヤクザもかくやな厳つい面構えも、こんな表情を浮べていると何処か愛嬌がある。
知らない人は知らないが、知ってる人は知っている。その名は局長・・・・・・もとい桐壺泰三。
そして、しばらくの無言を経て皆本が口にしたのは



「・・・・・・・はぁ、解りました。
 なんで僕なのかは解りませんけど」



と、何とも気の抜ける返答だった。
余りにもあっさりと許諾の意が返ってきた事に、かえって局長は取り乱す。
最初は断られるかも、という位には覚悟していたのだから。
無論、退く気などは微塵も無かったのだけれど。



「い、いいのかネ、そんなあっさりと!?」

「ええ。僕に出来る事なら」



更に首肯しつつ、答えを返す皆本。
その瞳に迷いは無く、特にその場凌ぎの返答という訳でもなさそうだった。
全くの予想外とも言える、彼の即断即決をいぶかしみつつも
本人に異が無いというなら別に大した問題も無いか、と局長は考える。
それでも微かに首を傾げた局長に向けて、皆本は口を開いた。



「それで――――――――誰のお見舞いに行けばいいんですか?」



唸れ右拳(BY局長)
弾けろ左頬(BY皆本)










「い、いきなり何故右ストレートを!!!?」

「誰がこのタイミングでボケろと言ったのかネ!
 いいか! お見合いだよ、お・み・あ・い!!」

「こ、込み合い?
 残念ながら、主婦の方々には未だ黒星続きで」

「スーパーにおける半額タイムの話でも無いっ!!!!!」



皆本も二十歳の独身男性。タイムセールとはお友達。
ま、それはそれとして局長の左フックが右頬に。
これなら世界だって取れるぜ、いや狙わんだろうが。
それでもあっさりと復活する皆本。彼も大概頑丈である。
頬は赤くなっていたが、それだけで済んでいるのは普段の生活故か。



「なんだ、お見舞いじゃなくてお見合いでしたか。
 でも、何でまたいきなり?」



イイのを左右に一発ずつ叩き込んだせいだろうか。
突然に返されたまともな答えに、再び局長は口篭もった。
気を取り直そうとしてか、一つ咳払いをしてようやく本題に入る。



「うむ。といっても、よくある話だがネ。
 私の知己に妙齢のお嬢さんが居て、そろそろ、と相談を受けたのだヨ。
 誰かいい相手はいないか、って」

「へぇ、それじゃぁ・・・・・・」



何で僕なんですか?
そう皆本が疑問を放つより早く、局長の手が見合い写真突き出した。
言葉に詰まった彼に向けて、機を逃さずと畳み掛けるような発言が。



「どうかナ? 黒髪小顔で美人な方だろう?
 まさに大和撫子を体言するようじゃないカ。
 聞いた話だと性格も古風で、男性を立ててくれるそうだヨ」

「いえ、ですから・・・・・・・・・・」

「皆本クン。
 君の返事は二つ。はいかイエスか、だ」

「選択の余地無しっ!?」



見合い写真の中で微笑む女性は、確かに美人だった。
醸し出す楚々とした雰囲気は、普通に綺麗という感想が心に浮ぶ。
だが、人生の墓場への一歩を踏み出すには外見だけでは不十分。
ヤリタイ盛りの何処かの煩悩少年ならばともかく
二十代に突入した皆本は、そう簡単には頷けない。
結婚という単語が、より身近に感じられる分だけ余計に。
その反発心を感じ取ったか、あっさりと写真は引っ込められた。



「ま、それは冗談として」

「いえ、目が本気色でしたが」

「冗談として、ダ」



有無を言わさぬ眼光に、皆本は黙らされた。下克上の日はまだまだ遠い。
しかし、すぐに視線は和らいで、その代わりに浮んだのは苦笑じみた笑顔。
机の上で肘を付き、両の手を組み合わせて、にこやかに言葉を紡ぎ始める。



「といっても、大した理由じゃ無いんだけどネ。
 まず、一つ目の理由は君以外に適任がいないってコト。
 若くて独身で遊んでる風でもない、かといって変な趣味があるわけでもない。
 結婚してないにもかかわらず、女っ気のまるで無い独り身なんて
 BABEL広しとはいえ、君くらいしか居なかったのだヨ」

「・・・・・・・・・激しいまでに巨大なお世話です」



半眼では返す。好きでこうしてるわけじゃない。
彼とて一人の男。人並みかどーかはさておき、普通にそのような欲とて在る。
だが、普段の多忙な生活が欲を満たす事を許さなかった。
何より、あの三人と関わっていて女性とのお付き合いなど出来るだろうか否。
――――――――考える余地も無く否定出来るあたり、終っているのかもしれない。人生とか。



「そんな顔をするものでは無いヨ。
 もう一つは、君を思ってのことなんだからネ」



絶望臭を漂わせ始めた皆本が、胡乱な目を投げ掛ける。
ゾンビのようなその視線には、深い精神的疲労ばかりではなく
思いがけない局長の言葉に対する驚きが混在していた。



(あの三人ならともかく、僕のため、だって? 
 ・・・・・・・・・・何かのドッキリか? いや、それにしてはカメラが無いな)



付け加えると、不信感も混ざっているようだったが。
そんな彼の内心を知らず、局長は言葉を続ける。



「ほら、BABELって出会いが無いでショ。
 特に君の場合、二十四時間待機状態に近いしネ。ほとんど休みだって無いシ。
 人手が足りないとはいえ、常々申し訳ないなと思ってるんだヨ。
 そんなわけで余計なお世話かも知れないけど、私の出来る範囲で色々と―――――――――」



ネ、と付け加えるようにして言葉を結んだ。
その言葉を聞き終えた時、皆本の心中に芽生えた困惑は
もはや驚愕と呼べるものに取って代わっていた。



「ま、まさか、本当に僕のためを思って!!?」

「はははは、そう驚かなくてもいいじゃないカ。
 上司として部下を思うのは当然だヨ」

「あの三人に対する異常とも言える、いや異常そのものな甘やかしぶり!
 子煩悩通り越したロリコン一歩手前の紙一重人生な狒々ジジイ、とか思ってたりしたんですが
 ちゃんと部下を思う優しい心も、とりあえず一応の所は持ち合わせてたんですね!!!」

「ははははははははははしばくゾこの野郎」



驚きのあまり心中を全て言葉にしてしまった皆本。
こめかみに井桁を貼り付け、握り拳を振るわせる局長。
局長の手は光って唸って、皆本殴れと轟き叫んでいた。まだ、辛うじて自制されているが。
ぴくぴくと震えつつも、再び指を絡めた司令ポーズを取って



「で、引き受けてくれるかナ?」



にっこり、と微笑む局長。スマイルの隠し味は破壊力。
何故だか引き攣った顔のままで、頷きが一つ返される。
部下と上司という立場。それに先の失言も合わせて、もはや皆本に否は無かった。
もっとも、見合い写真が美人であったことも首肯理由の一つ。
写真の顔を思い出し、微妙に鼻の下が伸びた皆本を、一体誰が攻められよう。
繰り返しとなるが付け加えておこう。
皆本とて―――――――所詮、一人の男である。

その返事を聞いて、気を良くしたか漂っていたオーラが消え失せる。
ほっ、と肩を落とした皆本に向けて、局長は念を押すように



「ああ、言うまでも無い事だろうけど
 この件、チルドレンには内緒でネ」

「勿論ですよ。
 あいつらが知ったら、何をされるか解ったものじゃありません。
 面白がって、色々ちょっかいかけてくるに決まってますし」



言いながら普段の生活を思い出したのか、皆本は苦笑を浮べた。
出会ったばかりの頃は、彼女等を思うたびに顔を顰めていた事を考えると
随分打ち解けたと言える。恐らく、チルドレンもまた同様なのだろう。
お目付け役としては満点をつけて差し支えない。
だが・・・・・・・・・・・



「・・・・・・・・・・よくない傾向だナ」

「え?」

「いやいやいや何でも無い、何でも無いサ!!!
 じゃ、じゃぁ頼んだヨ。十日後のこの日でいいネ?」

「はい、空けておきます」



それでは、とだけ言い残して皆本は退室した。















さて、皆本が去った後、部屋に残っているのは局長おんりぃ。
座ったままで仕事もせずに、彼が一体何をしていたかというと



「ふ・・・・・・ふ、ふ、ふふ、ふふふふっふふふふふハーッハッハッハッハッハ!!!!」



笑っていた。しかも高笑い。
傍からその姿を見れば、まさしく悪の首魁の如し。
虚空に向けてサムズアップなんぞをかましつつ



「フフフフフフフフ、これも彼女達を守るためっ!
 さぁ、皆本君! 存分に幸せになるがイイ!
 いっそ結婚してくれても構わないサ!!
 心から祝福しようじゃないカ、むしろ推奨っ!!!」



楽しそうに喚く局長。
何故、彼が笑っているのか?
そんなのは決まっている、計画が上手くいきそうだからだ。

まぁ、つまる所はそういうわけだ。
計画名『レッツお見合い大作戦―――――おじいちゃんは心配性(仮』
またの名は『ロリコン矯正計画―――――ちちしりふともも(仮』
ネーミングセンスは気にしないで頂きたい。どーせ仮である。
その名の通り、皆本にお見合いをさせ、あわよくばゴールインさせてしまおうという策。
発想一日、構想一日、実行一日という、実にインスタントな計画だった。

局長がこのような突発的強攻策に出た理由は、一応在る。
三日程前、予知能力者(プレコグ)に向けてこのような質問をしたのだ。
彼女等に関する予知をさせているうちに、ふと何となく気になった事柄。



『あの子達が将来結ばれる男性はどんな人物かナ?』



知りたかったのは、どんな人物か。
優しいのか、頼れるのか、格好いいのか。
そんな人物像を知りたいという、単純な好奇心。
無論、彼女等の幸せを願う気持ちが根底に存在していた事は言うまでも無い。
だが何故か、答えは固有名詞で返って来た。しかも三人とも同名で。

局長が殺意の波動に目覚めかけても、誰も止められまい。物理的にも精神的にも人情的にも。
ゴルゴなお方に狙撃依頼をしようとした所で、局長は我に返った。
殺った所で意味が無い。その道は恐らく、カタストロフィ一直線。
なら、チルドレンに別の誰かを?
いやいやいやいや落ち着け自分。真っ平ゴメンだ、そんなのはむしろ排除。
やはり皆本の方だ。ヤツをどうにかせねば。
いっそ首にするか? いや、それも駄目。代役が居ない。
普段を見ても解り辛いが、彼は大変優秀なのだ。
簡単に代わりなどは見つけられない。研究の面でも、チルドレンの保護者としても。
ならば、どうするか――――――――――――よし、先に人生の墓場へ叩き込んでやろう。
それが、最終的に局長の下した結論だった。

腐っても上司。皆本の性格くらいは熟知している。
見た目に似合わず頑固、けれど押しには弱い。特に女性。
すぐ関係を持ったりはしないだろうが、強く撥ね付ける事も出来まい。
そして此方からバックアップをすれば、結婚の可能性とて夢ではない。



「いや、ちゃんとしたお見合いである以上、婚前交渉とて無問題!
 そうしたらしめたモノッ! カタパルトで墓場に叩き込んであげヨウッ!!!
 おおいに間違えたまエ、皆本クンッ!!!!!」



何処かの公務員が乗り移ったかのよーに叫ぶ局長。最高にハイって奴だ。
その怪しさときたら、職務質問を飛び越えて実刑判決を下されよう。
しかし残念ながら、いや幸いなことに部屋に居るのは彼一人。
独り言で本音を漏らしまくった所で、それを耳にする者は居ないのだ。誰も。

・・・・・・・・・・この部屋には、だが。











――――――――時は少し遡る。



『ああ、言うまでも無い事だけど
 この件、チルドレンには内緒でネ』

『勿論ですよ。
 あいつらが知ったら、何をされるか解ったものじゃありません』

「・・・・・・・・・あンの野郎っ!!!!!」



其処はBABELの一室。視聴覚室と呼ばれる場所。
放たれた怒声と共に、二人の男が映し出されていたスクリーンが罅割れる。
その脇には一人の女性が立ち、相対するようにして三人の少女達が座り込んでいた。
少女達は言わずもがな、薫、葵、紫穂のかしまし三人娘である。
先程まで見ていた映像のショッキングさに三人は動揺を隠せていなかった。
薫は破壊の余韻も冷め遣らぬと肩を怒らせているし、葵は俯いたままでぶつぶつと何かを呟いている。



「皆本はんサイテー皆本はんサイテー皆本はんサイテー皆本はんサイテー・・・・・・・・・・・・」



膝を抱え込んで、のの字を書き続けるその姿。集中線もとい哀愁まで背負いつつ。
可哀相な子にも見えるのには、気付かないであげるのが優しさだ。
その中で一人、紫穂は唇に指を当てて何かを考えている様子だった。
そんな三人を微笑ましく眺めているのは、唯一の大人の女性である朧女史。
あらあら大変ねぇ、と自分の頬に手を当てる姿は、ちっとも気にした風ではない。
そう、紫穂が考えているのはその一点。



「・・・・・・朧さん、何でこんな映像を私達に見せたの?」



だから、直接に聞く事にした。今現在、他の二人は役に立たなそうだし。
今回、サイコメトリーは使わない。
無論その方が早いし、より多くを知れるのだろうが
何故か、何故か今の朧には触らない方がいいような気がしたから。
触った瞬間に、紫穂の知らない世界とかが見えそうな
何処か漠然とした、けれど確実ちっくな予感が沸き起こっている。
そんな考えを知って知らずか、朧は陰の無い微笑みを浮べて



「あら、余計な手出しだったかしら。
 知らない方が良かった?」

「感謝はしてるけど・・・・・・・・・」



理解や納得が出来ていない。言外にそれを滲ませ、視線に力を込める。
考えを察したのか、朧はそっと瞳を辺りに彷徨わせながら



「『若くて独身で遊んでる風でもない、かといって変な趣味があるわけでもない。
  結婚してないにもかかわらず、女っ気のまるで無い独り身なんて皆本君しかいない』
 そう言ってたわよね?」

「うん」

「そうなのよね。
 BABELで、完全フリーな二十代って皆本君だけなのよ。
 他は恋人がいたり、結婚してたり、ちょっとお年をめされてたりで」

「それで?」

「繰り返すわね。
 女馴れしてなくて、特殊な趣味も持ってなくて、肩書きはエリート。
 性格も悪くないし、顔もそこそこ整ってて、住んでるのは高級マンションで
 しかも付き合ってるような女性の影も形も見えないのは、皆本君だけ。
 いい? 皆本君だけなの」

「ふんふん」

「・・・・・・・・・・・秘書って結構忙しいのよね。
 BABELって出会いが無いし、二十四時間勤務にも近いし、ほとんど休みだって無いし」

「「「・・・・・・・・・・・・・」」」



ブツブツ言っていた薫や葵も無言となり、三人纏めて目を向ける。
伺うような三対の視線を無視するかのように、呟かれるのは『独り言』



「皆本君にとっては、初めてのお見合いですもの。
 ひょっとしたら、緊張の余り、色々と変な事をやってしまうかもしれないわ。
 それでお相手に嫌われたりしたら――――――――あらあら、大変」

「例えば、『偶然』押し倒しちゃったりとか?」



ニヤリ、と浮べた笑みと共に呟いたのは薫。
顔に浮ぶ笑みは深く、けれど目だけが笑っていなかった。



「もしくは、『緊張の余り』ズボンがずり落ちてしもたり、とか?」

「恐いわよねー、『運命の悪戯』って」



葵と紫穂も、それと同じ笑みを浮べている。
対面に立つ朧は、そんな三人を微笑ましく見詰めていた。
ぱちん、と手を叩いて視線を集め、朧は再び口を開く。
限り無い慈しみを、その両眼に乗せながら。
髪に隠れた右目をキラリと光らせながら。



「では貴女達、特務エスパー・チルドレンに任務を与えます。
 内容は『お見合いの監視・お手伝い』
 皆本君が恥をかいて、お見合い相手に嫌われたり
 お互いの間に漂う空気を微妙な感じにしたり
 そもそも、お見合い自体に嫌気がさしたり
 そんな事が無いように、影ながら皆本さんを支えましょうね♪」

「「「Yes,Mom!!!!!」」」











奇しくも局長が馬鹿笑いをしていた、丁度その時

神ならぬ彼には、知れる筈も無かった。

守るべきチルドレン(プラス秘書)が敵にまわった事など。












――――――――さて、日取りが決まったとて時間が速く過ぎるわけでもなく。



お見合いの日まで、各々は思うままに過ごしていた。
局長は見合いの下準備。朧はそれを手伝いつつ作戦を練り。
チルドレンは来る日に備えて牙を研ぐ。
そして、肝心の皆本は普段どおりの生活を。
何時ものように仕事をして、何時ものように失言をして、何時ものようにめり込まされて。
ただ、ほんの少しばかりだけだが、チルドレン達と距離を取るようになっていた。
本人くらいしか気付かない程度の、些細に過ぎる変化ではあるが。



(何といっても紫穂が居るからな。
 出来るだけ考えないように、それでいて忘れないように。
 ・・・・・・いや、どーしろと?)



微妙な汗をかいて悩む皆本。頑張れ、達人への道。
その道を突き進めば、何時かは悟りだって開けるだろう。
かといって、そう簡単に境地へと至れる筈も無く
出来た事と言えば、接触をなるたけ控える事だった。
そんな僅かな齟齬に気付かれないよう、ごくごく自然な振る舞いを演じる。
そうして三人の顔色を伺いながら、皆本は一先ずの安心を得ていた。
――――――――当然、道化の安堵だが。



(よし、まだバレてないみたいだな)

(くくくくく、覚悟してろよ皆本)



女は生れ以っての役者とは、誰が言った言葉だったろうか。
彼女等は外に出さぬようにしてほくそ笑む。
復讐の味は冷めてからが最も美味い、と相場が決まっている。
皆本のお見合いがチルドレンに対する裏切りであるとすれば
これも立派な復讐と言えよう。言えなくても言う。言ってみせる。
少女達三人の微笑みと、皆本との微笑みが交錯する。
普段は微笑ましい光景であるそれは、傍で見る者の背筋を寒くさせる迫力に満ちていた。

三匹の狼少女に囲まれた哀れな羊。
それが、全てを知りつつも沈黙を保っている朧女史に浮んだイメージである。
もっとも、しっかりと局長にはシラを切りとおしているので
彼女とて猫を被った狼の一人であることは、全く否定できないわけだが。




こうして、表面上は平和な日々が過ぎていった。
BABEL内では、原因不明の胃の痛みを訴える人間が続出したらしいが、そんなのは些細な事である。
特にチルドレンの周りにその傾向が見られたらしいが、何故だか上機嫌の局長はそれを器用に黙殺した。
とはいえ、人は慣れる生き物。五日ほども過ぎれば、医師の元へと駆けつける人も少なくなった。
その代わりか、周りの薬局において胃薬の売上が向上したそうだが
・・・・・・・・・・些細な事である。多分。









そして、更に数日後



――――――――――嵐の日、来る。











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