狐少女の将来設計
投稿者名:とらいある
投稿日時:(05/ 9/29)
ある晴れた昼下がりでの事務所内。
美神もおキヌちゃんも馬鹿犬もそわそわしている。
リビングに入り最初にタマモが目にしたのはそんな光景だった。
時計を見るとそろそろ横島が学校から帰ってくる時間だ。
夏休みだから学生は休みの筈なのだが、横島の場合は春・夏休みに補講を受けるという条件で三学年に進級する事ができたからだ。
出席日数が絶望的に足りない上に、当然勉強などしていないから追試の結果なども悪く、
本来なら留年を素通りしてとっくの昔に退学になっていても良い筈なのだが何故かこの程度の懲罰で許されている。
何でもオカルトGメン上層部からの圧力が有ったとか無かったとか。
その日の補講が終わると、横島は家には帰らずそのまま事務所にやってくる。
普段着の予備が事務所に置いてあるからだ。
自宅と事務所間の移動に費やされる電車賃ないし労力を割かないで済むし、なによりバイト時間もその分増える。
何せ居るだけでも時給に加算されるからだ。
その事に美神はあまり良い顔をしていないが。
只今の時刻午後三時ちょい過ぎ。補講も終わりもうそろそろで帰って来る筈だ。
この時間になると、まるで主人の帰りを待ち侘びる飼犬の如く部屋のドア付近をうろつき始める馬鹿犬・
空のグラスと麦茶の容器の乗ったお盆を手に部屋の中を所在無さげにうろうろし始めるおキヌちゃん・
素知らぬ顔で我関せずとデスクに座り資料を整理しているが、時折チラッチラッと壁掛け時計を盗み見る美神、の姿が目に映る。
そんな落ち着かない3人をみて私は、ふぅと溜息をついた。
元々買い物に行くことを告げにリビングに寄っただけだ。
耳に入ったかどうか分からないが、外出する旨を告げてさっさと扉を閉めた。
扉を閉めきる前におキヌちゃんに本を頼まれる。いつも定期購読しているという女性向週刊ゴシップ誌だ。
どこらへんが面白いのか私には判断しかねる。
他人の男女関係のスキャンダルよりも、まずは自らのことを省みたらどうかと考えるのは下世話だろうか。
サンダルを履き玄関を開けるとそこは一面の雪景色・・・なんて事はなく、立ち上る陽炎で景色が揺らいで見える程の灼熱ヂゴク。
湿気を含んだ強烈な熱波が襲い掛かってくる。
なんだか玄関の扉を開けただけで引き返したくなってきた。
うだるような暑さの中を歩きながらヨコシマのことを考えていた。
外に出たのは別にヨコシマと顔を合わせたくないからという訳ではなく最も暑い時間帯は避けたらこの時間帯になっただけだ。
ってなに言い訳しているんだ私は。
別に私はアイツのことを嫌っているわけではない。そんな理由も無いからだ。
どちらかというと観察対象に近いのかも。見ていて飽きないし面白いし。
はじめは女性に飛び掛る悪癖に辟易していたが、それも習性だと思えば何てことない。
今の所自分に実害が及んでいるわけでもないし。
というかこんな美少女に目もくれない方がおかしい。
・・・まぁそれは置いといて。
アプローチの結果のほうも最早お決まりで、無視されるかあからさまに嫌悪感を抱いた視線で射られたり、美神から折檻される。
パターン化しているというのに懲りずに何度も行う事に呆れを通り越して疑問を感じる。
・・・・マゾ?
ヨコシマが私にとって当分の間の退屈しのぎ兼人間観察の対象の訳だが、ただ楽しむ為だけで見ている訳ではない。これにもちゃんとした訳がある。
自分は復活してまだ一年にも満たない。
神通力など昔と比べても、まだまだ遠くに及ばない。
だがいずれ昔のような力を取り戻し発揮することが出来たら私は自分の庇護者となる人間を探し出すため今の居場所から出て行くつもりだ。
決して今の生活環境が苦痛だからというわけでもない。
だからといって全く不満が無いという訳でもない。主に小遣い面で。
美神の元にいるのも元々は社会常識を得るためのもので、ヨコシマ観察はそれと併行して個人的にやっていることだ。
私の明るい将来の為に。
あたしの理想とはズバリ玉の輿。
悠々自適に自堕落に住むのが私の当面の目標だったりする。
最近美神の考えに影響を受けつつあるように思えるのが気のせいだと良いのだけど。
――――ていうか暑い。
日差しが多少柔らかくなり気温もピークを過ぎた筈なのだがまだまだ暑い
着ているワンピースが汗で肌に貼りつき気持ち悪い。
焼けたアスファルトからの輻射熱と、まるで水の中に居るんじゃないかと思えるくらいのじとーっと肌に纏わりつくような湿気。
第一の目的地の本屋が視界に入ったとき、冷房が効いたであろう本屋が私にはパラダイスに見えた。
そしてそのまま吸い込まれるように店の中に入っていった
「ふぃー」
エアコンの噴出口の前で店内で前を独占。これぞ至福
ひとしきり涼んだあと、頼まれた雑誌と目的の雑誌を手に取りレジに向かう。
涼しいところは何時までも居たいが、目的の場所はここだけではない。
本日の最重要課題は別にあった。
「あらタマモちゃん、いらっしゃい」
柔和な顔で私を出迎えてくれるのはここ豆腐屋チエさん(66)
脱サラした跡取りもできて将来は安泰だとか。
私はおばちゃんにいつものお揚げを頼みそのまま店の奥に入っていった。
店番をしているおばちゃんの定位置のすぐ横に腰掛けのんびりとする。
すぐにチエさんがグラスに入れられた豆乳の乗った盆を手にして戻ってきた。
「暑かったでしょう?こう毎日暑いとどうかなっちゃうわよねぇ」
そういいながらグラスと菓子の入った器を差し出してきた。
暑いといいつつも、日本家屋をそのまま利用したこの店は風通しも良く耐え切れない暑さではない。
寧ろ空気がひんやりとしている。
チエさんはお揚げを包んでいる。数などを言わなくてもわかってくれている。
頻繁に買いにくるたび雑談もしているから今じゃ私はここの常連さんという訳だ。
この豆乳はおばちゃんのサービス。
豆乳で乾いた喉を潤しつつ、先程購入した雑誌を袋から取り出す。
目的の一つだったグルメ雑誌特別増刊号(お揚げ特集)と
頼まれた女性向きゴシップ雑誌。おキヌちゃんもこんなんばっか読んでるから変に耳年増なのよね。
そのゴシップ誌の表紙に高額納税ランキングなる物が目につき広げた。
するといるわいるわ。大企業だったり個人資産家だったり。
六道の名が職業GSで載っていたがこういうのは捏造と言うのではないのだろうか?だってありえないし。
ちなみに美神の名は無い。というかお金と共に脱税にも命を掛けている美神がこの雑誌に名を連ねるような下手なことはしない。
国税局のブラックリストには載っているのだろうけど。
そんなランキングを眺めグラスを傾けながら思いを馳せる。
庇護者と言うからには、やっぱそれなりに経済的に裕福な人物が良いと思う。
となると、ここに名を連ねるような人間の元が良いわけだ。
やっぱり贅沢したいし、生活に余裕があると人間心も豊かになるものだと思う。
美神という例外もあるけど。
お揚げを包んでいたチエさんが戻ってきた。
お揚げが入った包みがチエさんの腕の中で上下に揺れるたび私の心もウキウキ弾む。ここのお揚げは最高に美味しいのだ。
チエさんは戸棚からお菓子を取り出しTVをつけてくれた。
TVでは海を挟んだ隣国の長が画面の中でなにやら喚き散らしている。
指名されたら任期が終わるまで長の椅子に居座り続けることができるその指導者からは、どこか独裁者に近いものを感じる。
そんな事を考えつつ再び思考する。
資産家・大富豪だからといって絶対的な権力者とはまた違う。
たとえ兆がつく程の資産家でも国の軍隊や特殊警察を動かすことなどできない。
極論だが、逆に絶対権力者は国家反逆罪などの名目で自由に拘束・財産接収等できる筈だ。
絶対権力者にできて、資産家に出来ない事など数多くあるのだろう。
私の考え偏ってる?
残った豆乳を一気に煽り、飲み干した後代金を支払い店を出た。
日が多少傾き、風も出てきたためか先程よりは過ごし易い。
考え事をしながら歩を進めていた。
結論を言えば資産持ちの権力者、それも政局に大きく係わる事のできる程の権力者。これが狙い目だ。
でもそれだけで良いのだろうか?他にもっと重要なことを見過ごしているような気がする。それはなんだったろうか?
うーん、とこめかみを押さえながら正面も見ずに歩いてたせいで前から歩いて来た人に肩がぶつかった。
「ってーな。オイ、待てよ」
ついでに思考の海にどっぷり浸かっていたせいで、人にぶつかった事も気づけなかった。
だから腕を掴まれてはじめて存在に気づいた為、何で私が取り囲まれ無ければならないんだ?という気持ちと
考えを中断された事で憮然となった。
取り囲んでいるのは柄の悪そうな三人組。
「うひょ〜スゲー美人。マジ最高!ヤベー。なぁ俺らとイイトコ行かない?」
「あー痛てー。折れてるかも。」
「人にぶつかっといて謝罪も何もないもんなぁ。拒否れないっしょ?」
ニヤニヤ笑いながら言い寄っている三人組。その内の一人などわざとらしく腕を肩からぶらんぶらんと揺らしている。
骨が折れていることを演出しているのだろうか?全く下手な演技だ。
こんな奴らがいるから・・・呆れながら、心の中で盛大に溜息をつく。
周りの人達も遠巻きに見ているだけで、誰一人として助けに来ようともしない。
さて、どうやって切り抜けようかと思案したところ、ふと視界の端にみなれた人形が目に映る。
一計を案じて再び三人組に向き直る。
口の端でニヤソと笑みがこぼれた。
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全国チェーンのケーキ屋『不死身屋』のイメージキャラクター・ベロちゃん人形
に下卑た笑みを浮かべて言い寄っている件の三人組。正直不気味だ。
主体性の無い、空っぽな人間は幻術が面白いように効いてくれる。
ベロちゃん人形の肩を抱き寄せる間抜けな三人組を周囲の買い物客はあからさまに蔑んだ目で見つめている。
中には指さしている子供の手を無理矢理引いて足早に遠ざかっていく買い物帰りらしき主婦もいる。
不死身屋の店員も気持ち悪がって声を掛けることもできずにいる。
まぁこんな社会のゴミはさっさと警察のご厄介になったほうが世の為人の為なんだろうけど。
もうこの町は歩けないわね。でも同情なんてしなくてよ?自業自得だし。
首を竦めるとその場から立ち去った。
まぁあいつらだけが悪いんじゃない
類まれなる美貌にあてられたからなのだ。こればかりは仕方が無い。
絡まれて幻術を使ったあとちょっとだけ、自分の前世である玉藻前の事を思い出した。
そのせいか先程から引っ掛っていたことが今漸く分かった。分かったというより思い出された。
――――かつての私・・・都中に蔓延る魑魅魍魎蔓を余所に、結界と屈強な兵士達に護られた邸の中で、傅く女官
に囲まれながら鳥羽上皇の寵愛を一身に受けていたあの頃。私は何不自由の無い生活を送っていた。
でも平穏だったのは、鳥羽上皇が重い病にかかり床に臥せてしまうまでだった。当時のこの国の医療技術では
とても治せないものだった。私は大陸から追われる前に身につけていた医学で治療に務めた。
私は自分の居場所を無くさない為にも必死だった。
幸い権力者という事もあって大陸でしか手に入らないような貴重な薬草も確保できた。
治療の甲斐もあってか鳥羽上皇の病状は次第に回復傾向に向かっていた。
そんなときだった。鳥羽上皇が病に伏せてるという噂を聞きつけてやってきたのが陰陽師・安倍泰成だった。
その時鳥羽上皇は短時間なら上半身を起こすこともできるくらいまで回復していた。
安倍泰成は、魑魅魍魎の類が鳥羽上皇を蝕んでいるものだと考えていた。
そして鳥羽上皇の介護をする私の正体を見破り問答無用で襲い掛かってきた。
不意を突かれた私は逃げることしかできなかった――――
湿気を含んだ生温い風が頬を撫でる。ふと空を見上げるとあれだけ嫌味なくらい晴れ渡っていた青空は、
いつの間にか薄暗い雲がかかった曇天模様になっていた。
たしかこの近辺に比較的大きな公園があった筈だ。
記憶を頼りに私は駆け出した。
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ざーっ
雨が冷たい空気を運んでくれる。
雨が降り出す直前に間一髪、私は丸太のテーブルのある屋根付のベンチコーナーに駆け込むことができた。
あと少し遅ければ今頃濡れ鼠ならぬ濡れ狐になっていた所だった。
ベンチとテーブルの上の砂と埃を手で払い腰掛け、そして頬杖き物思いに耽る。
「さっきの案も・・・没ね」
媚入る先は権力者でもあり資産家・・・を狙っていたわけだがそれだけでは駄目なのだ。
再び、前世の自分の記憶を思い起こしてみる。
――――私が都から脱出した後、それからの鳥羽上皇の回復は早かったらしい。
らしいというのは追われている時に人伝えに聞いたからだ。
だがそれも私が手を尽くしたからであり、傍を離れ呪いが解けたからではない。
第一そんなことをする理由もない。
だが回復した鳥羽上皇は安倍泰成から私が大陸から渡ってきた白面金毛九尾の狐であり、
本朝の転覆が目的という妄言を信じ込み、私を撃つ為に上総介と三浦介という二人の武士を遣わした。
あとはもうご承知の通り。私は下野国那須野(現在の栃木県那須町)に追い詰められそして討たれた。
当時は飢饉や病などによる死者も多く、それにより餓鬼などの魑魅魍魎が都に蔓延っていたから民の被害も大きかった。
だから物の怪の私を目の敵にしていたというのも分からないでもない。
でも正直、最後まで信じてもらえなかったことの悔しさや、悲しさも当然あった。
私は自分の居場所を確保する為に必死になって治療に努めていたが、もしかして心の奥底ではそれだけではなかったのかも知れない。
今となっては、当時の自分の気持ちなど知る由もないが――――
前世の私の記憶が、また同じ事が起きないかと警鐘を鳴らしている。
一度裏切りを味わった人は、裏切りに対して恐れを抱くようになる。今の私が正にそれ。
そう考えると下手に昔のことを思い出さなかったほうが良かったかも知れない。
でも後で思い出して後悔するより良かったかも、と考え直す。
利害関係や損得勘定だけの付き合いなんて駄目なのだ。
たとえ私が何者であろうと、私との間に境界線を引かず常に対等に接してくれる人。
私の生存がばれて追われる立場になり、たとえ世界中を敵に回したとしてもあらゆる脅威・悪意から守ってくれるようなそんな強い力を持つ人。
その力とは、権力といった『力』ではなく、生き残る為に戦う為の『力』
昔と違い、単体での調伏士の力は大きく衰退しているが、Gメンという数で押して来る組織もある。それも身近に。
Gメンのような新興組織だけでなくキリスト教や仏教などの宗教の総本山が追討令を出さないとも限らない。
だから私に降りかかってくるあらゆる脅威を打ち払い、退けて守ってくれるような力を持つ人。
そして最後まで変わらぬ愛を保ち続けてくれそうな人。
「そんな奴、一人しか居ないじゃない」
頭の中で一人の人物の像が浮かびあがる。
実は頭の中で問答を始める前からアイツの、ヨコシマの姿が脳裏に浮かんでいた。
というより、ヨコシマの影を追いかけていた。庇護者の条件を脳内で掲げるたびにヨコシマにその該当があるかどうか最初に考えていた。
私の中で、答えはもう既に出されていたのだろう。
ヨコシマを好きだと言う答えを。
そうでなければ、除霊時に本当に安心して背中を任せられる相方が、同じ物の怪の馬鹿犬を除いたらヨコシマしかいないなんてことはない。
技術や知識・近接戦での実力を考えれば、ヨコシマより上の美神や雪之丞でも安心できる筈だからだ。
事務所でくつろいでいる時、傍にいる人で心が温かくなってくるのも、おキヌちゃんではなくヨコシマだ。
ひのめのお守りを(無理矢理)押し付けられて荒立つ心も、ヨコシマと一緒だったら穏やかな心になれる。
尤も、お守りをヨコシマに押し付けるからなのかも知れないけど。
でも、必死になってひのめをあやすヨコシマを傍から見ていると微笑ましいというか、言い様の無いなにかで心がホッと満たされる。
人間観察なんてただの言い訳、私はヨコシマを見ていたいだけだ。
結局答えなど最初から出ていたようだ。
ただ、その理由付けがしたかっただけという事を今更気づいた。
夕立は既に上がっており、夕陽が雲の間から顔を覗かせていた。
はっきりと答えが出た為かそれともその答えの正答が証明された為か、ちょっとだけ心の中にも晴れ間が見えていた。
ベンチから立ち上がり、水溜りのできた広場を抜け公園から出て事務所に歩を向ける。
夕立のおかげであの茹だる様な暑さもかなり緩和されていた。
涼しげな風が心地よい。
全く・・・取り入るつもりが、私のほうが取り入られていたなんてね。
馬鹿で、貧乏で、少し綺麗な女を見ると問答無用で口説きにかかる。
でもとても優しくて、そして馬鹿みたいに明るい奴だけど、時折夕陽を見つめては似合わないぐらい寂しげな表情を浮かべている。
このあいだも除霊中に夕陽に気を取られ、そして決して小さくない傷を負っていた。
除霊終了後の美神のどこか遠慮がちな叱責を何も言わずに黙って受けていた。その時はおキヌちゃんも終始無言だった。
その日は夜にも別件で除霊があったのだが、現場への移動中も除霊中もその除霊後でも、美神とおキヌちゃんはヨコシマに対しどこか余所余所しかった。
その日は私も非常に居心地が悪い思いをした。
ヨコシマには何か暗い過去があり、それを起因として心に深い傷を内包していていることは何も知らない私にもなんとなく分かる。
周囲の皆がその傷に触れぬようしているようだが本当にそれで良いのだろうか?
今の所、誰にもその事について聞くような事はしていない。聞いたところで誰も教えてくれないだろうという事が分かっているからだ。
私はこんな性格だから他人の心を優しく包み込むなんて事はしない。
私に出来る事は記憶の忘却に手を貸すだけに過ぎない。
人間は忘れる動物だ。どれだけ心に鮮明に残る記憶でも、いづれ日常に忙殺され薄れていくことになるだろう。
流されるように過ごす日常の中で、ヨコシマの心の記憶を私という存在で上書きするのだ。
昔の事など思い出せなくなるくらい魂の髄まで刻み込んでやる。
今のヨコシマには、私の理想とする要素は殆ど無きに等しい。
でもお金が無いなら稼げばいい。権力が無ければ得ることができるよう協力して支えてあげればいい。
アイツは意外に人徳もあれば人脈もあるから周囲の人間も支えてくれるだろう。
浮気性なところもあるかもしれないけど、でも一緒になったあとアイツが私を捨てるということは無いだろう。
確たる要素など無い。なんとなく、だ。
まぁ、実際に他の女に気が向いたとしたら後悔させるだけだし。フフッ
そこまで考えて、あまりにも先行した妄想をしていることに気づき恥じ入る。
妄想に夢中で歩調が知らず知らずの内に競歩の強化選手並になっており、そして何時の間にか事務所の玄関前に立っていた。
妄想と早歩きで荒れた呼吸を整える。
呼吸を整え事務所の玄関扉のノブに手を掛けようとしたその時、玄関扉は開かれた。
「っと、タマモか」
出てきたのは雨で濡れて通常より更に黒く見える制服を着た横島だった。まだ髪が濡れているから事務所に着いたばかりなのだろう。
だがタマモにはその事に気づける程の余裕なんか無かった。
お互いの顔の距離は十数センチ。
先程の妄想が急速に逆再生を開始する。一瞬でタマモの顔が真っ赤に彩られる。
次の瞬間タマモの口から出た言葉は挨拶でも、ましてや愛の告白などでもなく、何故か絹を引き裂くような甲高い悲鳴であった。
響き渡る悲鳴と挙動不審にオロオロしている横島。
悲鳴を聞きつけ、凄い勢いで階段を駆け下りてくる二人と一匹がはじめに見たのがそんな光景だった。
直死な視線に気づいたのか、硬直する横島。
ははっと愛想笑いを浮かべる。ついでに訳分かりませーん、なジェスチャーをしてみながら。
鬼神ズの4つの瞳がキュイーンと怪しく光を放つ。
それを見て自然と体が震えだす横島。
ぐわしッと女性とは思えないほどの握力で襟首を掴まれる。
横島の瞳は、昼下がりに市場に売られていく子牛よりも悲壮感に溢れるものであった。合掌
*残酷&残虐シーンにつき音声のみでお送りします。多少お聞き苦しい所もありますが御了承下さい。
「ちょ、待っ」ドカっベキっ
このロリコン野郎、今度は一体何をしくさりやがった。さあキリキリ話せ。
「だ、だから違ッ」ゴキゅグキン
ふふふ、一体どんな言い訳を言ってくれるんですかぁ?
「お・・ちゃん、話・・・聞・・・」ガスっメキゃ
その後、メキメキだとかビシっとかプチン(?)など決して人体から出してはいけない様な音が暫くの間鳴り響いた。
玄関前の公衆の面前での惨事だった為、子供と主婦を主とした大勢の人目についていた。
惨劇を目の当たりにした何人かは、あまりの残虐さに気分を悪くして病院に担ぎ込まれていった。
そんな凄惨な様を呆然と見ていたタマモが我に返り説明を終えた頃には、
拷問を伴う詰問を受けた哀れな横島は、使い古したボロボロの雑巾ノヨウナモノに変わり果てていた。
シロはシロで尻尾を足の間に丸め込み、その様相を前に脅えまくっていた。
ソファの上で横島に膝枕をするタマモ。横島の意識は未だなお、遠いお空の彼方であった。
結局タマモの説明は、驚いて声を上げただけだったという無難(?)なものだった。
まぁどちらにせよ、そんな理由で襤褸雑巾にされる身にもなってみろよ、と怨嗟の声が聞こえそうだ。
傷そのものは、シロとタマモのヒーリングにより目立ったものは見当たらない。
膝枕の理由として、タマモのヒーリングはシロと違い接触方式なのでやっているに過ぎない・・・筈だ。
ヒーリングが済んだにも係わらず膝枕を続けるのは、寝入った横島を起こしたくないからに違いない・・・多分。
こめかみに青筋をたてながら、そう己を無理矢理納得させる勘違い拷問官2名。
あの後、タマモ本人から真実を聞き出した美神とオキヌは横島の人事不省に責任を少しは感じているのか、今の所黙って何も言わない。
横目でチラッチラッ様子を伺っているのがなんともいじらしい。これが先程の悪鬼と同人物とは思えない程だ。
シロは舐め疲れたのかタマモの横で『自称:狼形態』で横になっている。軽く寝息も立てているから寝入っているのだろう。
横島を独占する形になったタマモは満足気な様子でさわさわと横島の前髪を撫でながら、いとおしげに横島の顔を覗き込む。
あどけなさの残る可愛い寝顔。人差し指で頬を突っついてみる。
一通りの満足感が得られると、今度はちょっとした悪戯心が湧きあがる。
自分と横島の姿が美神達からは背中しか見えない位置である事を目だけ動かして確認する。
そして己の唇に指を這わせ、次いでその指で横島の唇をなぞった。
「狐の狩りは頭脳戦なのよ?」
そっと指で唇に触れた瞬間、ビクッと硬直した横島をどこか満足そうに眺めつつ
「いづれ、魂の髄の髄までワタシの物にしてあげる」
妖艶な笑みを口の端に浮かべながら小さく呟いた。
横島の狸寝入りなど見抜けぬ筈もなかったタマモの宣戦布告。
後に横島争奪戦争とも呼ばれる犬も食わぬような(ただし狼は食う)泥沼ちっくな争いに、タマモが新たなる参戦者として名乗りを挙げた瞬間でもあった。
終われ
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お久しぶりです「とらいある」です
まず最初に・・・続きません(笑)
それよりanotherと幽霊を進めます。
もし好評なら続きを書くかも知れませんが、その時はまたよろしくお願いします。
では、また
今までの
コメント:
- がーん。続かないんだ...
この先どんな頭脳戦が繰り広げられるか気になります>< (バナナワニ)
- 続く・・・・ですよね。
長文で.読み応えありましたよ。 (惨劇現場の料理人)
- うそ〜ん、いいところなのに〜
ぜひぜひ続編をお願いします〜 (ヨッシ〜)
- 自分も続編読みたいです
しかし横島はなんで狸寝入りなんぞ…
ああそうかフトモモの感触かそーかそーか (こっこMk.U)
- 続けても良さげな内容だと思うんですけどねw (皇 翠輝)
- とーぜん、続きますよね?
面白いんで、この続きほしいです!
私もタマモさんに膝枕してほしいなぁ〜(爆) (わーくん)
- いいなぁ〜タマモいい!
ぜひとも続きを読ませてください!!
お願いします\(−0−)/ (セラ)
- タマモが可愛いですね。
色々と考え込んじゃう所,彼女らしいかなと思います。 (偽バルタン)
- タマモはかわいかったんですが、他がちょっと・・・・
>横目でチラッチラッ様子を伺っているのがなんともいじらしい。
確かに、その光景はいじらしそうだけど、その前の行動がいぢらしくない(涙) (まさのりん)
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