ザ・グレート・展開予測ショー

すべての犬は天国へ行く(3)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/ 9/25)

3

Gメン日本支部。
ベッドに横たえられた唐巣は上半身に包帯を巻き苦しそうな寝息を立てていた。

「ジョバンニ・ノキア・・・。こうも大っぴらに動いてくるとは。唐巣先生がGS協会の会長であると、知らぬわけでもあるまいに・・・。」

西条はベッドの横にしつらえられたテーブルにタマモと向かい合って座っている。

「シロ・・・・・。」

タマモの相貌は疲労の色が濃い。彼女の親友は今正に、そのジョバンニ・ノキアの手に落ちているのだ。
西条はタマモの手を取ると、その手を無言で握り締めた。タマモの握り返す力は初めは弱弱しかったが、やがて何かに耐えるように力が込められていった。

「でもわからないわ・・・。『アプラクサス』はテロ組織なんでしょう?なんでバチカンの執行人が出てくるのよ。」

西条は一瞬眉根を寄せた後、深いため息をついた。

「・・・・・・・・・・・・君の専門は国際政治だったね。現在合衆国に強い影響力を持つ二つの大きな力がある。一つは言わずと知れたユダヤのシオニストたち。彼らは特に中東問題に大きな影を落としているとも言われる。そしてもう一つは法王庁だ。
 バチカンは1985年に国交を樹立して以来、合衆国の最良の友好国の一つであり、法王は合衆国国内にいくつも銀行を有している。ユダヤ・ロビーと法王を敵に回して合衆国で大統領は出来ないということだよ。あわや『カノッサの屈辱』になるからね。
 バチカンの最大の売り物は2000年の間に蓄えられた膨大なオカルト技術だ。それは世界各国の軍部にも提供されるだろうが、技術自体には当然善悪はない。そして現在オカルト技術を欲しているのは各国軍部というより――――」

「テロリスト・・・ってことね。確かにオカルトは圧倒的な戦力差を埋めるのには丁度良い手段だわ。代償もそれなりに大きいでしょうけど。」

タマモは臍を噛むような思いで唇を噛む。彼らが支払った代償は、タマモの心にも見えない傷を残している。
自然西条の手を握る小さな手にも力が込められる。
西条は紅茶を口に含み唇を湿らせてから、話の続きを語りだした。

「・・・・・・・・ここからは想像力の話になるが。君も以前言っていたね。穿った見方をすれば現在の軍需産業はテロリスト抜きには成り立たない。下手をすると抗争のいくつかはテロリストたちと大国のデキレースってこともあるかもしれないね。」

「・・・・・・・・・・・罪深きは常に人、というところだろうかね。」

「唐巣先生ッ。」

唐巣は目を覚ますと無理に上体を起こそうとした。激痛に顔をしかめるが、今はそれを意に介している暇はないようだ。

「い、今は何日の何時ごろだね?」

「先生ッ、横になっていて下さい。手術は成功しましたが絶対安静の状態なんですよッ。」

「西条君、今は何日の何時頃だろう?」

ふぅ、と西条はあきらめた様にため息を吐いた。

「・・・・先生が襲われてからまだ1日と経っていませんよ。今は翌日の午前7時頃です。」

「そうか、半日近く眠っていたのか・・・。タマモ君。」

「え?あ、はい。」

「済まなかったね。私がいてみすみす君の親友を連れ去られてしまった・・・。」

「そんな、唐巣さんのせいじゃない・・・。」

「いや、私の責任だよ。西条君、『ジューダス・ペイン』はどこにある?」

「・・・・・・・・・・ここに。」

西条はそう言うと足元のアタッシュケースの中から赤い宝玉を取り出した。

「これは、やはり・・・・?」

「私も本物を拝むのは初めてだがね。おそらく間違いない。地獄炉の余剰生産物。深紅のプルトニウムとも呼ばれるものだよ。古くはインドの古代魔法戦争で用いられ後にキリスト教圏で使用されたといわれる忌まわしき物質。」

「一体、一体それはなんなのッ?」

堪りかねてタマモの声が荒げられる。

「・・・・つまり、メギドフレイムの原料だ。」



「・・・・・・・・メギドフレイム?」

林間に打ち捨てられた礼拝堂。その一室に、シロは野太い鎖で縛られて転がされていた。その声は痛々しいほどに弱弱しい。
身体中に無数の傷跡がある。

「そうだ。ソドムとゴモラを焼き尽くしたあの炎だ。古くは『リグ・ヴェーダ』の『インドラの矢』。貴様ら獣人に関係の深いところで言えば『エッダ』の『巫女の予言』に記される『グングニル』がそれに当たる。フェンリル狼に食い殺される主神オーディンの有する兵器だ。北欧神話ではこの世の最初の戦争の開幕時に使用されたと言われている。」

言いながらジョバンニ・ノキアはシロの美しい顔を踏みつける。これ以上楽しいことなどないといった風に。

「旧神が戦争に用いたほどの兵器だ。どんなに過少に見積もってもICBM(大陸間弾道ミサイル)以上の威力であるのは間違いない。バチカンは今後政治力だけでなく、もっと具体的な決定力をも手にすることになる。そしてそれをバチカンに齎すのは、このジョバンニ・ノキアだ。」

ジョバンニは恍惚とした表情でシロの顔を踏みにじり続ける。シロはただ屈辱に耐えていた。この縛鎖から解き放たれたその時に、自分の人狼の力と誇りを最大限解き放てるように。

「ノキア師。バチカンから通信が入っております。」

ジョバンニはそれを聞くと露骨に嫌そうな顔をする。楽しみを邪魔された魔王のような表情で。

「・・・・・・っち。今行く。ガルム、このメス犬から目を離すなよ。なんならこの場で繁殖を始めてしまってもいいぞ。貴様らは穢れているとは言え稀少種だからな。」

下品な笑い声を上げながら、ジョバンニはその部屋から去っていった。

後に残されたのはガルムとシロの二人である。シロは露骨に警戒している。

「そ、それだけは・・・。そんなことになれば拙者舌を噛むでござるよッ。」

手足を縛られ身動きの取れないシロに向かって差し出されたガルムの小さな両の手には、しかし綺麗な水が湛えられていた。

「それを・・・・・拙者に?」

ガルムは依然表情の読めない相貌で、しかし小さく頷いた。その瞳の奥にあるのは虚無ではなく・・・・・・。

「深い、深い悲しみ。ガルム、お主・・・・・・・・、辛いのでござるな。」

ガルムの両目からとめどなく涙が流れている。しかしその表情は変わらず、自分の頬を流れる液体を感じてひたすらに不思議そうにしていた。



「先生、少し席を外させていただきます。」

西条とタマモは一礼して唐巣の部屋を辞した。
ICPOのヨーロッパ支部から連絡が入ったのだ。

「行方不明(ロスト)だと?」

「ピエトロ・ブラドー主任捜査官は確かにフランスの空港を出立したようですが、その航空機は現在管制から外れています。どうやらハイジャックに見舞われた模様です。」

「偶然・・・・・ってことはないわね。」

「奴らどこまでッ。・・・・・・・・・・・・・・墜落という情報も入ってはないんだな?」

「今のところは・・・。」

「クソッ。タマモ君。先生のそばにいてあげてくれ。勿論今のことは告げずにだ。この上ピート君まで行方知れずなどということを先生に知らせるわけにはいかない。」

「・・・・・・・・わかった。」

タマモが唐巣が横たわる部屋に行こうとすると捜査官の一人が慌てて駆け込んできた。

「大変ですッ!唐巣会長が部屋から消えました。『ジューダス・ペイン』の入ったアタッシュケースも一緒です。」

「何ッ!!

慌てて駆けつける二人、確かに唐巣のベッドは空になっており、代わりに手紙のような書置きが一通置いてあった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一人で来るようにと指定されていたのかッ。クソッ。迂闊だった。直ぐに先生の行方を突き止めるんだ。」

キキィ、ブロロロロロロッロロロッ

「この音は・・・・?」

「西条支部長ッ!!大変です。唐巣会長がGメンの特殊車両を奪って逃走。あれには第一種特殊戦闘配備が・・・・・・。」

「せ、先生って意外と過激だからな・・・・・・。」

「言ってる場合ッ!!直ぐに後を追わないと・・・・」

「西条支部長ッ!!」

「今度は何よッ!!!!」

タマモの怒声に、可愛そうな伝令の捜査官が縮み上がっている。

「そ、そ、それが、ピエトロ主任が乗席していた航空機の乗員名簿に『横島忠夫』氏の名前が・・・・・・・。」

「へ?」

その名前を聞いて、タマモと西条の表情が少しだけ和らぐ。
最悪な事態に変わりはないが、それでも事態を好転させるでたらめな気配を、その男の名は纏っていた。




(続)

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