ザ・グレート・展開予測ショー

すべての犬は天国へ行く(2)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/ 9/25)

「ジョバンニ・ノキア?」

 ICPO日本支部の一室で西条輝彦は金髪の美しい女性と会話していた。この所オカルト関連の事件続きで息つく暇もなかったが、今日は久しぶりに内勤である。溜まりに溜まった報告書を助手兼恋人のタマモとともにせっせとこなしている。

「あぁ、昨日空港で入国が確認された。彼とガルム・イーゼルという少年の二人でね。」

「何者なの?」

「国際テロ組織『アプラクサス』との関係が囁かれる人物だ。もちろん彼自身はそれを否定しているし明確な証拠は何もないけどね。とにかく灰色の部分が多い。その経歴についてもところどころ非常に曖昧な箇所がある。」

「別件で取り調べられなかったの?」

「その発想には警察官として些か問題があるぞタマモ君。」

「研修中ですから。身分はまだ学生よ。」

「ふう。まあいい。ICPO内にもそう言った意見がないわけではないからね。しかし彼の特殊な境遇がそう言った微妙な理由での捜査を困難にしているんだよ。」

「特殊な境遇?」

西条は書類を机のファイルに戻し、温くなった珈琲を口元に運んだ。

「彼はバチカン市国の教理省教理促進委員会実務執行係、立派な聖職者なんだよ。」



「カズヒロ・カラスだな?」

地底の底から集めたあらゆる重金属を用いて作ったラッパの音のような、異様な圧力に包まれた声を持つ男だった。

「・・・・・ジョバンニ師?」

唐巣は意外な来訪者に首を傾げる。しかしその直後には何かを悟りきった表情で深い、地底までも届きそうなため息をついた。

「何者でござる?」

「・・・バチカンというキリスト教の小さな国があるが、彼はそこの教理省教理促進委員会実務執行係、現代の異端審問官と呼ばれるジョバンニ・ノキアという人物だよ。」

「キリスト教・・・?では唐巣殿のご同輩でござるか?」

「貴様今なんと言ったッ!!」

「きゃいんッ!」

ジョバンニの突然の怒声に思わず飛び上がるシロ。ジョバンニは非常に不機嫌そうな、というよりも明らかな嫌悪感をむき出しにしたような顔で、唐巣の方を睨んでいる。

「・・・え、私?」

「その男は穢れた異教の儀式を執り行い聖職を破門された男だ。厚かましくもこんな教会で神父気取りとはな。自分の立場を弁えろッ!!!
・・・・・・まぁいい。カラス。用件は分かっているな?それをこっちに渡せ。」

ジョバンニが指差したのは、先ほど開封したばかりの、ピートから郵送された赤い宝玉であった。

「・・・・お断りします。これはフランスの知人が送ってくれたお土産のようです。師の仰っていることが何のことだか私には分かりかねます。何かの勘違いではありませんかな。」

 するとジョバンニはこめかみを親指と人差し指で押さえ何かを理解しかねるといった表情で天を仰ぎ、ぶつぶつと何かを唱えだした。

「な、何かお近づきになりにくい人間でござるな?」

「・・・・・・・・・・・。」

 数秒の後ジョバンニは不意にかっと目を開くと、懐に手を入れながら唐巣にこう言い放った。

 「ならば死ね。異端が。」

ほとんど抑揚のないその声はその場の全員に言葉の意味を理解させないものだった。しかし言葉を発した当人は誰よりもその意味を理解していて、懐から銀色の装飾銃を取り出すと、全く何のためらいもなく唐巣の脳天に向けて発砲した。

ガキィンッ!!

間一髪、銃弾は唐巣の額を捉えなかった。超常の反射神経と瞬発力を持つ人狼の抜き放った白光りする太刀が、寸での所で銃弾を叩き落したのだ。

「貴様、いきなり何をするでござるッ!」

唐巣は流石にへたり込むことなどなかったが、びっしょりと汗をかいていた。シロがこの場に居合わせなければ、自分は間違いなく死んでいただろうから。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やれ。」

ジョバンニが軽く指を鳴らすと武装集団は唐巣たちに向けて小銃の照準を合わせる。その指が今にも引き金を弾こうとした時、妖艶なほどの美しさを持つ銀髪の狼はうっすらと笑みを浮かべた。

「なめられたものでござるね」

シロが太刀をゆっくりと鞘に納めたところまではそこにいた全員が目視できた。しかし次の瞬間―――――――。

キィィィィィィィィィン。

武装集団全員の小銃が叩き斬られ使い物にならなくなっていた。ほとんど一音に聞こえる太刀の音が聞こえたのは凄まじい破壊が行われた後のことであった。

「よ、妖刀八房による居合抜きか・・・・。既に音速を超えているとはね。また腕を上げたんじゃないかシロくん。」

「へへへ。早く横島先生に追いつきたいでござるからな。」

ジョバンニは眉根に皴を寄せ一族郎党がことごとく滅びたかのような凶悪な面相を浮かべる。

「・・・・・・・・ほう、貴様ウェアウルフか。奇妙な巡り会わせというところかな?どちらにせよこいつを連れてきたのは正解だったわけだ。・・・・来い、ガルム。」

 きぃいいいい。

再度教会の扉が開き、一人の少年が入ってくる。年のころは十歳くらいであろうか。綺麗なとび色の目をしていたが、その双眸からは感情といったものが一切欠落していた。

「――――!?人狼族?」

 一陣の風が少年の纏うローブをはためかせる。ローブの下のむき出しの裸には太い鎖と巨大な錠とが縦横無尽に張り巡らされていた。

 「縛鎖型封印施術27式――――――、『カザンの聖母』ッ!!」

 「慈悲深き神の名の下に汝に彼の地上での意の代行を一時的に許可しよう。ガルム、行け。ハレルヤ。」

 強力な閃光とともにガルムと呼ばれる少年は両目を見開き耳に手を当て一生懸命に何かを押さえつけんとしている。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

「い、一体なんでござる。」

数秒後閃光が途絶えた時、そこにいたのは3メートル近い巨体を持った灰色の人狼であった。

「うぅ、ふぅ、うぅ、ふぅ、うぅ、ふぅ・・・。アゥオオオオオオオオオオオオオオオオ大オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!」

 「ま、まるであの時の犬飼のようでござる・・。」

 血走った目をし、明らかに正気を逸したガルムがシロに向かって飛び掛るッ。

ガキィンッ!!

「は、早いッ!」

鋭い爪での一撃を何とか八房で受けるシロ。その音は剣戟の後に聞こえたのだった。

「ガルムはバチカンの退魔用封印獣の中でも選りすぐりのウェアウルフであり私の最高傑作だ。カラス、ガルムに殺されることを光栄に思うのだな。」

「罪深きことをッ。」

「ウウウウウウウウウウウウウウッ!!」

ガルムが右腕を押さえ集中するとそこには巨大な鉤爪状の霊波刀が具現化する。

「霊波爪といったところでござるか。厄介でござるね。それにしても―――――」

ガルムは涎をだらだらと垂れ流し狂気の瞳でシロを睨みつけている。

「哀れな。それはもはや野性ではござらん。・・・・魔性でござる。殺戮を楽しむような獣はもはや獣にあらずッ。」

「ぐるるるるるっるううるるるるるるるるるっるる、アゥオオオオオオオオオオンッ!!!」

裂ぱくの気合とともに突進してくるガルムをシロは八房で捌きかわす。

(重いッ・・・・・・が、倒せぬ相手ではござらん。)

ガルムが大降りの一撃を放ったところをシロはスウェーバックとダッキングで鮮やかにかわし柄を握る手に力を込めた。

「甘い、そこッ!!」

「お前がな。祝福されし神の鎖よ。呪われし迷い子を縛めよッ!!!」

「いかんッ!退けシロ君ッ!!!!」

「な、何!?」

瞬間、ガルムを縛める鎖の一部が物理法則を無視して伸張し八房を握るシロの腕を絡めとる。

「・・・・不覚。」

直後には、シロの関節という関節を野太い鎖が縛り上げていた。

「シロ君っ!!!」

「うぅっ、くぅ、あぁっ。」

苦悶に喘ぐシロとは正反対に、術式をかけたジョバンニは嬉しそうに、殊更凶悪に笑った。

「はははははははははははははははははっ!!!さぁ、カラス。さっきの続きだ。お盛りの獣人抜きで銀の弾丸をかわして見せろ。」

「か・・・・唐巣殿・・・。」

しかしその時武装した兵士の一人が何事かをジョバンニに耳打ちする。それを聞いたジョバンニは憤怒の表情を浮かべ伝令の兵士を殴りつける。

「・・・・・運のいい奴。ICPOがそこまで来ているらしい。お前と遊ぶ時間がなくなった。・・・・・・・カラス。M山の中腹に打ち捨てられた小さな礼拝堂がある。明日の正午その宝玉、『ジューダス・ペイン』を持って必ず一人で来いッ。それまでこの穢れた獣人は生かしておいてやる。」

「こ、このまま行かせるものかッ!!!!」

「ガルム、やれ。」

ガルムが霊波爪を一閃する。唐巣は咄嗟に結界を展開しなんとかその一撃に耐える。

「ぐ、ぐはっ。」

「あばらの2,3本はいったか。ふん、無理せずとも明日にはこの世から抹殺してやる。いいな、カラスッ!!必ず一人で来いッ!!」

「唐巣殿―――――――――――――――――――――ッ!!」

薄れいく意識の中で唐巣はシロの自分を呼ぶ声とICPOの捜査官たちの驚きの声を聞いたようにも思ったが、混濁した意識の中でその判別は非常に困難であった。





(続)

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa