夢の終わりに(絶対可憐チルドレン)
投稿者名:かいる
投稿日時:(05/ 9/24)
皆本は、熱線銃を携え、瓦礫の街を歩く。
一歩、二歩、視界を遮る粉塵の中、自分のこれから進む道を確かめるように、進んでいく。
ESPによる破壊活動、物理の法則に囚われることのないその力は簡単にビルを瓦礫の塊に変え、都市のライフラインを麻痺させる。
このかつて街だった“廃墟”はエスパーとノーマル、互いのアイデンティティを賭けた戦争、その戦場のなれの果てである。
―――――――足を止める。視界が晴れる。ゆっくりと、僕は熱線銃を構えた。
夕日を背景にして、彼女はたたずんでいた。
夕日よりもなお赤い、紅い、朱い髪。「破壊」という概念がカタチを取ったモノ。
それは、夜毎にリフレインする悪夢から抜け出し、そこに在った。
「・・・・・・皆本。」
――――――――― 予知は、覆らなかった。
夢の終わりに(絶対可憐チルドレン)
未来はまるで、パズルがその定められた絵柄を作り出していくように、ひとつの結果へと収束していった。
ESP大戦、エスパーとノーマルの全面戦争。
結果がわかっていても止められなかった。
世界はまるで、僕が未来を知っていることを前提としているかのように、ゆるやかに破滅へと歩みを進めた。
「撃てよ、皆本。でもあたしがいなくなっても何も変わらない。他のエスパーたちは戦いをやめないぜ?」
よどみなく、夢の中と一字の違いもない台詞を話す薫。
未だ自分が悪夢の中にいるのじゃないかと錯覚する。
目を開ければ、自分たちの中に未来を変える力があると信じていた、輝かしかったあの日々に何事もなく戻るのだ。
紫穂がいて、葵がいて、薫がいて・・・みんなが笑っていたあのころに。
爆音に意識を引き戻される。どこかでまたビルが倒壊したようだ。
この期に及んで現実逃避とは・・・自分の思考に苦笑する。
自分が思考に埋没している間、薫は仲間から連絡を受けていたようだ。
察するに、葵からの警告だろう。――――――――時間がない。
「知ってる?皆本・・・・・・」
薫の手が淡く光を帯び始める。崩れた街を背景にして、
「あたしさ―――――――」
困ったように微笑む薫の姿は、なぜか、
「大好きだったよ。愛してる。」
―――――――――ないているように、みえた。
伊号中尉が海に消えた後、3人が甲板の上で泣いて僕に詰め寄ってきたことを思い出す。
「ごめんな、薫」 「えっ?」
すまない、薫、僕はお前の涙をもう拭いてやることができない。
もう、一緒にいてやることができない。
ただ、願わくば―――――――――――
「薫、どんな形でもいい。生きてくれ。そして・・・・・・いつか、もういちど。」
もういちど笑って。
声になったかどうか、わからないけれど。そう伝わったと信じて、
僕は、自分のこめかみに当てた熱線銃の引き金を引いた。
僕が、絶望した未来予知とは、何に対しての予知だったのか。
エスパーとノーマルの全面戦争か。―――――――違う。
僕が人を殺めることか。―――――――――違う。
きっと僕は、他のことの何よりも、薫があんな寂しそうな微笑みを浮かべて死んでいくのが嫌だったのだ。
イタズラをした後、作戦がうまくいったとき、快活に、豪快に笑う、そんな彼女だから。僕はあの予知を阻止したかった。
彼女は、今どんな表情をしているだろうか。悲しませてしまっただろうか。もう何も見えないけれど。それだけが気になった。
薫が死なないために、予知を防ぐ、僕ができるたったひとつのさえないやりかた。
祈る。いつか薫が、生きて、もういちど心から笑える日が来ることを。
それが僕の願い。さだめに流され、逆らえなかった愚かな僕の―――――ささやかな反抗。
今までの
コメント:
- 初投稿です。
感想、意見、批判などありましたら
是非お聞かせください。 (かいる)
- >>はじめまして。ニールセンと申します。
絶チルのBAD ENDですね。
想定される展開としてありだと思います(あって欲しくはないですが)。
葵が警告したのはひょっとしたら皆本の死だったのかもしれませんね。
表現も文章も丁寧で読みやすいし、web上の文章としてよく意識されてると思います。
私の話は雑だとよく言われるので参考になりました。
願わくば・・・次は明るい話がいいなぁ、なんて。。。 (nielsen)
- 先に死んでいれば予知は成り立たない。それは皆本も同じだったんですね。
もしそれにすら逆らえないなら「それまでは絶対死なない」ことを逆利用できたりもしますが。 (九尾)
- あの未来予知とはまた少し違う、最悪の結末ってヤツですね。
皆本さんのせめてもの抵抗…でも"この後"の薫嬢のコトを考えると…皆本さんがとったこの行為は如何だったのか…と考えてしまいます。
暗い話でしたが、奇麗な雰囲気でとても面白かったです。 (偽バルタン)
- 初めまして、とおりと申します。
かいるさんの作品、もの悲しいですが、感じ入りました。
皆本の愛情が、伝わってきましたよ。 (とおり)
- >>ニールセン様
お褒めいただき、恐縮です。明るい話についても、現在検討中です。
難航してますが・・・文章を書くって難しいと再確認してます(汗
>>九尾様
ですから、予知が絶対に実現されるのであれば、今作の皆本の熱線銃は不発に終わります。
まあ、そのへんのパラドクスはパラレルワールド論を採用させていただくことに・・・
>>偽バルタン様
皆本君もそのあたりのことは悩むと思いましたが、この話ではあえて「エゴ」を貫いた彼の姿を書かせていただきました。
彼の最後の言葉は祈りでもありますが呪いとも言えます。薫にとっては正に悪夢と言える結末ですね。本編では誰にとっても幸福な終わりを迎えて欲しいものです。
>>とおり様
皆本の心理描写を伝わりやすいように書いたつもりなので、そう言ってくださるとうれしいです。ありがとうございます。
本編、「誘惑者(1)」で、皆本君が兵部さんに薫を殺せば予知を変えられることを示唆されたとき、私はもし皆本君が予知を回避するもうひとつの手段を提示されたなら、それにあらがえるかということを考えました。
可能な限りそうならないようにするとは思いますが、ぎりぎりの局面になってしまったら、彼は自分の命よりはチルドレンの命を選ぶように思います。
ふとした思いつきから生まれた拙作ですが、レスをくれた皆さん、ご一読くださった皆さん、ありがとうございました。 (かいる)
- これは技ありですね。
簡潔でよくできたBAD展開予測だと思います。 (キリュウ)
- そうそう、私も兵部が「未来を簡単に変えられる」と言った時、てっきり皆本の自殺を勧めるのかと思ったんですよ。
絶対伏線としてあると思うのですけど。
あとすいません、よくできた展開予測だと思います。文章としての完成度はすばらしと思いますが、どうしても明るい未来を希望しているので、展開には反対とさせて貰います。 (田中)
- これって(元)チルドレンたちの変なトラウマになって、更にややこしい事態になりそーな。まあ、それだけ絶望感も否応なしに増幅しますが、彼女たちの事を少しでも考えたら、果たしてこうした行動を皆本がとるかどうかは疑問です。
事態が事態とはいえ、どうも皆本の行動が「今この状況で薫を死なせない」一点のみから導き出された、近視眼的自己(中心的)破滅に視えてしまいました。この状況での自殺は何の事態進展にも責任維持にも寄与しない、自分の無力をウヤムヤにする為の逃避にすら映ってしまいました。
現実には個人的に逃避(の為の自殺)を完全否定するわけではありません。が、せめて椎名マンガの中では、もっとまっすぐな希望を観たい…というより他の「冴えたやり方」を思いつけなかったんかいこの元・天才少年!というわけで、今回は反対に一票を投じさせていただきます。
(個人的には、あの予知場面にまともに登場しなかった紫穂を使って何かおもしろい展開にできないか、などと妄想しています。) (jajecnica)
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