ザ・グレート・展開予測ショー

ハードボイルドワンダーランド!!(3/3)(GS美神)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/ 9/20)

<P> 「結局その闘士の身元はわからなかったということね?」

 お馴染みの白井総合病院の一室で美神美智恵はリンゴを剥いていた。


 ベッドに身体を起こし恐縮する西条の身体には、隙間がないほど包帯が巻かれている。数秒間とは言え魔神の発する高熱に至近距離で晒された西条の身体は全身が重度の火傷や水ぶくれになっていた。西条がもし霊的加護のない普通の人間だったら、骨も残らず蒸発していただろう。

 「奴らも足が付かないようにそういう人間を使ったのでしょう。テロリストと言っても、普段は普通の富豪や実業家です。まぁ、遺体も霊体も現世には残らなかったわけですし・・・。」

 「或いはそれも、そういう風に作られていたのかもしれないわね。」

 「・・・・・・多くの先進技術がそうであるように、本来人外の脅威から人類を守る為のオカルトは、今や格好の兵器産業となっています。あの彼だって、いや世界中で恐れられる前線の闘士たちの誰一人として、憎しみをばら撒く為に戦っていやしないでしょう。そんなものは、戦い続ける理由にはならない。」

 「・・・・・・・西条君。人間はだれでも現状に一生懸命対応することで精一杯だわ。生きることに手を抜いている人なんてそうそういない。人間は精一杯やって尚間違ってしまうのよ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 「でも私たちが彼らを認めるわけにはいかない。彼らが自分たちのエゴに大勢の関係のない命を巻き込んでいることは、決して許せることではないわ。私たちに出来ることは己の正義を信じ、もっとも血に染まらない道を選んでいくことだけなのよ。ちょっとづつ間違えながらね。」

 そう言うと美智恵は苦笑しウィンクしてみせる。西条はその笑みに曖昧な表情で答える。

 (その僕たちが決定的に間違っていないなんて事が誰に言えるだろうか。この正義がエゴでないと誰が主張できるだろうか。・・・・・・・・・・。やめよう。それでも僕は、己の正義のために戦い続けなくてはならない。「ジャスティス」が僕の命を見捨てない限り。)

 (納得できるわけないわよね。)

 美智恵は己の弟子の優しさを誰より知っていた。西条のように生真面目な人間にこそ、支えになってやれる人間が必要なのだが。

 「西条君、あのね――――――」

 ばたん、と勢いよくドアが開け放たれ、そこにいたのはナインテールの美貌の女性であった。それはそれは大きな花束をやっとこさ抱えながら。

 「げ。」

 「げ?」

 美智恵が怪訝な顔をする。西条が女性の、それも美しい女性の訪問を受けて「げ」などというとは。

 「あら、美智恵さん来てたのね。このお花どこに置いたらいいかしら?ごめんね、もう少し早く来たかったんだけどどうしても外せないゼミがあって。
輝くんどこか痛むところない?」

 ぶーーーーーーーーーーーー!!!


 「て、輝くん?」

 口に含んでいたお茶を盛大に吐き出す美智恵。

 西条がいやな汗をだらだらとかいている。高校に入学したくらいからタマモには常識が身についてきた。美智恵や令子のことも美智恵さん、令子さんと呼ぶようになったし。いやそういう問題ではなかろう。あのタマモが。いやしくも金毛白面九尾の狐が。傾国の美女が、輝くん?

 「あ、
輝くんたら身体起こして平気なの?昨夜だって一晩中凄かったんだから、安静にしてなくちゃ駄目じゃない。」

 ぴき。

 あ、美智恵が凍りついた。

 「そういう誤解を生むような発言をするんじゃない!!ただ高熱にうなされていただけだろうがッ!!」

 「ふふん。私が一晩中付き添って体中を丹念にヒーリングしたということもまた消し去りがたい事実だけれどね?」

 「うぐ・・・・・。」

 「西条君あなた・・・・・・・・。」

 「いや、これは違うんです先生。」

 「え〜〜、何が違うの?」

 「あ〜〜〜ッ!!身体を密着させるな。耳元に息を吹きかえるなッ!!」

 「本当に人間て間違ってしまう生き物だこと。あ。そうそう。まったく完全に忘れていたけれど、用事があったことをたった今思い出したわ。じゃあ西条君私はこれでいくわね(ハート)。」

 「せ、先生〜ッ!!」

 「じゃあねタマモちゃん。お幸せに。」

 「有難う美智恵さん。私は九尾の狐だからね。行く行くはこの人をICPOの長官ぐらいまでには押し上げて、私はその夫人に納まりますわ。あら、そんな心配しないで大丈夫よ、輝くん。この、私が、一生付いててあげるんだからね(ハート)。」

 「あああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 美智恵が白井総合病院を出る時まで、西条の絶叫は続いていた。

 (西条君。あなたに必要なのは理解し支えてくれる人。あなたの正義も、あなたの悩みも、人間としての矮小さも、すべて受け入れてくれる存在だわ。そういう意味ではタマモちゃんは打ってつけかもしれない。このことは、しばらく私の胸にしまっておきますからね。)

 美智恵は師としてのやさしい視線で今出てきたばかりの病室の窓を見つめていた。そのまま空に目を移すと、その日は晴れやかな快晴で、それはあらゆる矛盾や欺瞞といったものが、取るに足らないものだと思わせる諦念的な広大さを持っていた。

 (人は一生悩み続ける。決まった道なんてないのだから。私が複数の時間を旅したように。それでも人は精一杯笑顔を作って生きていくのだわ。願わくば、私の娘たちも・・・・・・。)

 ぷるるるるる、ぷるるるるるるる。

 今時珍しい電子音をさせて美智恵の携帯電話が着信を告げる。

 「あ、令子。ううん、今出たとこ。それが違うのよ。ね、あんた誰にも言わないって約束できる?」

 西条の受難は止まらない。

 退院した西条がICPOに復帰したとき、わざわざ仕事の合間に顔を出した横島が、



 「ロリコンロンゲ。」



 と一言言い放って行ったことは、いまICPO日本支部内でちょっとした話題になっている。



 「僕はロリコンじゃなああああああああああああああああああああいッ!!」

 









 「タ、タマモくん?どうしてICPOの新入研修生の中に君が紛れているのかね?」

 「あら、西条支部長は私の申し分ない学歴をご存じないのかしら。私って内助の功って言う柄じゃないのよね。一番近いところで見張っていない(ハート)」

 西条輝彦の受難は終わらない。

 「あああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」











(了)









今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa