ザ・グレート・展開予測ショー

ハードボイルドワンダーランド(2/3)


投稿者名:nielsen
投稿日時:(05/ 9/20)

<P>「な、なんなのよ、あれ。」

勢いよく突っ込んで行ったタマモだったが相手のただならぬ雰囲気に押しとどまり間合いを取った、その瞬間だった。タマモの進路上に特大の火柱が上がり鉄筋コンクリートの床を燃やし始めた。

「ッく・・・。岩石の融点温度は1000数百度にすぎないが、普通は空気に熱が拡散してこう上手くは燃えない。恐らく1万度近い熱量だぞ。こいつ、少なくとも人間界にいていいレベルの魔神じゃないッ。」

「ど、どうしよう。逃げちゃおうか・・・?」

「名案かもしれないね・・・。」

二人が苦笑いを浮かべていると、岩石を燃やすほどの火柱の中から平然とした顔で1人の魔神が現れた。

「まるで、スルトだな。」

西条が終末の巨人に例えた炎の魔神は全身が黒曜石のような漆黒の皮膚に覆われていた。その手には真っ赤に燃える灼熱製の剣を握っている。

「さしずめレーヴァテイン(枝の破滅)ってところかな?」

この熱気だというのに、西条の背中には冷や汗が滴っていた。

「オ、オレヲ止メニキタノカ。無駄ナコトダ。ココガ最期ダ。コノ塔ヲ壊セバ全テガ終ワル。」

「こいつしゃべれるの?」

「全てが終わる?何の事だ。」

「ギギギギギ、気付イテイナカッタノカ?コノ塔ヲ燃ヤセバコノ街ニ炎ノ妖気ガ染ミ付イタ巨大ナ魔方陣ガ完成スル。コノ塔ガ6ツノ頂点ノ頂キダ。俺ガ起爆シサエスレバ、コノ街ハ木ッ端微塵ニナルトイウコトサ。」

「・・・・・・・・・・・あんた、元人間ね。」

「なんだってッ!?」

「ス、凄イナオ前。ソウダ。俺ハザンス解放戦線ノ闘志ダ。志ノタメニコノ身体ヲ魔族ニ引キ渡シタ。見ロヨ、コノ圧倒的ナ力ッ!!スグニ俺達ノ正シサガ世ノ中ニ示サレテ―――。」

「違うわね。」

「ナ、ナンダト?」

「私の修士論文のテーマを教えてあげるわ。『国際政治とテロリズム』。今の世の中で生きていく為に人間社会のことを勉強したけれど、今も昔も大して変わらないわ。テロを起こすアンタたちのスポンサーなんて武器商人しかいないのよ。・・・・。今武器が売れて世界一喜ぶ国がどこの国か、わからないわけじゃないわよね?」

「・・・・・・・・・。」

「あんたたちは大国が大手を振って齎すカルチャーに抵抗しているつもりだろうけど、少なくともあんたのところの上層部は違う。大体まともな頭してる奴が部下を魔族に改造したりすると思ってんの?」

「黙レ、オ前ニ何ガ分カルッ!!!」

「強い力で何かを押し付けられる気持ちは私にも分かる。3000年も前から散々見てきたから。でも結局あんたがやってることは何も解決しない。無駄な犠牲と因縁を世界に刻み付けるだけなのよッ!!」

「ウルサイウルサイウルサイ!!!俺達ハ正シイ。俺達ハ正シインダァァァァァアアア!!!」

魔神の霊圧が更なる炎を呼ぶ。立ち上る火柱は天井を溶かし出している。

「っく、タマモ君。これ以上は・・・・・。」

「西条さん。どの道このままじゃ東京中がお陀仏よ。覚悟を決めなきゃ。」

西条が見るとタマモは震える左腕を必至に右手で握り締めている。恐ろしくないはずがないのだ。自分の命ももちろん惜しい。だが、今ここでこの魔族を止める事が出来なければ・・・・・。

「みんなお陀仏か・・・・。君の言うとおりだな。僕は些か腑抜けていたようだ。タマモ君、これを。」

西条は決意を秘めた瞳でそういうと親指で何かを弾いてよこした。

「これは・・・・文珠?」

「へそくりだそうだ。令子ちゃんが一つだけ持たせてくれた。それで奴の霊的中枢を【壊】してくれ。

以前令子ちゃんが『ガルーダ』をベースにした人造魔族と戦ってかなり苦戦したらしいが、隙を作って霊的中枢に一撃入れただけで、案外あっけなく倒せたそうだよ。どうやらあいつらはチャクラに対する攻撃に弱いようだ。

隙は―――。」

西条が愛刀「ジャスティス」を水平に構える。

「――――今から僕が作る。」

「それなら炎を操れる私が囮をやった方がいいわ。西条さんには武器もあるんだし。」

「僕が囮をする理由は3つある。

一つは君に何かあったら悲しむ人間が大勢いるということ。

もう一つはチャクラを正確に見抜く「眼」が僕にはなく君にあること。

最期の一つは――――」

 西条は注意を魔神に向けたまま、タマモに場違いな笑みを見せた。

「騎士はいつだって女王に剣を捧げているものだからさッ!!」

刹那、西条が魔神に向かって切り込む。

「西条さんッ!!」

「たぶん、チャンスは一瞬だ。頼むぞタマモ君ッ!!」

魔神は炎の剣を振りかぶり、突進してくる西条に向けて振り下ろす。

「何ダ、何ナンダヨオ前達ハァァァァッァァァッ!!俺達ハ、俺達ハ、理想ノ、理想ノ国ヲ作ルタメニ・・・・。」

「このビルはコンクリートと鉄筋で出来ている。この街はこんなビルやアスファルト、そして毎日を懸命に生きる人たちで出来ている。

お前は何を材料に『理想の国』を作るんだ?血と怨嗟と大勢の命を犠牲にして得られるような理想なんぞ、僕は認めんッ!!!!」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

「ジャスティスよ。僕の正義の代弁者よ。一撃でいい。奴の攻撃に耐えて見せてくれ。僕の正義を示してくれッ!!!」

「グ、グ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

炎の剣がジャスティスに触れると同時に、眩い閃光が稲妻のように辺りに飛び散る。

(西条さんが全霊力を賭けて炎をレジストしてるんだ。確かに隙はほんの一瞬。あいつのチャクラは・・・・・・・・・・・・アソコッ!!)

タマモが狙いを定めるのと西条が剣の炎をレジストするのは正に同時だった。

「ここしかナイッ!!」

獣の敏捷性で突っ込むタマモ。その手に握られた宝玉には【壊】の文字。

「い、けえええええええええええええええええええ!!!」

魔神のチャクラに接した状態でタマモが文珠を解凍する。

「クアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「お、お願い。【壊】れて・・・・・・。」

「俺ハ、俺ハ、俺ハ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕は。」

その瞬間、魔神の妖気が収束したようにタマモには感じられた。









































「僕はただ、家族を守りたかったんだ。」













「私もそうなの。ごめんなさい。」



























千枚のガラスが厳寒に耐え切れずに同時に破滅したような音を立てて、漆黒の魔神は白い粒子となり、やがて霧散して消えた。



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