頑張って!
投稿者名:cymbal
投稿日時:(05/ 9/20)
秋の訪れをひしひしと感じる、九月の空。細かい雲の波が上空で列を作る。
手元には、今夜の夕御飯の材料と、掃除道具。でも、何故か胸の高鳴りは、遥か遠く、もう手馴れた足つきで、あの人の家に向かう。
多分、ドラマチックな展開がある訳でも無い、期待するような事もきっと無い。ただただ、それは月一度。私の気の向いた時間に行われる、というか月一で我慢してる。それは、ドキドキとした緊張感を保つ為の知恵。
「おキヌちゃんが、あいつの世話をしてやる事に文句は無いけど・・・油断しちゃ駄目よ。いつ理性の糸が切れるか判ったもんじゃないっ!」
「大丈夫ですよー。もう何回も行ってますし。お掃除して、御飯作ってあげるだけなんですから」
私が出掛ける前の、事務所でのやりとり。いつも、いつも美神さんは同じ事を言う。本当は、凄く気になってる事も分かってる。素直じゃないなあ・・・とほんとに思う。
「ふふっ」 と、歩きながらの、そんな事を思い出し笑い。周りに居た人に変な目で見られる。恥ずかしい・・・少し、駆け足。
照れた顔を、買い物袋で隠しながら、でもでも・・・美神さんに負けるつもりは無い。私は、私のやり方で少しづつ、前進して行くつもり。定期的に横島さんの家に行くのも、善意という名の戦略であり、期待でもあるのです。
ところで・・・あのですね、このアパートまで道のりで・・・私、良く考えるんです。この時間が、一番楽しい時じゃないかって。
色々と想像しているこの時間が。今日こそは、今日こそは、何か起こるんじゃないかな。ひょっとして、横島さんも私が来る日を指折り数えている・・・そんな古風な事は無いでしょうけど。待っててくれると嬉しいなって。
「待ってたよおキヌちゃん!」 開口一番に喜びの出迎え。私も笑顔で返します。
早速、見慣れた汚れた部屋を掃除して、「悪いなー」 とか照れながら、申し訳無さそうに言ってる、横島さんを横目で見つつ、包丁で食材を切り、テレビのニュースが七時の時報を告げる頃、頂きますと手を合わせて、机に向かい合わせで食事をする。
「・・・まるで夫婦みたいですね私達」
考えては消える、言いたいけど絶対言えない言葉。空しさと、赤く染まった顔を隠す為の味噌汁の湯気が、私を包み込む。
「そんなに急いで食べなくても大丈夫ですよ。たくさんありますから」
「ううう、だってな、ここしばらく、ろくなもん食って無かったから」
来る度にそれ言いますよね。やっぱり私が来たら・・・嬉しいですか?
「嬉しいよ、おキヌちゃん」
「よ、横島さん!?」
「据え膳食わぬは・・・料理と一緒に頂きまーす!!」
「ひぇ!?」
「な、何考えてるんだろっ私!駄目です、もー、横島さんたらー!」
考え出すと、口元が緩んで、しまらない顔つきの私。車の窓に、写り込んでは通り過ぎる。
にこにこにこにことした笑顔。そして、ここから・・・
「おキヌちゃん変な事、されてないっ!?」
「先生ー!遊びに来たでござるよっ!」
「・・・別に用は無いんだけど、暇だし」
「この子達がさー、どうしても行きたいっていうのよね。この・・・何?薄汚れた部屋に」
「汚いは余計ですって!それに掃除も済んでるじゃないすか!」
「あんたがした訳じゃないでしょーに。おキヌちゃんに感謝しなさいよ」
時刻が八時は回った頃、必ず揃う事務所の面々。くっつきそうで離れる二人。
そんなに気になるなら、最初から付いてこれば良いのに・・・と、部屋を見回して見て、思ったり。
みんなで集まるのも楽しいんですけど、二人きりでいたい時もあるんですっ!
(折角良いとこだったのに・・・)
はっと・・・気付くと、遠くの方に見覚えのある建物が見えて来て、私の足どりも早まって、これから起こるであろう、一部、夢も含みつつ、恒例の出来事は頭の中から消し去り、まっさらな気分。
(今日こそは・・・何か起こるといいな)
とんとん。
「横島さん。私ですー」
「あっ、はいはい!ちょ、ちょっと待って!今、部屋軽く片付けるから!」
妄想とは違う、現実のはじまり。
今日も同じ繰り返しかも知れないな・・・。そう思って、でも、吐こうとした、ため息を飲み込んで。
「お邪魔しますー」
私は、一歩をづつ前進して行きます。
おしまい。
今までの
コメント:
- ものすごー、久しぶりです・・・。良かったら感想などを(ぉ) (cymbal)
- いじらしさが表現されていて、とてもよかったです。
すこしずつ、前に。おキヌらしくて、可愛らしくて。
一歩ずつ、確かに・・・。ほんわかです。 (とおり)
- 一歩一歩とゆっくりと…
けなげですよね、おキヌちゃん。
本当に可愛いです。
おキヌちゃんの気持ちが通じる事を祈ります。 (法師陰陽師)
- しみじみ。うん。いい。
原作の雰囲気そのもので。
加速しない感じがおキヌちゃんの世界ですねー。 (ししぃ)
- 可愛いですね、おキヌちゃん。
ほのぼのとした雰囲気がたまらなく良かったです。 (偽バルタン)
- 定期的にお宅訪問――――それはすでに『公認』になってるのではっ(挨拶)?
決して急がない。でも確実に一歩一歩進む……おキヌちゃんらしいですねぇ。
昼メロ入って何かを期待して妄想してるのも、『にこにこ』もらしさがいっぱい詰まってて……ええ、ご馳走様でした。 (すがたけ)
- コメント返しますえ。
とおりさんへ。
試し読みありがとうございましたー。久々に頂いたコメントという事もあり、非常に嬉しかった事が思い出されます(ぇ)ほんわかーとしてくれたのならもっと嬉しいっ。
法師陰陽師さんへ。
いつか報われる日が来る筈ですよっ。努力、努力。健気な思いが、届きますようにー。コメントありがとーございますっ。 (cymbal)
- ししぃさんへ。
ほのぼの、しみじみと眠たくなるような・・・(ぉ)原作の雰囲気から、ちょっと離れているかも知れないと不安でしたので、嬉しいです。ありがとー!
偽バルタンさんへ。
カワイイですよ(ぉ)まったり、ねっとりと楽しんで頂ければ、幸いです。コメントありがとーございましたっ。
すがたけさんへ。
掃除、料理・・・次はなんでしょ。一歩づつ、歩みよるように、じりじりと。お腹いっぱいになって頂けましたかっ(ぇ)<ご馳走様。コメントありがとっ。 (cymbal)
- 穏やかで当たり前の日常の風景だけど。
でも、こんな時間こそが優しくて楽しくて。
いいなぁ、と思ったり。
(何かが起こるかも)と言う、そんな期待が高まっていくけど。
でも、穏やかに静まっている。
そんな空気、そんな雰囲気が好きです。
一歩踏み越えた景色も良いけど、足踏みも悪くはないですなっ。
にゃ、足踏みって言う言い方も、相応しくはないのかもしれませんが。
綺麗でした。面白かったです。 (veld)
- veldさんへ。
足踏みしたって良いじゃないっ(ぉ)や、ドキドキするのも足を一定の場所から進まない、進ませないから。意味分からない事書いてすいません(ぉ)暖かい優しいコメントありがとうございましたっ。 (cymbal)
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