Good morning, good morning, good morning to you
初めての投稿で失礼します。
ニールセンと名乗らせていただきます。
恥ずかしながらごく最近このサイト様を発見いたしまして、皆様の作品を拝見させていただきました。
すげぇなぁ、と思いながら、自分も書いてみたいという衝動を抑えられず、初投稿の運びとなりました。
ご指南・ご指摘よろしくお願いいたします。
白井総合病院に横島忠夫が訪れたのは妻の危急の報を受けて僅かに15分後のことであった。
都内某所で妖怪の結界に捕まり持久戦を展開していた横島忠夫は
お仕事中すみませんm(__)m。
令子さんが体調を崩し、白井総合病院に運ばれました ―――キヌ
と言うメールを受け取るや否や、数個の文珠を発動させて強引に妖怪の結界を破り、体中に無数の傷を負いながらも【剣】状化した霊波刀で妖怪に止めを刺した。
その後息つく暇もなしに【転】【移】の文珠を発動したのだった。
「令子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
横島令子が氷室キヌとともにロビーで珈琲など飲んでいると、虚空に突然現れた横島が絶叫を開始した。
「どこだ。どこだ、令子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「なんの脈絡もなく現れるな、変態!!!」
ドゲシ!!
令子のハイヒールが横島の脳天に突き刺さる。しかし0.5秒(一コマ)で回復した横島は令子の手を取り、その目を真剣に見つめながら言う。
「心配するな。俺が絶対に何とかしてやる。令子は俺が必ず守る。」
横島令子は顔を真っ赤にしながらそっと俯く。
「ば、馬鹿。真面目な顔して急に何言ってんのよ。」
「俺に任せとけ。いざとなったらこの前みたいに過去に時間移動してでも・・・・・・・・・・。あ゛〜〜〜〜!!さっき使いすぎて文珠が足りないぃ〜〜〜〜!!ひーふーみーよ・・・。あと一個。あと一個あれば。仕方ない。俺は煩悩を霊力に変える男。令子、ここは取り敢えず着ているものを脱ぐばぁ!!」
「PTOを弁えんかぁ!!
ってか足りないって、あんたあんな雑魚妖怪にそんなに文珠つかったのぉ!!新調したばっかのスーツもこんなにボロボロにして・・・。何考えてんのよ未熟者!!」
「堪忍や〜、仕方なかったんや〜。様子見のつもりがいきなり戦闘に入っちまうし、あのままやと膠着した持久戦になりそうで・・・。」
「3日かかろうが一ヶ月かかろうが文珠なしでやりなさいって言ったでしょうが。どーもあんた、最近教育が足りないようね。」
令子が豊満な胸元から神通棍の柄を取り出そうとすると、横で見ていたキヌがそれを止める。
「ミカミさん、その辺にしてください。紛らわしいメールを送っちゃったのは私ですし。そもそも横島さんはミカミさんを心配して急いで来てくれたんですよ。」
令子はばつが悪そうに神通棍をしまう。
キヌはかつての雇い主の行動が照れ隠しであることがわかっていた。かつての思い人の深い愛情に、本当は感謝しているだろうことも。
いつまで経っても不器用な人たちなんだから、キヌは心の中でそっと呟いた。
「大体あんまり暴れるとおなかのお子さんに障りますよ。」
「・・・・・・・へ?」
床に正座していた横島が間抜けな声を上げる。
「こ、こ、こ、」
「おめでとうございます。横島さん。妊娠3週間だそうですよ。」
「に、妊娠?」
横島が何か不味い物でも食べたかのような顔をしている。その表情を見て令子の顔からさ、と血の気が引く。心のどこかで心配していたことではあった。
コノ人ハ、祝福シテクレルノダロウカ。
二人が結婚して6年。
子供はまだなかった。夫婦仲が悪いわけではないし(傍目にどう見えようと)そういう努力をしていなかった訳でもない(寧ろ過剰でさえあった・・・)。
ルシオラの転生が絡んでいる為に着床しづらいのではないかというのが大方の考えであったが、横島と令子のどちらかに決定的な問題がないとも言い切れない。初めの頃はお互いを慰めあっていたものの、だんだんと話題から遠のき、ここ1年ほどは子供について話した記憶がない。
遅すぎたのかもしれない―――。
令子の目じりに涙が浮かぶ。何百回も否定した最悪の結末が訪れようとしている。そう思うと喉の奥がからからになり、指先がぴりぴりとしびれた。
横島はぼぅ、とした顔のまま立ち上がると令子の方に向き直った。
「でかした令子!!!」
「・・・・・・・・・へ?」
横島は令子の両肩にそっと手を置き、その身体を抱きしめた。優しく、この世の何より愛おしそうに。
「やっと、やっと俺も父親にッ!!長かった。本当に長かった。お養母さんやパピリオには急かされ、親父には種無しと罵られた苦節6年。ようやく俺にも子供が出来たのか。よおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉし、来るぞ。俺の時代が来る。もはや親父は超えた。責任?養育費?何ぼのもんじゃい!!高所得者舐めんなよッ!!!!」
横島のバックに炎が燃える。それは10年間燻っていた横島の思いでもあった。
「令子、ちなみに予定日は何月ご―――、令子?」
横島令子は泣いていた。
子供が泣くようにではなく、人形が泣くように。
一切の感情が失われたかのようで、だが涙だけはとめどなく流れている。
「ふ、ふ、ふ、あ〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
令子は横島の胸に顔を埋めた。横島の胸に温かい温度が染み渡る。
キヌもやはり泣いていた。令子の秘めた思いを感じ取って。
横島だけが分かっていなかった。
(なんでや、なんで令子は泣いとるんや。待てよ、冷静に考えてみたらこれは令子だぞ。史上最強の我儘女。世界と自分を天秤に架けたら間違いなく自分を選ぶ女。何せ6年も子供が出来なかったわけだし、未だに生んでくれると思っとったのが間違いだったのでは?もうとっくにテンション下がってるときに突然の妊娠発覚。まずい。まずいぞ。もしも、もしも降ろすつもりだったとしたら・・・。ましてやとっくに愛想付かされてたりなんかして・・・。)
「アナタ、ありがと―――」
「令子さんッ!!この通りですッ!!(土下座で床を割りながら)降ろすなんて言わんといてぇぇぇぇぇ!!!!そして俺を捨てないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!何でもしますッ!今までの倍働きますッ!夜の方も令子さんが満足するまで絶たびぶらッ!!」
「だからPTOは弁えなさいッ!!!」
「・・・・・はい。」
横島の脳天はロビーの床に突き刺さっていた。
「大体ねッ・・・・・、私とあんたの子なのよ。降ろすなんてするわけないじゃない。あんたの事だってね、その、愛してるに決まってるじゃない・・・。」
「え、今なんてぼぅお!!!」
「生んであげるって言ってんのよ。感謝しなさいよ。なんたみたいな変態の子供生もうなんて物好き、私くらいのもんなんだから。ちゃんと、ちゃんと捕まえておきなさいよ・・・。」
「・・・・・・・・・・・うん。」
「返事ははい!!」
「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!」
ぽう。
一同の注目が令子の腹部に集まる。新しい命の宿った令子のおなかにぽう、と微かな光が灯ったのだ。まるで笑顔の発する光がそれだけ抜け出してきたかのような光。微かで、けれどしっかりと命の輝きを主張するかのような蛍火。
「ルシオラ・・・・・・。」
横島が我知らず涙を流す。
「しっかり、幸せにしてあげないとね。」
「うん・・・・・・。」
横島はそれ以上声を発することが出来なかった。
程なくして淡い光は空気に溶けるように消えてしまった。
けれどその場は確かな幸せに包まれていた。
(了)
|