ザ・グレート・展開予測ショー

ジーク&ワルキューレ出向大作戦7−2 『Go on Fishing!』


投稿者名:丸々
投稿日時:(05/ 9/17)

「人工幽霊一号、暗号文用意!ソナーに乗せて発信して!!文面は『ナンジノ アルジ キカンセリ』よ!
こうなったら切り札投入でぶっ潰してやるわ!!」

『わかりました、美神オーナー。』

「人の船水没させといてタダで済むとは思わないことね!覚悟しなさい、エミ!!」

「み、美神さーん、これでおあいこって事にしましょうよぉ。」

「何か言った!?おキヌちゃん!!」

「うぅぅ、なんでもないです……」

おキヌが和解を提案したが、血走った眼で睨みつけられてはどうしようもなかった。


「まぁまぁ、おキヌ殿、いつもの事ではござらんか。」

「今更言っても始まらないでしょ?
って、このセリフ先週も言わなかったっけ。」

「あー、そういえば言ってたな、お前ら。」

「こら!あんた達も変な事言ってないで準備しなさい!」

怒られた横島・シロ・タマモが慌てて姿勢を正していた。


『美神オーナー、先程から気になっていたのですが……。』


「どうかしたの、人工幽霊一号?」


『除霊を始めなくてもよろしいのですか?』








「「「「除霊?」」」」








おキヌを除いた四人が声を揃えて首をかしげた。






しばしの沈黙が流れる。






「わ、忘れる訳ないじゃない。もちろん覚えてるわよ。」

「そ、そーだよ。いくらなんでもそんな大事な事、忘れる訳ないだろ。」

「除霊でしょ?ちゃ、ちゃんと考えてるわよ?」

「そ、そうでござる。本来の目的を忘れる訳ないでござろう。」



「完全に忘れてましたね……」

呆れたように呟くおキヌと人工幽霊一号であった。



























「マズイわね。さっきの舟幽霊で仕留められなかったとなると、後は人為的な手しか残ってないわ。」

「……さっきのも充分人為的だったと思うんじゃがノー。」

「決めた。次はタイガーを生贄にした大規模呪術を仕掛けるわ。
寿命が半分になるけど、効果は絶大よ。」

「ああ!余計な事を言ってしまったみたいジャー!?」

「あー、小笠原エミ。
どんな呪術を使うのか気になるところだが、鮫退治はどうするのだ?」








「「鮫退治?」」








エミと雪之丞が声を揃えて首をかしげた。






しばしの沈黙が流れる






「わ、わかってるわよ。依頼の内容を忘れるワケないじゃない。」

「い、今までのは準備運動に決まってるじゃねーか。な、なあ旦那?」

残りの五人に白い目で見られては、流石のエミと雪之丞も笑ってごまかすしかなかった。
どうやら常識人の割合は美神事務所よりも上だったようだ。

「そ、それより何か案はあるワケ?こっちは海の除霊は未経験なのよ。」

「任せてもらおうか。そもそも我らはそのためについて来たのだからな。」


自信ありといった様子で頷くと、何かを取りに船室に戻っていった。



「しかし、こんなに広い海の中にいる霊を見つける事など出来るんかノー。」

「姉上は狩りの達人だからな。きっと何か考えがあるのだろう。」


ワルキューレを信頼しきった表情でジークが海を眺めていた。


























「あ、向こうも除霊に取り掛かるみたいッスよ。」

「冷静に考えてみたら、どうすりゃこのだだっ広い海で獲物を見つけられるってのよ。
おキヌちゃん、検鬼君の反応はどう?」

「駄目ですねー。海水が中に入っちゃったみたいです。」


おキヌが手に持った台座付きの平安人形、検鬼君はどこを指し示すでもなくクルクル回転している。


「壊れた訳じゃなさそうだけど、役に立ちそうにないわね。
しっかし、参ったわね。検鬼君が使えないとなると霊を見つけるのはかなり難しいわ。」

妙な動きをする探知機にあっさり見切りをつけると、他に使えそうな物はないか道具箱を漁り始めた。


「むぅ、何やら向こうに動きがあるでござるよ。」

「あ、ホントだ。」


シロとタマモが双眼鏡を覗きながら漁船の方を指差している。

「美神さん、こうなったら向こうのやり方をパクるってのはどうです?」

「ちょっと良い方法思いつかないし、見るだけ見てみましょうか。」

「この際、参考にさせてもらいましょうよ。」

横島達も双眼鏡を取り出すと、シロタマと一緒に漁船の方を観察し始めた。


じーっと漁船の動きを見ていたが、突然5人が双眼鏡を下ろし、手の甲で目をゴシゴシこすり始めた。
目をこすり終わると、軽く深呼吸してからもう一度双眼鏡を覗き込む。

5人はしばらくそうしていたが、現実を受け入れたのか手摺りに両手をつき、うなだれてしまった。


























「待たせたな。」

ワルキューレが何やら白いモノを抱えて船室から戻ってきた。


「なんだそりゃ?」

「ヌイグルミみたいですわね。」


よくわからない物体に雪之丞とかおりが首をかしげる。


「これは私が徹夜で縫い上げた今回の任務の秘密兵器だ。
ジークフリート少尉、貴官のサイズに合わせておいた。さっそく装備すると良い。」

「イエス・サー!」

随分と久しぶりのような気がするが、ジークがワルキューレに敬礼する。

「背中にチャックを付けておいたから、そこから着るといい。」

ジークは白い物体のジッパーを下ろすと、いそいそと潜り込んだ。
背中のジッパーは自分では上げられないのでワルキューレがかわりに上げてやる。

「うむ、良く似合っているぞ。」

「サンキュー・サー!
……って、あれ?皆さんどうしたんですか。」

肩を震わせながら腹を抱えてうずくまっているエミ・雪之丞・タイガーに気付き、ジークが声を掛ける。
かおりと魔理は目を輝かせながら携帯でジークの写真を撮っている。

携帯の画面には真っ白なアザラシが器用に前足(前ヒレ?)で敬礼する姿が映されていた。


つぶらな瞳に丸みを帯びた流線型のボディ。
誰がどう見ても『海のアイドル』アザラシ君だ。
ちょうどアザラシの口の部分から顔を出しているので、ジークが丸呑みにされているように見えなくも無い。



「く、くく……は、腹が痛ぇぇ……いっそ殺してくれ……」

「わ、笑いすぎて息ができん……もう限界ジャー……」

「ぷ、くく……オタクら、私たちを殺すつもりなワケ……?」



エミ達は笑いすぎて呼吸困難に陥っていた。

かおりと魔理は大喜びで写真を撮りまくっている。
どうやらジークアザラシは女子高生の心をワシ掴みにしたようだ。

「仕上げにこれを括りつけて、と……よし、準備は整ったようだな。
ジーク、後は海に浮かんでいればオーケーだ。」

喋りながら、ジークアザラシの胴体に鋼鉄のワイヤーをより合わせたロープを縛りつける。

「では、行ってきます。」

アザラシには足が無いので、ジークの両足は尾ビレの中に収納されていた。
ジークアザラシはぴょんぴょん飛び跳ねながら海に飛び込んでいった。

「それで、ワルキューレさん。これは何の意味があるんですの?」

「む、見てわからんか?『ルアーフィッシング』というやつだ。」






ワルキューレの何気ない一言に、和やかだった空気が凍りつく。










「私の聞き間違いだと思うんだけど、今ルアーって言った?」


小さく手を挙げ、魔理が確認する。


「うむ、その通りだ。なかなか良い出来だろう?」


ジークは波に揺られながら流されていた。
恐らく浮きが仕込まれていたのだろう。
ジークは泳いでいないにも関わらず一向に沈む気配がなかった。







「い、いや、生き餌を使うのはルアーフィッシングじゃねーと思うんだが……」


ボソッと雪之丞が呟いていた。



























「鬼だ、鬼がいる……」

漁船の様子を窺っていた美神一行が眉間を押さえて座りこんでいた。



座りこんでいた美神がちらりと横島に視線を送る。



「む、無理です!いくらなんでも出来ません!!」


長年の経験から敏感に察知し、慌てて抗議し始めた。


「やーねー、横島君。まだ何も言ってないでしょ?」


「だ、だったらその手に握ってるロープは何なんですか!?」


いつの間にか美神の手にロープが握られていた。

フフフフフと口から不気味な笑い声を漏らしながら横島に近付いていく。
言うまでもなく、目は全く笑っていない。

危険を察知した横島が、いややー!と首を振りながら後ずさりをしている。


「先生なら魚なんぞに遅れをとる訳はないでござる!」


「信頼されてるわね横島君♪」


美神の浮かべた微笑みは限りなく優しかった。




「いやぁぁぁぁぁ!!」










―――ざっぱぁぁぁん―――






抵抗も空しくロープで繋がれた横島が海に放り込まれた。


「ねぇシロ、鮫ってどんな魚なの?名前は聞いたことあるんだけど、見たことないのよ。」

「拙者も山育ちでござるからなぁ。聞いた事しかないでござるよ。」

首をかしげながら質問するタマモに、同じように首をかしげてシロが答えている。


「シロー!知らないくせに無責任な事言うなー!!」



船の下から横島の叫びが聞こえるが、もはや後の祭である。


「えーと、シロちゃん、タマモちゃん、この前見た『ジョーズ』って映画覚えてる?」

「もちろん覚えてるでござるよ。あれは怖かったでござるなぁ。」

「そーそー、そこらの悪霊よりよっぽど怖かったわ。」

「あれに出てきたのが鮫なんだけど……」



「またまたぁ、冗談がすぎるでござるよ、おキヌ殿。」

「あんなのが実際にいるわけないじゃない。」




「「「………………」」」




無言で見つめあう三人。




「じょ、冗談でござろう?」

「ま、まさか、ホントなの?」




無言で頷くおキヌ。






「せ、先生ー!早く上がって来て下されー!!」


「だったら船を止めんかァァァ!」


慌てて呼びかけるが、クルーザーは動き続けているので、既に横島は随分離れた所まで流されていた。





…………ズゥゥゥズン……





「シロ、今何か聞こえなかった?」

「それどころじゃないでござる!タマモもロープを引っ張るでござるよ!」





……ズゥゥゥズン……ズゥゥズン……





「……今のは拙者も聞こえたでござる。」

「今の音って……」





ズゥゥゥズン ズゥゥゥズン ズゥゥズン ズゥゥズン





聞く者の不安を煽るような重低音が徐々にテンポアップしていく。



「おいおいおいおい、このBGMは……」



何かに気付いた横島が慌てて周囲に視線を走らせる。
横島から数十メートル離れた場所に、不吉な三角型のヒレが浮上していた。



「だと思ったよコンチクショォォォォォ!!!!」



「ホ、ホントに出たァァ!」

「先生ー!急いで下されェェェ!!」



五輪代表も真っ青のスピードで手足を動かすが、海のハンターに勝てる訳も無く
あっという間に距離を詰められる。


「頑張って、横島君!」

「美、美神さんが俺の心配をしてくれてる!?」


「そこじゃまだ遠いわ!もっとこっちに引き付けて!!」




「ドチクショォォォォ!!!!
んなこったろうと思ったよォォォ!!!!」



対霊用のボウガンを構えている雇い主相手にお約束を演じている。
当然の事ながらコントの間にも鮫は近付いていた。



「いやぁぁぁぁ!!」



一気に襲いかかるかと思われた瞬間!








「って、あれ……?」



「いなくなった……?」

「……消えたでござる。」

鮫は忽然とその姿を消していた。






「ちょっとー、マジで勘弁してくださいよ。
メチャクチャ怖かったんですけど……。」

クルーザーに戻った横島がジト目で美神に詰め寄っている。

「自分の足を傷つけて注意を引くぐらいしなさいよぉ。
もう少しで喰い付いたのにね〜。」

惜しい!とばかりに指を鳴らしている。

「どこのバイキングの話ですか!って、だいたい何で俺なんですか!
最近はこういう囮なんかはシロタマの仕事だったじゃないッスか!!」

「バカ!シロタマを鮫の餌なんかにしたら反対ひょ―――じゃなくて、
動物愛護団体が黙ってないでしょ?」

「あー、確かに反対ひょ―――じゃなくて、動物愛護団体には逆らえないッスからね。」

横島が諦めたように頷いている。


「何の話でござるか?」

「大人の事情ってやつだ。

「何それ?」

「あんた達は知らなくていいの。」




「二人とも、そういう黒い話を堂々としないで下さい……」




呆れたようにおキヌが深い溜め息をついていた。



「しかし、なにゆえ鮫は姿を消したのでござろうか。」

首をかしげるシロに、タマモがある一点を指差す。



「多分、あれじゃない?」


四人がタマモの指差す方向に目をやると、ジークアザラシが鮫に襲われていた。


























「喜ぶべきじゃないかもしれねぇが、掛かったみてーだな。」

双眼鏡の向こうで波飛沫を上げるジークアザラシを見て、雪之丞が呟く。
ジークアザラシは上半身を飲み込まれ、今は胴体を歯でガリガリと噛み付かれていた。
尾びれを振って必死に抵抗しているが丸呑みにされるのは時間の問題だろう。

「うむ、狙い通りだ。」

静かに息を吸い込むと、ワルキューレは鋼鉄のロープを握り締める。
次の瞬間、気合とともに一気に引っこ抜いた。


鋼鉄のワイヤーが軋む音とともに、結構な距離まで流されていたジークアザラシが宙を舞う。
輝く太陽を背景に、水飛沫をキラキラと散らしながらジークアザラシとともに鮫の霊が飛んできた。

徐々に大きくなるジークアザラシと鮫を見ながら、ふとワルキューレが言葉を漏らした。


「……着地の事は考えていなかったな。」


その言葉が終わぬうちにジークアザラシが漁船の甲板に轟音とともに突き刺さっていた。





「吸引!」

いきなり船の上に打ち上げられて跳ね回る鮫の霊を吸引札で吸い込む。
陸に上がった河童状態の鮫の霊はたいした抵抗も出来ず、吸い込まれていった。

「先ずは一匹ってワケね。」

上機嫌でエミが吸引札をヒラヒラと振っている。


甲板に空いた穴からジークが這い出てくる。

「あ、姉上……この任務には、少々無理があると思うのですが……」

噛み跡を全身につけられたジークがワルキューレに進言している。

「む、何故だ?
実に効率の良い方法ではないか。」

あっさりと却下され、ジークがのけぞる。
だが流石にここで負ける訳にはいかないのだろう。
ジークにしては珍しく、抵抗を試みる。

「た、確かに効率の良い方法ではあると思いますが……」

その先を思いつかず、少し考え込む。

(……そうだ!)

何か思いついたのか突然ジークの目が輝いた。

「残念ながらこの特殊スーツはこれ以上の使用には耐えられないようです。
よって、何か別の方法で任務を遂行する事を提案します。」

特殊スーツ、というかアザラシのカブリモノは鮫の襲撃でボロボロになっていた。

それを見たワルキューレもなるほど、と頷き船室に引っ込んでいった。



「生きてるみたいですノー。」

二人のやりとりが終わるのを待っていたタイガーが近付く。

「僕ら魔族は人間よりも丈夫だが、それでも痛いものは痛いんでな。」

ふっと寂しそうに微笑むと今までの苦行の数々を思い浮かべる。

「なんか、色々とヒドイ目に逢ってそうだよな、お前って。」

自分のした仕打ちを棚に上げて、雪之丞も声をかける。

「姉上も僕をイジメるためにやっている訳ではないからな。
任務の為なら多少の無理は仕方が無いのだ。」

「ふーん、そんなもんかね。」

「そうだとも、その証拠にちゃんと話せばわかってくれただろう?」

「まあ、確かにそうですノー。」

その後も和やかに談笑する男達のもとにワルキューレが戻ってきた。

「すまない、待たせたな。」


「いえいえ、そんな事無いで――――――」

振り返ったジークが凍りついた。

「耐久性は私も危惧していたのでな、こんな事もあろうかと用意しておいた。」

そういうワルキューレの背後には大量のカブリモノが積み上げられていた。



「……どうでしょう、姉上。ここは皆で交替しながら任務にあたるというのは。」

さりげなく隣にいたタイガーと雪之丞の肩を掴む。

「ふむ。」

首をかしげて考え込む。

「残念じゃが、これはワシの体の大きさでは入りきらんノー。」

さりげなく、タイガーが予防線を張る。

「たしかに、サイズ的に無理があるな。」

ワルキューレも相槌を打つ。

「悪いが、こいつは俺にとっちゃデカ過ぎるな。
残念だがジーク専用サイズだ。」

雪之丞もさりげなく予防線を張りつつ、さらにジークを前面に押し出す。

「うむ。そもそもジークのサイズで縫い上げたのだ。
互換性が無いのは仕方がないが、かわりにスペアは大量にあるからな。
替えの心配はせずに遠慮なく使うと良い。」





「ジーク、お前が言った通りだな。
ワルキューレは話せばわかってくれる。」

「まったくじゃノー。
問答無用のエミさんに比べたらまだマシってもんジャ。」

雪之丞とタイガーが、がっくりと肩を落とすジークの背中をぽんと叩いていた。

























「うわ、まだやるみたいでござるよ。」

「今度は自発的ってより、放り投げられたみたいだけど。」

タマモの言葉通り、視線の先では白いアザラシが放物線を描きながら大海原に着水していた。

『美神オーナー、妙な暗号信号をキャッチしましたが……』

それを聞いた瞬間、美神が弾かれたように立ち上がった。

「文面は!?」

『ディナーノ ジュンビハ トトノッタ、だそうですが……』




「キタァァァァァァァ!!!!」



ガッツポーズで飛び上がって喜んでいる。
もちろん他の面々はついていけずに呆然としているが。



「すぐに返信して!
文面は『ゲストニ ディナーヲ フルマウベシ』よ!!」

「あのー、美神さん。何の話をしてるンスか?」

不穏な会話が気になるのか、横島が恐る恐る質問している。

「すぐにわかるわ。」

ニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、漁船の方を指差した。


横島が嫌な予感に辺りを見渡していると、突如轟音とともに巨大な水柱が立ち昇った。

「アザラシ、今ので吹っ飛んだんじゃない?」

「いや、あれを見るでござる!」


シロの指差す先では白い物体が回転しながら宙を舞っている。

今の衝撃が直撃したジークアザラシが、放物線を描きながら漁船に送り返されていた。


「私、今の水柱、見覚えあるような……」

「俺も、見覚えある……」


美神の切り札の見当がついて完全に引いている二人を尻目に、
トランシーバーを取り出すと、どこかと通信し始めた。

防水処理が施されていたので浸水はしなかったようだ。

「……ザザッ……ハロー、貝枝大佐。調子はどうかしら?」

『……ザガッ……こちらはすこぶる良好だ。
今日はあの船を沈めれば良いのだな?』

「……ガガッ……そーそー。任せたわよ?」

それだけ伝えると、トランシーバーを船室に放り込んだ。


「美、美神さぁん、1巻で出て来た幽霊潜水艦、まだ除霊してなかったんですか?」

すっかり忘れてたが、確かにあの時除霊してなかった。
だが良く考えればそんなに驚く事ではないかもしれない。
おキヌが幽霊の頃から使えるモノは何でも利用していたではないか。

「あったりまえでしょ〜?
あんなに便利な奴、そう簡単に除霊する訳無いじゃない。
自衛隊の海軍に紹介してやったら喜んで仕官してたわよ。
大佐に昇格したらしいし、これぞまさに一石二鳥ってやつよね♪」

美神が話す背景では、漁船の付近で何本も水柱が上がっていた。

「一応、私って恩人らしいからたまに『色々』手伝ってもらってるのよ。」

さりげなく付け足しているが、つまりは非合法なアレコレを指しているのだろう。



「や、やりすぎですよぉ、そこまで勝ち負けにこだわる事ないじゃないですか。」

「諦めるんだ、おキヌちゃん……魚雷なんか、むしろ優しい方だよ。
この人はゴキブリ一匹殺すのに核爆弾使おうとするような人じゃないか……」

もはや泣きが入りかけのおキヌの肩に手を乗せ、横島が慰めていた。


























「あんのクソ女ッ!潜水艦けしかけるなんて、いくらなんでも反則でしょうが!!」

魚雷の衝撃で揺れる船の上でエミが切れかけていた。

魚雷の直撃を受けたジークだったが、焦げ目がついた程度のダメージだった。
何事もなかったかのように舵を握り魚雷をかわしていた。

「流石にいつまでもかわす事は不可能ですよ。
早めに手を打たなければ……」

魚雷の動きをソナーで見切りながら紙一重で危機を切り抜けていく。

「手を打つったって、海の中の軍艦なんかどうしようもないでしょ!?」

不機嫌そうに口を尖らせる。

「……ほう、軍艦とは面白い。」

『軍』という言葉が引っ掛かったのか、ワルキューレが薄い笑いを浮かべる。

「人間の軍隊の実力……試してみるのも一興だな。」

ゴーグルとシュノーケルを掴むと、海に飛び込んでいった。


「ちょっと、ワルキューレ!?」

慌ててエミが呼び止めるが、すでに潜ってしまった後だった。


「もう良いじゃねーか、エミの旦那……」

魔装術を纏いながら雪之丞が拳を鳴らす。

「……それもそうね。
あっちが先に仕掛けてきたんだから、好きにしていいわ。」

雪之丞の言葉の先を感じ取り、エミがニヤリと笑いかけた。


「やっぱり決着は拳でつけるのが一番だよなぁ……!」

魔装術の腰と踵から生えているノズルに光が溜まる。
短距離を走る時のように上体をかがめた。


「行くぜェェェェ!!!!」


ノズルに溜まった光が弾けた瞬間、凄まじい速さで飛び出していった。



「雪之丞、飛べるようになったのか?」

舵を握りながら、ジークが声をかける。

「いや、雪さんのは『飛ぶ』って訳じゃないんだよなぁ……」

魔理が頬をかきながらかおりと顔を見合わせる。

「あれは霊気を爆発させて、一時的に加速するものなんですの。
飛ぶために霊気を放出させ続けるのは霊力の消耗が激しすぎるからって。」

言われた情報を吟味していたが、ジークの脳裏にふと疑問が浮かぶ。

「それって、陸上だと効率の良い移動手段だろうけど、ここは海の上だぞ?
沈んでしまって終わりのような気がするが、大丈夫なのか?」

飛び続けないのなら、沈んでしまう筈なのだ。

「いや、そうでも無いんですジャー。」

タイガーに言われて見てみると、雪之丞が水の上を走っていた。
正確には『走る』というよりは『滑る』と言うべきだろうが。

霊気を爆発させて得られる加速で水面を蹴りつけ、跳ね石のように移動していた。
速度が落ちて沈み始めると、その都度霊気を爆発させて加速し直している。
この方法なら足を止めない限り沈む事は無いだろう。

「なるほど、上手いものだな。
足を止めない限り、どこまでも移動できるという事か。」

ジークも素直に感心していた。
意識せずとも飛べる魔族にとって、こういう工夫を見るたびに人間の可能性に驚かされるものなのだ。

「後は接近して、近距離からの霊波砲で沈める気なんじゃろうノー。」

「こっちが直撃喰らう前に間に合ってくれると良いのだが……」

漁船の周囲では今も水柱が何本も上がり、海水が降り注いでいた。


























「た、大変です!雪之丞さんがこっちに向かってます!!」

慌てておキヌが報告するが、美神はふふんと鼻で笑っている。

「呪い抜きのガチのぶつかりあいで私達に勝てると思ってるなら、大馬鹿ね。
いくわよ、横島君!!」

「そっか!美神さんと横島さんの同期合体なら負けるわけ無いですもんね!」

「そーいうこと!
……って横島君何してるのよ、文珠ならまだ残ってたでしょ?」

「いやー、それが、俺の霊力が……」

気まずそうに言葉を濁している。
言われて横島の霊力を探ってみると、ほとんどゼロに近かった。

「ちょ、ちょっと!それどういう事よ!!
あんたがそんな調子だと同期合体できないじゃない!!」

あまり霊力に差があると横島が吸収される事になりかねない。

「しゃ、しゃーないでしょーが!俺の霊力の源が煩悩なのは良く知ってるでしょ!?
それ以上は聞かんで下さい!いや、マジで!!」

まあ、つまりは昨日の夜の出来事で横島の煩悩は満足しきっている状態なのだ。
多分あと二、三日はこの調子が続くだろう。

「ふっふっふ……ここは拙者達の出番のようでござるな。」

「相手はあの吊り目……遠慮せずにぶっ潰してやるわ……。」

シロとタマモがギラリと目を光らせる。
すでに戦闘体勢に入っていた。

「まー、ここは二人に任せましょうよ。
これを使ったら海に沈まなくて済むと思うぞ。」

言いつつ文珠を二人に放り投げる。
文珠には『弾』の文字が浮かび上がっていた。

「なるほど、水を弾くって訳か。良いアイデアね。
こうなったら、とりあえずあんた達に任せるけど、無理するんじゃないわよ?」

美神の言葉に頷くと、二人は海の上を駆け出していった。



二人に迫るは因縁の相手、伊達雪之丞。





沖縄の海上で9度目のぶつかり合いが始まろうとしていた。


























―後書き―

ギャグって良いですよね。

実に良いです。うん。良いモノです。

では。

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