ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(28)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/16)

 ・・・ケエエエエ・・・ケエエエエ・・・ケエエエエ・・・

「・・・・・・」
天窓の真下に座り、頭上から射し込んでくる昼間の光を感じながらピートは、頭の上から聞こえてくるカラスの鳴き声に耳を澄ましていた。
(・・・どうしたんだろう・・・この前から、やけに騒いでる・・・)
ピートは、二日ほど前、夜中にその鳴き声で目を覚ましてから急に、夜昼となくカラスの声が聞こえてくるようになった事に対して、不審を感じていた。
それまでは外部からの物音など、加奈江の足音以外は全く聞こえなかったのに、何故急にカラスの鳴き声などが聞こえ始めたのか。
考えられる中で一番単純な理由は、カラスが何らかの理由で突然この近辺に集まりだした、と言う事だが―――何故、そんな突然に集まり始めたのか。
(加奈江さん・・・やっぱり何か隠してる・・・)
二日前から突然明るくなった加奈江の服装や雰囲気、急に聞こえ始めたカラスの鳴き声、自分の体の変調・・・
今朝も加奈江は、淡い桃色のワンピースと言う、以前のような黒一色のスタイルとは打って変わった明るい色の服を身につけて部屋に現れ、昨日と同じようにピートの髪を結うと、また軽く自分を抱き締めてから出て行った。
余裕が出たと言うか、以前の鬱屈した―――何かを渇望するあまり、切羽詰っているようにも感じられた雰囲気が、柔和になりつつあるような気配。
変質的なまでに鬱々としていた人がそういう風に変化した事は、普通なら好意的に受け止めるべき変化なのだろうが、その加奈江の変化の根底に、何かとんでもないものがあるような気がして、ピートは、どうしても加奈江の変化を素直に受け止める事が出来なかった。どんなに変化しても、彼女が自分を誘拐して閉じ込めている犯人である事に変わりはないのだから良いように受け止められないのだとも思うが、どうも、それだけではない気がする。
何となく―――全くの勘でしかないのだが―――とんでもない『何か』がある。
(やっぱり・・・絶対何かあった筈だ。でも、一体何が?)
部屋を調べたら何か出て来ないかと、ピートは、一度は調べ尽くした部屋の中を、もう一度改めて調べなおしていた。
「・・・っ・・・」
そして、バスルームと洗面所の方も調べてみようとドアを開けたところで、二日前から時折感じている突発的な眠気に襲われて、その場に膝をつく。
二日前の、初めてカラスの鳴き声が聞こえた夜のものほどひどくはないが、頭の中が揺れているような、眩暈に似た感触に翻弄され、反射的に額に手をやったその時。
白塗りの木製のドアの一部に、奇妙な染みが付いているのを見て、ピートは眠気に覆われ、半ば閉じていた目を、ハッと大きく見開いた。
ドアの下の方―――閉じれば、合わせ目になって隠れてしまう箇所にこびり付いた、茶色い染み。
時間が経って著しく変色してはいたが、ピートはほとんど本能的に、それが何であるかを一瞬で理解した。

―――血

「・・・・・・」
ゆっくりと、恐る恐ると言った感じで、その染みに触れてみる。木の木目に隠れてわからなかったが、よく見ると、周辺の床の上にも、血が飛んだ跡のような細かい染みが幾つか付いていた。血が付いた後で丹念に拭ったようだが、血が付いている事を見つけるまでに多少の間が空いて、拭くより先に、血が少し染みになって、残ってしまったのだろう。普通の人間の視力では判別出来ないぐらい細かく薄い染みだが、ピートには、それが血であるとはっきりわかった。
(・・・・・・)
予想外のものを見つけた事による驚きのせいか、先ほど感じた眠気は、いつの間にかすっ飛んでいた。
無言で立ち上がり、床を見ながら部屋を一周すると、ベッドの横で足が止まる。
ピートはそこの床に、這いつくばるようにして顔を近づけると、手で床板を撫でながら、注意深く見つめて調べた。
(・・・一つ、二つ、・・・全部で・・・五箇所・・・)
指先に神経を集中して床を撫で、パテと絵の具とニスで巧妙に隠された、弾痕のような跡を探し当てる。こちらの血はすぐに拭き取られたようで、血の跡はほとんど無いが、それでもよく見るとやはり、パテで塞いだ部分と板との、ごく小さな隙間の中に、僅かだが血が残っている。
ピートはその血の跡を指先で確かめるように撫でながら、二日前、目を覚ました時に加奈江が言った言葉を思い出していた。

(貴方は永遠を持ってるのよ・・・本当に、素晴らしいわ・・・)
(・・・ずっと一緒にいてね・・・私も、同じものを手に入れたから・・・)

「・・・・・・」
まさか、と言う思いで一瞬頭が埋め尽くされた後、ザワッと全身に鳥肌が立つ。
今まで加奈江に対して感じた中で最も強烈な寒気を、ピートはかつてない戦慄と共に感じていた。

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