ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(27)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/15)

「うふふふ・・・」
嫌な感じに薄笑いを浮かべながら、加奈江がエミの首筋に噛み付こうとしたその時。
まるで観念したかのように目を閉じて、動かなかったエミは、体を支えるように後ろ手に回していた手を不意に動かし、その手に持っていた物を、バッと加奈江に突きつけるように見せた。
「な・・・!」
封筒よりも少し大きいぐらいの大きさに折り畳まれた紙の、その表面に、太い毛筆で書き込まれた、「破魔」の二文字−−−
エミが正面に突きつけてきた物が破魔札である、と認識した直後。
既に霊力をこめられて青白く光っていたそれは、一気に力を解放してカッと強い光を発し、加奈江に向けて、その清浄なエネルギーをぶつけてきた。
「きゃああああああああっ!!」
奇しくも、以前と同じ、顔の右側にそのエネルギーの奔流を食らい、顔面を押さえながら、もんどりうって後ろに倒れる。
(破魔札・・・!?そうか、あの時に・・・っ!!)
机からこぼれた破魔札を拾おうとしたエミを、投げ飛ばした時の事を思い出して、歯噛みする。加奈江に投げ飛ばされる寸前、エミは、どうにか数枚の破魔札を手にする事が出来ていたのだ。
「ハッ!プロをなめるんじゃないわよっ!!」
破魔札は投げて遠隔攻撃に使う事が出来る武器だが、対象の魔力によっては牽制程度にしかならない場合もあるし、枚数が非常に限られている以上、外したくない。
なるべく至近距離で、絶対確実に相手にダメージを与えるために、エミは、ダメージを負った体を支えているように見せて破魔札を持った手を後ろに隠し、こちらがロクに動けず武器も無いと見せかけて、加奈江が近づいてくるチャンスを待っていたのだ。
「くっ・・・!!」
身を起こし、ぎりぎりと歯軋りしながらエミを睨みつけると、加奈江は、外に向かって声をかけた。
「退却するわ・・・お前達、足止めしてなさいッ!!」
「えっ!?」
最低限の手駒を残していたのか、壊れた窓の向こうから、逃げる加奈江と入れ違いに、カラスと蝙蝠の群れが飛び込んで来る。
「お待ちっ!!タイガー!!」
「ハ、ハイッ」
埋もれた瓦礫の中から復活しつつあったタイガーに声をかけ、ガードをさせると霊体撃滅波の態勢に入る。しかし、使い魔達を追い払うまでの三十秒のブランクが過ぎた時、既に加奈江は、彼方へと飛び去っていた。
「・・・〜〜〜っ!!逃げられた・・・ッ!!」
戦いに巻き込まれて、すっかり絨毯がはがれてしまった床をヒールで踏み鳴らし、歯軋りする。
「・・・・・・」
「・・・?」
そんな時、いつもならなだめにくるか、こちらの剣幕に苦笑するかしている筈のタイガーが、今夜に限って黙って大人しくしている事に気が付いて、エミはふと、彼の方を見た。
「・・・どうしたワケ?」
「・・・あ。いえ、その・・・。・・・すみませんです。・・・お役に立てんで・・・」
「?」
いきなり何を言い出すのかと、怪訝そうに顔を顰めてタイガーを見る。
タイガーは、いつもの豪快な彼らしくない、心持ち前屈みになっているような姿勢で、何か辛そうに笑っていた。
「ワッシはこの通り、馬鹿力だけが取り柄ですケン。ピートさんの捜索にはあんまり役に立てん上に、今夜は、力でも負けてしもうて・・・」
「・・・・・・」
本当にいつもの彼らしくない、ぽつりぽつりとした声で、呟くように喋るタイガーに、しばし、きょとんとする。
そして、しばらくして、呆れたようなため息をつくとエミは、タイガーの分厚い胸板を、どん、と軽く叩いて言った。
「ったく・・・バカねー。おたくが人捜しとかの細かい仕事に向いてない事なんて、とっくに分かってるワケ!今夜だって、このあたしが梃子摺る相手なんだから、おたくなんかが役に立たないのは分かってるワケよ。そんな事で悩んでるヒマがあるなら、おたくはおたくの出来る事をやってなさい!」
「え・・・」
「化け物女が相手だってわかった以上、霊体撃滅波を使う回数が増えると思うからね。おたくはゴチャゴチャ悩んでないで、いつもみたくあたしのガードに回ってれば良いワケ!」
タイガーの頑丈さを本人に確かめさせるように、もう一度、先ほどより少し強く、タイガーの胸板を叩く。
「今は色々忙しいんだからね。今の自分がどうとかこうとかいちいち悩んでる暇があるなら、今のままのおたくでも、どういう事に役立てるか考えるワケ!いいわね!?」
「は・・・ハイッ!」
もう一度、強く胸を叩かれて、前屈みになっていた背筋をシャンと伸ばす。
いつか、令子が死んで腑抜けた横島に気合を入れた時のように−−−そのタイガーに軽く笑いかけると、エミは、すっかり荒らされてごちゃごちゃになったオフィスを見回して言った。
「さて・・・それじゃ、ここを片付けないとね。ったく、あの女、こんなにしてくれて・・・」
「エミさんは休んで下さい!ワッシが片付けときますケンノー!!」
早速、天井から落ちてきた大きな瓦礫を片付けながら、タイガーが勢い込んで言う。
「こういう力仕事はワッシの得意ですケエ!任せて下さい!!」
「そ、そうね・・・。それじゃ、頼むワケ」
「合点!!」
元気を取り戻したタイガーの、その勢いにちょっと押されながらも、少し安心して事務室を出る。
(悩んでるかと思ったら・・・全く単純なんだから・・・)
しかし、単純な事もそれはそれで、タイガーの取り柄だろう。
(出来の悪い弟子だけど、まあまあ役に立ってるのよ、おたくは・・・)
あの女に色々言われた事で、気にしないふりを装いつつも色々悩んでしまっている今は、タイガーの単純明快な豪快さと言うか、元気の良さが、それだけで少し救いになっているように感じられた。
(しかしまあ、あの女、ホンットに好き勝手やってくれてるけど・・・)
エミは自室に入ると、ベッドの脇に置いたテーブルの上にある水晶球を見やった。
一点の曇りも無い、まさに水を固めたような透き通った丸い水晶の中では、小さな光が、とある方向に向かって動いていた。
「・・・本当に、プロをなめるんじゃないワケ・・・!!」
加奈江は、使い魔を使って、事務所の結界を強引に破って侵入してきたため、結界を構成していた霊気が、事務所の周囲にばらばらになって漂っていた。エミはそのばらばらになった霊気を利用して、先ほど加奈江が逃げる時に、彼女や彼女の使い魔達にその霊気をくっ付けたのだ。
ごく微量な霊気なので、しばらくすると消えてしまうため、本拠地まで追跡する事は出来ないかも知れないが、それでも捜査範囲を狭める足しにはなるだろう。
テーブルの上に東京都と近隣の他府県の地図を広げ、その上に水晶球を転がして、反応の大きい場所を見て追跡していく。やがて、付着させた霊気が消えたのか、水晶の中で明滅していた光は消えたが、その反応が最後に示した場所を見て、エミは静かに呟いた。
「奥多摩・・・」
ほどよく日焼けしたような褐色の指が、地図の上に書かれたその地名を、そっと撫でる。
「・・・・・・」
ようやく、何かが見えてきた。
そんな気がしてエミは、久し振りに、自分の唇が自然と綻んだのを感じた。

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