ザ・グレート・展開予測ショー

きょうくん


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(05/ 9/ 5)


「いいか忠夫。今から一つ、昔話をしてやろう」
「ん?おう、聞かせて聞かせてー!」

 いまだ小学生に上がるか上がらないか。そんな年頃だろう少年と、その父親。
 たまに早く帰宅できた時くらいは、という微笑ましい親子団欒の光景と言えます。
 ただ、この忠夫少年、普段なら昔話で喜ぶ大人しいタイプではありません。それがなぜこうまで喜んで聞くのかと言いますと。

 まぁ、論より証拠、百聞は一見にしかず。まずは大樹パパのお話を聞いてみましょう。

「昔、どこかの国に1日に1つ、金の卵を産むニワトリがいた」
「え?ニワトリってそんなもん産むん?」

 忠夫少年が驚いて聞きました。今にもニワトリを探しに行きそうな勢いです。
 血がそうさせるのか、こういう時に関西人は何故かアグレッシブになるのです。
 しかし大樹パパも慣れたもの。忠夫少年に「そんなわけあるか」と軽くツッコミを入れて、話を続けます。

「こりゃ御伽噺だ。普通のニワトリは普通の卵しか産まん」
「な〜んだ」
「だが、このニワトリはどういうわけか金の卵を産んだんだ。そのお陰で、ニワトリの飼い主は生活がものすごく楽になった」
「どのぐらい?」
「そーだな……金1gが今だいたい1600円くらいだし…10万くらいか?」

 専門でもないのにサラッと金の値段とか出てくるあたり、大樹パパ、やり手サラリーマンの片鱗が見えます。
 しかしそんな細かい事には気づかない忠夫少年。「1日10万か〜」と単純に感心しています。

「ま、昔のことだし、もっと金の価値が高かったかも知れんが、その辺はどうでもいい。大事なのは、生活が楽になった飼い主が、何をしたかだ」
「どーしたん?」

 ここで大樹パパはちょっとだけマジな顔になって、逆に忠夫少年に聞き返しました。

「お前は、どうしたと思う?」
「ん〜〜……解らん!」

 忠夫少年は胸を張って言いました。ノリだけで生きていて、しかもそのまま幸せに生きていけそうな、そんなオーラを出しています。
 そのペカッと輝く、純粋な笑顔を曇らせるのに少し心を痛めつつ、大樹パパは息子に答えを教えてあげました。

「ニワトリの腹を割いたのさ」
「……な!なんで!?なんでそんな事するんや!?」

 唐突に出てきた残酷な答えに忠夫少年の幼い心はショックを受けて、彼はそんな話をした父親に食って掛かりました。
 だが既に大樹パパは覚悟完了済み。いつの間にか手に持っていたタバコに火を付けて、淡々と質問に答えます。

「こうして毎日金の卵を産むんだ。きっと腹の中には、どっさりと金が詰まっているに違いない。飼い主はそう考えたのさ」
「それだけ?それだけの理由で、殺したんか?」
「……それで十分なんだよ」

 いつも家の中で絶やす事のなかったヘラヘラとした笑みを引っ込めて、真剣な顔で父は息子に言いました。

「いいか?人間、欲ってのは限りない。その為なら、毎日金の卵を産んでくれる恩人でも、裏切る事がある」

 聞きたくない、でも父親が何やら大事な事を伝えようとしているらしいから、耳をふさげない。
 せめてもの抵抗に、首をふるふると横に振りつつ、涙目で腰が引けている、そんな息子に大樹パパは続けてこう言いました。

「だからな、忠夫。他人を………………………信じてやれ」
「へ?」

 それまでの話の流れとはまったく違った結論に、思わず素に戻ってしまう忠夫少年。涙もどこかへ行ってしまいました。
 イタズラ成功。さっきまでとは一転、そんな満面の笑みを浮かべた大樹パパは、続けてこうも言いました。

「人間、そんなヤツばっかりじゃねーからな。だからまず、信じてやれ。もちろん、無条件にじゃないぞ?自分なりに確かめてからだ」
「え、えっと?」

 ひょっとして、俺からかわれたんか?
 ようやく気付いた忠夫少年でしたが、いまいち確信がもてないので、少し考えこみました。
 その間にも大樹パパのお話は続きます。

「例えばだな。さっきの話の飼い主。あいつはニワトリの事を殺す前に、まず抱きしめてみるべきだったんだ」
「?」

 考えている時に、別の問題が飛び込んできて、ますます解らなくなる忠夫少年。
 でもやっぱり、大樹パパのお話は続くわけで。

「抱いてみれば、重さで金を持ってるかどうかすぐに判ったはずだろう?」
「あ、そっか」

 疑問が一つ解決して、スッキリする忠夫少年。もう一つの疑問、父親にからかわれていたのかどうかも、一緒に忘れてしまいました。
 そんな忠夫少年の内心に関わりなく、やっぱり続くよ大樹パパのお話。

「そもそも、卵を産むって事はメスだ。いいか忠夫、女はな。抱いてみなくちゃ解らないもんなんだ」
「へぇ?そうなの?それで昨日、あんなに遅かったってわけね?」
「ああ、新しく入った娘と………………………」

 父と子の水入らずのコミュニケーションだったはずの場に、別の人がいるのに気付き、その人物の正体を悟って、一気に止まった大樹パパのお話。

「さぁ。その辺は、あっちでゆっくりと聞かせてもらいましょうか」
「ちょ、誤解!誤解ですよ百合子さん!!一緒に飲みに行っただけ!行っただけですからー!!」

 ずるずると奥さんに引きずられて、夫婦の寝室へと消えてゆく父親を見て、忠夫少年は今日最後の教訓を得ました。


「俺、あんな風にだけは、ならんとこう…」


 でもそれは、とても難しいかもしれない。


 <完>

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