ザ・グレート・展開予測ショー

まごころを君に―6


投稿者名:ゆうすけ
投稿日時:(05/ 9/ 4)





それ以降、二人はシロから話を聞く事が出来なかった。
イギリスに近づくにしたがってシロは益々落ち込んでいき、着く前にここに連絡してくれと言ったのが最後で、仕舞いには全く喋らなくなった。
食事にも全く手をつけず、ルシオラがいくら相手をしても無駄だった。
「……」
時計を見た横島はスチュワーデスを呼ぶ。
「あの、この飛行機に電話ってあります?」
そしてシロの指定した番号をかける。
「…もしもし」
出てきたのは西条だった。
「…西条か?」
西条が出てきたのに疑問を持った横島は声の主に確認を取る。
「その声、横島クンか!?じゃあシロは見つけて来れたんだな!?今まで何処に居たんだ!!」
感情が激しく入れ替わりながら話す西条。認めたくないが冷静な彼らしくないと横島は感じた。
「事が済んだら話す。それよりどう言う状況なんだ?シロじゃ話にならん。大体何が起こったんだ!おキヌちゃんなんだろ!おい!」
わからない事を無くそうと、語気が荒くなっていくのを気にも留めず必死に食いかかる。
「ま、まて!必要な事だけ話す!不足してる分は合流してから説明していこう」
「…わかった。すまん」
息を切らしていた事に気づいた横島は深呼吸をする。
「……キヌ君は今昏睡状態で、医学的な異常はもう一切無い。ただ、魂が抜けていて生命維持が儘ならない。彼女の魂の居場所はわかっているんだが、我々の呼び掛けには一切答えず、ひたすら君を要求している。魂自体も意識が混濁していて非常に不安定で危険な状態なんだ」
「……………………」
話を聞く横島には実感のわかない状況だった。
「……わかって、くれたか?」
返事もなにも返ってこないのを怪訝に思った西条が確認を取る。
「……あ、ああ。それじゃぁ、空港まで迎えに来てくれ」
「わかってる。それじゃ」
受話器を元に戻して横島は席に戻った。
ふと今までの会話を思い返す。自分が怒鳴っていた事、シロに聞かれてないか横島は不安に思った。
――シロじゃ話にならん
実際の所はそうなのかもしれない。だが横島はそうは思いたくなかった。
「………」
シロはまだルシオラの膝で眠っていた。
「おかえり」
シロを気遣って声を殺すルシオラ。
「うん」
「随分荒れてたわね?どこだったの?」
手前のテーブルにあるコーヒーの入ったカップを手に取る。
「西条んとこだったよ」
「へぇ、懐かしい」
まだ甘さが足りないとスティックシュガーを二三本掴んでいたルシオラが返す。
「空港で待ってるって」
「ふぅん…」
彼女の傍らはスティックシュガーの空袋で溢れていた。コーヒーをかき混ぜながら相槌を打つ。
「………」
横島は手を伸ばし、シロの頭を撫でる。
「こいつは十分頑張ったよ。何処にいるかもわからなかった俺達を見つけたんだから……」
「……そうね」
カップを置き、シロの毛布をかけ直すルシオラ。
まもなく到着するとの機内アナウンスが流れた。



空港を出ると車の前で仁王立ちしている西条と合流した。
「…………やっと来たな」
やっとを極端に大きく、厭味たっぷりに漏らす西条。
「…わるかったな。さっさと車回せ」
荷物を適当に放り込んで乗り込む三人。
「ふん、いつぞやみたいに殴ってやりたいとこだが。生憎こっちも結構滅入っていてね」
運転席に乗り込み、素早くキーを回し、発進する。
「……オマエの泣き言聞けてオレは嬉しいよ」
「……魂が肉体から抜け出しているのは、もう話したな」
真剣な表情になっていく西条。横島もそれに同調していく。
「そのせいで肉体の代謝機能が弱っていく」
後部座席を見ると、ルシオラとシロは眠っていた。
「前に美神さんがなったあの状態か?」
「…ああ」
赤信号につまづき、舌打ちをする西条。
「だから我々、ボクと弓君と一文字君で外部からの霊力供給を行っている」
「…タマモは?」
西条は返さず、信号を見つめていた。
「…おい」
「……魂の意識がオカシイ、と言うのも話したな」
青になり、再び走り始める車。
「ああ」
車は脇道に入っていく。
「魂が精神力に大きく左右されるのは当然知ってるな?」
「……それで?」
二人の視界に大きな病院が見えてきた。
「……錯乱状態にあってね。いつ自己崩壊してもおかしくない。タマモと弓君のルームメイトで、同じゼミ生のステフ君に結界の維持をやってもらっ…!!」
目の前に人が飛び出し、急ブレーキをかける。けたたましくクラクションを鳴らす西条。
すると男はクラクションに触発されたのか、運転席のドアを蹴飛ばしながら何語かわからない言葉を発する。
「お、おい…」
横島の制止を聞かずに西条は車から降りた。男は西条の胸倉を掴み、殴りかかる。
  パシュッ!パシュッ!パシュッ!パシュッ!パシュッ!パシュッ!パシュッ!パシュッ!
西条は片手で拳を受け止めるともう一方で拳銃を取り出し、男に発砲した。発砲が止むと男は倒れた。
そして再び乗り込むと何事も無かったかのように車を走り出した。
横島は開いた口が塞がらなかった。
「……ゴム弾だ。死にはしない」
「そ、そー言う問題じゃねぇだろ!」
「………そうだな。やり過ぎだな」
大きい道路に出た時、再び赤信号に捕まる。渋い顔をして西条は煙草を取り出し、紫煙をたたせた。
「…………キヌ君は…」
「えっ?」
不味そうに煙を吐き出す西条。
「襲われたんだよ。あんな感じの奴らにね」
予想外の原因に言葉を失う横島。
「キヌ君も抵抗したみたいでね。結局、腹部を撃たれた以外何もされてない」
後ろの車からの催促で信号が青になったのに気づいた二人は車を発進させる。
「もともと霊体と肉体との癒着が緩い子だったから…。肉体への急激な衝撃で霊体が弾き出されたんだろう。それに加え、余程の精神的負担…恐怖……こうなってもおかしくない」
話を聞いている内に疑問が浮かんだ横島は西条の方を向く。
「そういえばさっきから美神さんが話に出てきてないぞ。あの人は今何してんだ?」
横島の言葉に表情を曇らす西条。
「……令子ちゃんは、今はどこにいるかわからない」
「はぁ!?」
呆れた調子にも似た声で聞き返す横島。
「令子ちゃんも事件が起こってから二三日は付きっ切りで彼女の傍に居たんだ。………それがいつの間にかいなくなってて…」
「…………………そっか……」
それから病院に到着するまで沈黙は続いた。











病室に着くとそこには疲労困憊した様子の一文字と眠ったように横になっている弓。そして上体を起こして窓の外の景色を眺めているおキヌがいた。
「……えっ?」
予想していた風景と違った横島とルシオラは思わず声を出した。
「………やっと来ましたのね。……女連れとは大層な御身分だこと」
振り返ったおキヌが横島に冷淡に言い放つ。
喋り方から弓が入っている事を理解した横島。
――確かに綺麗になった
美神のような艶やかさは相変わらず無いが、純粋な、モノの美しさに溢れていた。
「………………あっ、……おっせぇんだよ。バカ野郎…」
弓の声で四人が来た事に気づいた一文字がやっと声を出す。
「悪ぃな、積もる話は後でする。おキヌちゃんはどこだ?西条、案内してくれ」
踵を返す横島。
「あ、ああわかった。シロはここで待ってるんだ」
無言で頷くシロ。
「待ちなさい」
西条の後について、病室を出ようとした時、弓が横島を呼び止めた。振り向く横島。
「あのコを…任せましたわ」
そして三人は病室を出た。
駐車場に向かう廊下を歩いていると、美神と出くわした。
「み、美神さん!」
小走りで近づく横島。西条もそうしようとしたがルシオラに制止された。
「えっ?…横島クン」
両肩を掴まれた美神はビックリして彼を見て、そして俯いた。
「こんな時に何してたんスか!?それよりどうしたんスか、擦り傷だらけじゃないスか!?」
美神は衣服も身体もボロボロに擦り切れていた。
「こんな時に?あんたこそ今までどこほっつき歩いてたのよ!!大体なんでルシオラがいるのよ!?死んだはずでしょ!?なんでいんのよ!!」
目を潤ませ、顔を真っ赤にしながら食いかかる美神。
彼女の言葉にルシオラは申し訳なさそうに目を伏せた。
「…俺は、彼女のためにアメリカにいました」
「そんなこと知ってんのよ!!今更そんな事どうでも良いの!!」
横島の言葉も聞かずに益々語気を荒くする美神。
彼女は自分でも何を言ってるのかわかっていなかった。
自分の両肩に乗せられた横島の手を払いのけ、彼の頬を引っ叩く美神。
「……私じゃダメなの」
赤く腫れた頬を押さえる事もせず耳を傾ける横島。
「私の声もあのコには届かなかった……」
自分が張った横島の頬を優しく撫でる。
「………アンタじゃなきゃダメなんだってさ、まだまだワガママなんだから…」
そう言うとクスリと笑った美神は病室の方へ去って行った。
横島は最後の美神の笑みに、彼女の芯の強さをしっかりと感じ、幾分安堵しながらその後姿を見送った。










おキヌがいたのは事件発生現場となったとある路地裏にある廃屋だった。結界に周りを囲まれたおキヌの傍らには、座り込みながらぼんやりおキヌを見つめているタマモとステフがいる。
「…………」
横島達の方を振り向いたタマモは何も言わずにまた視線を戻す。
横島にはかける言葉が見つからなかった。おキヌを見る。
彼女は目の焦点も合ってなく、首吊り死体の様にだらしなく宙に浮いていた。
タマモはおもむろに立ち上がると横島の肩を軽く叩く。
「今の所は安定してるわ。あとは、アンタ次第ね」
そう言い残し、ステフを促すと彼女はその場を離れていった。
「結界は解かなくても問題無い。……頼んだぞ、横島クン」
西条もタマモ同様、横島の肩を叩くと離れていった。
「………ヨコシマ」
横島は頷くと落ち着いた足取りでおキヌに歩み寄った。
「?……?…」
するとおキヌは気づいたのか、焦点の合ってない目で辺りを見回す。
「……おキヌちゃん」
結界の目の前まで来た。
「………横島、さん?」
横島の方を一瞬振り向く。
「うん…」
「………?…」
またキョロキョロと見回すおキヌ。
「横島さん?横島さん!?いるんでしょう!?どこ!?どこ!!?」
目の前にいる横島を彼女は涙を流しながら探す。
――見えてないのか?
「おキヌちゃんココだ!ココにいる!」
結界に手を触れて少しでも彼女に聞こえるように、と横島は大きな声ではっきりと言った。
「!!!」
結界に触れた手から電流のような何かが流れ、横島の頭で暴れだした。
思わず手を離し、頭を抱え、苦痛に悶える。
「ヨコシマ!!」
彼の異常に気付いたルシオラが駆け寄る。
「――なんでもない!大丈夫だ!!」
やっとの事で声を出し、ルシオラを制止する。
――なんだ!?
<いや!来ないで!!>
彼の頭の中で悲鳴が響く。
――なんだ!!?
<いやぁぁああ!!!!美神さん!横島さぁん!!>
彼の視界がぼやけて行く。かわりに様々な映像がフラッシュバックする。
――……記憶?
<怖い…怖い…なんでシロちゃん達いないの…?横島さん…>
――うっ!
頭を強く縛り付けられる感覚に襲われ、横島は膝をついた。
脳裏銃口が映る。
<怖い!怖い!怖い!怖い!助けて、横島さん!助けてぇ!!>
蹲り、涙を流しながら、ガチガチと歯を鳴らして彼女の味わった恐怖に耐える横島。
「―――!!」
頭の中で銃声が鳴り響くと、魂が抜けたように息を吐き、彼は気を失った。







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