ザ・グレート・展開予測ショー

いつか見た夢


投稿者名:すがたけ
投稿日時:(05/ 9/ 4)

 何故だろうか、昔と同じ夢を見た。

 『娘を…娘をどうか守ってやってください』

 俺の前には闇が……そして、今より結構若い隊長が佇んでいる。



『最初の試練が近づいています』

 最初の試練っていうと――?


 考え、思い出す。


 ああ、確か美神さんとマリアと一緒に、700年前のカオスのおっさんのところに吹っ飛ばされた時の――――。






















 『――――聞いてますか?』



 うぉうっ!!




 隊長……笑顔でアドリブは止めて下さい、心臓に悪いっス。

 大体、表面上は笑顔でもよく見りゃ目の奥は笑ってないし、アンタって人は下手すると美神さんより遥かに怖いってことは、アシュタロスとの戦いで十分知ってるんスからね。



 あー、心臓がまだばくばく鳴ってる。



 隊長はというと、世にも恐ろしいプレッシャー込みの笑顔を解き、何事もなかったかのように再び話を続けだした。

 『やがて、あの子は大きな流れに巻きこまれていくでしょう』

 ――――確かに美神さんは大きな流れに巻き込まれたなぁ。前にこの夢を見た後にすっ飛ばされた中世ヨーロッパではカオスのおっさんの若い頃――とはいっても、既にあの時には300のジジイだったけど――と出会うし、ヒャクメの所為で吹っ飛ばされた平安時代では俺と美神さんの前世には出会うし、某国とカオスの合作のロケットで月に行くし、アシュタロスと一戦交えた挙句の果てに、魂抜かれて一度死んでしまうし――――って、そのことごとくに俺も巻き込まれてるじゃないっスか、隊長!」




『――その時、そばにいてやれるのは あなただけなのです』
 つい声に出してしまったけど……隊長はあっさり無視してくれた。

 思わずツッコミを入れてしまったけど、よく考えてみたら、俺もまぁここまで美神さんと一緒にやってこれたもんだ。

 あの色香に惑わされてから1、2、3…………いや、一年経ったけど、あれ以来、何度死ぬ目にあってきたか判らない。というか、普通なら死んでる。


 “元を取らんと!”の一心で必死について行ってたけど、正直言って、あれだけ死にかけたんじゃ、ちちやしりやふとももを好きなだけ触るどころか、多少のことを容認してもらわない限りは元というか赤字だ。








 ちくしょー、いつか○ってやる!











 絶対○ってやる!!



























 ――――――無理かなぁ?」






 『私の前で何を口走っているんですか、横島さん』



 しまった、また声に出してた。


 すいません隊長ホントすいませんすいませんすいませんだからその冷たい視線は止めてくださいすいません。かといって、笑顔でプレッシャー掛けるのも勘弁してください。
















 あ、胃に穴あいたかも。







 腹に感じる激痛で意識を遠くしかけた俺に、隊長は更に言葉を継ぎ足す。

 『あの子は見かけほどには強くありません』

 そんなことはないっスよ、隊長…………とはいえない。

 美神さんの助手になってからの一年で、何度かあの女(ひと)の涙を見た。
 
 確かに美神さんは強い。

 おキヌちゃんの時には死津喪比女に銃弾を撃ち込んだ時点で考えることを放棄して泣き崩れていた俺にハッパを掛け、おキヌちゃんが死を賭して倒そうとした死津喪比女の最期を見届けるのが自分達の仕事だと……涙を流しながら、言ってのけた。



 それだけの強さは、俺にはない。



 ルシオラの時もそうだ。ルシオラを喪ったことに打ちひしがれるだけだった俺と違い、必死に、そして前向きにルシオラを復活させる道を探り、隊長や西条と一緒にルシオラの霊体片の増幅のためにと都庁地下の施設を使用できるように政府に掛け合ったり、『三姉妹で唯一霊的ダメージを受けなかったパピリオの霊基を分け与えることでルシオラを復活させることは出来ないのか』と小竜姫様やワルキューレに相談したりもしていた。

 結局、政府の奴らには『魔族に力を貸すことは出来ない』なんて理由で突っぱねられたし、パピリオの霊基を分け与える案も、そもそもアシュタロスに作られた時点で個体を形作るだけの分量としてはギリギリの状態だったパピリオの持つ霊基が、他者に分け与える分には足りていないという現実の前に敗れ去った訳だけど……沈んでいるだけで何もすることが出来なかった俺に『いつでも、どんな時でも前を向かなきゃ』とその姿で語り、おキヌちゃんにも『幽体離脱に慣れている自分になら、ルシオラに霊体を分け与えることも出来るんじゃないか』と言う案を提示させるにまで至っている。

 ルシオラを生き返らせたい、と誰よりも強く思っていたはずの俺が、ルシオラの必要な霊体片を入手できないという現実から無力感に苛まれているだけしか出来なかった、というのにだ。


 だけど、あの女も結局21歳の女性……俺よりも遥かにシビアな世界を生きてきたとは言っても、俺とはたった3つしか違わない。気丈に振舞っているけど、折れる時には容易く折れてしまう歳相応の脆さも根っ子に持っていることには違いない。



 ――――だけど――――。


 『誰か…ささえてやる人間がそばにいなければ…』


 その言葉が来るということを知っていたとはいえ、その言葉を聞いて、俺はつい身構える。

 この夢を最初に見た時には……そして、妙神山での一件では、確かにそばにいてやれるのは俺くらいだと思っていたし、事実、おキヌちゃんもいない時期と重なっていた所為もあって、美神さんの傍らには俺しかいなかった。




 だけど、今はどうだろう?



 俺の心に、不安が芽生えてくる。





 ――――俺は『ここ』にいていいのだろうか――――という、底知れない不安が……。








 もう美神さんを狙う前世の因縁はない。


 美神さんを影で見ていた隊長も戻ってきたし、家族といっても過言ではない事務所の仲間もそばにいる。



 俺は……どうだろう?


 ――――美神さんにとって、俺がいる意味はあるのだろうか?



 ――――美神さんのような『強さ』も『覚悟』も持っていないこんな俺が……。



 ガラじゃないことは判っているけど、不安が拭えない。



 『どうか、娘を…』言って、踵を返す隊長。

 確か、前の時にはここで目が醒めた。

 今度もまた同じように、どこからともなくけたたましいベルの音が鳴り響いている。


 だけど、このまま起きるわけにはいかない。

 一つだけ……これだけは聞かないと――――!


 圧倒的な力でこの世界から引き摺り出される感覚を味わいながら、俺は遠ざかる隊長にありったけの気力を振り絞って叫びかける。



「隊長!本当に俺にそんな力があるんスか?
 俺に美神さんを支えるだけの力が……本当にあるって言うんスか?」





 コートに身を包んだ隊長の背中が、止まる。










 振り返った隊長からは……無言の微笑が返ってきた。




 それはどういう意味――――?


 それ以上は、俺の意に反して聞くことは出来なかった。


 暴力的なまでに大きくなった目覚し時計の音が、無理矢理に俺の意識を覚醒の方向に導いていたからだ。












 けたたましい音に負け、跳ね起きた俺はゴミの山から掘り出した目覚し時計の指す時間を確認し……自分の目を疑う。




 時刻は2時をちょっと回っている――――完璧に遅刻やないか!




 飛び起きてGジャンとジーンズを手早く身に着け、俺はボロアパートを飛び出る。

 
 神通鞭でしばかれるのはゴメンだ。早く行かなきゃ生命すらも危ない。


 まったく、悩む暇もなにもあったものじゃない。


 俺は起きれなかった自分を呪いつつ、大急ぎで事務所へと走って行った。























 ――――その頃、美神除霊事務所では……。

「携帯なんか持ってるはずないし、電話にも出やしない!何やってんのよ、あの馬鹿は!!」
 既に30分も遅刻している助手を苛立たしげに待つ所長・美神令子の姿があった。


「まーまー、美神さん。横島さんならもうすぐ来ると思いますよ」
 もう一人の助手・氷室キヌはそういいながら、美神の前に置いてあったコーヒーカップをさりげなく下げ、投げつけても命に別状のない初物の梨と入れ替える。

「折角時給も上げてやったというのに……まったく。
 ――時給下げてやろうかしら」

 ぶつくさと溢しながら、美神は改めて自分の装備をチェックする。

 遅刻した横島を置いていく、という選択はないらしい。

 また、面と向かわずに時給のカットを口にするということは、美神に毛頭その心算はない、ということをおキヌはよく知っている。

 彼女にとっても雇用者であるこの『姉』に等しい女性の性根は――――照れ屋なのだ。


 『便利だから』『金が掛からないから』といった理由をつけて横島を片時も傍らから離さない――――それこそが、横島に対しての美神の絶大なる信頼の証である、ということなのだが……その信頼を、数分後に事務所に駆け込んでくる横島は知らない。





 いつでも出発出来るように、人工幽霊壱号に車の暖気は任せている。


「すいません、遅れま――――」

「――――遅いっ!!」


 おキヌの誘導通りに梨を投げつけ――いつもの折檻。

「あーもう……時間ないんだから、行くわよ!!」時間がない割に一通り折檻を終えたところで言う美神。

「……は、ハイ!」美神の叱咤の声につられるかのように、血達磨の状態から何事もなかったかのように立ち上がる横島。

 今この瞬間に、夢で見た迷いは……ない。

 階段を駆け下り、前を行く美神の背中に、横島は小声で問い掛ける。



「美神さん……俺は、『ここ』にいてもいいんですよね?」


「は?何言ってんのよ?ごちゃごちゃ言ってたら置いてくわよ!」ガレージに駆け下り、ポルシェに飛び乗った。

 人工幽霊壱号の配慮で、既にガレージのシャッターは開いている。横島、そしておキヌが遅れて飛び乗った事を確認した美神は、ポルシェのタイヤを軋ませてガレージを飛び出した。









 ――――シャッターが下りていく。

 漆黒に包まれたガレージに残された人工幽霊壱号が、ポツリと呟く。

『何があったかは判りませんけど――――あなたは『ここ』にいないと。美神オーナーを誰よりも一番支えているのは、紛れもなくあなたなんですからね』




 呟き、人工幽霊壱号は全員が慌ただしく飛び出た事務所の電源を落とす。







 陽光が差し込む窓際には……横島を中心に据えた5人を写す集合写真が立ててあった。

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