ザ・グレート・展開予測ショー

オカG極楽大作戦〜タマモの陰謀〜


投稿者名:ふぉふぉ
投稿日時:(05/ 9/ 4)

(注:これは『オカG極楽大作戦〜シロの野望〜』の続編です)

「はい!では先生、これにて失礼するでござる。」

言うが早いか、さっそくシロは駆け出した。
駆ける、というよりは飛んでいくかのように遠ざかっていく後姿を横島はその姿が見えなくなるまで見送っていた。

シロの姿が見えなくなってからややおいて、横島はふと後ろを振り返る。

「そろそろ出てきちゃどうだ。」

横島の視線の先から返事が返る。

「いつから・・・気づいてた?」

林の中からガサガサと音を立てながらタマモが姿をあらわした。

「もちろん最初から・・・と言いたいところだけどフライングソーサーを出したあたりからかな。制空範囲に入ってなかったら気付かんかったかもしれん。さすがだよな、タマモ。」

(そっちこそ)
そう言いかけたタマモだが、口に出すことはしなかった。横島の言葉は皮肉でもお世辞でもないことはわかっていたからだ。また、そう口にしたところで横島に対する皮肉にもお世辞にもならないこともわかっている。お互いに。
気配を殺して近づくことにかけては道具や呪術なしでタマモに匹敵する人間などほとんどいない。今ですら人狼であるシロが気付かなかったほどだ。それでも横島には見抜かれてしまう。たとえフライングソーサーを発動していなくても横島の絶対防御圏内には気付かれることなく侵入することは容易ではないのだ。

「シロだけ特別ってことはないわよね。もちろん私にも教えてくれるんでしょ。」

そう言いながら近づいてくるタマモに横島は笑って答える。

「おー、いーとも。でもできれば二人一度に来てくれると助かるんだがな。」

「それは私も同意見ね。一文字隊長もそう言ってたし。今回はシロの抜け駆けよ。だいたい今日横島がオフだってのは一昨日Gメンに来てたときに聞いてたし、シロはシロで挙動不審すぎたし。バレバレなのよね。」

「・・・やっぱり(笑)。だったら途中から顔出せばよかったのに。」

「言ったでしょ、これはシロの抜け駆けだって。だからあたしも横島につきっきりで教えてもらうの。半分仕返しみたいなもんね。それにもう半分の仕返しはもう済んでるし・・・」

「え?もう何かやってたのか?」

「・・・あとでわかるわ。それより始めましょ。」

「まーいっか。おーけー、んでタマモは何からやりゃいんだい?妖狐の能力はもうほとんど使えるんだろ?」

「そう・・・妖狐の力はね。」

横島のすぐ側までくるとタマモは立ち止まり、静かに話し始めた。

「妖狐は人間界に生まれ、人間界で生きていくことを選んだ魔物。その能力も主に対人間で最大限の効果を発するものばかり。千年前ならともかく、今の時代では十分とは言い難いわ。」

「どれ・・・詳しく聞こうか。」

横島に促され林との境目にある大きな岩に二人で腰掛ける。

「今の私はオカルトGメンという組織の一員。人間から無用の警戒を受けないための信頼を得るにも、昔とは比べ物にならないほど増えた妖魔から身を守る術を学ぶにも、最も合理的な立場。でも魔物である私は人間以上の働きをしないと認められない。私やシロ以外にも人外の隊員も増えたし。」

アシュタロスの事件以後、それまでの(元々は人間であった)悪霊よりも魔物に対する危険意識が高まった。オカルトの専門知識を持たない一般人の嫌悪は魔属、妖怪、魔物といった区別なく、人外のもの全てに向けられた。人間界をその生存の場とし人間との共存を望むもの達は、より積極的に危害を加えないことを人間にアピールする必要が生じ、その結果種族単位の互助組織というべきものが結成されることとなった。ブラドー島を中心とした親人類吸血鬼盟友会(島民のネーミングセンスも前島主に似て少々古臭いようである)、人狼・妖狐・妖猫などの人と獣の姿と異能を併せ持つ獣人連合(アジア代表は人狼の山里)などから始まったそれは、亜ヒューマン・ギルドとして世界的・全魔物的な組織にまで発展する。人間との共存を目指したその運動はついには国連より正式に基本的人権を認められるまでに至る。
オカルトGメンでも前年度より人外採用枠が用意され、それまでのピート・シロ・タマモのように実績に加えて複数の有識者の推薦を必要とするなどの制限を撤廃し、亜ヒューマン・ギルドの保証と10年以上の経験を持つGS資格保持者1名の後見さえあれば入隊可能となった。

「だから・・・まずはチーム戦に有効な能力を身に付けたいの。一文字隊長もシロもどっちかというと近距離戦闘が得意だから敵を足止めするような能力が欲しいのだけど、今のところ確実なのは狐火だけだし。」

「幻術は使えないのか?」

「あれは有効範囲が限られるし、何より相手の知能が一定以上じゃないと効かないの。」

「ふーん、虫に催眠術かける話って聞かないもんなー。」

「・・・そんなようなものね。変化(へんげ)も移動なんかには役に立つけど無差別に攻撃してくるヤツは何に化けても襲ってくるし。もう一つくらい搦め手の技があるといいのだけど・・・」

「うーん、そーだなー・・・・」

横島は少し考えていたが、何かを思いついたようにニヤッと笑いながらタマモにきりだした。

「光を操り、敵に麻酔する専門家の技を知ってるんだが・・・ヒントになるかな?」

「光に・・・麻酔。それって・・・」

「ま、試しにやってみっか。」

そういうと横島は立ち上がり、タマモより少し距離をおいてタマモの方を向き文珠を3つ取り出し、気を高め始めた。

気の高まりとともに放出された霊波により横島の体が光を帯びてくる。
一際輝く光を発したと思ったその瞬間、横島の姿はタマモの視界から姿を消していた。

「どうだ?」

ふいに聞こえた横島の声にハッとしてタマモが顔を向ける。さっきまで横島が立っていた位置より十数メートルも離れたところにその姿があった。

「瞬間移動・・・じゃないのね。」

横島がゆっくりと近づいてくる。

「ま、俺の技じゃないから全部文珠を使ったけどな。」

「説明してくれるんでしょ。」

再びタマモの傍らに腰掛けた横島はタネ明かしを始めた。

「まずな、霊波を放出して視覚と霊力の両方で印象付けしてから『影』の文珠で分身を作ったんだわ。波長を俺とおんなじにしたヤツをな。んで、それから『屈』『折』の文珠でタマモから見える俺の姿を捻じ曲げて影に重ねたわけだ。それから気配を殺して移動したんだが、その間タマモが見てたのは俺の姿をした俺と同じ波長をもった霊波の塊だったっつーわけだ。」

「それが・・・ルシオラの幻術なの?」

「だいたいの原理は、な。影は脱皮するように体の表面から皮一枚分の霊体を分離して作るらしいし、光も屈折するだけじゃなくて一時停止とか遅延再生とかもできるらしいけどな。で、だ。影は狐火を工夫すればなんとかならんか?光の屈折は無理だと思うが変化を応用すれば狐火の形も性質も自分に似せた分身を作れると思うがどーだろーか。それなら視覚と霊力とどっちもだませるから短い時間なら結構いけると思うんだが。」

タマモはややうつむき気味に、自分の思考を整理するように独り言を始める。

「そうね・・・」
「人魂タイプの狐火を発火させずに使えば・・・できるかも・・・」
「自分自身以外の変化はやったことないけど・・・分離する前に変化すれば?」
「いいえ、変化から戻るときの感覚の方が近いかも・・・」

ひとしきりつぶやいていたタマモがパッと顔を上げ、横島を見つめる。

「多分・・・できる!」

イメージし、体で覚えるタイプのシロと異なり、タマモは基本的な理論の組み立てが終わってしまえば術の形が見えてくるのにはさほど時間はかからなかった。必要なのはむしろその後の完成度を上げるための微調整に費やす試行錯誤の時間である。

1時間もするころにはタマモは一見すると自分そっくりの分身が作り出せるようになっていた。

「分身を作るのにまだ時間が掛かり過ぎる・・・実戦ではまだ使えないわね。」

「まーな。でも今日一日の成果としては充分なんじゃないか?動かせることも解ったし、何かが触れたら発火するような仕掛けも組み込めそうだし。」

「そうね、まだまだ試してみることは多いわ。それまでは付き合ってくれるんでしょ?」

「はいはい、しばらくは二人まとめて面倒みて・・・」

と、横島の言葉の途中で横島の携帯に着信が入る。発信者は・・・シロからだった。横島はそのまま電話に出る。

「おう。・・・ああ、一緒にいるぞ。・・・ん?代わればいいのか?」

横島が携帯をタマモに差し出す。

「だとよ。」

タマモは無言で受け取り、耳に当てる。

「なによ。」

そう一言だけつぶやくと、表情も変えずに手を伸ばして携帯を耳から離した。
横島にも聞こえるほどの怒号のようなシロの大音量の声が携帯から響いている。
電話の向こうのシロは一通り何かを言い終えると一方的に通話を切ったようだ。

「だってさ。今からこっち来るみたいよ。・・・はい、返すわね。」

変わらず表情を出さないタマモが差し出した携帯を、横島は苦笑いを浮かべながら受け取る。

「何だったんだ?何か・・・やったのか?」

「残り半分が効いたみたいね。あの様子だときっと1時間もかからずに来るわよ。来た時には体力使い切ってるだろうから、できればご飯でも食べさせてあげてもらえると助かるんだけど。」

「それは構わんが・・・もともとさっきはそのつもりだったしな。昼飯っつーにはだいぶ遅くなっちまうけど3人で行くか。それより・・・何やったんだ?」

「・・・知りたい?」

タマモの顔に僅かに感情が現われる。ちょっといじわるな、それでいて嬉しそうな、ほんの僅かな表情ではあったが。

「ってか聞かせろ。飯代がわりにそれくらい教えてもらってもバチは当たらんだろ?」

「そうねぇ・・・」



そのころシロは鬼神のような勢いで横島達のもとへと向かっていた。手には一枚の紙を握り締めて。

  お散歩お疲れさま。
  私は午後は横島とデートです。
  嘘だと思うんだったら横島に電話してもいいわよ。
  
  タマモ(はあと)

と、タマモの字で書かれた自室のドアに貼ってあった紙を。






この3人での修行(のようなもの?)はしばらくの間続き、その後横島抜きでもシロとタマモとで合同訓練を行うことが習慣となっていった。自らの力を求めつつもそれを『群れを守るため』に使うシロと、自己の保身という目的を出発点としながらも『組織の一員』に居場所を見出したタマモの二人の選んだ道は、このことをきっかけに密接に交わり、並行していくこととなる。

作戦行動においてもこの二人の組み合わせはお互いの欠点を補い長所を伸ばすことのできる抜群の相性を持ち、数年後にはオカルトGメンでも最高クラスの対妖魔エキスパートとなる。
タマモの狐火をシロの霊弓に乗せて同時に5本を放つことのできる火矢、タマモが作り出したシロの分身に紛れて敵に接近して放つシロの居合い、遠近に死角のないコンビ技は他の追随を許さないほどの完成度を得てゆく。
また、この二人の活躍は人間界に住処を定める人と人ならざる者の信頼関係を強める一因ともなり、人間とその隣人はお互いの協力により妖魔への対処が有効であることの実績を積み重ねるに従い、人間界以外の存在に対する依存度を次第に小さいものへと変えていく・・・・

自分の力では不可能な場面での神頼みのような他力本願ともいえる神界の存在への畏怖、抗うことのできない絶対的な力や自らの欲望を写す鏡のような魔界の存在への恐怖。
そういったものを自分の力で乗り越える可能性を見出したことにより人間界は人間界以外の力を借りずとも自らを守ることができるという自信を深めていくのである。その歩みは自覚できぬほどの僅かづつであり、この先何百年にも及ぶ長い道のりではあっても。

そして・・・・それこそがアシュタロスという三界のバランスに必要な要石ともいえる存在の『死』を認めた神界・魔界が望みを託した賭けの行方でもあったのだ。
強大な神界・魔界の二つに挟まれるように存在するか弱い人間界、その不安定な在り方を、最終的には人間界がさらに上位の存在となることにより三界が均等に支えあう強固なトライアングル
−−すなわち、陰陽というこの世を統べる根源原理に『循環』という要素を付加することによってエントロピーの増大を抑制しつつ望みうる最も安定した状態−−
へと移行すること。
妖魔という人間界を脅かす存在を生み出す強烈な副作用を伴う手段を選んでまで下した決断は、ひとえにその第一歩となることを見越してのことであったのだ。
現段階ではその第一歩はまだ道を踏み外してはいない。なんとか望みどおりと言って良い状態である。しかし踏み出した道のりは遥か遠く、神でも悪魔でもその先を知ることはできないのである・・・

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