ザ・グレート・展開予測ショー

オカG極楽大作戦〜シロの野望〜


投稿者名:ふぉふぉ
投稿日時:(05/ 9/ 4)

オカルトGメン日本支部。

当初、美神除霊事務所近くのビルの一室より始まったそれは独立時に都庁地下の心霊災害管理施設への一部と移転。その後地下部を拡張し、一部を共有しつつも隣接した全く別の施設となった。アジア随一の設備を誇るまでになった現在は極東本部としての任も兼ねている。

ある夜のその一室、頭を抱えつつウンウン唸っている一人(一匹?)の姿があった。

「・・・今後はこのようなことがないよう、さらに・・・し・・・しょ・・・精進する所存であります・・・まる、と。」

今年に入って23枚目の始末書を書き終えたシロが体を起こし大きなため息をもらす。

「ふーっ、やっぱり事務仕事は疲れるでござるよ。」
「報告書や命令書は全て電子化されてるのに、どうして未だに始末書だけが手書きなんでござろうか・・・これも懲罰の一つなんでござろうかのう。」

「別にそーゆーわけじゃないんだけどな、シロ。」

「た、隊長!お疲れ様であります!」

部屋に入ってきた一文字にシロは立ち上がって敬礼をする。

「はい、ご苦労さん。上がったのかい?見せてみな。」

手渡された始末書を一瞥する一文字。

「うん、いいんじゃないかな。ちゃんと反省してるようだし。提出は明日でいいから今日はこれで上がりだな。ほらよ。」

一文字は始末書をシロに戻す。

「隊長、そんないいかげんなチェックで大丈夫なんでありますか?またこの前みたいに書き直しになったりは・・・」

「さっきも言ったがな、始末書が手書きなのはそれなりにわけがあるんだよ。書き手の霊波を読み取るには手書きが最適だからなー。いいかげんな態度で書いた始末書はそれが伝わるから書き直させられるんだな。なーに、シロが配属される前の始末書タイトルホルダーだったあたしが見たんだからこいつは大丈夫だよ。」

「そうだったんでござるか。さすが隊長!始末書にも経験豊富だったなんて!」

「・・・ってシロ、それ誉めてねぇから。昨日は体力的にハードだったけど今日はおたがい頭使って疲れちまったな。シロは明日は非番なんだろ?ゆっくり休んどきなよ。」

二人はデスクの後片付けと申し送りの準備を始めた。夜勤当番がやってくるにはまだ少し時間がありそうだ。

「そういや聞いた話じゃ美神さん達も明日はオフらしいな。どうだ、昨日の話。タマモと二人で頼んでみちゃ。」

「あ、特訓のことでござるか。そうですな・・・・まずは時間をとってもらえるかどうか拙者から連絡してみるでござるよ。」

「そうだな、休みっつっても用事があるかもしんないしな。・・・お、夜勤の連中が来たみたいだな。申し送りはあたしがやっとくからシロは先に帰っていいぞ。」

「ではそうさせていただくでござる。隊長!(ビシッと敬礼して)お先に失礼させていただくでござる!」

「はい、お疲れさん。」






シロは帰り道で何やら考え事をしているのか、ブツブツ独り言を言いながら歩いていた。
(これは・・・チャンスでござるな・・・まずは先生の都合を確認しなければ・・・)






その翌日の朝、タマモが目を覚ますと珍しくシロが先に起きていて何やらゴソゴソとしている。どうやら外出の準備をしているようだ。

「シロ、休みだってのにやけに早いわね。なんか用事?」

不意に声を掛けられ、ビクッと背筋を伸ばしたシロ。焦りながらも目を合わせずにタマモに応える。

「せ、拙者、散歩でござるよ。た、たまには遠くのほうまで行ってみようと思ったゆえ・・・ちょっと遠いんで戻りは昼ごろになるかと思うが、タマモは気にせずゆっくりしているといいでござる。で、では行ってくるでござる。じゃ、そゆことで。」

そういうとシロはそそくさと外へと駆け出していった。

「ふーん、散歩ねぇ・・・」





散歩、のはずのシロが向かった先は美神除霊事務所だった。玄関の前に着くとシロが建物に声をかける。

「人工幽霊一号、久しぶりでござるな。横島先生はいらっしゃるでござるか?」

その問いかけに応えたのは人工幽霊一号ではなく、上階の窓からの声であった。

「よう、シロ。俺以外はみんなもう出かけちまったよ。上がってきな。」

「は、はい先生。お邪魔いたします。」

シロは勝手知ったるなんとやら(元は自分の住処でもあったわけだが)で応接スペースへと駆け上っていった。
「先生、お早うございます。わざわざ休日におつき合いいただいて申し訳ないでござる。」

「まあ今日は非番だろ?俺もオフだし、上司ってわけでもないんだからそんな固い挨拶はいいって。それにしてもずいぶんと礼儀正しくなったなぁ。Gメンっつーより体育会系運動部みたいだけどな、ははは。・・・って、まさかタマモまでそうなのか?」

「いやいや、ヤツはあいかわらずでござるよ。拙者は一文字隊長のご指導の賜物でござるが。」
「ところで美神どのどころか人工幽霊一号まで居ないってのは何かあったでござるか?」

「ん?いや別に。ただ女同士の買い物があるから男はくるなってさ。美智恵さんとこまで一緒になって女4人で出かけてったよ。んで小さい子が2人もいるから念のために人工幽霊一号を車に憑かせてやったんでね。」
「そういや、今日は特訓して欲しいって?シミュレーションドーム(オカルトGメン霊動実験室)じゃできないようかことか?」

「いや、まあ・・・そんなとこでござる。」

「んじゃとりあえず広いところに出よっか。詳しい話は途中で聞くよ。」

そういうと横島はシロを手招きしつつ地下の駐車場へと降りていった。





横島とシロを乗せた車は郊外へと向かっていた。

「ふーん、一文字がそんなことをねえ。そりゃそうだわな。一応俺が師匠だってことになってるしな。んでも、だったらいつも通りに正式にGメンの課外講習として呼んでくれりゃよかったのに。」

「いや、それだと参加者が増えてしまって集中できないでござるよ。それに拙者はGメンとしての能力ではなく人狼としての能力を訓練して欲しかったのでござる。できれば・・・先生にマンツーマンで。」

「なるほどねー・・・ん、このあたりかな。降りてちょっと登るぞ。」

車をとめた場所は郊外のとある鳥居の傍だった。林と平地の境にあるその鳥居の先には石段が続いている。林の中を少し登ると開けたスペースがあらわれた。

「先生、ここは・・・」

「ん?ああ、昔シロの散歩に引っ張られて来たことがあったよな。いじめられっこの魔太郎ヤロウが自作の式神だしてたじゃねーか。覚えてるか?」

「覚えてるもなにも彼は同期でござるよ。今は警備部で師匠筋はエミさんでござる。」

「え?Gメンになってんの?野郎はチェックしてないから全然知らんかったなー・・・ま、いっか。関係ないし。それよりさっそく始めるぞ、シロ。準備しな。」

そう言うと横島は手のひらから2枚のフライングソーサーを出して目の前で静止させた。促されてシロも霊波刀を出して身構える。

「とりあえず今の状態見てみっからコイツらの相手してみろよ。」

フライングソーサーがシロの上空を2・3度旋回した後、シロへと飛び掛ってゆく。多少スピードや威力を加減されてはいるが人間の目では追うことが困難であるその攻撃をシロは霊波刀で追う。バシィッ!という衝撃音と激しい閃光をともないフライングソーサーはシロに近づくたびに遠くへ弾き飛ばされる。

数分が経過してもなおシロは一度の攻撃も受けずその全てを防ぎきっている。が、次第に息が上がってきていた。

「ん、だいたいわかったぞ。」

静かにその様子を眺めていた横島がフライングソーサーを自分の手元へと呼び戻した。

「加減できなくて妖魔をぶっ飛ばしたっつってたなー。今見た様子だとインパクトの瞬間に必要以上に霊力を込めてるようだな。除霊にはそれでいーんだけど実体のある妖魔にやったらちょっとでも妖魔の防御力を超えちまうと爆発しちまうぞ。」

「そう・・・なんでござるか?拙者、自分ではよくわからんでござるが・・・」

「まあ無意識にやってんだろうな。考えながら戦うなんてマネは苦手そうだもんなーシロは。」

仕方ねーな、という表情で笑った横島につられてシロも、エヘヘ、と苦笑いをする。

「多分・・・霊波刀が手の延長線上に伸びてるんで手刀と同じ感覚で動いちまってるんだな。刀を使ってる、というよりは格闘してるって感じだもんなー。」

横島はふと言葉をとめ、腕組みをし、少しの間をあけて続ける。

「体が覚えちまってるとなるとクセを直すのは難しいかもしれんなぁ・・・シロは対妖魔専門のチームにいるんだから破壊だけでなく麻痺や切断を使いわけられるようにしないとな・・・・うん、いっそのこと新しいの覚えなおすか!シロ、おまえ何が得意だ?」

「散歩と大食いでござる!」

パタパタと尻尾を振って即答したシロに、横島は額を手で抑えて一瞬沈黙する。

「・・・そうじゃなくて格闘術でだよ。」

「ああっ!つい本音が・・・じゃなくて・・・拙者、基礎訓練で一通りはできるでござるが、剣術と弓なら里にいたころからやってたでござるからそれなりの自信はあるでござるよ。」

「剣か・・・今だと・・・剣というより篭手か?・・・よし、本格的に剣で行くか!」

横島は左前方に右拳を突き出し『栄光の手』を発動させた。一瞬、念を込めると右拳で空中を横に切り裂くように右方向に真横に移動させる。光った拳の描いた弧の軌跡がそのまま剣となり、拳を止めたときにはちょうど日本刀を横一文字に構えたようになった。

「手から刃が伸びてるんじゃなくて、手で剣を握ってるようにするんだ。俺は剣道とか習ってないから細かいコントロールはできんが小さいころから馴染んでるシロだったら、切る、受ける、みね撃ち、それぞれのイメージもしやすいだろうしな。どうだ、できるか。」

「え、えと・・・えと・・・」

シロはぶんぶんと光った手を振り回してみるものの、一向に形にならない。

「わかった、わかった、順番に行こうか。」

横島は苦笑しながらシロを制止する。

「いいか、俺の言う通りにイメージするんだ。まず目をつぶれ。集中して霊気を高めろ。」

「はい!先生」

言われてシロは自然体の姿勢で立ち直し、目を閉じ、ゆっくりと気合を高めていく。

「すぐ目の前に窓がある。縦も横もおまえの背丈ぐらいだ。その窓に手をつけ。」

シロは右の手のひらを自分の前方に向け、ゆっくりと伸ばす。

「その窓にはカーテンがない。自分の手のひらから霊波を放出してカーテンの代わりに窓を覆うんだ。」

シロの右手が輝きだす。手のひら大だったその光は少しずつその大きさを広げていく。二枚のガラスの間のわずかな隙間を水が満たしていくように薄く、広く。

「よし、いいぞ。次は・・・」

と言いかけた横島の言葉を遮り、シロが大きな息をつく。

「ぷはあーーーーーーっ!!」

その一呼吸に吹き飛ばされるように霊波の幕は瞬く間に霧散してしまう。

「ぜいっ!ぜいっ!・・・なかなか・・・はっ、はっ・・・苦しいでござるな・・・」

「シロ・・・息はしててもいいんだぞ。」

「あ、そうでござったか!拙者、集中するのに夢中でつい息をするのを忘れてしまっていたでござるよ。」

額が縦線でいっぱいになった横島を前にシロは頭をかく。

そんなコント交じりのやりとりも2時間ほどが過ぎた頃には次第に成果が見えてき始めた。

−−−実際、年齢に見合ったもの以上に横島は人をのせる、人に教えることに長けている。
オカルトGメンや六道女学院から特別講師として招かれたりすることで経験を積み、もともと人の顔色をうかがうようなところがあるその性格はかえって洞察力という長所となり、今では横島を個人的に師事する者も少なくないほどだ。ただ、横島の弟子として認められるためには男性はともかく女性の場合は(暗黙の了解として)美神の許可を得る必要があったが。
また、他人に教える、という行為によりさらに霊力の扱いへの理解を深めていった横島は、総合出力のピークこそ過ぎているものの霊能力の制御という方面では未だに成長を続けており、習熟の度合いは歳を重ねるごとにその深さを増している。今では横島自ら進んで人に教えることが多くなってきているが、そのことが自分を高めていることを本人は自覚しているかどうかは定かではない。
余談になるが、これらの横島の変化・成長といったものは全て横島と美神が結婚した後のことである。
結婚により精神的余裕が生まれ、さらには対幽霊のみならず対妖魔に関して世界有数(美神とのコンビでは確実に人間界一)の能力を持ち、父である大樹の血も受け継いだ横島がいつまでもモテないままでいるはずはなかった。横島に憧れる六女の生徒も一人や二人ではない。にもかかわらずオカG、ましてや六女への出入りが認められ、あまつさえ招かれるようになった理由はひとえにその特殊な『結婚』にあった。なんと美神は婚姻届に契約の神『エンゲージ』をくくりつけたのである。しかも母である美智恵と二人がかりの霊力でもって人間が呼び出し得る最強にして最高位のものを。それにより横島の浮気心がなくなるわけでもなく、単独で『エンゲージ』を退ける能力も持っているのだが、そんなことをしたら 確・実・に・バ・レ・る ことになってしまうという一点で横島の浮気は未然に防がれているのだ。




「よし、もう一度おさらいだ。最初からやってみろ。」

「はい!」

シロはまた目を閉じ、順番に復唱しながら霊波の制御に集中していく。

「目の前の窓・・・」
「ブラインドカーテンで覆う・・・」
「そのブラインドを手で巻き上げ・・・」
「掴み取る!」

目を開けたシロの眼前には光の棒、というよりは末端がやや拡散した板状のものを握った自分の手があった。

「うん、よくできたな。最初のハードルはこれでクリアだな。まー、まだ剣つーよりは・・・ハリセンみたいだけどな。」

苦笑いをしながらも一応の合格点を出す横島にシロはこぼれるような笑顔でこたえる。

「ありがとうでござる!先生!」

「よし、次は剣を絞りこむからな。続けていくぞ!」
「左手で剣の根元を包むように握ってみろ。いいか、イメージするのは剣と鞘だ。右手は剣の柄を握っている。左手は鞘を持っている。そこからゆっくり剣を抜いてみろ。」

シロは左手を前方の右拳にそっと添え、同じように握ってゆく。そしてくっつけた両拳を少しずつ左右に広げてゆく。横島に言われたイメージを思い浮かべながら。
(拳と拳の間にあるのは刃・・・鞘から少しずつ姿をあらわす刃・・・硬く・・・光る・・・研ぎ澄まされた刃・・・)
両手を広げきり、鞘を控えるように左手を後方にすっと引く。残ったシロの右手には先ほどよりも細身になった霊波の剣が光っている。

「先生、どうでござるか!」

「まだ剣っつーよりは鉈って感じだが、まあ最初にしては十分だ。ハリセンからくらべりゃ立派なもんだよ。その状態でちょっと振ってみっか。」

横島は再びフライングソーサーを取り出し、シロへと放つ。できたばかりの霊波刀を両手で構えたシロはそれを次々と弾き返す。弾く、というよりも最小限の動作で軌道を逸らしている、という表現がより近いのかもしれない。閃光も小さく、衝撃音も先ほどよりも乾いて澄んだ音色に変わっている。
やがて横島はフライングソーサーを引っ込め、満足した表情でシロへと声をかける。

「いーじゃねーか、シロ。やっぱこの持ち方のほうが馴染んでるみたいだな。」

「はい!自分でも驚くほど自然に剣が動くでござるよ。」

シロは上気した表情で少し興奮しながら自分の手に握られている霊波刀を見た。それはまだ刀と呼ぶには少々雑な造型をしているものの、自分の思う通りに操れるということが何より嬉しかった。そしてそれが横島と二人で作り上げたものだということがさらに喜びを大きなものにしていた。

「よく頑張ったな、疲れたろう。メシでも食って一休みするか。」

ゴハン!と反射的に尻尾が動きそうになったシロだが、同時にタマモのことを思い出し尻尾が止まる。

(もうそんな時間でござるか・・・)

「先生・・・残念でござるが拙者午後からどうしてもはずせない用事があって、もう帰らなければならないでござるよ。」

「そっか。じゃ、続きはまた今度だな。そのうち弓もやってみような。」

(今度・・・また次もあるのでござるな・・・また教えてもらえるのでござるな・・・)
「はい!よろしくお願いいたすでござる!」

「んじゃ送っていこうか。」

(ラッキー!・・・じゃなくて、それはマズイ!うっかり家の近くでタマモにでも見られたら・・・)
「え、いや・・・それには及ばぬでござるよ。拙者このまま用事に向かう故、直接走っていくでござる。」

「んーそうか。気をつけてな。」

「はい!では先生、これにて失礼するでござる。」

言うが早いか、さっそくシロは駆け出した。
タマモへのアリバイのために昼には戻っていないといけないのだ。時間的な余裕はないのである。

自宅へと向かい全力疾走を続けるシロの、特訓の直後であり体には確実に疲労が残り霊力も消耗しているはず
のその足取りは−−−とても軽やかだった。

(続く)

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