ザ・グレート・展開予測ショー

仁義なき戦い


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(05/ 8/26)

8月某日・・・・・
美神除霊事務所は交配・・・もとい・・・荒廃しきっていた。
理由は単純明快、事務所の良心たる“氷室キヌ”が、帰省中だったのである。
お盆も過ぎ、夏の繁盛期も落ち着きをみせていた頃をみて、少々遅めの夏休みとなったのだ。
ついでといってはなんだが、シロも帰省中・・・タマモもそれに付いていっていた。
残されたのは、事務所の所長たる美神令子と横島忠夫なのだが、令子は実家というか実母が近くにいるし、
横島は両親に会いにナルニアへ・・・・という孝行息子ではなかった。
少々退屈で寂しくもあったが、元々はこの二人で仕事をこなしてきたのでそう苦労もない。
ただ・・・事務所の生活環境は荒んでいた・・・・




「美神さん・・・いいかげん掃除しましょうよ・・・」

足の踏み場のなくなった事務所の惨状に、忠夫は途方にくれつつ言った。

「そ・・・そうね。そろそろおキヌちゃん帰ってくる頃だし、こんなとこママに見つかったら何いわれるか
・・・・・かなり怖いものがあるわね・・・・」

おキヌと美智恵にサラウンドで怒られては、さすがの令子も白旗を上げるしかあるまい。
自分のマンションはかなり綺麗にしているクセに、なぜに事務所では他人に異存してしまうのだろうか。
我ながらこの性格を、どうにかしなくては・・・令子は溜息交じりに忠夫を睨んだ。

「な、なんスか?いきなり睨みつけて??」

「べ、別に!!アンタのアパートの惨状よりはマシだと思っただけよ!!」

明らかに怒気を含んでいる。
“それくらい分からんかいっ!!”と目で訴えているが、修行の足りない忠夫には通用していない。

「とにかく片付けましょう。」

ここで暴れて惨状を拡大する事は得策ではないと判断すると、掃除の道を選ぶ。
とりあえず、無慈悲な私刑を免れた忠夫は素直に掃除を始めた。






1時間程するとゴミの獣道は無くなり、かわりにゴミ袋の山が出来上がった。
冷房を効かせないで、窓を開けっぱなしにして換気を重点的に行う。
令子は、机の上に腰を下ろしなにやら深く考え中である。

「お風呂掃除終わりました〜。」

汗だくになって、忠夫が戻ってきた。

「お疲れ様・・・ちゃんと抜かりなくやった?」

「はい・・・死にたくないっスから。」

「よろしい・・・え〜っと、後はそのゴミ捨ててきて。手前の方からよ・・・」

「了解っス。」

横島は敬礼をすると、ゴミ袋を両手に抱えた。

「おっと・・・美神さん、これ。」

右手の袋を下ろすと、文珠を2個渡した。
再びゴミ袋を抱えると、ドアの外へ駆け出した。
それを見送ると令子は、頬杖をついたままの姿勢で目線だけを天井に向けた。

「人工幽霊。」

『はい、美神オーナー。』

「ここのオーナーは誰だか判っているわね。」

『もちろんです、美神オーナー。』

「なら・・・私がどう考えているか判ってるわね・・・」

『も、もちろんです・・・・』

「よろしい♪」

令子は、ようやくニッコリと微笑んだ。

「さてと・・・」

机の上から降りると、文珠を部屋の中で作動させた。
複数の文珠を作動させるには、かなりの技術が必要だが忠夫がすでに文字を入力させているせいなのか、
それとも使い慣れているかは定かでないが、令子は事も無げに複数の文珠を作動させた。
部屋の中に光が走るのを確認すると、山積みのゴミを抱えて部屋を後にした。





「これでラストっスね。」

かなりバテバテの忠夫が、最後の2つを抱え部屋を後にした。

「もういいわよね・・・」

残された令子は窓を閉め、エアコンを全開にする。
自分のイスに座らずに、来客用のソファに寝そべり、Tシャツの襟元をパタパタと開いた。
シャワーでも浴びたい気分ではあるが、先程掃除が済んだばかりである。
とりあえず涼んでからにするか・・・暑気中りしたシロのように舌を出しながらそう考えた。
ドタバタと物凄い足音を立て、階段を駆け上る音が聞こえる。
ドアが乱暴に開けられた。

「美神さん!来た!!来やがった!!!」

汗みどろになって忠夫が、部屋に駆け込んだ。
忠夫の血相を変えた顔なんて珍しいものではないが、この顔はかなり必死である。

“ウソ!!!もうバレた?”

令子の顔から血の気が引いた。

「親に向かってなんて言い草だ!」

忠夫の脳天に鉄拳が飛ぶ。
鉄拳の主は、横島大樹。
令子とは以前面識がある人物で、忠夫の父である。
令子の顔に血の気が戻る。

「すっかり御無沙汰しちゃって、ごめんなさいね。忠夫がいつもお世話になっております。」

大樹の後ろからにこやかな声が聞こえると、令子の顔から再び血の気が引いた。
以前、“あの”令子を手玉にとった『ゴッドマザー・横島百合子』降臨である。




        ※                           ※





(アンタ、なんでこんな大事な事言わないのよ!)

(俺も知らなかったんスよ!連絡もクソも無しにいきなり来たんスから!)

(で、どうすんのよ。これから?)

(いや、まったく判んないっス。何しにきたかも判んないくらいですから。)

台所でコソコソと話していると、オフィスの方から声が聞こえた。

「美神さ〜ん、お構いなく〜。」

その声にビクつきながら、令子は来客用のお茶を用意した。

(と、とにかく、向こうのペースに乗っちゃダメよ)

令子は忠夫に念を押すと、トレイに乗せたお茶を持ってオフィスの方へ向かった。

その言葉、そっくりと返させてもらいます・・・そう思いながら、忠夫は手を合わせた。




「すいません、おキヌちゃん帰省してて散らかってまして。」

愛想笑いを浮かべながら、令子は二人の前にお茶を置いた。

「その様ね・・・忠夫がゴミ捨てていたみたいだし♪」

同じく愛想笑いを浮かべながら、百合子がそう呟いた。
令子のコメカミに井桁が浮かぶ。

「あら、おいしい。以外とおいしいわね・・・・・・・市販品も。」

愛想笑いの表情を変えずに、百合子はお茶を口に含むとそういった。

“厄珍のとこの怪しいモノ入れときゃよかったわ”

にこやかに笑いながらも、令子のコメカミには井桁が複数浮き出ている。

“い、いかん!このままでは空港での二の舞だ!!”

忠夫は現状を打破しようと、大樹の方に目を向けた。
視線に気付いたが大樹は、忠夫から目を背けあらぬ方向を見ている。

“逃げやがったーーーーーーっ!!!テメーそれでも親かーーーーっ!!”

心の中で血の涙が流れた。
しかし、現状を打破してくれる者がいた。
『人工幽霊一号』である。



『美神オーナー』

令子は天井に顔を向ける。
百合子と大樹は、いきなりの声に周りを見渡した。

“助かった〜”

忠夫は安堵した。
とりあえず、この空気は崩れる・・・・忠夫はそう思った。

「なに、人工幽霊?」

『お・・・・・・・・・・・・・・』

人工幽霊の声が聞こえる寸前に、ドアが激しく開くと銀色の人間魚雷が忠夫に突進した。


ガン!ゴン!!ぼと・・・ぴゅ〜〜〜♪

ピンボールの様に弾き飛ばされドアと反対側の壁まで激しくぶつけられると、
人間魚雷は忠夫に馬乗りになると顔中を舐めまくった。
ちなみに『ぴゅ〜♪』は、人間噴水である。

「先生〜!ただいまでござるよ。」

「やめんか〜アホーーーーー!!!」

『・・・・キヌさん達がお帰りになりました。』

人間魚雷改め人狼シロは、人工幽霊のしゃべりよりも早かった。

「ただいま帰りました〜♪」

カバンを抱えて、おキヌとタマモがオフィスに顔を覗かせる。

「お帰りなさい、1日早かったわね。」

「えぇ、お掃除に1日かかるかと思いまして・・・・って綺麗ですね・・・・・」

おキヌはカバンを降ろすとオフィスの中を見回した。
以前帰省した時の惨状を恐れての、1日早い帰京だったもようである。
ふと目線が止まると、急にあたふたと慌てだした。

「横島さんのお母様!!!ご、御無沙汰してます。」

おキヌの言葉にようやく正気を取り戻したシロは、忠夫から離れるとなぜか土下座をした。

「先生の御母堂殿でござるか。拙者、横島先生の一番弟子の犬塚シロでござる。ぜひとも先生を・・・ぶぎゅ!!」

かなり間抜けな声を出し、シロの頭が床にめり込む。
タマモがシロの頭を踏みつけている。

「このバカ犬が!人に荷物押し付けてなにやってんのよ!!」

「何をするでござるか!このクソ狐!!先生の御母堂殿の前で恥をかかせおって!!」

足を払いのけると、まさにタマモに噛み付くほどの勢いである。

「それと!アンタの汗臭い荷物アタシに押し付けるのと何の関係があるって・・・・え?横島の?」

タマモはふと後ろを振り返り、来客がある事にようやく気がついた。
そこには、あまりの展開の目まぐるしさについていけないでいる百合子と大樹の姿があった。

「いいから・・・・・」

シロとタマモの後ろに、夜叉が立っていた。
先程からかなりのストレスを溜めていた夜叉は、怒りが頂点に達しているようである。
髪の毛が逆立ち始めている。

「「あ・・・・」」

「部屋行って荷物置いてこいっ!」

落雷警報が、オフィスに鳴り響く。。
シロタマは物凄い勢いで、ドアを飛び出し自室へと駆け込んだ。

「私も、ちょっと着替えてきます。」

苦笑しながら一礼すると、おキヌもオフィスを後にした。
呼吸を荒げながら、おキヌを見送る令子に百合子が声をかけた。

「賑やかでいいわね♪」

先程までの愛想笑いではなく、素直に笑っていた。





おキヌ達の帰宅というドタバタ騒ぎのおかげで、一触即発という事態は回避されとりあえず平穏が訪れている。
着替え終わったおキヌがオフィスに戻った時には、笑い声さえ聞こえていた。

「おキヌちゃんも生き返ったみたいだし、それにシロちゃんだったか・・・相当な惚れ込みようだな。」

「何が言いたいんだよ・・・」

満面の笑みを浮かべて話しかける大樹に、忠夫はジト目で返した。

「それにタマモちゃんも満更じゃないようだしな。」

大樹の言葉を聞いて、刺すような視線が3方向からタマモに注がれる。
タマモはコップのジュースを飲みながら、目線をあらぬ方向に向けて視線を逃れた。

「去年こっちに来たときに、忠夫のお友達に会いましたけど・・・結構“思われている”ようね・・・」

離婚してNYに連れて行くといって壮行会を開いた時に、チェックしていたようである。
忠夫の顔を見ながらニッコリと百合子は笑ったが、どうやら探りを入れているようだ。
誰に対して何を探っていたのかは、定かではないが・・・

「なにそうなのか!そうか・・・相変わらずモテない奴だと思ったが、少しは成長したようだな。」

顎に手を当て、満足気に頷く大樹。

「お前は父さんの子だから、時が来ればモテるようになると思っていたぞ。」

呆気にとられる忠夫の肩を、ポンと叩いた。

「というワケで、美神さんは俺が頂いてかまわん・・・」

「「かまうわいっ!!!!!」」

セリフを全部しゃべる前に、親子のダブルパンチが炸裂した。

「「「「親子よねぇ・・・」」」」

DNAというものの存在に関心する美神事務所の面々。
これほど似たもの親子もそう多くはないだろう・・・

「ま・・・バカはほっとくとして・・・」

壁に首を突っ込んでいる大樹はそのまま無いものとして、百合子は忠夫に向き直った。

「私たちが今回帰国したのは、そろそろこの人の日本復帰が決まりそうになったからよ。」

「え!帰ってくるんか?」

忠夫が思わずイスから立ち上がると、百合子は三白眼で睨みつけた。

「なによ、私たちが帰ってくるのが不服なの?」

「いやそういうんやなくて・・・前もあんなに揉めただろ?今回もまた揉めるんやないかと・・・」

一応言葉にはしているが、段々と部屋の隅へと下がっていく。
息子の態度に呆れて、大きく溜息をついた。

「あのねぇ・・・アンタも、もう高3で“一応”留年はなさそうなんでしょ?今回はちゃんと学校に入ってる
みたいだし・・・」

ちらりと令子の方へ視線を向けて、再び忠夫の方を向く。

「高3の2学期や3学期になって、転校できるワケないでしょ?」

「転校って・・・帰国したらこっちやないんか?」

「本社から大阪支社のどちらかなのかは、まだ決まってないわ。」

「なんだ・・・そうなのかよ。」

忠夫はホっとして、床に直接腰を下ろした。

「で、アンタの希望も一応聞いておこうかと思ってね。」

百合子が言いたい事は、極めてシンプルであった。
忠夫が卒業後の進路をどうするのか?
親が帰国しても、そのまま独立するのか?
ちゃんとやっていけるのか?
親としては、極当たり前の言い分であった。

史上最強のアルバイター横島忠夫・・・しかし、それも高校までである。
卒業後は、独立せずにそのまま美神除霊事務所に就職が内定しているのであるが、
その内容は、とても表に出せる代物ではなかった。
忠夫も令子もお互いに納得・・・というか、令子に脅迫され契約をしていたのであるが
それが表にでるのは、非常にマズい。
なにせ母親の美智恵にさえ、見せていないのだ。
この場で、この契約書が発覚した日にゃ・・・おそらくここは火の海と化すだろう。

ちなみに現在の忠夫のバイト代は、通常680円。
除霊時は時給5000円〜、危険手当は別途である。
ちなみにタダ事務所にいるだけの時は、食事のみである。
この契約に切り替えた時は、美智恵の厳重の監視の下に行われたそうである。




「で、美神さん。忠夫の来年からの契約はどうなっているんですか?」

ついに確信に触れた。
忠夫は逃げ出そうとしたが、百合子のアイコンタクにより影の如く動いた大樹によって捕まえられた。

(そういえば、私たちも聞いてませんでしたね・・・)

(また先生は餓死する寸前までいくのでござるか?)

(油揚げ食べたい・・・)

約1名別の事を考えていたのは、気にしてはいけない。
事務所の面々も、来年からの忠夫の契約内容はまったく知らないのだ。

「お答えする事はできませんわ。企業秘密ですし、契約者のプライバシーに関する事でもあります。
しかるべき諸官庁でもない限り、この書類は御見せする事ができませんわ。
例え、横島君の“オカアサマ”でも・・・」

諸官庁・・・労働基準監督署、税務署、GS協会などの事を言っているのであろう。
尤も、忠夫が提示を求めれば閲覧はできる。
百合子は、井桁を浮かべながら忠夫の方を振り返った。

「忠夫・・・おかーさんに見せてあげるといってごらん。」

青褪めた顔を、ぶんぶん振りまくる。
すでに滝のような汗と涙がでている。

「そんなに見せられない事なの〜〜?」

笑っているようだが、目が笑っていない。
すでに恐怖値としては、対アシュタロス戦を超えている。
全身に震えがきて、ガタガタと床が音を立てている。
ついでに、忠夫を羽交い絞めにしている大樹も震えていた。

「そう・・・わかったわ。」

にっこり笑って頷く百合子。
ちなみにその拳は固く握り締められていた。

「まぁ忠夫がそこまで言っているんだから、“たま”には息子を信用してみますか。」

やれやれといったような表情を浮かべて、百合子は問い詰めるのは止めた。
その表情を見て、令子がニヤっと笑った。
それを見過ごす百合子ではない・・・再び二人の間に火花が散った。
今回は二人の間に神通棍はないが、それでも人工幽霊の結界を破りそうな勢いだ。

(今回は大人しく引き下がってあげようかと思っていたけど、そうもいかないようね。)

(前回のツケもまとめて払ってあげるわよ!)

部屋の中に雷雲が立ちこめ、稲光が走る。
龍が舞い、虎が吠える。
青褪めた顔で見ていた大樹は、忠夫の肩をポンと叩いて涙を流して数回頷いた。
忠夫の気持ちが判るのは、やはり同じような立場の大樹だけらしい。
忠夫は、初めて大樹の事を漢だと認め感涙に咽んだ。
親子の気持ちが通じた感動的な瞬間である。



しかし、大樹は別の事を考えていた。


あぁ!やっぱりあの時やってなくてよかった!!と。








                            つづく












おまけ・・・・・



「続くって続くんかこれ!!!このままの状態やと俺死んでしまうやないかーーーっ!!
嫌ゃ〜〜〜〜〜!!!誰か止めてくれーーーーーーーーっ!!!」

『横島さんの前に、私の身体が持ちそうにありません・・・』

「そうだ!文珠!文珠で!!!」

『掃除の時に全部使ったじゃないですか・・・』

「あぁーーー!!そうだったーーーー!!若気の至りが悪いんやーーー!!」

『知りませんよ・・・どうなっても・・・・』






「あお〜〜〜〜〜〜ん♪」

「こ〜〜〜〜〜〜〜ん♪」

「バックに対抗意識持つなーーーーーーっ!!!!」



                 

------とりとめのないまま次回へと続く・・・・-------



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