葵の願い(絶チル)
投稿者名:ししぃ
投稿日時:(05/ 8/24)
「皆本はん。ちょっとええか?」
真夜中に扉をノックして。
彼の部屋に声を掛ける。
「ん、葵か?どうした?」
振り向けば、目の前に枕を抱えた少女。
返事の前に中にテレポートして来たのでは、ノックの意味も無いけれど。
昼間と少しだけ印象が違うのは、気丈な彼女が大きめの枕を抱えているせいだろうか。
「あんな。お願いがあんねん」
彼女は一歩、足を踏み出す。
意思を込めた、けれどどこか弱々しいその口調に、皆本は吐息してキーボードから
手を離した。
暗めの照明の中、ディスプレイの光が少女を照らす。
「皆本はんには感謝しとる。学校の為に居候させてもろてるし。ウチらよりもよっぽど
忙しいのに朝晩の食事も頼りっきりや。任務や休みの予定もちゃんと考えてくれて、
助かってん。ほんまに」
三人娘の中では、比較的聞き分けの良い、いわば長女的な彼女ではあるのだが、それでも
こんな風に素直になるのは珍しかった。
まっすぐに見つめる瞳。
突然のらしからぬ言葉と視線に、皆本のあしらうための言葉は封じられてしまう。
「せやけどな。ダメなんや。ウチだけやって、わかっとる。……薫も紫穂も満足しとるんやから
ホンマはウチが我慢すればええねんけど……」
声を震わせて、抱きしめる枕。
弱々しく俯いて、泣きそうな視線。
それはついこの間、自分は損な役回りだ、と拗ねた時のようで。
我儘を言えない立場で育った彼女の精一杯の言葉を皆本は愛しく感じていた。
そういえば、この家に住むようになったのは、彼女が一番はじめだった。
家が遠いから、と二人に言い訳をして。それでも自分が特別である事にはしゃいでいた。
二人だけになる筈だった三日間は、結局任務に追われて彼女に特別な事など何もして
やれなかったのだけれど……
「いやしいと思わんといてな。こないな我儘言うの、ウチかて恥ずかしいねん」
小さくなる声。
上目使いの瞳に息を飲む。
夜半を過ぎて、空調とパソコンのモーターの音だけが響いていた。
寝ている二人の気配は届かない。
「皆本はん、後生や……」
射干玉色の瞳。闇に溶けるような髪。
非現実的な輝きが皆本の双眸に吸い込まれていく。
「ウチ、な」
ダメだ、と告げているのは理性。
彼女はまだ子供で、自分は彼女達の保護者で、……傷付けてしまう。
これ以上を彼女に言わせてはダメだ、と。
では言葉を押し止めるのは?
小さく動く唇が次に告げる言葉を待ってしまっているこの心は?
皆本の逡巡は刹那であったが、葵の唇はその間に彼女の欲望を告げてしまった。
「ウチ、もっと粉モン食べたいねん、たこ焼きが足らへんねん。ネギ焼きが必要やねん。
鉄板とたこ焼き機、買うてんか?」
……流れるのは長い沈黙。
心の渇望に捕らえられた葵は堪えきれず、ドバーという擬音を伴って涙を流し。
皆本は自分のあり得べからぬ思考に対して、弾けるように嘲笑した。
夜半のそんな騒音に気付いて起き出したのが、薫でなく紫穂だったのは、果たして彼に
とっての幸か不幸か。
ともあれ。
以降、皆本家にはたこ焼き機能付きのホットプレートが用意された。
おしまい。
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純粋に展開予想として書くと。
関東人の中で暮らす唯一の関西人である葵は粉モノの無い食生活に耐えかねて、
皆本さんに泣きつくと思います。
で、泣きついてる所を見られて紫穂につっつかれたり。
という感じ。
「1話分」としては書かれない幕間劇にこういう事があるんじゃないかなーと。
コミック折り返しの4コマとか、カバー裏のお遊びぐらいの密度ですね。
……こういうのどうでしょうか?
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今までの
コメント:
- 思わせぶりな展開がとても良いです。
私はうどんとか焼き肉とかの違いが気になったクチ。
何でやー、何で汁こんな色やー。何でやー、何で牛焼き肉とかメニューにあるんやー、と。
関西では一家に一つたこ焼き器があります(デマ)。 (Nar9912)
- 郷里が遠いことからホームシックで、親が近くに居ない寂しさを紛らわすために寝付くまで添い寝していて欲しいとかゆー要望かとばかり思っていました。その予想が比較的健全なものなのかどうかはともかく(笑)
異郷での食べ物の違いは特に堪えますから、普段は辛抱強い葵がこらえきれなくなってこういう動きに出るのはありえそうな気がします。せっかくなので紫穂や薫が駆けつけて来て混ぜっ返すシーンも見たかった気が、ちょっとしますが(爆)
しかし葵、たこ焼きやネギ焼きを作るときには「ちゃうって。こうやるねん。ちゃんと見とき!」とか言って、けっこう仕切りそうですね(笑) (斑駒)
- ……あり得べからぬ思考をしてしまった汚れた自分が憎いです(涙)
いや、そっちかい!?と、ついツッコんでしまう自分が。
わがまま、と言いつつもそれがたこ焼きという葵が可愛くてナイスですw
ちょっとドキドキしつつ、あり得そうな一コマに賛成一票! (ちくわぶ)
- 騙されました(笑)……ええ、もぉ見事に(笑)
しかし、葵の悩みももっとも――そう、人類の食生活に粉物は必要不可欠なのです!お好み〜♪たこ焼き〜♪イカ焼き〜♪箸焼き〜♪……ええ加減にやめぇ(笑)!!
でも、ネギ焼きって……全国区なんだ(笑)。これを見るまで、北九州限定のお好みの亜種かな、と思ってました。
いや、こっちのネギ焼きと葵の言うネギ焼きは微妙に違ってるかもしれないけど……そーいった意見の対立で抗争が起きるかも(笑)。
そんな危険な香りを感じつつ、賛成票で(笑)。 (すがたけ)
- 葵の可愛らしい様子とか、皆本さんに妙な同調を果たした自分のヨゴレっぷりなどはまあ、既出のよーですので(笑)。残る一つを。
しーぽん、起きてくるタイミングがナイスすぎ。狙い撃ちですか? (APE_X)
- Nar9912さま
>思わせぶりな展開がとても良いです。
思わせぶれてました?よかったよかった
>関西では一家に一つたこ焼き器があります(デマ)
え?デマなの?じゃあ嫁入り道具に鉄板もってくるっていうのも?
斑駒さま
>異郷での食べ物の違いは特に堪えますから、
なのですよね。
特に関西の方の粉ものへの執着は……(わたしのまわりだけかな?)
ちくわぶさま
>わがまま、と言いつつもそれがたこ焼きという葵が可愛くてナイスですw
ボトルを凍らせて持ってくる彼女ですからねー。
なんか堅実な感じで、なおのこと抜け駆けおねだりやらせてみたくなりました。
すがたけさま
>お好み〜♪たこ焼き〜♪イカ焼き〜♪箸焼き〜♪……ええ加減にやめぇ(笑)!!
アンパンマンのエンディングに併せて一瞬唄ってしまった……
>いや、こっちのネギ焼きと葵の言うネギ焼きは微妙に違ってるかもしれないけど……
なんか、近所の「京風お好み焼き屋」のメニューです。わたしの知ってるネギ焼き。
万能ネギたっぷりでむちゃくちゃ美味しいです。
APE_Xさま
>しーぽん、起きてくるタイミングがナイスすぎ。狙い撃ちですか?
とうぜん狙いうちでしょう。
超能力「女の勘」は、思春期少女の標準装備ですからね。
まだ超度は低そうですが。 (ししぃ)
- 遅いレスすいません。
…騙されました。
皆本さん…もし葵嬢のお願いに”あらぬ想像”をしてしまったのだとしたら…やっぱり彼も薫嬢の影響を受けてしまっているよーですねw (偽バルタン)
- 偽バルタンさま
>彼も薫嬢の影響を受けてしまっているよーですねw
あー、でも添い寝程度とか。
お兄さんへの淡い初恋を夢想とか。
……って事に。……真面目な人なのにねぇ(近所の証言風に) (ししぃ)
- 関西在住の人間のくせに、粉モノに執着が無い丸々です(笑)
「関西人(大阪の人)がたこやき好きなんて、きっと都市伝説だ!」
と思っていたのですが、この前同僚(大阪の人)と飲み屋に行って
たこやきのメニュー(自分達で焼く)を発見した瞬間、突如ヒートアップ。
ええ、まさかたこやきだけを頼み続け、3時間も過ごすとは思いませんでした。
やっぱり大阪の人にたこやきは欠かせないみたいですねぇ……(汗) (丸々)
- 丸々さま
>やっぱり大阪の人にたこやきは欠かせないみたいですねぇ……(汗)
なんか、あまりに日常になってて、好きという感覚すら無い。
というように聞きました。ま、その子は神戸出身の方ですが。
関西の美味な粉モノ文化に思いを馳せて。 (ししぃ)
- 大阪生まれの大阪育ちの私は、家にたこ焼き器が3つあります。
そして、うちは確かに多いですが、周りも皆たこ焼き器を持ってます。
当たり前で当然です。
なんせ大阪は粉もんの地ですから。
だって私持ってない人(この辺の人以外では)聞いた事無いですもん。 (連理)
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