ザ・グレート・展開予測ショー

ハッピーエンドにするわけがない


投稿者名:たつる
投稿日時:(05/ 8/24)

「僕の彼女を紹介しますっ!!」


 事務所に来るなり彼の発した言葉はこれだった。

 季節は夏。
 時は夕刻。
 アシュタロスのごたごたからしばらくたったある日。
 ここ美神事務所では大きな異変が起きようとしていた。








―ハッピーエンドにするわけがない―








「……はぁ?」


 半目で彼―横島忠夫を見やるはここの所長、美神令子。
 その表情からは、コイツはなにをいきなりトチ狂ってんのよ、と呆れていることがありありと伺える。


「……何言ってんの? アンタに彼女なんて出来るわけがないでしょーが」


 アタマから虚言、妄想だと決め付ける美神。
 その判断には、今までの経験上まず間違いなくウソであるとの確信もあるが、
 そんなことがあってはならない、という思いもある。
 何故あってはならないのかというと……それはまた難しい問題であるのだが。


「ふっふっふ……美神さん。今度こそは……今度こそは俺にも春が来たんスよっ!!」

「アンタの頭ん中は一年中春だから別にいいじゃないの」

「ぐっ……い、いやそうじゃなくてですね」

「なに? またなんか変なのに憑かれでもしたの? 自分で除霊しなさいよ? あたしはやーよ」

「いや、ですからっ」

「そもそも冒頭の『僕の彼女を〜』ってなによ。な・に・が・ボクよ」


 やれやれくだらない、とでも言いたげに、美神は先ほどまで片付けていた書類仕事に戻る。


「えらいつっこまれようやな……」


 ちょっとしょぼくれてしまった横島君。
 そこまで言わんでもえーやないか、などとぶちぶち呟いている。


「あ、あの横島さん? 彼女っていうのは一体……」


 横島の最初の一言で固まっていたおキヌが、とりなすように横島に話しかける。
 実際は、「ちょっ―よこっ―だ、誰なんですかっ!?」なんて猛烈につっこみたいのだが。


「あ、おキヌちゃん」
「どなたなんですか?」
「ふっふっふ、そりゃもうおキヌちゃんでも驚くぞー?」
「どなたなんですか?」
「なんてったって、まさかこのコっ!? って感じだからなー……へへへへへへ」
「で、誰なんですか?」
「美人で優しくて器量良し。この俺にこんないいコが―」






「……ダレなんですか、って、言ってるんです……」





「……ぉ、オーケイおキヌちゃん……今すぐ言うから落ち着いて」


 おキヌの表情は俯き加減でいまいちわからないが、
 ぷるぷる震えるほどに硬く強く握り締めた彼女の拳は、打ち抜けば横島の頭蓋ほどならたやすく凹ませられるのではないだろうか。
 心なしか髪もふわぁ、と浮いてきているように見えるが、目の錯覚であろう。

 そして横島は、彼女の気持ちなどさっぱり分かっていないのであろう。


「コホン、それで、横島さんの彼女さんは、どなたなんですか?」


 咳払いをひとつして、彼女は落ち着いた様子で尋ねる。
 少なくともおキヌ自身は落ち着いているつもりである。
 ただ、微笑を浮かべてはいるが、横島には「まだふざけるのなら容赦しませんよ?」と言っているように思えてならない。
 おキヌちゃんてこんなんだったかなー、なんて思う横島。


「あ、あぁ……えっと……実はもう連れて来てるんだ」

「えぇーっ!?」

「ほほぉう……職場に彼女同伴で来るとはいい度胸ねぇ」

「わわわわわっ!! ちょっと待ってください!!」


 神通棍をキンキンうならせながら近づく美神を見て慌てて飛び下がる、横島。


「とりあえず話が進みませんからっ! しばき倒すならもーちょっと後でっ!!」

「ん……確かに。じゃあもーちょっと後でしばくわ」


 やっぱりしばくんかいっ!!
 自分で言ったことではあるが、とほほである。


「そ、それじゃ、えーと……入っておいで、ルシオラ」



「「!?」」



「お久しぶりです、美神さん、おキヌちゃん」


 にこにこ笑顔で部屋に入ってきた人物。


「なっ……」


 それは


「ルシオラさん……!?」


 確かに


「もちろん本人よ」


 亡くなったと思われていた、ルシオラであった。







「ななななななななななっ!? なぁっ!? なぁっ!?」


 ルシオラを指差してひたすら驚愕の声を出すことしか出来ない美神。


「えぇっ!? ルシオラさん生きてっ!? はえぇ!?」


 混乱の極みのおキヌ。


「はっはっはっはっ! どーです!? びっくりしたでしょ!? びっくりしたでしょ!?」


 笑うバカ一名。






「……とりあえず事情を聞く前に……アナタは本当に本物のルシオラなのね?」


 笑うバカの顔面にコブシをめり込ませて、とりあえず落ち着くことが出来た美神は彼女に問いかける。


「えぇ美神さん。正真正銘ルシオラ本人ですよ」

「そう……だったら」

「だったら?」

「まずは……おかえりなさい、ルシオラ」

「……美神さん」


 微笑を浮かべる美神をみて、「嘘や……こんなやわらかい美神さんなんてウソや」などと考える不届き者一名。
 幸い声には出さなかったのでキツイ二撃目は受けずに済んだが。







「さて、それじゃあ事情を説明してもらいましょうか」

「事情、っていってもっスねぇ……とりあえず……」

「とりあえず?」

「とりあえずこれでハッピーエンドってことにしません? 特に問題ないでしょ?」

「するかぁぁぁぁっ!! 問題大アリじゃボケぇぇぇぇぇっ!!」

「あぁぁ落ち着いて美神さんっ! 横島さんが喋れなくなったら元も子もありませんよっ!?」

「ぐっ……横島クン……おキヌちゃんに感謝するのね……」

「あはは、は……」


 喋った後はそらもうボコボコにされるんだろーなー……
 なかば確信をもった予知的ビジュアルが横島の脳裏に浮かぶ。


「あーもうっ。言いたかないけど、ルシオラが生きてることで神族や魔族、人間がどう動くか分かったもんじゃないでしょ?」

「あ、その点はいまんとこ平気っス。今は文珠で気配を隠してありますから……まぁ、ずっとって訳にはいきませんけど」

「そう……じゃあ具体的にどんな手段を使ったの?」

「簡単に言えば……過去に行っていろいろやっちゃったっていうか……」

「過去ぉーっ!? アンタ時間逆行がどんだけエライことか解ってんの!?」

「え、えぇまぁ少しは……でも、やっちゃったもんは仕方ないですよね? ね?」

「コ、コイツは……」


 目的のためなら手段は選ばない。
 師が師なら弟子も弟子といったところか。
 もちろん彼女は、自分の悪影響だ、などとは思わない。


「もうちょっと説明すると、コミックスを読み返していろんな方法を考えて―」

「反則だわ」
「反則ですね」
「こんな反則なの見たことないわ」

「い、いいじゃないですかっ!! 前にもコミックス読み返してなんやかや、ってあったじゃないっスかーっ!!」

「でも、ねぇ……」


 あ、アタマイタイ……
 こめかみを押さえる美神。
 こいつは、ここまで反則で予想外で無茶苦茶な奴だっただろうか?
 ふと考えるが、すぐに答えは出た。
 そうだ、コイツはどこまでも規格外な奴だった、と。
 考えるのもバカらしい。

 
「この世界は反則ワザがウリでしょっ!? このマンガで死人が出るなんてありえないでしょっ!?
 亡くなったと思ってた美神さんの母親だって生きてたんだしっ!!」

「そりゃまーそーだけど……」


 それを言ったらお終いな気がする。
 そもそもアリエナイから、とかこれはオカシイから、という理由で物事が解決したら苦労はないのだ。
 というか、うやむやで済まそうとした者がどんな末路を辿るのかこいつは知っているのだろうか?
 伏線をはりまくった作家が、後に苦労するのは割とよくある話である。


「じゃあ、横島君の中にあるルシオラの霊体とかは―」

「とにかくっ! 今度こそハッピーエンド!! ……ってのはどうです?」
「異議なしっ!」

「コラそこっ! 調子に乗るなっ!! ルシオラも横島君に抱きつかないっ!!」

「もう、いーんじゃないですかね……この際……」


 おキヌはとても疲れたような顔をして、コーヒーを淹れに行った。













―次回予告―
「GS美神もハッピーエンドを向かえ、とうとう俺の時代がやってきた!!」
「んん?」
「そして引退した美神さんの意思を継ぎ、事務所の所長の地位に就く決意をした健気な横島」
「ほほぉぅ……」
「ありがとう美神さん! 美神さんの財産やカラダは、全て俺がいただきますっ」
「いい度胸してるじゃないの」
「次回『GS横島情欲大作戦!!』第一話「横島所長華麗に見参」お楽しみにっ!!」
「ちょっとコッチに来なさい横島クン?」







後書き
ルシオラを助けるにはどうしたらいいんでしょうか?
救出方法や手段を考えるのはすごく難しいです。
そこで過程をはしょって結果だけ残してみました。
ネタ等に不快に思われる方がいましたらじゃんじゃん反対票をお願いします。
出来ればまた投稿したいと考えているので、意見をいただけたら嬉しいです。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa