ザ・グレート・展開予測ショー

モンジュは反則バカップルの宴 (3)


投稿者名:Nar9912
投稿日時:(05/ 8/22)

ケース2 Sさんの場合

さて、上空遙か彼方にて彼等を見守っていた存在に果たして彼等は気付いていたのであろうか。
気付いていたにせよいなかったにせよ彼等は気にも留めなかったのではあろうが、遙か上空に
悠然と浮かぶそれの中で彼等を見ているむしろ観察している者達がいた。
言わずと知れた自称貴族と、彼とまさに今お付き合いしている辣腕GSである。何を思ってか
二人の仕事が共に休みである貴重な日にデートではあろうがそれにしては飛行船を仕立てると
いう無駄に豪勢な真似をしているのだ。金には困らない二人ではあるが稀に豪遊する事を除く
ならば意味のあるそれはしようとも無意味に贅沢はしないのであるが……


「手を繋いで登校か……学生らしい恋に見えなくもないわね。」


バカップル振りが痛々しく笑えないギャグと取れる彼等の日常の一齣を見ていた令子は遣る方
無い思いを裡に秘めて静かに呟いた。その声に籠もる万感の思いをしかし知りながらも応える
のは常に無く異常なまでに軽い作り物の様な声音とそれでも隠しきれない思いが微かに現れた
西条の声。


「ははっ。彼等にはまだ大人の恋は早いという事だよ。なに、横島君もルシオラも何れ僕達の
様に大人の恋愛を覚えるだろう。」
「見せつける積もりは無いんだが、やはり近くに良い例がある方が彼等にも良いと思うよ。」


敢えて軽く嘗ての横島のそれであるかの様にさえ聞こえる声で塗り固めた心情を隠した恋人の
その物言いに令子はただ頷いて傍らにあるグラスを傾け一息で呷る。そう彼女達に出来る事は
そう多くはない。彼に対して複雑な想いを持っていた事を漸く認めた彼女は最早彼に対し従来
通りに接する事が出来ない。そして遂に自身の望んでいた相手を手に入れた西条は他人の恋に
成就したそれに余人が口を出すべきではない事を弁える程には紳士でありしかし幸福のうちに
苦しむ彼等へと遣れる事は無いか悩む事が多くなっていた。そして彼等は何時しか二人の行動
を見ている事が多くなった。元より西条は美智恵と共に二人に教えを授けており接する機会が
多く、令子も短くもあったのだが随分と長く一緒にいた様にも……それこそ千年も……思える
事務所時代と余りに違ってしまった今の彼が外面を装い親しくない者には単なるバカップルと
見える様にいや自身達をもそう思わせる様に振る舞っていてもその内心に気付く程度には彼の
事を良く知っていたのだ。

だが西条も悩んだ通り彼等二人だからこそ横島達に横島にアドバイスを贈る事は困難であると
分かってもいた。だから二人は最初は横島達を只見ているだけしか出来はしなかったのだ。
彼等をいや彼を見守る事から逃げたくもあり逃げられなくもある心境であった令子は一時酒量
が尋常でなく増え仕事でうっかりミスをする事も多く、自らが恋破れた事とそれを受け入れた
事で新しい相手を探す事に勤しむ事で何とか彼等から目を逸らしているキヌがフォローせずに
いたなら致命傷を負って引退すらしていたかも知れない程であった。

何故キヌが令子をフォロー出来る程度には冷静であったかであるが、確かに彼等は存在も無い
筈の傷によって今も傷付いてはいる。しかし乍らそれでも恋人同士であり充実した毎日を送る
バカップルである事もまた事実であり、己がこの世に再び生きている様に幽霊でいた長く永く
苦しい期間があった様に生を謳歌する事には望みの実現には痛みも少なからず伴うのが普通で
あると何れ彼等の傷は時間が癒すであろうと理屈ではなく感じていたからである。
その考えに至るに僅かであれ見掛けだけでも楽しそうな恋人達である彼等への嫉妬も含まれて
いたかも知れず、しかしそれで彼女を責める事はしてはならないであろう。己が失恋した彼を
独占する恋人とその恋人と二人でバカップルでいる彼を見て何ら嫉妬を覚えない様では生きた
まま……基督教的……聖女になれそうであるのだから。むしろ表立って今までと変わらず機嫌
良く応対している事自体彼女の優しすぎる性質が良く現れているといえよう。その彼女もまた
近畿剛一と仕事で出逢ってからアプローチをし始めるのではあるが、そこに恋は勝ち取るもの
であると失恋で得た教訓が活かされていたりもする。尤もそれはまだ起きてはいない事であり、
今の彼女は失恋の痛みを堪えつつ周囲に気を配る本来の性質を失わない健気な元幽霊少女なの
であった。横島がいなければ美神除霊事務所が存続しなかったかも知れない事と同じくらいに
キヌがいなければ美神除霊事務所は存続しないのである。戦力的には西条が加わる事で十分に
フォローされてはいるが、メンタルケアはそれも横島絡みに対してのそれは西条では逆効果で
あって今共に仕事をする三人全員がそれを分かってもいたのである。キヌに世話を掛ける事は
嘗て己が横島に対して行なって来た罵倒が己へと返る事でもあると自覚した令子はプロだから
と仕事に挑む際は一人で仕事をしていた頃と同じ程にまで慎重を期す様になった。キヌや西条
の存在を無視した除霊ではなくチームとしてきちんと遣っていく事をしっかり念頭に置いての
行動は流石に一流のプロを自認するだけはあると西条らを安心させたのだ。

斯様に微妙なバランスではあったが除霊の方は何とか従来のそれと同レベルに戻った。
しかしどうにも自分達だけでは横島達の問題には助けに成れそうもなく、だからといってその
事を考えない訳にも行かない日々を送るのであった。

暫く日が過ぎた後に西条が令子を連れて横島達と殆どダブルデートの様なイベントを企画して
今や弟分と化している横島に奢って出掛ける事が少しずつ増えて来た。都合さえ合うなら彼の
親友達とその恋人達をも誘いなるべく多人数で行動する機会を持ち始めたのである。彼の友の
一人である半吸血鬼はとある理由から誘わなかったのであるが。

その西条の行動には複数の思惑があった。一つには悩んでいた頃に横島の教育に関して唐巣や
美智恵と打ち合わせしていた際にそれとなく仄めかされて必ずしも適任とは言い難いが自分達
が率先してそれを行なえばと了承した合同デートである。恋人同士でありながら彼等と親しい
者達詰まり南極戦に参加した者達が理由を知る二人だけでは間が持たない彼等であっても他に
人がいれば沈思してしまう事が少なくて済む。楽しい時間を重ねればより早く本来存在しない
その傷痕が消えていくであろう。参加する者は同世代である事が望ましいが気遣いが過ぎると
明らかになった彼等を唯楽しませる為には無用に英雄扱いしない彼の友人達が良いだろうとの
事でその恋人達を含めて密かに西条達が集め相談し全員の受諾のもとで……勿論令子にも相談
して了承を得ている。彼女は素直ではないが優しいので当然賛成したのである……実現したと
いう訳だ。周りも幸せな恋人達であれば彼等も気を遣う事は無く言葉を見つけられないでいる
為に二人だけでは身体を求め合う事しか出来ない経験の少ない彼等でも友人達の付き合い方を
見せれば多少はマシになるであろう。これにはルシオラを人間社会にとけ込ませる為との目的
もありGSとその卵である横島の親友達はその交流のモデルケースとしては適材であろう事が
ある。三姉妹に対する一般人の見方は一年しか寿命が無かった今は救われた悲劇のヒロインと
その姉妹とのものであり気遣う事は出来てもその能力が違い過ぎる事もあり普通に付き合うと
なると重荷である。しかしGS達は特に横島の知り合い達は違う。彼等の交流が普通に一般の
付き合いであると評しては明らかに間違いであるがしかしその実彼等は仲間意識が強くいざと
なれば各人の都合など放置して団結して事に当たる者達だ。その彼等に仲間であると見なして
貰えたなら……これも大人達の配慮であってそれが必要であると理解出来る程度には親友達は
精神的に大人であった。

そしてこの行動には主に西条の利益となる思惑もあった。自分と仲睦まじい令子を見せる事で
最早横島と令子が恋仲になる事はあり得ない事を改めて令子に示す事、横島達を助ける為には
自分達が出来る事は楽しい時間を作って遣る事だけだからと正論をもって令子自身が自発的に
西条と普段にも増して仲の良いカップルである様相を横島達に見せる様にし向ける事である。
勿論令子は西条の思惑に気付いてはいた。しかし令子にはそれに反対する術など無い。西条は
己の恋人でありそれは己自身が選んだ事だ。その恋人と仲を深める事に反論などある訳も無く、
父性を求める己がお兄ちゃんに多少甘え気味な態度を取るのは気恥ずかしくもあるが横島達に
楽しい時間を過ごさせる為気遣いさせぬ様己達が楽しんでいる様を見せなければとの言い訳が
あるならばプライドを保ちつつ堂々と甘える事が出来る。この言い訳は横島達だけには知らす
事など出来ないが己には横島がどう思うかなど関係無いのである。己の性格を逆手に取られて
いると自覚しつつ彼女にはそれを自ら行なうしか道は無い。人間、形だけ振りだけである筈が
何時の間にやら本当の事になってしまう事はよくある事。それもまた分かってはいるがしかし
それの何が悪いのか、お兄ちゃんと私は恋人同士、少し年の幼い私が甘えてもべたべたしても
何も問題は無いでは無いか、私達は愛し合っているのだから。

と、この二人の行動は実のところ示威行動にも似た計算尽くのバカップル振りなのであった。

西条に悪気など無い。彼にとって大事なのは令子ちゃんと一緒になる事であり、その為に利用
出来るのであれば何でも利用するだけの事。他ならぬ令子ちゃんの母、恩師美智恵譲りの策謀
である。恋愛において上策とは他人の恋路を邪魔する事ではない、それは下策である。上策は
競争相手となる恋敵を恋敵でなくしてしまう事すなわち他の相手を見繕い宛がう、更にはその
事をもって己の欲する相手を挑発して己に括り付ける事である。己の恋愛に関し何処にも敵を
作らずむしろ感謝されながらも己の恋愛をも成就する。
それが、西条輝彦流恋愛の奨め奥義であった。いや、門外不出であり対令子ちゃん専用に日本
に戻ってから考えたに過ぎない奥義ではあるのだが。
もしも西条にその辺りの心情を一言で表わして欲しいといって彼がそれに答えたとしたならば、


「みんなで幸せになれるならそれは良い事だと僕は思うんだ。」


とでも返ってくるであろう。まるで何処やらの昼行灯な第二小隊の隊長さんそのままである。

……余談ではあるが、奥義は小鳩と横島との偽装結婚の費用を衣装指輪込み全て出した時から
形を為し始めており、キヌが身体を取り戻し生き返った際の宴会帰りに横島にキヌを背負う様
奨めてその様子を観察し、キヌが己の思惑通りに都合の良い一言を呟いたそれを聞き逃さずに
すかさず彼だけではなく令子にもしっかり聞き取れる様高らかに笑いながら爽やかな好青年を
演じ横島を誘導しようとしたそれも含まれている。一人目は無関係過ぎて事件後に関係が進む
事は無かった。二人目は普段の関係が深過ぎて逆に関係が変わる事は無かった。だが三人目は
その何れでも無く三度目の正直とばかりに未来の己からの情報もあって完璧な手を打てたので
ある。そしてそれを不動のものとすべく今も尚行動を続けるのであった。裏を返せばそれだけ
彼と令子との関係が深いと見ている証拠であろうが、それを口に出す者はいない。彼等二人の
間には横島忠夫という嘗て彼等の恋愛に障害であった者しか障害はなく、それも何れは時間が
解決してくれるであろう。
その時が来るまで、彼等は当人達自身が分かっていながらバカップルであり続ける。

因みに今日は弟分である横島達の様子を遠くから見守るついでに優雅な一時を過ごさないかい
と声を掛け遠目では音が聞こえない事もあって彼等の隠している感情が掴み難い事を利用して
令子の気持ちを適度に追い込み二人の時間をじっくり楽しもうとの演出なのであり、その為に
飛行船と酒、勿論やたら豪華なキングサイズのベッドも用意したのである。

しかしこれは本来の西条らしくはない。本来はこうえげつ無い遣り方はしない。彼の流儀から
すればむしろ正々堂々スマートな方法を好むのが本来である。だが彼は誰にもいえないのだが
横島の令子への影響を一番怖れているのである。彼が自分より令子を知っていた事に端を発し
令子も彼の前では決して認めないが彼を想っていた事が誰の目にも明らかであった。西条から
すれば彼の影響を愛する者から取り除きたい一心でこの様なアプローチをしてしまっているの
である、西洋合理主義を学んでしまったが故に、彼我の戦力差が理解出来ていたが故に。
詰まる所彼もまた令子同様自分の考えに踊らされているのだ。
何れ遅くとも横島達が真に幸せになる時には自分達も幸せに成れる筈ではあるが、その日まで
二人は今のままバカップルでいるしか無いのである。


(ケース2 完)

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