ザ・グレート・展開予測ショー

モンジュは反則バカップルの宴 (2)


投稿者名:Nar9912
投稿日時:(05/ 8/19)

……

……

横島は大事な者を切り捨てる様な真似は絶対にしはしない。しかしあの時未来から来た文珠が
伝えた未来で自分は何より大事である筈の女を、切り捨てたのだ。言い訳は幾らでもあるので
あるが常ならば言い訳に逃げる彼はしかしその未来で逃げはしなかった。その結果を自ら招く
事となったその選択を受け止めて世界を救う事を選び美智恵に対して俺は認めんといったその
選択を……実際には随分選択の重さは異なるのであるが……たとえ誰が行なっても自分だけは
捨てないと決めていた考える事さえそもしはしない筈の選択を、行なったのだ。

後悔なら後ですれば良い、それは事実だ。しかしそれは自身の想いすら殺す事が出来る戦士で
あって初めて可能な事である。真に大事な選択を、何れも自身に掛け替えの無い大事なモノの
片方を選ぶ選択を、それも戦いの最中に誘惑の中行える一般人がいるだろうか。未来の自分は
その選択を迫られたのだ。確かに令子が三鬼の魔族に狙われた際に修業を選んだ時から戦士で
ある事を選んだ積もりではあった。香港で初めて栄光の手を出した時の様なヒーロー願望では
無くパートナーが真に苦しい時に戦力となれる戦士である事を選んだ積もりではあった。

だが自分は、唯軽く無節操な男である筈の自分は、自身が思っていたよりも戦士であり過ぎた。

戦士としてある事はすなわち殺す事に繋がる、それが敵であれ味方であれ。さながら殉教者の
如く狂信者の如く殺してしまうのだ。だがその血塗れの道を自分はいつの間にか歩いてそして
その事を受け入れてしまっていたらしい。確かにその選択は自分に大きな傷を付けてしまった。
しかし自分はいつの間にか傷付く事に慣れてしまっていたのだ。その未来の自分は確かに強く
後悔はした。が、しかしそれを選んだのは他ならぬ自分自身であり自分の選択の結果であった。

だがあの未来の自分はもう戦士ではありたく無かった。エネルギー結晶を壊しても未だ魔神が
死んでいなかった事を知った時には率先して戦った。恰もそれが仇討ちであるかの様に、いや
あの時の自分はその積もりだったのであろうしそれは事実でもある。ベスパが何故魔体の弱点
を自分に告げたのかは全く分からなかったがその表情から何かの事情がある事だけは分かった。

そして事情を聞いて、元より容易に他人を恨み妬み時には実際に攻撃すらしていた筈の自分が、
誰をも恨めなくなってしまったのだ。あの選択では誰も自分を助けるなど出来はしなかった事
は自明でありそも代わりに結晶を破壊してもらっていたならばその人物を恨んだかも知れない。

誰もが皆出来る限りの事をした結果であると納得するならば……如何なる事例であれ戦闘など
は通常そうあるものなのだが……恨むべきは自分自身なのだがそれも違う。自分を恨んで事が
片付く訳でも無ければそんな事はそもこんな自分の為に死んだ後まで蘇生を自ら拒んだ彼女を
自分に取って絶対であった筈の彼女が愛した自分をどんな方向であれ変えてしまう事は彼女を
否定する事に繋がるのではなかろうか。強迫観念であったのだろうと今の自分には分かるので
あるが未来の自分には分かっていてもどうにも仕様が無かったのだ。単純に誰かを恨みそれで
片付けるという程には浅薄では無くなってしまっていた未来の自分は厭になる程に戦士であり
そしてそうある事を止めたかったのだが既に彼女と出逢った時に戦士であった以上はそれすら
出来もせず傷を癒す事も出来ず何も出来ない。自身を含んで誰をも恨めずただ毎日を過ごして
変わる訳にも行かず中途半端で居続ける日々、それが未来の自分に残っていた道であった。

しかしそんな自分を仲間達は助けてくれた。幾つもの案が出された。彼女を娘としてではなく
蘇生させる事も可能だったかも知れない。或いは彼等の見通しは厳し過ぎて実際は時間移動は
出来たのかも知れない。
娘としての転生ではない何らかの限定を、例えば嘗て自分が文字通りに一瞬で殺された心臓を
止められた言霊を操るあの怨霊、書いた事が可能となる空間こそ限定されるが全て実現すると
いうあの怨霊の様ないやそれ以上の言霊を操る者の援助を受けたなら或いは都内限定で彼女を
蘇生させる事さえ可能だったかも知れない。他にも手段はあったであろう。

だが未来の自分は自身がらしくないのかいやある意味自分らしいのかと思いつつもあの事件で
傷付いた皆の傷が可能な限り癒されるだろう手段を求めた。簡単に出来はしない。その時点で
完全な復活を遂げさせる事とそうならない過去にする事の二つが候補だった。彼女の事で誰も
傷付かず世界も揺るがずに済む案の一つである候補としてあの策が捻出されたのだ。

結果は最良であった。しかし未来がそう成り得た事は消えはせずあの未来がどうなったのかも
分からない。知っているのかも知れない神魔族に聞く気もしなければ向こうから言い出す事も
少なくとも当面は無いだろう。

結局自分は戦士なのだ。トップクラスのGSである仲間達からは殆ど一般人と見なされていた
のであって確かに普段は到底戦士であると評する者は自分自身さえ含めていない……もしいる
ならばそれは彼女だけであっただろう……のだがそれでも自分は戦士だった、好むと好まざる
とに関わらず。普段は巻き込まれてしか動いていなかった。戦士らしく振る舞えたのは大事な
女性達の誰かが真に危機に陥った時くらいであった。そうして初めて自分から戦いを決意した
最初から戦士であろうとしたその時にはしかし自分の全身全霊を掛けたにも関わらず守るべき
者の死という最悪の結末を迎えてしまう所であった。

自分はもう戦士でありたくは無い。だが戦士であり続けた未来の自分達からもたらされた策で
得た勝利の為、実体は張りぼてのそれであるにも関わらずに自分は英雄扱いされている。自分
ならむしろそれに浮かれる事がらしいであろう。どう足掻こうと戦士であるしか無いのである
なら強い戦士に成らなければならない。無用に命を自分のそれだけでなく大事な者達のそれを
失わない為に。故に自分はこれまで行なって来なかった地道な教えをサボっていた学業と並行
して学ぶ事にしたのだ。尤も頭では教えを学ばなければと思いながらも現在の力で既に遅れを
取る事が無い以上は遣れば出来て成績との形で結果が出て更に小難しい霊能の教えを理解する
にはそもそも基礎学力が必要な事がある為に先に修めなければならないのは学課であってそう
なると自然霊能の教えには身が入らない。或いは戦士で居続ける事を何処かで拒否しているの
かも知れないと思いつつも実は単純に学業の方が常に傍らにいる恋人が興味深く聞いていると
いうそれだけの理由かも知れずその方が自分らしいとも思う、本当の所は自分でも分からない。
何れにしろ自分は変わってしまったのだろう。だが今の自分は未来の自身を含め周囲の手助け
もあって何も失ってはいない。だからこそ何も失わない為に戦士であり続けなければならない
のである。

今の状況を未来の自身が見たならどう思うであろうか。戦士である事が厭になりしかし彼女に
誓ったが為そうあり続けなければならなかった自分が起きていない喪失を怖れ周囲が未来とは
逆に戦士である様に求めている今の自分を見て果たしてどう思うのだろうか。

たわい無く出口の無いこの様な思考がふと忍び寄る事が当り前と化してしまった今の自分への、
最愛の女性をモノにして周囲が呆れる程浮かれ幸福に酔っていて良い筈の自分へのあり得た筈
の無い自嘲を覚えてしまう。これまでの様に振る舞おうとしてもルシオラが阻止する前にそも
何かが違い自制してしまう。冗談で出来ていたその表情は最早作る事さえ許されない。周囲が
改めて英雄横島の魅力を知る事になったその極稀にしか見られない筈の真剣そのものの表情が
常にその端正では無いが魅力ある顔に浮かび、時折愁いを帯びるその瞳の光に今更乍らに魅了
されたクラスメイトを含む女性達もいるのだが今の横島はそれに気付く余裕すら無かった。

彼には言葉が無い。果たせた誓いを誓った相手である恋人に掛ける言葉が見つからない。起き
もしなかった未来の記憶を持つ変わってしまった自分は今はまだ言葉を見つけられない。

嘗てスライムを除霊した際の妄想や人形を用いた映画製作の際に元作品の内容を知っていた事
からも分かる様に横島は映画に詳しい。特に女を口説く為の歯の浮く様な台詞ならば幾らでも
その知識の中にあるのだが、自分に似合うとは悲しい事ではあるが到底思えない……これまた
悲しい事ではあるがこれまでの経験から自分がそれを言っても誰も振り向きもしない事が既に
分かっている。実際の所は今の彼が言ったなら振り向く女性はそれなりにいるのであるが……
いやたとえ似合っても今は戦友と認めた道楽公務員の様な者こそそれに相応しく自分には別の
言い方があるのではと思える。そしてあの事件の為に未来から解決策として送られてきたその
文珠と記憶を受け取った彼は雰囲気を重視する可愛い恋人と相対する際、こんな時何と言えば
良いのか分からないんだという感じになるのである。
流石に未来で見た記憶の再現はせっかくにベタ惚れとなっている彼女を引かせてしまう、いや
そも今の自分にはそれは出来ない。対応をどうするか考える事自体が彼女に真に惹かれている
事の証なのであるが軽い男であり続けてきた彼はしかし未来の記憶の事もあり借り物では駄目
だと自分の言葉で無ければ駄目だとの思いが強くなり言葉は更に出なくなる。
真剣に想うが故に恋人へ想いを伝える言葉が出て来ない。今の彼には仕草で語るしか手は無い。

彼は、尽きせぬその愛を語りたいにも関わらずそう出来ないのだ、特定の一時を除いては。

当然ながら彼等の間には体の関係がある。いやむしろその年頃の男女としても過剰な程に愛し
合っている。一人は煩悩魔人と呼ばれた程のほんの少し間違えていたなら疾うに迷惑防止条例
乃至は強制猥褻罪の前科持ちになっていたであろう者であり……実の所その前科が無いという
辺り世の中が間違っている気がしないでも無いのだが。以前一度は実際に捕まった事さえある
のだがその際は従業員が前科持ちとなる事の不利に思い当たったとの建前から通報した本人が
間違いであったと取りなしていたのだ……その連れ合いは人に非ざる者である、その愛の営み
が一般的なそれで収まる方がおかしい。だが、その煩悩魔人の前世である陰陽師も言っていた
様に大事なものは愛である、その営みは愛が無ければ動物の交尾そのものでしかなく、女性で
あるが故に人界において常ならぬ存在である魔族であるが故により流れを重視していた彼女に
してみても求める物は身体だけの繋がりでなく心のそれも含めた心身が共に結ばれる事である。
勢い愛を交わす際にはその流れに乗って言葉でも愛を交わす事が出来る、いや切羽詰まった為
に普段は言えずとも言ってしまうのであるが、それ以外に置いては恋愛初心者な彼等には語る
言葉を見つける事さえ困難なのである。恋人ならば当然するであろうちょっとした仕草は勿論
お互い意識して行なっているのであるが、それで相手に己の愛情が本当に伝わっているか常に
不安を持っているのだ。

彼は幸福である。彼女も幸福である。二人の生活は充足しており二人は己の半身を常に傍らに
感じている。だが、幸福そのものである筈の二人はしかし結ばれたばかりの初々しい恋人達に
似合わず沈思する事がある。変わらずにいた未来からの伝言で勝利を得た為に変わってしまう
事となった戦士であり英雄でもある彼は真剣な表情を崩さない無口な男になり……二人だけの
時には嘗ての煩悩が全開になるのではあり、多少無口になって漸く人並みではあるのだが……
あの事件で彼に真剣な表情をさせられるのは己のみと愚にも付かない考えを抱いた事を今後悔
する彼女はしかし漸く人並みの行動をして人並み以上のその魅力を周囲に振りまく彼にされど
滅多に見られなくなった心からの笑顔を、意識してではない本心からの笑顔を浮かばせる事を
こそ常に考える様になった。

それ故に彼女は今日も彼へ己の想いが伝わる事を彼女が彼を愛するに至ったその経緯を含めて
拙い己に為し得るその行為で彼へ全てが伝わる様にと祈っていつもの如く呼び掛けるのだ。
……幾たび愛を交わしても尚全て伝えられたとは思えぬ己の想いを籠めて、たとえそれが何時
何処であろうとて、変わる事など無い己の想いを乗せて彼女は何時でも何処でも呼び掛ける。
時の経過が無い筈の傷痕を薄れさせて、何れは訪れるであろう二人の仲が真なるバカップルと
なるその日まで。


「ヨ・コ・シ・マっ」


(ケース1 完)

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa