ザ・グレート・展開予測ショー

奥様は、ねこ。


投稿者名:龍鬼
投稿日時:(05/ 8/19)


 奥様の名前は、美衣。

 旦那様の名前は、忠夫。

 ごく普通の二人が、

 ごく普通に知り合い、

 ごく普通の結婚をしました。


  

 でも、一つだけ違ったこと。

 奥様は、ネコミミだったのです。










 朝。
 今日はとってもお日様が元気。

 晴れの日って、好き。
 だって天気が良いと布団がよく乾くんだもの。
 干したての、お日様の匂いをお腹いっぱい吸い込んだお布団のあったかさも大好き。
 なんたってそれを三人分だから、早く干してしまわないと。


 ただ、そのためには…………ね。


「もう……休みだからって、いつまでも寝てちゃダメでしょ?二人とも」


 視線の先には、大好きな人と、わが子。
 すやすやと、幸せそうに。


 それを見つめる笑顔も、きっと。





  

  『奥様は、ねこ。』







「ほら、二人とも起きて。お布団片付けないと、ちゃぶ台出せないんだから」

「ん〜………ふぁい」

 もぞもぞと、それでもしっかりと。
 いつもそうするように、あなたは布団から這い出して。

 普段より厚めの瞼の下の目と、視線を重ねて微笑みひとつ。


「顔でも洗ってらしたら?目も覚めるだろうし、あ、それと…………。」


 そう言って、「それ」をちょんちょん突っつく。
 きょとん、とした貴方の顔に少しだけ、ほんの少しだけ吹き出してしまいそうだった。


「この『アンテナ』もね?」


 そりゃあ、確かに妖怪はとっても近くにいますけれど。
 もう、ずうっと前からね。







「ほら、ケイも。いい加減に起きなさい」

 世間で言う「夏休み」に入ってからというもの、めっきり寝起きが悪くなったのは気のせいだろうか。
 山に居たときはいつも早起きだったのに。

 業を煮やして、無理矢理布団を剥がしにかかる。
 そうしたら、横から。

「まぁ、良いじゃないすか。寝る子は育つって言いますし」

 そう言うとまだ夢の中のケイを、ひょいと抱き上げて。

「これで、布団片せるでしょ?」

「もう……それじゃ、朝ごはんの支度の間だけよ?」

 まるで返事をするみたいに、ケイの頭がころんと傾いた。
 




     ◇





「「いただきます。」」
「どうぞ、召し上がれ」

 今日の朝ごはんは、味噌汁と冷奴がおかず。

 ちゃぶ台を囲むと、背中と壁との距離が近い。
 でも、この狭さが好き。
 ずっと、二人の近くにいられるから。

 いろんなことがあった。
 それでも、私達が一緒になる事にはみんな反対だった。
 でも最後には、あの人も給料をちょっとだけ上げてくれて……。
 三人がなんとか暮らしていける程度には。

 素直じゃないんだなぁ、本当に。

「お味はいかが?」
「あ、すげぇ美味いですよ。」

 いっつもですけどね。
 決して音にはせずに、そうやって口を小さく動かした姿が可愛らしかった。

 でも……。
 育ち盛りには、やっぱり少し物足りないみたい。

 早々に食べ終えてしまったケイの表情は、そんな風に見えた。

「……ゴメンな、ケイ。明日給料出るから……」

 お互いに申し訳なさそうな二人。
 間に入った方がいいかな……とは思ったけれど。

「そんかわり……今日は、いっぱい遊ぼうな」
「うんっ!今日こそは、僕の方が遠くに竹トンボ飛ばすんだっ!!」

 どうやら心配ないみたい。
 十年早ぇよ、とはしゃぐケイの頭を叩く姿は、立派なお父さんに見えた。
 もっとも、ケイにとってはまだまだ『兄ちゃん』なのかもしれないけど。

「……やっぱ、も少し給料上げてもらえるように交渉してきます」

 そんな所に、気を回さなくても良いのに。
 湧いてくる微笑をこらえるのが大変。

「殺されないようにお願いしますね?」
「シャレんなってないんで、止めて下さい……」

 泣きそうな顔のまま、ケイに引っ張っていかれる彼。
 ちょっぴり情けなくも、彼らしいと言えば彼らしい。
 
「いってらっしゃい、二人とも」

 さぁ。
 お洗濯、お掃除。
 二人が帰ってきたらびっくりするぐらい、綺麗にしてやるんだから。





    ◇





「ケイ……寝ました?」
「えぇ、そうみたい」

 辺りはもう真っ暗、子供はもう寝る時間。
 よっぽどはしゃいだんだろうか、ケイはぐっすり寝ている。
 そのことを確認してから、彼はそっと膝を詰めてこっちに来た。

「……どうしたの?急に改まって」

「実はですね」
「なぁに?」
「今日、ケイと公園で遊んでいたらですね」
「はいはい」

「『弟か妹が欲しいー。』とせっつかれましてですね」

 ははぁ。
 ……でも、そうあからさまに来られると意地悪したくなっちゃう。

「……だから、それがどうかしたの?」

 ことさらににっこり微笑んで、小首を傾げてみる。

「えっと……その……ぁぅ……。」



「……泣かなくても良いじゃない?」
「だって、だって……こんな、普段から蛇の生殺しみたいな生活……」

 あはは……。
 普段の服装、ちょっとサービスしすぎたかしら。

「そんなこと言わなくたって、ちゃんと解ってるわよ……。」
「じゃ、じゃあ……」

「慌てないの」
 そうっと、顔を近付ける。
「ケイがもう少し大きくなって、広〜いお部屋に住めるようになったらね?」

 彼の耳元に、ふぅっと暖かな息を吹く。
 途端に伸びる背筋。

「……ホントに、可愛いんだから」
「な、なんか言いました?」

「教えてあげない」

 ……ぺろり。

「さ、良い子は寝ましょうね。悪い子には、ご褒美はあげませんから」
「………はひ」








―――そして、翌日。



「『頑張って』とは思ってたけど、何もここまで……」
「……いや、だって」

 彼が寝ているのは、病院のベッド。
 なんでも、給料の値上げ、今回は絶対譲らなかったんだとか……。

「仮にも一家の大黒柱が、入院なんかしてどうするつもり?」
「……すんません、本当に」

「……でも、嬉しい」
「へっ?」


 ……ちゅっ。



 その日、入院期間の延びた患者が一人出ました。



 ……出血多量で。


 おしまい。

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