ザ・グレート・展開予測ショー

奇跡のクスリ(絶対可憐チルドレン)


投稿者名:進
投稿日時:(05/ 8/18)

BABEL  ザ・チルドレン専用待機室

 最近は特に重要なスケジュールもなく、ザ・チルドレンのメンバーはゆっくりした毎日を過ごしていた。彼女達は夏休みシフトに入っていたからだ。時間を見つけては、最近できた友達と遊んだりもできた。しかし今日は予知能力者チームにより“大事件の起こる可能性アリ”と予知されていたため、残念ながらBABELでの待機任務となっている。まあ彼女達も慣れたもので、葵や紫穂は待機室で宿題をやったり、漫画や雑誌を読んで時間を潰していた。そんな昼下がり・・・

「っかあーーーーー!」
 ドアを跳ね飛ばし、ぷりぷり怒りながら薫が部屋に入ってきた。紫穂はこれまた慣れたもので、特に気にした様子はなく雑誌を読んでいる。葵もただ心の片隅でドアの強度に付いて心配しただけだった。そのドアは――何とか――暴力に耐え、ストッパーのゴムで跳ね返って再び閉まった。
「・・・・・・・・・どうしたんや」
 “大したことではない”と確信しながらも、なんとなく義務感のようなものに押されて、葵はこの感情の起伏の激しい同僚に声をかける。我ながら損な役回りだ、とも思う。
「皆本のヤロー―――だから―――こうで―――だけど―――!―――!!―――!!!」
 興奮している薫をなだめながら、葵は話を聞いてやった。何を話しているかはほとんど判らないが、どうも彼女達の担当官である皆本に、カラダについてバカにされた、と言いたいらしい。そこまで聞いた紫穂が雑誌を閉じ、薫の額に手を載せた。その手がきら、きら、と光を発する。



 今から20分ほど前、薫は皆本のデスクに立ち寄っていた。特に用事があったわけではないが、葵や紫穂と違い薫はじっとしているのが苦手だったから、待機任務中でもBABEL内をうろうろしていることはよくあった。
 皆本はそのとき、先日行った総合検査の結果を確認していた。超能力関係のみではなく、健康診断や体力測定なども含まれる全面的な検査だ。その一部である身体測定部分に付いて、少し気になる箇所を見つけた皆本は、薫に話しかけた。
「薫、ちょっとこれを見てみろ。」
 と言ってパソコンのモニターを示す。そこには薫の身長と体重が記載されていた。両方とも順調に増加しており、平均と言える。が、皆本の指先はその脇の特記事項を指していた。
“身長に比べ、体重の増加率がやや大きいようです。適度な運動と適切な食生活を・・・”
「え・・・?」
 ピシッ、と固まった薫はゆるゆると自分の体を見下ろした。そっとお腹に触れてみる。うん、大丈夫だ。
「おまえ、お菓子とか食べすぎじゃないのか?それと夜更かしも良く無いぞ。寝ている間に背とか伸びるものだからな。」
 大丈夫だ・・・と思う。
「最近、顔が少し丸くなってきてないか?」
「ダイジョウブだって言ってんだろコノヤローーー!!!」

どんがらがっちゃんがっちゃん・・・・・・・・・



「・・・・・・・・・ということね。」
 薫の記憶を読み取った紫穂が、葵に説明してやる。葵は小さく、「言うてへん。」と突っ込みを入れてから、薫の肩を叩いた。
「そりゃ皆本はんが悪いわ。でもそんな気の回る人や無いし、悪気とかないやろから、許したり。大体、薫が太ったら、ウチらがすぐに・・・」
 そこまで言った葵は口を止め、薫の顔をまじまじと見た。紫穂も同じく覗き込む。
「「「・・・・・・・・・」」」
 ふっ、と紫穂が顔を背けた。
「何だよ、オイ!」
「いや・・・何でも無い、何でもないんや。」
 葵も口を押さえながら視線をそらした。なぜか咳き込んで――いや、吹き出すのを我慢している。
「〜〜〜〜〜〜〜くーーーー!!」
 歯を食いしばりながら、薫が地団駄を踏む。実は待機室に来るまでにトイレで鏡を見てきたのだが、そう言われると・・・と自分でも少し思ってしまったので、葵と紫穂に言い返すことができない。しかし腹が立つ。薫の体からサイコキネシスが漏れ出し、音を立てて周りにある小物を弾き始めた。
「大丈夫よ、薫ちゃん。」
 ちょっと身を引いた葵に代わり、紫穂がなだめに入った。さっきまで読んでいた雑誌のあるページを開いて薫に見せる。そこには、思春期のナヤミ相談などと書かれていた。
「私たちぐらいの成長期の子は、多かれ少なかれ体のバランスが崩れるものだって。薫ちゃんは“ちょっとだけ”体重から増えるのが早かっただけで、直ぐに背も伸びるわ。」
 薫を刺激しないように、“ちょっとだけ”を強調して説明する。薫はその雑誌を受け取り、読み始めた。



「なーんだ、やっぱり問題ないんじゃん!」
 納得したようだ。
「そうよ、気にしすぎよ。」
 紫穂は陰ひとつ無い笑みを浮かべている。葵もほっとしながら、薫が読み終わった雑誌を拾い上げて問題の箇所を読んでみた。確かに、紫穂の言うようなことが書かれている。だが、良く見ると女性の本格的な成長期は11歳ごろから始まる、とも書かれていた。ザ・チルドレンは全員が10歳である。もちろん個人差はあるのだが・・・

「そう言うても、将来はどうなるんか判らへんしなあ。」
 薫が落ち着いて安心したのか、比較的痩せ型である葵は将来に不安が無いのか、少しからかう様に言った。しかし薫は挑発に乗らずニヤリと笑ってみせる。
「そうだな。だからコレを貰ってきた。」
 そう言って、ドン、と机の上に大きなビンを置く。中にはキャンディが詰まっていた。色は赤と青・・・
「成長促進/減退薬と言って、青いキャンディを食べると10歳成長して、赤いキャンディだと10歳若返るんだ!」
 薫が説明書を読むのを聞きながら、葵は記憶には無い、しかし懐かしいような歌が聞こえてくるような気がした。同時に目眩を感じたが。
――あーかいきゃんでぃー、あーおいきゃんでぃー、しっ・・・てるーー、かい――

「さてと。」
 ぷつん、と部屋にあったミニコンポを止めた薫は、ビンのふたを開けてみた。
「こいつで、将来どうなるかを確かめてやる。」
「ちょい待ち!。そんな薬飲んで、大丈夫なんか?だいたい、急に成長するってどんな原理なんや?」
 葵がまっとうな疑問を口にする。
「ま、細かいことは言いっこなし。なんか超能力研究の副産物・・・だってことにしとけ。」
 不承不承うなずいた葵をよそに、薫は青いキャンディを一つ取り出す。それを口にしようとして、しかし彼女はふと手を止めた。
――もし、大きくなってホントに太ってたら・・・?
「・・・どうしたんや?飲むんちゃうん?」
 薫はキャンディを戻した。
「あー、いや、そのな・・・」
「そうね、やっぱり準備しなくちゃね。」
「「え。」」



 と言うわけで色々準備された。部屋には大きなシーツとBABEL女性職員用制服が各サイズ揃えられている。紫穂がBABELの総務部門から“借りて”来たものだ。
「チルドレンの制服のままじゃ、破れちゃうものね・・・あら、薫ちゃん、飲まないの?」
 にっこり笑う紫穂に薫と葵は薄ら寒いものを感じなくも無かったが、とりあえずそれは置いておくことにした。
「じゃあ、私からやってみるわね。」
 と、紫穂はキャンディを口に含むと、シーツをかぶってその中で器用に服を脱いだ。外で見ている薫と葵には判らないが、中でキャンディを舐めているようだ。
「「・・・あ!」」
 シーツの中の紫穂がどんどん大きくなってくる。再びシーツから出た紫穂の顔は、大人のそれになっていた。ウェーブのかかった薄い色の髪は長く伸び、上品な顔立ちはどこかのお嬢様のようだ。そのままシーツの中でBABELの制服を着こんででてきた紫穂は、はにかんで問いかけた。
「・・・どう?」
「うっひゃー、エライべっぴんさんやで、紫穂!」
 葵が褒めると、紫穂は満更でない笑みを浮かべる。ぱっと見は20前後の女性にしか見えないが、中身は子供なので表情は少し子供っぽい。
 紫穂を見て自分も、と思った葵は、同じ手順で“成長”した。背中までの黒髪がつややかな女性、メガネは度とサイズが合わなくなったため外しており、良く見えないので少々目つきが厳しくなっているが、その分、キリッとした知的顔立ちになった。体型は紫穂に比べればスレンダーだが、十分にメリハリがある。
「すごいすごい、綺麗よ、葵ちゃん!」

 盛り上がっている二人をよそに、薫はキャンディを見つめながら唸っていた。いつもなら「取り調べられてぇー」とか言い出すところだが、今は自分の問題がある。せめてどっちかがもうちょっと太ってるか、もしくは痩せすぎていれば、自分も安心して“成長”できたのだが・・・
「はよしーな、薫。」
「わーってるよ!」
 それでも、いつまでもキャンディを睨んでいるわけにも行かない。何しろ自分が言いだしっぺなのだ。踏ん切りをつけてキャンディを口に放り込み、シーツをかぶった。服も脱いで、祈るようにキャンディを舐める――やがて、彼女も“成長“が始まった。
 大きくなった自分の体をおそるおそる確認してみる。太っている様子はない。それどころか、紫穂のようにグラマラスで、葵のようにウエストは細い。
「よっしゃーーー!、どうだぁっ!!」
 薫はシーツをはねのけて、自慢のプロポーション(予定)を二人に見せ付ける。
「薫ちゃん・・・・・・・・・服・・・」



 落ち着いて服を着た薫は、葵や紫穂と共に席ついた。当初の目的どおり成長後の姿を確認できたものの、他にやりたいことがあったわけではない。格好もBABELの制服では、外に出て行くわけにも行かない。
「なあ葵、これってどれぐらいもつんだ?」
「あんたが持ってきたんやろ、説明書読んでみ。」
 んー、とか言いながら、説明書を読んでみる。どうも1時間ほど効果があるようだ。赤いキャンディを舐めればすぐ元に戻るのだろうが、それも何か惜しい気がする。
「・・・すると、あと30分は持つな。」
 薫がニヤリと笑う。
「皆本のところへ行ってみよーぜ。」
「そやけど、この格好で行っても、ウチらやと判らへんのちゃう?」
「それで良いんだよ。あたしらだと知らずに鼻の下伸ばしたら、後でそれをネタにして笑ってやるんだから。」
 紫穂が、読んでいた本を閉じてキラリと目を光らせた。
「面白そうね。」



 彼女達はBABELの職員を装い――まあウソでは無い――研究室の前まで来ていた。皆本は今、この部屋の中で何やら難しい仕事をしているはずだ。紫穂が室内をスキャンして、皆本一人しか居ないことを確認した。
「都合いいぜ、じゃあ早速・・・」
「まって。」
 紫穂が薫を呼び止める。いきなり3人も入っていくのは不自然だと彼女は言った。確かに皆本の仕事はBABEL内でも特殊で、一般職員、しかも女性との接点など殆ど無かったような気がする。精々、チルドレンの検査をサポートするための女性看護士か、あとは柏木さんぐらいだ。
「んじゃどうするよ?」
「怪しまれたら、バレるかもしれないし・・・」
 彼女達は大人になっているとはいえ、面影はそのままなのだ。絶対バレないとは言い切れない。皆本が成長薬の存在を知っているかもしれないし。
「だから、一人ずつ入りましょう。」
「そやけど、それかて結構怪しないか?」
「まあ任せて。ゴニョゴニョ・・・・・・・・・」
 紫穂が二人に耳打ちする。
「最初は私が入るわ。次は5分ぐらいしたら、葵ちゃんで、さらに5分で薫ちゃんね。」
「「オッケー。」」


 皆本はパソコンに向い、総合検査の結果データの確認をしていた。自分のパソコンを薫に吹っ飛ばされたので、仕方なく使用可能な別のパソコンを求めて、研究室に来ていたのだった。
「・・・・・・・・・これは、訓練方法を変えたほうが良いか・・・」
 などと独り言を呟きながら、結果に付いての報告書をまとめる。そうしていると、研究室のドアがノックされた。
「失礼します。こちらに花井は来ておりませんか?」
 入ってきたのは、BABELの女性職員だった。薄い紫色のふわふわした髪を伸ばした美女だ。皆本はじっと自分の目を見つめる女性に落ち着かない様子を見せながらも、言葉を返した。
「あ、いや、この部屋には僕だけです。さっきから居ましたが、誰も来てませんよ。」
「そう・・・ですか。どこかで追い越したみたいで・・・ここで少し待たせてもらっても良いでしょうか?」
 この研究室は皆本個人のものでは無いので断る理由は無い。「どうぞ」と返事して、皆本は報告書の作成に戻った。彼としては特に会話する必要も無かったし、話題も無い。
「・・・・・・・・・あの」
「うわっ!」
 いつの間にかすぐ隣まで来ていた女性職員――紫穂・大人Verは、皆本の耳元で囁くように話しかけた。
「ごめんなさい、驚かしちゃって。」
「い・・・いえ、こちらこそ。」
「失礼ですが、皆本二射ですよね? ザ・チルドレン担当の。」
「ええ、そうです。」
 女性に免疫があまり無い皆本は、報告書を書きながら返事する。彼女の目を見なくて済むからだ。
「ああ、やっぱり、結構有名なんですよ。」
「はあ・・・」
 有名って、やっぱりチルドレン関係の、つまり悪い意味での有名なんだろうか・・・などと思ったりする。


「紫穂のやつ、うまいことやってるじゃん。」
 僅かに開けたドアの隙間から、薫と葵が中の様子を伺っていた。紫穂は皆本に何やら質問してみたり、手に触れてみたりして、彼の反応を楽しんでいるようだ。これだけでも、後に皆本をからかう材料には十分だが――
「ほな、次はウチやな。行って来るで。」


 皆本は微妙な違和感を感じていた。それはこの女性があまりにも親しげに話しかけて来る、または触れてくる――これは皆本の反応を知るためにやっていたのだが――のが不自然すぎる、ということもあるが、何より、この女性とは会ったことがある、そんな気がしていた。
「お邪魔します。」
 今度はノック無しにドアが開いた・・・当然、葵・大人Verである。彼女は、紫穂を今見つけた・・・ふりをして話しかけた。
「ああ、ここにいたん…の。花井さんは見つかった?」
 京都弁が出そうになるのをなんとか堪える。BABEL内で京都弁や関西弁を使っているのはなにも葵だけではないが、用心のためだ。
「いいえ、まだよ。でもここに来るはずだから、待たせてもらっていたの。」
 打ち合わせどおりにセリフを返す紫穂。
「ほな・・・エヘン、じゃあ、私もここで待たせて貰っても良いかしら?」
 当然、皆本に断れるわけも無い。


「皆本さんってザ・チルドレン担当官の皆本さんですよね――若いのにすごいわ――かわいい女の子を連れて、ちょっと嬉しいんじゃないですか?――特に、紫穂ちゃんって子がかわいいって評判だし――いや、葵ちゃんのほうが美人やって――・・・・・・・・・」
 葵と紫穂にイジラレておどおどしている皆本を見ながら、薫は笑い出すのを必死で堪えた。いつもは毅然と仕事したり説教したりしている彼の意外な一面を見て、何やら可愛いとも思う。


「ちょ、ちょっと待ってください。電話が・・・」
 偶然かかってきた電話に応答するため彼女達から離れた皆本は、幾分、電話に感謝するような気持ちで携帯を手に取った。女性との接点が少ない皆本にとって、この二人の相手は荷が重すぎた。彼女達は皆本の両脇に引っ付き――それは、チルドレンにとってはいつもの位置なのだが――、次々と話しかけてくるのだ。彼も男だから、それを嬉しいと思う気持ちがあったが、それ以上に慣れない事にヘロヘロになっていた。
「どうや?紫穂。」
「良い感じみたい。皆本さんも嬉しそう。」
 葵が見ても、皆本が嬉しいというよりは疲労を感じているように見えた。まあ、それはそれだ。皆本と会話するのはいつものことだが、大人の姿で話すのは普段と違った反応があり、刺激がある。なんと言うか・・・・・・・・・嬉しい。体だけでなく心にも変化があったのだろうか、あの薬は、と思う。

「はい、今は第3研究室です・・・ああ、案外近いですね・・・自分のパソコンが壊れたもので・・・ええっ?実費はいくらなんでも・・・お願いしますよ・・・はい・・・はい。判りました。」

 電話が終わった皆本は、さらに幾分疲れたようすで二人に振り返った。
「すみません、僕はちょっと用事があるので・・・」
 皆本の言葉に、葵や紫穂は「残念だわ。」などと言うが、ドアの向こうで待機していた薫は気が気では無い。このままでは自分の出番が無く終わってしまう。丁度時間でもあるし、ということで、ドアを跳ね開けて部屋に入った。
 大きな音を立てて部屋に飛び込んできた薫・大人Verに、皆本は目を向けた。
「よ、よう皆本・・・」
 焦っていたので、架空人物“花井さん(クラスメートより名前を借りている)”を探す女子職員というストーリーに沿ったセリフが出てこない。それどころか、いきなり皆本の名前を呼んでしまった。しまった、と思うが今更遅い。葵も紫穂も“あっちゃー”という顔をしている。

 見知らぬ女性が部屋に飛び込んできて、自分の名前を呼んだ(しかも呼び捨てで)。しかし、皆本は気にならなかった。気にする余裕が無かった。赤い髪と勝気な瞳を持つ女性は、いまは照れくさそうにしているが、皆本の脳裏にはどこか悲しげな表情に写った。それは・・・いつか見た未来の姿だ。
「・・・か・・・薫・・・?」
 えっ、と薫の表情が変わる。皆本は自分のことが判るのか?葵や紫穂は判らなかったのに。嬉しいような恥ずかしいような感情が、薫の胸を占める。
「皆本、あたしさ・・・」
 ・・・キレイ?と聞きたかったのか、それとも別の問いかけだったのか、それは判らないが、皆本にとってそのセリフは死の呪文に等しい。息を切らせながら切れ切れに言葉を口にする。
「・・・破壊の・・・・・・・・・」
「なんじゃそりゃーーーー!!!」


「落ち着いて、薫ちゃん!」
「だって、皆本のヤロー、人を見て破壊だなんだって!」
 暴れる薫をなんとか落ち着けて、葵と紫穂は周りを見回した。薫の力により室内はボロボロ、皆本は壁にめり込んで気を失っている。
「ほんまに破壊しとるやないか。」
「・・・あたしは、悪く無いもんね!」
 そう言いながらも、やりすぎたような気がした。体の成長に伴い、超能力もパワーアップしているようで力の調節が上手くできない。
「ほな誰が悪いねん!」
 言い争っている二人を置いておいて、紫穂は皆本を壁から剥がした。破片の無い場所に横たえ、ケガが無い――はずはないので、重傷が無いことを確認する。
――破壊の・・・何て言おうとしたのかしら?
 あの時の皆本の表情は、冗談など言う感じではなかった。薫を見て何を思ったのか・・・何を思って「破壊」などと口にしたのか、なぜ成長後の彼女を薫と判ったのか、気になる。紫穂は、皆本の額にそっと手を載せた。
「・・・・・・・・プロテクトが・・・」
 薫のように、今の自分はサイコメトリーの力が上がっているようだ。しかしそれでもこのプロテクトは突破できない。これは、あのイルカの伊号中尉がかけたものだ。とすると、「破壊」のキーワードは例の件に関係あるのだろうか・・・

 ひとしきり言い争った薫と葵は、紫穂のそばに寄ってきた。さすがに心配になったらしい。
「皆本は、大丈夫なのか?」
「気絶してるだけ、大きなケガは無いわ。」
 そっか、と薫が息をつく。暫くすると皆本が目を覚ました。
「・・・・・・・・・ハッ!」
 飛び起きて薫の顔を見る。
「おまえ、薫か! するとやっぱり、そっちは葵と紫穂だな!!」
「まあまあ、皆本はん、起き抜けに興奮したら体に悪いで。」
「興奮させてるのはお前達だ!!」
 今度は皆本を落ち着かせながら、チルドレンは成長薬について説明する。皆本はそれで状況に付いては納得したが、落ち着くには至らなかった。
「そんな得体の知れない薬を飲むな! あと僕をからかいに来るな!」
「いやまあ、からかうっつーか、ほら、キレイに成長した姿を見せに来てやったんじゃん。」
「・・・・・・・・・まったく、その薬は副作用とか無いのか?」
「いや、大丈夫らしいけど。」
「らしい、じゃなくてだ! いつまで効果があるんだ・・・まさか、ずっとそのままなのか?」
「1時間やから・・・」
 葵は腕時計をみて時間を確認する。
「ヤバ!、もう時間切れや!」
「急いで戻りましょ!」
 そう言う側から彼女達の体が縮みだした。体の急激な変化に対応できず、歩くこともできない。
「無理に動くな!・・・収まってからにするんだ。何がどうなるか判らない。」
「そうは言っても・・・!」
 そういってる間にも彼女達の若返りは進み、10歳になった時点で止まった。皆本はチルドレンが無事元に戻ったことに安堵の息をつく。
「・・・・・・・・・服が。」
 チルドレン達はダブダブになった服がずり落ちないよう、それらを抱えるように立っていた。
「あー・・・まあ、仕方ない、葵、テレポートして良いから、3人とも着替えてくるんだ。」
 それぞれに返事して、薫と紫穂はずりずりと服を引きずるように葵に近づく。

 その時、部屋のドアをノックする音が響いた。マズイ、と止める間もなくドアは開かれる。
「皆本クン、さっきの電話の件だが・・・・・・・・・」
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
 入ってきたのは桐壺局長だった。ボロけている皆本や、散らかっている室内、そこまでは問題ない。しかしダブダブの制服を着ているチルドレンを見て、彼はこめかみを引きつらせる。
「皆本ク〜〜〜〜ン、説明してもらえるかナ?」
 柔らかい口調だが、皆本の方には冷や汗が流れるほどプレッシャーがかかっている。
「いや、誤解しないでください!スグに説明しますから・・・・・・、ほら、早く着替えて来るんだ!」
 急かされた薫は、うっかり制服を取り落としてしまった。さらに悪いことに、それを止めようとした葵と紫穂も同じく落としてしまう。
「あっ!」「あっちゃ!」「きゃっ!」
 彼女達は、いつものチルドレン用制服では大人になった時に着れなくなるので、一般職員用の制服を借りてきていた。今まで着ていたのはそれだ。しかし、さすがに下着は用意できなかった。といって子供用の下着では破れてしまう。じゃあどうしていたか?

 あっさり言うと、履いてなかった。

 完全に服を取り落とす前に止められたのは良かったが、下着を着けていないのは見て取れた。
「ミナモトォォォォォ!!」
 桐壺の逞しい手が皆本の頭を掴み、チルドレンが見えないように彼を壁に向ける。そして自分も同じく壁を向いた。
「誤解です!説明を聞いてください!局長!!」
 皆本が悲鳴を上げるように叫ぶ。自分の頭蓋骨が軋みをあげているからだ。
「局長ぉぉぉ・・・・・・・・・!!!」


 結局、当日は予知能力者チームにより予知された事件は起こらなかった。いや、本件がそうだったのかもしれない。
・・・とすれば
・・・・・・予知がなければ、ザ・チルドレンはBABELに待機していることもなく
・・・・・・・・・この事件は起きなかったかもしれない。





「あの後、局長に納得してもらうためにどれだけ苦労したと思ってるんだ!」
 キャンディのビンを小脇に抱えながら、皆本は薄暗い倉庫を進む。後ろにはチルドレンがぞろぞろと付いてきていた。
「元はと言えば、皆本が失礼なコト言うから悪いんだろー」
 キャンディについて「貰ってきた」という薫の言葉は正確ではなかった。正しくは、「黙って貰って来た」ということになる。BABEL内を歩き回ることが多い薫は、以前に倉庫で見つけた成長促進/減退薬に目を付けていて、今回のようなことになったのだった。まあ、それについては倉庫の管理にも問題はあるのだが。
「それとコレとはまったく別だ! 大体、体重データは測定の結果なんだから、現実だぞ。」
 成長期なんだよ・・・とブツブツ言う薫を無視して、皆本達はキャンディのビンが元々あった場所にやってきた。ロッカーのようになっているそこにビンを入れる。
「これで元通りだ。もうこんなことは・・・」
 振り向いた皆本は、チルドレン達が別のロッカーを開けているのを見た。

「次はコレ使ってみない?」
「ユーエスオー・エイトオーオーだって。」
「何の薬やろね?」

「・・・・・・・・・勘弁してくれ。」



奇跡のクスリ   了



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今週は少年サンデーが休みで、絶チルが読めなかったため、自分で書いてみました。

最初は、週間連載の、学校での話、薫と東野くんがクロスカウンターで仲直りした後の、薫の笑顔が、なんかぽっちゃりして見えるなあと感じ、一度そう思うと、葵や紫穂に比べて薫の顔が丸く見えて仕方ないので、このような話になりました。
あと、某キャンディは反則だったかもしれません。すみません。

よければ感想などお聞かせください。よろしくお願いします。

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