ザ・グレート・展開予測ショー

あすのために


投稿者名:MAGIふぁ
投稿日時:(05/ 8/17)


 追い詰められたものは、たまにわけのわからない行動をする。
 例えば、ある男は別の男に殺される直前、助けてくれと警察に電話を入れたが、信じてもらえなかった。冗談かイタズラだと思われたからだ。
 理由は、そいつが笑っていたから。
 ある男は恐怖のあまり、何故か笑いが込み上げてきてしまい……そして、笑いをこらえながらのSOSは、信用されずにTHE・ENDとなってしまったわけだ。

 もう一度、言おう。
 追い詰められたものは、たまにわけのわからない行動をする。

 だからこんな事態も、ありえないではないはずだ――――



「お宅のお嬢さんは預かっている。無事に帰して欲しかったら現金100万円を用意しろ。10分後、また連絡する」

 ――ガチャ

 公衆電話から一方的に、個性の無い脅迫の電話を入れた男は、すぐさま受話器を置いて電話ボックスのドアを開ける。
 緊張に震える手を隠すようにポケットに入れ、男は空を見上げた。

「せんせい……」
「大丈夫だ、シロ。きっとうまくいくさ……」

 普段はぴんと元気に張ったシッポをだらんとさせて、不安げに自分を見つめる弟子に、文珠で“変”えたままの低い声で男はそう答えた。まるで自分に言い聞かせるように。
 男の名は横島忠夫。時給255円+上司の気分次第で上下するこっそり追加されているボーナスで働く、貧困を友とする学生兼GS見習いである。

「しかし、せんせい。もしもバレたら!」

 なおも不安を訴えるのは犬塚シロ。横島忠夫を師と慕う、一部だけ赤いメッシュの入ったプラチナの長髪が特徴的な、元気一杯の見た目はミドルティーンの人狼の女の子。
 そしてシロは人狼の里から横島の上司、美神令子に社会勉強と修行のために預けられている身。
 横島の時給の安さから考えて、彼女に美神がまっとうな給与を払っていると考えられるだろうか?いや、ありえない。

 つまり、彼ら師弟は2人とも金が無かった――

「大丈夫だ。お前には文珠を渡してあるだろう?それを使って“忘”れれば、バレてもお前は怒られない。何も覚えていない、となれば美神さんだって、そうムチャはしないさ」
「しかし、それではせんせいがっ!」

 無言で首を横にふり、柄にも無く苦い笑みを浮かべて、“変”わったままの渋めの声で横島は言った。

「俺はな?シロ。もう疲れた。疲れたんだよ……」
「せっ、せんせい…」

 真剣に明日のメシの心配をする、そんな生活に…
 横島が口にしなかった、後半のそのセリフを悟って涙するシロ。もはやシロには横島を止める事は出来なかった。
 なんと言うか、こう…あまりにも哀れで…

「……それで、身代金の受け渡しはどうするのでござるか?」

 シロは込み上げてきた涙をぬぐい、前向きに今後の事を聞いた。こうなった以上は、出来る限り手を貸そうと決意したらしい。
 横島もその意気込みを感じたか、それまで背負っていた哀愁をしまって答える。

「うむ。それなんだが、俺に指定の場所まで持ってこいと手紙で伝えようと思うんだが、どうだ?」

 ふーむ、と腕を組んで考え込むシロ。とは言え、彼女も身代金目当ての誘拐なぞやった事がないので、テレビで見た刑事ドラマぐらいしか情報源は無いのだが。
 シロは、考えた。

 美神どのは恐らくけーさつには連絡せんでござろう。あの人なら自分の手でエモノを捕らえようとするはず。ならばけーさつは気にしないでも良い。
 タマモは、どー出るのか良く解らんでござるな。必死に探そうとしてくれるでござろうか……それともいつものように何でもない顔をして「ふ〜ん、あのバカイヌとっつかまったの?保健所?」とか…言いそうでござるな。いや、きっと言う。いやいや絶対そー言うでござる!あの雌狐め〜〜、少しはおキヌどのを見習うといいでござるよ!!
 う、おキヌどの……おキヌどのを騙すのは心苦しいが、今回は仕方ないのでござる。わかってくだされ、おキヌどの。せんせいの生活のため……

 いつの間にやら、考えている内容がおキヌへのいい訳になっているシロ。
 目の前で不安そうにしたり怒ったり、難しい顔をしたりと百面相をする弟子に、どうツッコんでいいのか、いつツッコめばいいのか。タイミングがわからず、関西を離れてからのブランクを横島が痛感していたりしたが――それは余談である。

 ところで。

 横島が事務所の電話番号を間違えてプッシュしており。
 とある喋る軍用犬のいる一般家庭も巻き込んでの大騒動に発展しちゃった挙句に、減給。ただし監視の強化という名目で、毎回夕飯を事務所で食べられるようになったりしたのは――
 やっぱりお約束、なのだろうか。

 <完>

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