ザ・グレート・展開予測ショー

奥様は守銭奴?


投稿者名:純米酒
投稿日時:(05/ 8/10)

旦那様の名前は 忠夫

奥様の名前は 令子

ごく普通の二人が

ごく普通に恋をし

ごく普通の結婚をしました

――――――……が

ただ一つ違ったのは、奥様は

『守銭奴(……なーんか言ったかしら?)―――最高のゴーストスイーパー』

だったのです

―――――――――――――――

「帰ってきたんだな、令子ぉぉぉぉぉぉ!!」

バギッ!! ズダン!

ムクリ

「令子ぉぉぉぉぉ!!」

ドガン! チャキッ…… パン!! パン!! パン!! ジャカッ―――ドドドドドドドド!! 

響く銃声、飛び交う弾丸。
硝煙の煙とにおいが立ち込めるとあるマンションの一室で、のんきにテレビを見ながらお菓子をつまむ三人が、玄関で繰り広げられる戦闘行為に顔をしかめる。

「お兄ちゃん無事かしら?」

激辛スナック菓子を口いっぱいに頬張りながら、首だけ玄関の方をむける。

「さぁ? でも大丈夫じゃない? 今日はロケットランチャー使ってないみたいだし」

甘味の強いジュースのコップを片手に、これまた甘ったるい洋菓子を食べながら黒髪ショートボブの少女が玄関から視線を外す。

「ひのめ、蛍子。食べながら喋るのやめなさい」

「「はぁい」」

コーヒーの香りを楽しんでいた美智恵は、週刊誌とTVのワイドショーを見比べながら、娘たちの行儀の悪さを指摘する。
ふたりは素直に従い、まだ銃声の鳴り止まない玄関から完全に意識を外した。

どうせいつもの事だ。あと半時もしないうちに銃声は止み、かわりに艶っぽい声が上がるに違いない。

当初は年頃の娘達に何か悪影響は無いものかと心配していたが、娘達は意外と早く順応し受け流すことを覚えたので美智恵は安心していた。

「ん……あ、ちょっと、こら! きゃっ……んっ……あんっ……ってぇ………いい加減にせんか、ヤドロクッ!!」

「うぎゃっ!!」

これもまたいつもどおりだ。



「た、ただいま……」

気絶した旦那の襟首をつかみズルズルと引っ張って部屋の中に入ってくる令子の顔は赤く、息は荒かった。
片手で乱れた着衣を抑えているのだから、玄関先での夫婦のスキンシップは日の高いうちにうっかり夜の営みにまで突入しかけたのだろう。

「早かったわね、令子」

何がとは言わない美智恵に、令子は露骨に嫌な顔を見せる。

「……仕事が終わったらさっさと帰らないとね、無駄にお金を使いたくないからよ」

「あ、そう」と、美智恵の反応はあっさりとしている。
予定では五日はかかる仕事を速攻で終わらせて日帰りで帰ってきた理由は、令子の口癖である「経費削減、利益第一」だけではないことが誰の目にも明らかなのだから。
三人にしたら「ごちそうさま」というのが偽りのない心境だろう。

結婚して、今までのガメツサが多少なりを潜めた令子。だが、変わりに……ということなのか、横島に対する独占欲が露わになったのだ。

あくまで令子の主観だが、結婚して年相応の落ち着きを身に着けた横島は、とても魅力的になり、何処に出しても恥ずかしくないいい男になった。そこで思い起こされるのが義母――百合子の言葉に言いようのない不安を覚えていた自分の姿だ。

横島も義父のように派手な女遊びをするんじゃないか、と不安になってしまった。

そう思った令子の行動はすばやいものだった。依頼人が女性だと判ると、横島を部屋に監禁して仕事に出かけたり、用もないのについて行って女の妖怪に殺気めいた霊波を浴びせてみたり……。
自分でもやり過ぎだと思うことはあるが、なんせ彼は「横島忠夫」なのだ。美人を見れば脊髄反射でナンパをするに決まっている。

本当は「私以外の女を見るな、私だけじゃ満足できないのか?」
そう言いたいのだが、照れくさいのと意地っ張りな性格が災いして、ついつい結婚前のような――女王様と犬というか、雇い主と丁稚のような仕打ちをしてしまうのだ。


いまだにマヌケな顔をして気絶したままの横島をベッドに寝かせると、令子の表情が和らぐ。

なんでアンタはこんなワガママで面倒くさい女と一緒になったの?
なんでアンタはアタシのやる事に文句いわないの?

なんでアンタは―――

なんで―――

疑問は尽きない。

さっきの出迎えだって、行き過ぎなスキンシップは別としても、本当はとっても嬉しかった。
照れ隠しの為だけに殴りつけた挙句、模擬弾頭とはいえ拳銃まで撃った。普通の男はこんなことをされたら即「離婚する」と言うだろう。

それでも、今こうして自分の目の前に居るのだ。非常識としか言いようがない。

「あー死ぬかと思った……たまには『ただいまあなた、令子寂しかったわー』とかいってキスしてくる位は無いんかいっ!?」

「くだらない妄想するのも大概にせんかっ!」

気絶している夫を眺めている時が一番素直になれる時間なのかもしれない。
そう思うと益々、自分が厄介な女だと思い知らされる。

「って、いつのまに着替えたんや? 折角さっきの続きヤろうと思ったのにー!!」

「こんな時間から出来るかっ! 今日はパス! 仕事してきて疲れてんのよ!」

「じゃ、じゃぁせめて一緒に風呂にでも……」

「却下! 絶対に余計に汗かくはめになるし、余計疲れるわっ! 一人ではいる!」

無碍に突っぱね、結局は泣かせてしまう。
相変わらずの泣きっぷりに安心してしまう自分が居る。だが、不安になってる自分が居ることにも気がつく。

アンタは今、幸せなの?




夕食後の団欒のひと時。
母と子が並んで夕食の後片付けをしている傍らでは、テレビの番組などを見ながら笑い声を上げたり……

典型的な『幸せな家族』という光景がそこにあった。

すすぎ終わった食器を美智恵に手渡しながらその光景を見ていた令子は、自然と表情が柔らかくなっているのを自覚すると、自分がそんな典型的な家族像に憧れていたんだと改めて知る。

死んだ事になっていた母や、異能を持つ父のおかげで特殊な家庭環境だったのだから仕方ない。
そういえば両親そろって異国の地で生活していた横島も、似てるといえば似てるのかもしれない。

そこに気づくと、令子は旦那が現状に幸せを感じているのかも知れないと思う。
しかし、それを本人の口から「幸せだ」と、聞かなければ想像でおわってしまう。
彼が「幸せだ」と言ったのなら焦る不安も吹き飛ぶかもしれない。
だが、自分の性格じゃ、面と向かって聞くことが出来ない事は判りきってる。

「ねぇ、パパは今幸せ?」

テレビを見ていた蛍子が急にそんな質問を投げかける。
唐突とも言えるその質問に一人は「うーん」と考え込み、一人は作業の手を止めて聞き耳をたてる。

「そーだなぁ……蛍子はいい子に育ってくれたし、ひのめちゃんも可愛いし、美知恵さんは美人だし……」

まだ洗剤のついた皿を持つ手に力がこもる。
目の前では蛇口から水が流れてるはずなのに、横島の声しか聞こえない。

「お母さんは相変わらずだし……お父さんは幸せだぞ」

(相変わらずってどういうことよ!?)
手の中にあった皿は、真っ二つになっていた。

(でも……「幸せだ」って言ったわよね……)

怒りにゆがんでいたと思った顔が次の瞬間に茹蛸並に真っ赤になる。
そんな奇妙な娘を見ていた美智恵は、割れた皿の後始末をし、新しい皿を何処の店で買うか考えていた。




深夜に差し掛かる頃。

寝室で小さな明かりの下で書類仕事をしている横島の後姿を前に令子は深呼吸を繰り返していた。
夕方の旦那の発言の真意を確かめる為にしては、ずいぶんと大仰だと思う。
アルコールの力も借りてるから、もしかしたら酔っ払いの戯言と流されるかもしれない。でも、あんな事はシラフで聞けるものじゃない。

最後に大きく息を吐き出すと、広い背中に抱きついた。

「ちょっと……さっきの『相変わらず』ってのはどういうことなのよ!?」

わざとらしく酒臭い息を吹きかけながら、後ろから顔を覗き込む。

「ああ、アレか? そりゃ『相変わらず』って言葉どおりだよ」

にこやかに答える横島。

(アンタはずいぶんと変わったわね……昔ならちょっと抱きついただけで取り乱してたのに……)

「その『相変わらず』ってどういう意味で言ったのかって聞いてるのよ!」

眉をしかめて横島の持っていた書類に目を通す。最近視力が落ちてきた。メガネをかけたらコイツはどう思うだろう。

「ん〜……どうしても言わなきゃダメ?」

「言いなさい」

「言ったら殴られそうなんだけど……」

「言わなきゃ殴るわよ?」

しばしの沈黙。乱雑に散らかった書類に落ちる影だけが揺れていた。

「……令子は昔からわがままでイケイケでタチ悪くて、ゴーマンだけど、時々可愛いところがあって……
 強くて――イイ女だな〜って……」



まるで詠うような告白。



「……で、アンタはその『わがままでイケイケでタチ悪くて、ゴーマンな女』と一緒にいて幸せなの?
 もっと……その、優しくしてくれる子とか……」

続く言葉はのどに絡んで出てこなかった。言ってしまえば何かが終わりそうな気がして。

「俺は幸せだよ令子。……流石に縛られたり逆さづりにされるのはちょっと……
 でも、それも焼きもち焼いてくれてるんだと思うと、な」

いつの間にか髪を優しく梳く手。普段のセクハラまがいのスキンシップとは違う。

そこで令子は気がつく。

ああ、彼のセクハラも自分に対する執着心なんだ。自分の彼に対する独占欲が素直ではないのと同じように彼も素直ではないのだ。
似たもの同士。判りにくいったらありゃしない。もしかしたら気づいてなかったのは自分だけかもしれない。

でも、二人の間に、確かな絆を見つける事ができた。

これからは、自信を持てる。


でも、恥ずかしいから、

「という訳で、さっきの続きをー!!」

「何が『という訳で』よ! アホー!」

結局、普段どおり。

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