ザ・グレート・展開予測ショー

オカG極楽大作戦〜新たなる力〜横島編


投稿者名:ふぉふぉ
投稿日時:(05/ 8/10)

「だいぶ弱ってきたわね。次で決めるわよ!」

「はい、美神さん。」

美神、横島、おキヌの3人は妖魔をあと一歩というところまで追い詰めていた。

犬、というにはあまりに巨大なその妖魔の体躯はまるでケルベロスを連想させる。首こそ1つだが攻撃力はケルベロスにも決して劣っていない。頭ほどもある球体がその3分の1ほどを埋めるような形で両肩にあり、その球体からの霊波攻撃は口などからのそれと違い発射されるまで方向が読みにくい分かえって厄介だ。

美神達は1時間にも及ぶ苦闘の末、その両肩の球体をなんとか破壊し、さらに前足にも十分なダメージを与えることに成功し、妖魔の移動力と攻撃力のほとんどを無効化していた。

「頭は可動範囲が広いだけあって簡単には打たせてくれないわね。横島クン、一瞬でいい。敵の注意を引き付けて!」

「了解!」

横島は妖魔を中心とした円を美神とは反対の方向に回り込んで行く。防御のために展開した横島の右手のサイキックソーサーに反応した妖魔は攻撃のために首を振る。しかし故意か偶然か、妖魔が横島を視界の正面に捉える前に攻撃は放たれた。そしてその直線上にはおキヌが・・・

「ーっ危ないっ!」

横島はとっさにサイキックソーサーをおキヌと妖魔の間へと放つ。しかしサイキックソーサーは妖魔の攻撃に命中したものの、爆発することによって威力を相殺するはずが不発に終わり、攻撃をそのまま反射してしまう。そしてその攻撃は今度は美神にその目標を変えたのだった。

「あーーーっぶないじゃないのよっ!このマヌケっ!」

間一髪で避けた美神は妖魔ではなく横島に駆け寄っていく。妖魔を攻撃するための、その必殺の気合を維持したままで。

「ちょ、タンマ、タンマーーーっ!」

二人のやりとりにつられて妖魔も横島の方向に顔を向ける。
その瞬間、妖魔の顔の側面に、走っている美神の後ろから回り込むように伸びた神通鞭の先端が直撃した。不用意に防御体制を解いた頭部に死角からの、しかも美神の渾身の一撃をくらい、妖魔は断末魔さえあげることなく大爆発とともに吹き飛んだ。

もうもうと舞う砂埃。失われた視界の中、おキヌは二人に声をかける。

「美神さーん、横島さーん、だいじょーぶですかー。」

「平気よ、おキヌちゃん。」

だんだんと晴れてゆく視界の中、一人の人影が次第にその輪郭を増してゆく。美神だ。美神は埃を払うように頭の上で手を振りつつ答えた。

「あたしは、ね。」

微笑みながらたたずむ美神に安堵しながらも、おキヌはまだ返事のない横島の姿を探しながら美神の元に駆け寄った。やがて微かな、くぐもったような横島の声が耳に入ってきた。耳を凝らしてみると、それは美神の足元から聞こえているのだった。

「・・・すんまへん、すんまへん、すんまへーん・・・・」

その声は美神のヒールの下に顔面のほとんどを地面に埋められた横島から発せられていたのだった。
美神は横島を無造作に引き起こし、まだ意識の朦朧としている横島を叱りつけた。

「ったく、あれがこのあ・た・しにちょっとでもかすってたら今頃あんたはこの世にはいないんだからね!いくらとっさのことだからって近接信管の念も込めずに盾のまま放り投げるなんて、うっかりにもほどがあるってもんよ、このバカチンが!」

美神が手を放すと、横島は崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。

「さ、帰るわよ。おキヌちゃん、行きましょ。横島!あんたもさっさとくんのよ!荷物も忘れないでね!」

そう言いながら美神はおキヌの手を引きさっさと歩き出した。

「聞こえてんの横島!ボサッとしてないでとっととくんのよ!」

先を行く美神と、心配そうに振り返りながらも遠ざかっていくおキヌの、二人の声がまるで耳に届いていないかのように横島はブツブツと呟きながら座り込んでいるのであった。

「盾のまま・・・・信管・・・・」




とある日曜の美神の事務所、その日は美神美智恵とひのめが遊びに来ていた。美神、おキヌ、美智恵の3人はテーブルにつき、ゆったりとお茶を楽しんでいる。その傍では横島がひのめの相手をしている。

「いーーあーー。」

「はいはい、わかりましたよっ・・・・っと。いやー、ホントひのめちゃんって美神さんの小さい頃にそっくりっすね。元気なとことか、元気なとことか、元気なとことか。」

「あんた何が言いたいわけ?」

そう言いながらピリピリとした空気を発する美神を意に介さず、美智恵はあくまでも穏やかな雰囲気で、それがさも嬉しいことのように、

「えーそーなの(にっこり)。かわいいとこもタカビーで他人に容赦のないとこも本当に令子にそっくり。」

と微笑む。
(二人目だっつーのに自分の教育方針がどっかおかしいことに一片の疑問も持っとらんのか、このおばはんは!)という本音をおくびにも出さずに横島も愛想笑いでこたえる。

ふと、美智恵が時計に目をとめ、何かを思い出したかのような表情で横島に声をかける。

「あら、横島クン。そろそろじゃなくて?」

その声にハッと気がついたように横島も時計に目をやる。

「あ、そうっすね。」

横島はひのめを抱えて立ち上がり、美智恵の側まで歩み寄る。

「んじゃ隊長、ひのめちゃんをお返しします。そーゆーわけで美神さん、オレ今日は予定通り早上がりしますんで、お先しまっす。」

そう言い残すと、横島はそそくさと事務所から駆け出していった。

横島の姿が見えなくなったころを見計らって、一連の光景をじーっと見ていた美神が口を開く。

「なーんか最近横島クンが早く帰るようになってたんであやしいなーと思ってたんだけど、ひょっとしてママも一枚かんでる?何であたしにはコソコソ黙ってんの?」

遊びつかれたのか眠くなりかけているひのめを胸に抱えたまま、美智恵はニッコリと答える。

「あの子ったら、まだ私のこと『隊長』ですって。もうみんなICPO付じゃないんだから、そろそろ普通に呼んでもらいたいわね。」

「ごまかさないでよ、ママ!」

テーブルに強く手を突いて美神が立ち上がる。意に介さず美智恵はニコニコしたままだ。

「ねえ、令子。『お母さん』って呼んでもらうのはどうかしら。」

ガタタ!美神はテーブルの上の手を盛大にコケさせ、ゴン!と頭をテーブルに打ち付ける。

「そう言えばあちらさんって横島クンが一人息子だったわよねえ・・・・事務所に美神の名前は残しておきたいけど、おムコさんに来てもらうってわけにも・・・ねぇ?」

「マ、ママ!何ゆってんの!」

顔を真っ赤にした美神が声を荒げる。

「あたしがゆってんのは、そーゆーことじゃなくって・・・」

その言葉を遮るように美智恵の携帯が鳴る。電話に出た美智恵の表情がみるみる険しくなってゆく。

「・・・ええ・・・そう・・・・それは予想外ね・・・・わかりました。直ぐにヘリを・・・もう向かってる?結構です。ええ、直接現場へ向かわせます。とにかく西条くん達は被害の拡大を防ぐことを最優先に。」

電話を終えると美智恵は真っ直ぐに美神を見据える。美神も真剣な表情でその視線に向き合う。

「ママ、西条さんからなのね。オカルトGメンで何かあったの?」

「大量の妖魔に苦戦中らしいの。有効な手段がなく手詰まり状態みたいね。令子、これは私からの依頼よ。強力な妖魔や対集団戦の経験が豊富なあなた達に応援を要請します。横島クンもすぐ呼び戻してちょうだい。」

「わかったわ、ママ。すぐ準備するわ。おキヌちゃん、横島クンに連絡して。あと出発準備をフル装備でお願い。」

「はい、美神さん。」

パタパタとおキヌが駆け出していく。

「久しぶりの大仕事ね!オカルトGメンの依頼なら赤字の心配しなくていいから思いっきり行くわよ!」

美神は既に気合十分だ。パキパキと指を鳴らしながら必殺と金欲のオーラを出しまくっている。

「そうそう、シロとタマモに留守番とひのめの面倒お願いしとかないとね。」

「あら、令子。そうじゃないわよ。」

「え?」

肩透かしをくらって軽くコケを入れながら、美神は美智恵の方を振り向く。

「言ったでしょ、私からの依頼だって。経費はオカルトGメンで保障するけど報酬はなしよ。いくらがめつい令子でもまさか実の母から報酬取るなんて言わないわよねぇ(にっこり)。」

言葉を失ったまま呆然とする美神を前に、さらに美智恵は続ける。

「それに私とひのめはお留守番よ。まさかママの頼みが聞けないなんていうんじゃないでしょうね(最上級にっこり)。」

「え、ちょっと・・・・」

言いかけた美神の声を遮るように、バタンとドアを開けておキヌと横島が飛び込んでくる。

「準備できました美神さん。ヘリは既に待機中です。」

「話は聞きました美神さん。さあ、急ぎましょう!」

「それじゃいってらっしゃい、令子。頑張ってね。」

固まったままおキヌと横島に引きずられるように去ってゆく美神に、美智恵は手を振りながらニコニコと微笑んでいるのだった。




とある高原の避暑地、オカルトGメンの緊急指揮所が設置されていた。中では到着した美神らを交えて、現場指揮官である西条が現状の説明をしている。

「被害状況は以上だ。現場から半径5km以内の住民・観光客の非難は完了しており、妖魔集団の活動は収束中、というよりは縄張りを確保されたという表現が妥当かと思われる。一定のエリア外には出てこないが内部に侵入するものには攻撃をしかけてくる。」

西条はプロジェクターでの説明を終え、皆の手元に資料を配布する。

「現時点で判明している範囲での妖魔の資料だ。結論から言うと、全く新種の妖魔と考えらる。」

美神がちょっと納得のいかない表情で質問する。

「新種ってどういうことなの?」

「添付資料のAに詳細があるのでそちらを。補足するので、見ながら聞いてくれ。まず、外見だが基本的に大型のスズメバチだ。しかし、資料にあるように複眼ではない単焦点の眼球を頭部前部に2つ、下部に1つ有しており、口腔部も蝶のように管になってる。また、羽も2対ではあるが飛行に用いるのは後部1対で、前部の1対は甲虫のように羽ばたかない。他にも色々昆虫の定義に当てはまらない部分が多く、これはつまり、既存の器物を核として妖怪化したもの、一般的にいう変化(へんげ)ではないということだ。」

「じゃあ使い魔か魔族の眷属?」

「それも違う。魔界軍情報仕官のジークの協力により魔界にも該当するものは存在していないことが判明した。新たに作られた下級魔族でもないらしい。霊的属性に誰かに作られた痕跡は存在しないとのことだ。もちろん神界のものでもない。つまり・・・」

みなの視線が一斉に西条にあつまる。

「この妖魔は今までになかった方法で自然発生的に生まれた妖魔だということだ。」

無言のまま西条を見つめる皆に一通り目をやり、西条の言葉は続く。

「まだ統計といえるほどの資料は集まってないのだが、アシュタロスの件以降で対象不明のまま駆除された妖怪・魔物の中で、同様に新種の妖魔と思われるものがいくつかあるということだ。」

横島が美神の方を向き、小声で話しかける。

「美神さん、そういえばこの前のデカイ犬みたいなやつって・・・」

「ええ、多分ね。結局GS協会のデータベースにも見つからなかったもの。西条さん、実はわたし達も・・・」」

「令子ちゃん、その話は後で聞こう。今重要なのは、正体不明の妖魔が現れ、現実に甚大な被害が発生しているということだ。」

西条は合図で部下に促し、テーブルの表面を作戦指揮モードへと移し、現場周辺の地図を重ね合わせた。

「今夜、第二次攻撃作戦を実行するつもりだ。ついては皆に立案及び作戦への参加の協力をお願いしたい。」

テーブルには敵勢力範囲と現在位置が映しだされる。

「敵の攻撃方法だが、基本的に高い機動能力を活かした体当たり攻撃だ。単純ではあるが、その威力は個人で携帯可能な簡易結界程度では防げないほど強力だ。体長も1m近いので純粋な物理的威力もある。また、敵の耐久力は平均クラスのGSの最大攻撃をもってようやく行動停止可能なほど高い。さらにその数が・・・詳細は不明だが、最低でも数千体はいると思われる。」

「数千・・・・」

美神達からざわめきが起きる。

「そうだ。我々の現在の装備では全てを倒すことは不可能だ。だが、ようやく捕獲した一体から貴重な情報を得ることができた。どうやら妖魔の中心には一体の女王蜂とでもいうべき存在がいて、全てはその一体がコントロールしているらしいんだ。」

「だったらそいつをやっつけてしまえば・・・」

すかさず口を挟んだ横島を遮るように手をかざして西条が続ける。

「そう簡単にはいかないんだよ、横島クン。外部からでは妖魔の存在が干渉しあって女王蜂の位置を特定できないんだ。もし攻撃を外せば一気に広範囲への無差別攻撃に転じられる可能性が高い。かといって一度に殲滅させようにも、現在の敵勢力は約半径2km。これでは霊的処理を施した大量破壊兵器レベルのものを用いなければならない。それでは他への被害があまりに甚大すぎるのだよ。一応準備を進めてはいるが、それは本当の最後の手段でなければならない。」

横島も黙り込んでしまった。

「そこで作戦なんだが、第一の目的は女王蜂を倒すこと。女王蜂の能力は不明だが、他の兵隊蜂の3倍から5倍程度だと考えている。それを一撃で退治可能な攻撃力を保持しているのは・・・この中でも僕と令子ちゃんと横島くんだけだろう。」

美神が静かにうなずく。

「次に、倒すためには女王蜂の位置を特定する必要があるのだが、外部からでは霊波干渉がひどすぎて困難だ。そのため内部に潜入する必要がある。だが、スーパー見鬼くんを使っても厳密な位置までは特定できないだろう。それができるのは・・・」

西条は無言でおキヌを見つめる。

「あ・・・あたし?」

「そうだ。ヒャクメから心眼のレクチャーを受けた君ならば、霊波のジャミングをリアルタイムで補正可能で、なおかつ位置の特定も可能だろう、ということだ。さらに女王蜂のコントロールから離れた妖魔の暴走を押さえるためにもネクロマンサーの笛が必要なんだ。そしてそのためには妖魔に十分近づいていなければならない。」

「でもそれじゃおキヌちゃんが危険すぎる!」

美神が西条に向かって叫ぶ。

「令子ちゃん、我々もそれは理解している。しかしこれはヒャクメの意見でもあるんだ。我々も本当ならヒャクメに依頼したいのだが、神族である彼女にその決定権はないし神界上層部の許可も降りなかった。君が思っているほど神・魔界との行き来は簡単ではないのだよ。ホットラインが確保されているだけでも感謝しなければならない。」

「しかし・・・」

言葉に詰まりつつも、まだ納得できないという顔で美神は西条を見つめる。

「そして、実行部隊の人員なのだが・・・・僕はこの場を離れることができない。また、随行する者も素手、もしくは連続使用可能な武具で敵に対処できる能力がなければならない。携行できる破魔札には限りがあり、それが尽きれば単なる足手まといになってしまうからな。」

西条を見据えたまま美神が口を開く。

「つまり・・・・あたし達3人だけで行けってことなの?」

「そうだ。困難なのは承知している。しかし現段階では・・・」

ガタン!椅子を弾き飛ばし美神が立ち上がる。何かを訴えようとしたその時、おキヌが美神に言った。

「美神さん、私やります。」

「おキヌちゃん・・・」

「私なら大丈夫です。それに美神さんも横島さんも一緒なんですもの。だったら私、心配することなんかありません。」

気丈に言い放つおキヌを、美神は無言で見つめることしかできなかった。

やがて、それまで黙っていた横島がその場の沈黙を破った。

「美神さん、やりましょう。俺に考えがあります。絶対おキヌちゃんには傷一つつけさせませんから。」

「横島クンねぇ、あんたがちょっとやそっと小細工したからって・・・」

「大丈夫っす!信じて下さい!」

いつもならそこでドツキの一つでも入るのだろうが、真剣な横島の表情に気おされ、美神もそれ以上は反対しなかった。

「−−−まーどっちみち他に方法がないっつーからしゃーないか!おキヌちゃん、横島クンはともかくおキヌちゃんはあたしが守ったげるから安心して!」

「いや、美神さん・・・オレが・・・」

「さー、そうと決まればちゃっちゃと出発してぱっぱと片付けちゃうわよ!儲けにもなんないのに余計な時間かけてらんないっつーの!行くわよ、おキヌちゃん!」

真剣な決意の照れ隠しであろうか、美神はカラ元気とも言える声を張り上げて外へと出ていった。横島には目もくれずに。

「だからオレの話を・・・」





美神、横島、おキヌの3人は山中の少しひらけた高原を進んでいた。目の前には鬱蒼とした林が立ちふさがるように広がっている。

「美神さん、横島さん、あの林から先が妖魔のテリトリーの境のようです。」

「そろそろいつ襲い掛かってきてもおかしくないわね。横島クン、準備はいい?」

緊張した面持ちの美神に対して自信ありげに横島が答える。

「まあ、見てて下さいよ。」

そう言うと横島は右手の平を上にして少し前に出した。気合とともにだんだんと右手が輝いてゆく。やがてその光は6角形の板を形作った。

サイキックソーサーじゃないの。そう言いかけた美神の眼前で光の板は浮かび上がり、横島の頭上で静止した。美神とおキヌが見上げている傍で横島は次々と光の板を作り上げていく。2・・・3・・・4・・・5枚目のそれが横島の頭上に達すると、それらはゆっくりと横島の周りを回り始めた。

「横島さん!前!」

おキヌが叫んだ。ハッとした美神が前方を見ると3人の気配を察知したのか10体ほどの妖魔がみるみる迫っていた。

「行け!」

静かに呟いた横島の言葉と同時に、弾かれたように光の板が飛び去ってゆく。そして瞬く間に妖魔を切り裂く。一瞬にして役目を果たした光の板は静かに戻ってくるや、また横島の上空で旋回を始めた。

「すごい・・・横島さん。」

あっけにとられたように固まっていた美神は、おキヌの声に我に返る。

「攻撃力は確かにすごいけど、それだけじゃ・・・」

「ええ、わかってます・・・次が来ますよ。」

3人の前には既に別な妖魔の一団が迫っていた。
妖魔は少しの間様子をうかがうように美神達の周りを飛び回っていたが、やがてその内の一体が突進してきた。それに反応して光の板の一枚がその行く手を阻むように飛んでゆく。

バシィッ!!!小さな衝撃光とともに妖魔を弾き飛ばした光の板は何事もなかったかのように、また横島の元へ戻ってきて旋回を始めた。

「横島クン・・・いったいいつの間に・・・」

「どうっスか?名づけて『フライングソーサー』。この前のデカイ犬の件以来、隊長にお願いしてオカルトGメンのシミュレーションドームを使わせてもらって特訓してたんスよ。」

「ママに・・・」

「ええ、3枚使えるようになった時点で100鬼をクリアしちまったんで、今はベルゼブルのクローン相手にやってます。5枚じゃまだ同時に相手にできんのは20匹ってとこですけど、こいつらは図体もでかいしスピードもベルゼブルほどじゃないんで充分イケると思います。」

既に3人の周りには無数の妖魔が取り囲んでいるが、その攻撃は全て弾き返され、3人を中心とした半径5mほどの範囲には入り込めないでいる。

「んじゃ、先を急ぎましょっか。美神さん、2枚を前方確保のために攻撃にまわすんで防御を3枚にします。万が一すり抜けてきたやつがいたらお願いします。」

目にも止まらぬ動きで妖魔を切り裂いてゆく2枚のフライングソーサーを先頭に、3人はおキヌの指示に従いゆっくりではあるが確実に歩を進めてゆく。

「でもさー横島クン、なんであたし達には内緒にしてたわけ?」

「いやー、もう少し完成度上げてから見てもらおうと思ったもんで。隊長が言うには枚数もパワーもまだ向上の余地があるそうだし。オレも早く一人前になりたくてこれでも結構頑張ってるんスよ。」

(これ以上?・・・まだ強くなるの?・・・)美神はプログラムを装い横島と戦った時のことを思い出していた。(−−−いつのまに、そんなに強くなっちゃったの?)

「・・・もう十分、一人前よ・・・」

小さな声で、まるで自分に言い聞かせるように美神がつぶやいた。

「え?なんすか美神さん?」

ボッ!と顔を真っ赤にした美神があわてて答える。

「ーっマ、ママがそう言ってたってだけよ!いいからどんどん進むわよ!」

先ほどまでの不安なまでの緊張感は、もうなかった。むしろリラックスしているとも言える安心感に包まれながら、それでいて十分な霊力の高まりを維持しつつ、3人は進んでいた。
やがて木々の切れ間の中に一本の巨木が姿を現した。

「あそこです。」

おキヌの指差す方向を見上げる美神と横島の前には、無数の糸のような粘液で巨木に体を固定した妖魔の主がいた。美神達を見つけると、威嚇するように首を向けながらも、その産卵管のような巨大な腹部から妖魔の卵らしきものを次々と産み落としている。

「今回はエイ○アン2ネタでいくんスね・・・あだっ!」

こんな時でもボケを忘れない横島を、こんな時でも突っ込みを忘れない美神がドツキながら叱咤する。

「マジメにやんなさいっ!ったくいつまで経ってもあんたってやつは!」

「すんまへん、すんまへーん。」

「で、どう?おキヌちゃん。あたしらでアイツは倒せそう?」

おキヌはじっと目を凝らし、いや目だけではなく『心眼』をも凝らし妖魔を見つめる。

「ええ、大丈夫です。胸部の中心が急所のようですから、そこに攻撃を加えればおそらく。ただ、外骨格が硬そうな上に霊力も帯びていますから、単なる霊波攻撃ではなく物理的攻撃に霊力を上乗せした攻撃でないと・・・」

「ってことは、」

美神は手にしていた神通棍にさらに気合を込める。

「ここで真打登場ってわけね!」

「でも美神さん、直接攻撃をするためには横島さんの防御エリアから外に出ないと・・・」

「大丈夫だ、おキヌちゃん。」

そう言うと横島は美神の方を向いた。

「美神さん、美神さんなら一撃でいけますよね。」

「ええ、もちろん!」

そう答えることを確信していたかのように横島は小さくうなずき、文珠を一つ取り出した。

「フライングソーサーを5枚全て美神さんにまわします。防御のことは気にせずに美神さんは最高の一撃を叩き込むことだけに専念して下さい。俺達はその間こいつの結界で持たせますから。一撃でやっつけちゃうんですよね?だったらそれくらいの時間なら文珠で十分ですって。」

横島はそう言ってニッコリと笑った。美神もつられて微笑む。

「おっけー。待たしとくのも悪いからちゃっちゃと行ってくるわね。」

そう言うと美神は踵を返し走り出した。フライングソーサーが美神を追って飛び去る。

女王蜂は何本もの触手を美神に向けて繰り出すが、そのことごとくをフライングソーサーが跳ね返す。

「極楽にーーーーっ!」

叫びながら美神が女王蜂めがけて飛び掛かって行く。

「行かせてやるわーーーーっ!!!」

槍のように長く、真っ直ぐに伸びた神通棍の先が女王蜂の胸を貫く。一瞬の間をおいて飛びのいた美神が地面に着地すると同時に女王蜂は粉々に飛び散った。美神の背後では、声を上げることなく消滅した女王蜂の鎮魂の歌のようにネクロマンサーの笛の音が響いていく・・・・




事後処理をオカルトGメンにまかせた美神達はヘリに送られ事務所へと帰り着いた。眠りについたひのめの横で皆を待っていた美智恵が出迎える。

「どうだった?令子。横島クン、役に立ってくれたでしょ?」

微笑みながら美智恵は美神に声をかける。

「ママずるい・・・最初からこうなるってわかってたんでしょ。」

「だってフライングソーサーの能力は全部見てるもの。」

「それに横島クンにばっかり指導するなんて・・・今度はあたしにも・・・」

「ええ、あなた達3人を特別にオカルトGメンの非常勤嘱託扱いで登録しておいたから、シミュレーションドームもこれからは自由に使っていいわよ。」

美神が目を輝かせながら美智恵にかぶりつくように擦り寄る。

「ホント?タダで使えるの?んじゃ、早速次の休みにママと一緒に・・・」

さらにニッコリと微笑んだ美智恵が続ける。

「その代わり非常勤なんですから、今回のようにオカルトGメンからの依頼には優先して協力して頂戴ね。」

美神が美智恵の目の前でピタッと制止する。

「え?・・・まさか今回みたいにタダで?・・・」

「ええそうよ。その代償としてオカルトGメンの施設を自由にできるんですもの。安いものでしょ、令子。」

「え、ちょっとまって・・・それって、もう決まっちゃったの?」

「決めちゃったの。」

そのニッコリを最上級にして美智恵は答える。

「だって、また何かあるたびに西条くんからわざわざ私経由で連絡がくるかと思うと面倒になっちゃって。今後はオカルトGメンから直接連絡が行くからよろしくね。」

がっくりと膝を落としてうずくまる美神をよそに、美智恵はただ笑うのみだった。

「ホホホホホホ。」




それからしばらくの間、足しげくオカルトGメンに通う令子の姿があった。横島を連れずに。『だーって、あたしの許可なく一人だけ新技モノにしてるなんて、許されるわけないっしょ!あたしの新技が完成するまで横島クンはドーム使用禁止!』とは、美神の弁である。

その姿を神妙な面持ちで見つめていた西条は、一つの確信を持つに至っていた。
(新種の妖魔は今後増加するとの予測が出ている。今のままのオカルトGメンでは人員・装備・組織運営の規模、全てにおいて満足な状態とは言えない。特に、予算・設備・人事の決定権がICPOにある現状では迅速な対処が望まれる場合に、そのことが足枷となる可能性が高い。民間のGSが出来ることが、我々に出来ないことがあってはいかんのだ。そのためのオカルトGメンではなかったのか・・・)

その数ヶ月後、西条の草案を基にして提出された案件により、ICPO内の一部署でしかなかった超常犯罪課は、ICPOを上位組織としながらも運営のほぼ全ての権限を独自に保持した国際対霊障警察機構として独立することとなる。後の世に言う『オカルトGメンの夜明け』はもうすぐそこまで来ていた。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa