ザ・グレート・展開予測ショー

ジーク&ワルキューレ出向大作戦5−4 『決意』


投稿者名:丸々
投稿日時:(05/ 8/ 8)

オカルトGメンお抱えの、とある病院の一室で美神美智恵が医師と話をしていた。
先ほどその命を散らした部下の状態の説明と、傷付いた弟子の具合を話し合っている。

「西条捜査官の傷については安心してください。命に別状はありません。
心配していた脳や脊髄の損傷も見つかりませんでした。後遺症の心配も恐らく無いでしょう。
骨にも異常ありませんし、打撲の方もヒーリングを続ければ2,3日で治るでしょう。
内臓の損傷も、出血はしていましたが安静にすればこちらも2,3日で動けるようになる筈です。」

報告を受けた美智恵の口元から安堵の溜め息が漏れる。

「香上捜査官の……遺体からは、何か……見つかりましたか。」

犠牲になってしまった部下を想い、詰まりながらも医師に確認する。

香上の遺体を検死した報告書を取り出しながら医師が説明するが、困惑した表情を浮かべている。

「死因は、まず間違いなく心臓への刺し傷による出血死です……
出血死なのですが……あの遺体は、不自然です。」

拳を握り合わせ、医師が難しい顔をしていた。

「……どこか、不審な点でも?」

「……心臓を槍状の物で穿たれているにも関わらず……殆ど血が流れていないようなのです……
それなのに香上捜査官の体内の血液は……僅かしか残されていませんでした。
まるで……気を悪くされるかもしれませんが……吸血鬼が血を吸い上げたかのような、そんな状態なのです。」

オカルトGメンに吸血鬼の捜査官がいたことを思い出し、医師が遠慮がちに説明する。

「……現場で血を流し尽くした、という事はありませんか?」

美智恵が質問する。

「衣服にも殆ど血が付着していなかったので……その可能性は低いと思います。」

一通りの説明を聞き終え、美智恵が席を立つ。

「御苦労様でした。それでは西条捜査官を宜しくお願いします。
また、何か気が付いた事があれば報告してください。」

医師に頭を下げると、毅然とした足取りで部屋を後にする。
西条が入院している部屋に向かいながら、美智恵の頭の中では先ほどの話を検討していた。


(香上さんの遺体の不自然な状態……スキュラが血液を奪った……?
確かに霊能者に限らず、血液には高濃度のエネルギーが含まれているけど……それが目的なのかしら……)

人間や動物の血液には多量のエネルギーが含まれている。
吸血鬼は人間の血液を摂取する事で永遠の時を過ごす事ができる。
強力な呪術などは術者や生贄の血液を捧げる事で発動するものも多い。

普通の人間の血液でさえこれだけの効力を秘めているのだ。
霊能力者の血液を集めたなら、どれだけの力を発揮する事になるのだろうか。

(血を媒介に発動する術や魔法陣を調べた方が良さそうね……)

静まり返った病院に、薄暗い廊下を歩く美智恵の靴音だけが響いていた。

























―コンコン―

「はい、どうぞ。」

扉を叩く音に気付き、西条が応える。

窓際のベッドに横になっていたが、入ってきたのが美智恵と確認し、ベッドの仕掛けを操作する。
低音のモーター音をあげながら、ベッドの上半身側が持ち上がり体に負担をかけることなく体が起き上がる。

「いいから、怪我人なんだから楽にして。」

弟子に楽にするように告げ、ベッドの側に置いてあったパイプ椅子に腰掛ける。

「怪我の具合はどう?」

普段の毅然とした表情ではなく、負傷した西条を労わるように、その表情は柔らかかった。

「しばらく、体を動かせそうに無いですね。でも骨が折れてる感じはしないのですぐに治ると思います。
それに、あの状況を考えたら……命があるだけ幸運でした。」

先ほどの戦闘を思い出したのだろう、西条の表情が曇る。

「香上さんのことは……本当に残念だわ……」

月並みなセリフだとは思いながらも、失ってしまった部下に想いを馳せる。

男勝りな性格だったが、自分とはまた違うやり方で皆を纏めてくれた。
自分と違って裏表の無い彼女の性格は、公私問わず皆に慕われていた。
初めて人間社会で働き始め、色々戸惑っていたバンパイア・ハーフの少年を上手くフォローしてくれた。
実働部隊の中では一番戦闘力は無かったかもしれないが、心を読む彼女の能力は捜査の切り札になる事もあった。

「先生、香上の事は残念ですけど……僕達は危険を覚悟でこの仕事に就いたんです。
今は彼女の死を悔やむより、この事件を解決するのが何よりの手向けだと思います……」

穏やかな、しかし確固たる信念を浮かべ、西条が静かに呟いた。

「西条君?」

その弟子の表情に何か引っ掛かるものを感じ、美智恵が西条の顔を覗き込む。

「え、どうかしたんですか、先生?」

美智恵の心を知ってか知らずか、西条はにこりといつもの余裕のある笑顔を浮かべていた。
西条の顔からはさっきの表情はすでに消えてしまっていた。

西条の雰囲気が普段のものになっていたので、美智恵も深く気にせずさっきの医師の話を伝える。



「―――そうですか。僕も香上の体に違和感を感じましたが、血液が失われていたのですか……」

「そうなの。恐らくスキュラが何かの目的のために奪ったのだと思うけど、
西条君は何か気がついたことは無かったかしら?」

淡々と話す弟子に違和感を覚えながらも、美智恵が問い掛ける。


その時、西条の脳裏に浮かんだのは相棒を貫いたあの『赤い槍』だった。
恐らく血液を吸い尽くしたのはあの槍だったのだろう。
西条はあの『赤い槍』こそがこの事件の鍵だと確信した。


「……いえ、残念ですが、僕は何も見ていません。」

目を瞑り、静かに答えた。

「……そう。」

静かな病室には気まずい空気が流れていた。
相棒を失った直後の弟子から事情を聞くのは、正直美智恵も気が進まなかった。
その気まずさからくる後ろめたさが、彼女の鋭い洞察力を鈍らせていた。

何となく西条の纏う雰囲気に違和感を覚えながらも、結局それを探ろうとはしなかった。


「そういえば、ピート君はどこかしら?」

沈黙に耐えかねたのか、姿が見えないバンパイア・ハーフの少年の居場所を尋ねる。

「ピート君は、まだ遺体安置所です。
彼は香上に懐いてましたからね……先生からもフォローお願いします。」

殆どの人間はピートの正体を知ると、嫌悪するとまではいかなくても、一線引いた立場で接しようとした。
それは同僚であるオカルトGメンの職員ですら変わらなかった。

西条や美智恵は自然に接しているが、心のどこかで自分達の方が強者だという認識があった。
仮に彼と戦う事になっても、制する事が出来るから恐怖を感じる事は無いのだ。
最も、彼らはそんな事は考えた事も無いし、決して認めようともしないだろうが。

学校という特殊な環境でなら一人の生徒として平等に扱われていた。
だが社会にでると一部の例外を除いて、皆彼の素性を知ると距離を置いていた。
そして数少ない例外が香上だった。

「ふふ、そうね。
彼にとっても香上さんみたいな人は珍しかったんじゃないかしら。」

生前の香上とピートのやり取り思い出し、自然に頬が緩む。
西条のほうを見ると彼も微笑んでいた。

「700歳も年上の相手に先輩風吹かせるような人間はあいつくらいでしょうね。」

お互いに笑みをかわしていると、いつしか気まずい空気はなくなっていた。


区切りをつけるように西条が軽く息を吐く。

「僕も体が動くようになればすぐに復帰しますから、それまでピート君をお願いします。」

「無理しちゃ駄目よ?
あなたが抜けるのは惜しいけど、たまには休暇を取って休んでもいいのよ。」

美智恵としても相棒を目の前で失った直後に復帰させるのは、
良い結果を生み出さないのではないかと危惧していた。

「いえ、今は一刻も早くこの事件を終わらせたいんです。」

美智恵から顔を逸らし、窓の外の景色に目をやりながら、呟いた。


「そう……なら良いけど。
じゃ、そろそろ私はピート君を拾って捜査に戻るわ。
また明日お見舞いに来るけどちゃんと安静にしとくのよ?」

聞き分けの無い子供を諭すかのように言われた西条が苦笑いを浮かべていた。

























―へー、今年の新人君は随分カワイイわね〜♪―

―ピエトロ・ド・ブラドーです。宜しくお願いします。―

―じゃあピート君ね。私は香上春夏、宜しくね。―

第一印象はただの気安い女の人だった。



―ピート君って霊力高いわよね〜、やっぱり実働部隊じゃ私が一番弱いのかなぁ―

―あ……でも、僕は人間じゃないので……―

―ん?それがどうかしたの?立派な力持ってるんだから胸を張りなさいよ、ピート君♪―

僕が人間じゃないと知っても、変わらずに接してくれた。



―ピート君、今日は君の歓迎会なんだから楽しんでよ〜♪―

―はい!でも、僕のためにわざわざ店まで借りてもらって……―

―気にしない気にしない!会計は西条に任せたら良いんだから♪さ、飲も飲も!―

―おい、全部僕が持つのか!?―

―男が細かい事気にしないの!どーせお金は余ってるんでしょ♪―

その名前のとおり、春と夏を併せたような明るい人だった。



横島さん、タイガー、雪之丞は僕の『親友』だ。

唐巣神父は僕の『先生』だ。

西条さんや美智恵さんは僕の『上司』だ。

香上さんは、きっと初めての『先輩』だったんだろう。

僕はクラブ活動はしなかったから、平等な上下関係は香上さんが初めてだった。










でも、あの人はもういない。

























遺体安置所の扉の前でピートが膝を抱えてうずくまっていた。

息を引き取り、物言わぬ姿となった香上と対面した時の事は良く覚えていなかった。
気が付けば、ここで座り込んでいた。

生還した西条とも何か話したような気がしていたが、記憶に残っていなかった。

700年以上の年月を過ごしてきた彼にとって、知人と死に別れるというのは初めてではなかった。
だが、この700年という長い月日の中でも、こうして人間の社会に出て暮らすようになったのは最近の事だった。
そのため今までそれほど親しい関係を築けた人間自体が殆どいなかった。

今までは『別れ』というものは他人事だと思っていた。
彼の身の回りの人間は、すべからく規格外の人間ばかりで、『死別』というものを連想できなかった。
なにしろ幽霊だった少女が生き返ったり、魂を分解された女性が気合で生き延びるような世界なのだ。


だが、彼はこの事件で思い知らされてしまった。

例えどんな人間であろうとも、いつかは死んでしまうのだ。

ならば、永遠の時を過ごす自分はどうなるのか?

かけがえのない人達が去ってしまった世界に、自分だけが取り残されるのか?






美智恵が迎えに来て本部に戻る間も、この問いは彼の頭を離れることは無かった。

























美智恵とピートが乗った車が駐車場から出て行ったのを病室の窓から見届けると、
西条は携帯を取り出し、誰かにかけはじめた。

きっかり三度目のコールで相手が電話に出た。

「もしもし、西条か?」

「ああ、僕だ。今時間良いかな。」

「構わんよ。それにしても久しぶりだな。
以前の事件で一緒に捜査した時以来か。」

「ああ、いきなりで悪いんだが、君の力を借りたい。
公安の権限で衛星写真を入手して欲しいんだ。」

「この前の捜査じゃ世話になったからな。お安い御用だ。
オカルトGメンの本部に郵送すれば良いんだな?」

「……いや、本部には郵送せずに僕のパソコンにメールで送ってもらえないか。
痕跡は残さないように気を付けて欲しい。」

異例の申し出に電話の相手が一瞬考え込む。

「……訳ありか?」

「……そんなところだ。」

「……わかった、任せろ。
で、どの地区の衛星写真が必要なんだ?」

「富士山周辺を頼む。期間はこの一ヶ月だ。
後、富士山の洞窟のデータが登録されているならそれも頼む。」

「了解した。今日中には調べが付くはずだ。」

「すまない、感謝する。」

通話を終え、携帯を置く。

(すみません、先生……ですが、この件は僕の手で片付けさせてもらいます)

瞳に冷たい光を宿し、心の中で美智恵に頭を下げる。

体を少しでも早く回復させるため、無理矢理意識を手放し、男は眠りについた。

























早朝の緊急会議が開かれた会議室。本日第二回目の打ち合わせが行われていた。
会議の場にいるのはオカルトGメンの職員のみで警察関係者は席についていない。
西条と香上がいないので空席が二つあるのが目立っていた。

早朝の会議からまだ半日もたっていないのに、皆の神経はかなり参っていた。

香上の死はあまりにも突然すぎた。それこそ不自然なほどに。

今まで目立った行動は取らず、どちらかと言えば暗殺者として仕事をしてきたスキュラが、
何故に白昼堂々と捜査員を襲撃するような真似をしたのだろうか?

そして、狙いが香上にのみ絞られていたのも見逃せないポイントだった。
手負いの西条に見向きもせず、あっさり撤退した事からも、狙いは香上の命だったと推測できる。

「恐らく香上さんが狙われた理由はスキュラの心を読み取ったのが原因ね。
つまり、目立つ危険を冒してまで隠しておきたい秘密があった、と考えるべきだわ。」

美智恵が今の時点でわかっている事を簡潔に纏める。

「そして、奴が血液を奪っていった事から、
血液を使った大規模呪術や、生贄を必要とするような召還陣などが最終目的なのかもしれないわ。」

ホワイトボートに要点を書き込む。

「今はまだわからない事がほとんどだけど、血液を媒介にした呪術の調査を最優先で調べましょう。
取り越し苦労なら良いんだけど、この手の大規模呪術は発動したら取り返しのつかないことになるわ。
それと、香上さんのビジョンで何らかの魔法陣が確認されていたから、それが手掛かりになるはずよ。」

内勤の人間が美智恵の言葉に頷きながらメモを取っている。
内勤の人間は実働部隊のように現場で除霊を行いはしないが、
かわりに呪術の調査や神話の追跡調査などを専門に行っていた。

その時、ずっと無口で会議に参加していたピートが静かに手を挙げた。

「美神支部長、僕に一つだけ心当たりがあるのですが。」

その表情は固く引き締まっている。

「……心当たりとは?」

ピートの雰囲気を感じ取ったのか会議室の空気に緊張が走る。

「二年前に香港を異界に引きずり込んだ……複雑な魔法陣と風水師達の血により発動する風水盤……」


まさか、と会議室がざわめき始める。




「……原始風水盤です。」






ピートの発言を受け、会議室の視線が美智恵に注がれる。
美智恵はというと額の所で指を組み、思案している。

しばし考えた末に、指をほどき口を開いた。

「なるほど、確かに考えられる可能性の中でも有力な一つね。
香上さんが言っていた『赤い槍』が原始風水盤の鍵だとすれば尚更ね。
スキュラが殺し屋をやっていたのも血液を集めるためだと考えれば合点がいくわ。」

ここまで話し、一息つく。

「……とは言え、この件に原始風水盤は絡んでいないと思うわ。
理論上では有り得るでしょうけど、現実的には不可能なのよ。」

そこまで理解しておきながらも無関係と言われても納得できないのだろう。
珍しくピートが反論した。

「言葉を返すようですが、何故そう思われるのですか。
僕は二年前のメドーサの事件と似すぎてると思います。」

「たしかに、ね。
でも妙だと思ったこと無い?
世界の理を左右するようなモノが、そんなに簡単に造れると思う?」

言われてみれば確かに。
ピートも原始風水盤の仕組みが単純すぎる事に気がついたようだ。

「それは……たしかに効果の割には、造る過程は単純ですけど。
魔法陣と、後は血液を吸収した鍵だけで発動する訳ですから。」

ピートの答えに美智恵が頷く。

「香港で魔法陣の痕跡を調査した報告書によると、『再現不可能』となってるわ。
理由は簡単。『人間の知識では理解不能』だそうよ。」

意外な答えにピートは驚いていた。
何故なら目の前で原始封水盤を理解し、操作した人物を見ていたのだから。

「え……ですが、ドクター・カオスは逆操作してましたよ。」

「ドクター・カオスは例外よ。既にあの人の知識は人間の域を飛び出してるでしょ?
原始風水盤は私達の知識じゃとうてい理解できない代物だったそうよ。
鍵となる杭も同様。あれは謎の素材で構成されていて複製を造ることすら出来なかったんですって。
多分、あれをもう一度造れるのはドクター・カオスくらいでしょうね。
造れるのも鍵となる杭だけで、魔法陣の方は複雑すぎてドクターでも無理だと思うわ。」

「そうだったんですか……
でも僕達には理解できなくても、魔族になら出来るのでは?
スキュラがもう一度原始風水盤を造ろうとする可能性は高いと思うのですが。」

「確かにその可能性はあるわ。」

ここまでは確かな論拠に基づいて話していたので滑らかに話していたが、不意に言葉の調子が変わる。
自信が無い話し方、とまではいかないがどことなく言葉を濁し気味に話を続ける。

「ここからは推論の域を出ないんだけど……多分魔族の連中も原始風水盤を造るのは不可能なのよ。
もし並の魔族に造れるようなものなら、とっくの昔に人間界は魔界に侵食されてた筈よ。
そもそも神話や文献から『原始風水盤というモノがあるらしい』という事はわかってたんだけど、
実際に確認されたのは二年前が初めてなの。」

美智恵は推測と言っているが、ピートも同感だった。
実際に目の当たりにした原始風水盤はあまりに強力な力を秘めていた。
一瞬で魔界と接続しただけでなく、どうやら時間軸や場所すら自由に操作できるようだった。
あんなモノが今までにもほいほいと造られていたとはとても思えない。

「……確かに、あんな物が簡単に発動していたならとっくに人間界は滅んでいたかもしれませんね。
この目で見た感想としては、あの桁外れの力は恐らく神話クラスの遺物だと感じました。」

「つまりはそういうこと。
香港のメドーサの事件も、まず間違いなくアシュタロスの知識によるものだったのでしょう。
アシュタロスと同等の古い魔神で、なおかつ並外れた知能を持つ存在でもなければ
原始風水盤を設置するのは不可能だと考えて良いと思うわ。」

ピートや調査班のメンバーも納得したのか、頷いている。

「コスモプロセッサで生き返ったアシュタロス陣営の魔族も既に殲滅済みだから
原始風水盤が設置されている可能性は限りなく低い筈よ。
果たして原始風水盤の亜種があるのかは定かではないけど、今は考えないようにしましょう。」

美智恵が言葉を締めくくり次の内容に入ろうとした時、突然会議室の内線が鳴り始めた。

近くにいた職員が受話器を取る。

「はい、会議室です―――
ええ、支部長でしたらここに―――
はい―――はい―――わかりました、少々お待ちください。」

保留ボタンを押して受話器を置く。

「美神支部長、警視庁の捜査班からお電話です。
スキュラが昨晩接触した連中の身元を突き止めたそうです。」

報告を受けた美智恵が素早く受話器を取る。

「美神です―――
はい、それで―――
え!?―――
そうですか……わかりました。
これから―――はい―――そちらに向かいます。」

受話器を置くと深く溜め息をつく。
事件が進展したと思っている職員達に困惑の色が浮かんだ。

「大方の予想通り、彼らは暴力団員だったみたい。
所属していた組も割り出したらしいんだけど……」

「何かあったんですか?」

ピートが心配気に声をかける。

「……組員が全員殺されてたみたいなのよ。
さっき近所の人からの『異臭がする』って通報で行ってみてわかったそうよ。
死亡推定時刻から考えると、昨夜あなた達とやりあった後に口封じをしたみたいね。」

「でもわざわざ口封じをしたって事は―――」

「そう。調べられたら困る事があったってことよ。
これより私とブラドー捜査官は組の屋敷の家宅捜査に参加します。
調査班は条件に当てはまりそうな呪術や召還陣を片っ端からリストアップすること。」

力強く返事をすると、職員達はそれぞれの仕事をするべく会議室から出て行った。

「さあ私達も行くわよ。
この手掛かりを逃す訳にはいかないわ!」

「はい!」

美智恵とピートも頷き合うと、組の屋敷へと部屋を後にした。

























その日の深夜、人の気配が無く静まり返ったオカルトGメンの一室。
美神美智恵の机の側に人影が一つ佇んでいる。

その人影は机の上に何かを置くと、深く頭を下げ部屋を後にした。

























翌朝、出勤した美智恵がいつものように自室に入ろうとすると、受付の職員に呼び止められた。
自室のドアノブを握ったまま美智恵が振り返る。

「おはようございます、美神支部長。
お客様がお待ちですがどうされますか。」

思わぬ言葉に首を傾げる。
前もって人と会う予定は入ってなかった筈だ。

「どなた?用件は聞いてるの?」

「はい、春桐様と名乗っておられました。
昨夜テレビのニュースを見て、情報提供の為に来られたそうです。」

昨夜、警官隊殺傷事件について記者会見が開かれ、美智恵もそれに出席していた。
相手の名前に聞き覚えは無かったが、そもそも知り合いが情報提供に来るというのも妙な話なのだ。
知らない相手で当たり前だ。

「……良いわ、私が直接話を聞く事にします。」

「はい、春桐様には応接室で待って頂いています。
後で珈琲をお持ちしましょうか?」

「そうね、お願いするわ。」

ドアノブから手を離し、踵を返し応接室に向かって行った。












柔らかな朝日が差し込む美智恵の自室。
机の上は綺麗に整頓され、紙屑や鉛筆一つ散らかっていない。

その整頓された机の上に見慣れぬ物が置いてあった。
それは美智恵が昨日退社した時点では置いていなかった物だ。


一つは鞘に収められた一本の西洋刀。
そしてもう一つは紙を折り合わせて作った封筒で何か文字が書いてあった。


―――辞表  西条輝彦

























とある病院。

「先生!305号室の西条さんが何処にもいません!」

慌てふためきながら、若いナースが医師に報告している。

「馬鹿な!彼はまだ安静にしておかないといけないのだぞ!?
急いでGメンに連絡するんだ!命に別状は無いといっても彼の体は激痛に苛まれている筈だ!」

医師の言葉も終わらぬうちにナースは電話をプッシュしていた。



この時、医者達は患者が消えた事しか気付いていなかった

だが先日運ばれてきた捜査官の遺品の刀も共に姿を消していたのだ。

























僕のこれからする事に『正義』は無い……

そう言えば君は言ってたっけ?『正義』より『裁き』の方がわかり易いって……

ふふふ、全くだな……今ならわかるよ……


―――仇討ち―――


実にわかり易いじゃないか……

奴には僕がこの手で『裁き』を下してやる……

たとえ僕が『正義』から外れる事になろうとも、これだけは譲れはしない……

そう……これだけは……



傷の痛みと、傷からくる熱にうかされた体を引きずりながら、男は刀を握り締めた。

今は亡き相棒の刀、『ジャジメント―裁き―』を。

























―後書き―

えーと、前回の投稿から少々時間が掛かってしまいました。

この二週間色々ありまして……

次はもう少し早くお送り出来ると思います。

真面目な話は後2話って所です。

早く終わらせなければ……

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