ザ・グレート・展開予測ショー

モンジュは反則 (4・完)


投稿者名:Nar9912
投稿日時:(05/ 8/ 6)


しかし乍らプロジェクトには欠陥があった。ある女性の行動また至極尤もなその理由についてである。
GS達への伝言が伝えられている最中に本来のプロジェクト通りであれば来なかった筈の人物が到着して
しまったのである。自分を除け者にしようとした事への意趣返しかほんの少し先の未来からの”伝”言に
あった通りにへりで彼女は訪れた。そう美神令子の登場である。


「あんた達、私を置いて行けると思うなんて甘いわね。」


彼女は西条……この場合はほんの少し先の未来の彼でもこの時間の彼でも同じ事である……が考えていた
様に大人しく待っているなどまずしない類の人間である。だが単に自分の事だから自分が参加しなければ
すなわち降り掛かる火の粉は自分の手で払わなければ気が済まないとの思いだけではなくプロジェクトの
弱点を考えての事でもあったのだ、彼女の参戦は。


「私もヒャクメが伝言を知らされた場所にいたのよ。あの計画には落とし穴があるわ。」


事実その通りなので希望的観測により無視していた可能性を前に彼女の参戦に最も反対したかった西条で
すら黙り込む。


「分かってたって顔ね……そうよ、身代わりで誤魔化せる保証なんて何処にも無いじゃない。」

「「……「………」……」」


後が無くなった事を痛感する一行であったがしかし彼女の言う事は尤もなので言い返せはしない。彼女の
身代わりを式神と文珠に依って立てようとしていたのだ。式神使い六道冥子の誇る十二神将が一柱マコラ
の持つ変身能力を”模”文珠で強化する作戦であった。”模”自体本来はその場或いは術者が見える場に
いる存在をしか模倣出来ないのかも知れないが特に横島とおキヌは令子と共に行動する事が多い為記憶に
頼って行動を”模”するくらいは出来無くないとの判断が根拠でありまたマコラ自身は冥子から自律して
行動出来る事が過去の行方不明事件で明らかとなっていた事もある。しかし乍ら文珠であれ魔神が視ても
正体を看取されない程に模倣出来ると言い切れる者はここにはいない。試した事も無い以上可能性は零で
無く実のところ成功するかどうかも分からない危うい話であると思い至る程にならばオカルトの専門家で
ある皆……横島は知識的には専門家で無いかも知れないが事文珠の話であるならば第一人者である……は
プロジェクトの内容を吟味出来ていたのである。しかし美神令子という要素は魔神にとっての目的であり
魔神がその魂に内在するエネルギー結晶を手にしてしまったのならば勝利の可能性が大きく下がる以上は
適切な代案も無い為にそのまま実行しようとしていたのだ。
だが本人が来た事で皆腹を括った。
そして令子を”模”する為に使われる筈であった文珠も含めて未来から送られてきた数多くの文珠を持ち
南極到達不能極へと向かったのである。



……

文珠が十二分にあるので”防””寒”くらいしても良いと思い口に出した者がいたのだが文珠を二個同時
使用出来るのは確認されている限りは横島本人のみで彼に余分な負担を掛けない方が良いだろうと反論が
為された事もありその意見は却下となった。

彼ら全員がヘリから降りた事を確認したルシオラ自身である蛍が”伝”言の全容を知り希望に満ちた様で
知った未来と同様に魔神の精神エネルギーで作られたバベルの塔がある異界空間の入り口を開き塔がその
姿を現した。三姉妹が揃い人の形を取るが敵意を剥き出しにした妹達とは異なり彼女は横島が施す対策を
じっと無言で待つ。彼女が何も言おうともしない事に違和感を感じた妹達もまた一瞬戸惑いを隠せないで
いたのだがそれこそ彼女の狙いであった。

横島からベスパ、パピリオ、ルシオラの順に二個ずつの文珠……”解””除”……が投げられる。

無論その文珠は未来において装置の補助を得てその効力を増しているそれである。本来ならば文珠二つで
解除など出来ない筈の三姉妹に科せられている「10の指令」を解除する程度の事は可能であった。勿論
「10の指令」がその術者である魔神がダメージを受けただけで効力を失う程度のものと知っていたから
こそすなわち全力で掛けられた訳ではない枷と知っていたからこその行為でもある。そしてその読み通り
制約は解除されたのだ。
投げる順番もまた未来で十分検討されたプロジェクトの通りであり、まず横島に一言文句を言いたがって
いたが為また人間の攻撃でダメージなど喰らわないとの自負からも無防備であったベスパに投げる。次に
”伝”言で何が為されるのか知ったルシオラが抑えた事で動けないパピリオに投げ、最後にそもそも回避
する気が無いルシオラに投げたのである。一度に六つは使えなくとも二個ずつの連続であれば可能という
訳だ。
魔神の意するところに従わないルシオラの行動がブレーカーを作動させてしまう可能性は覚悟の上の事で
あった。実際には作動しなかったのであるが仮に作動したところでパピリオは人間達への攻撃より彼女の
身を案じて動きを止めていただろう。ほんの少し先の未来のそしてこの時間の横島もこの点には反対では
あったのだが大人達から諭された結果不承不承ながらも了解していたのだ。当然ながらブレーカーが作動
したところで命に別状は無く解除さえ出来れば人の形に戻り得る事を知っていたからではあるのだが。
尚ここで仮にベスパが攻撃と見なして反撃して来たなら彼女を”模”して抑える予定であったのだが己に
対して取られた行為に何の痛手も負わなかった彼女はルシオラにも同じ事が為された事から害を及ぼしは
しないと判断して美神令子を魔神のもとへ連れて行くとの命令を優先しようと考えた。
が、その時横島が彼女達姉妹に向け”伝”と刻まれた文珠を差し出して言った。


「これが、アシュタロスの願いが叶った未来だ。」


非常に稀有な真剣そのものの表情……未来において西条に良い表情だなと言わしめたその表情……をした
横島に戸惑ったベスパ、パピリオにほんの少し先の未来の横島が経験した顛末が”伝”えられる。
混乱。それが彼女達の心境を一言で表わす言葉であった。偽造されたとは思えない詳細な顛末であったが
彼女達は魔神からその真の目的を聞いてはいない。冗談で出来ているかの様な表情が常である横島からは
考えられない程のその真剣な表情が嫌が応にも説得力を増している。耐えかねた二人は血縁が為せる業か
同じ考えに至りルシオラに問い掛ける様な眼差しを送った。が、


「本当の事よ……」


ルシオラは静かにだが悲しそうにそう言ったのだ。経験の少ない彼女に姉妹を欺く程の腹芸が出来ようか。
混迷を深めるばかりの彼女達。パピリオはその困惑故考えを放棄して姉であるベスパに従う事にした様だ。
頼られ更に考えに窮したベスパは遂に主である魔神に判断を委ねるとの考えに憑かれたのである。それを
見越したかの様にいや実際相応に付き合いのあった彼には彼女達の考えが読めたのかも知れない横島が、


「アシュタロスに聞いてみるんなら、俺達全員を通してくれればお前を倒してやると伝えてくれないか。」


と言い放った、その表情を崩す事無しに。”伝”えられた通りであるなら魔神は人間の挑戦を受ける筈で
ありまた”同””期”無しの援軍が幾ら加わったところで魔神に取っては何の痛痒も感じない程度の事で
ある。また”同””期”を今使われたなら横島と戦う気の無い長姉を欠いては勝利出来ても二人が無事と
限らずそもそも自分達は美神令子を通す様に言われている。間違っても殺す訳には行かないのだ。手加減
しながら”同””期”した彼女に勝てるとは思えず虚偽であるとの前提に立って行動するよりもここでは
魔神の指示を仰ぐべきでは無いだろうか。一度憑かれたその考えは次第次第に大きくなり彼女の選択肢が
狭まっていく。人間達に動きが無い事も手伝い余裕を無くした彼女は塔の門前まで彼らを連れて来た後で
パピリオにその監視を任せて終に魔神に問い合わせようと塔に入っていく。
……暫くして出て来た彼女は全員に塔に入る様促した。その表情はまだ起きていない喪失の悲しみで曇り、
彼女を案じた横島が何か言おうとするがルシオラがそれを制した。横島は自分が彼女を慰められる立場に
はいないのではないかとの事に思い至り口を開いては別の事を言う。


「三人とも塔の外、出来ればこの異界空間から出て待っていてくれないか。」


最前までのベスパならばその言い分に従う事は無かったであろう。しかし彼女はパピリオを促し大人しく
出て行こうとする。驚くパピリオであるが彼女の表情に浮かぶ悲しみに逆らい難い何かを感じ然して抵抗
もしないまま一緒に出て行く。ルシオラは後を追う前に横島を一目見る。常ならば冗談で出来ている彼の
表情はしかし未だ真剣さを崩しはしない。自分だけが彼にこんな表情をさせられるという彼女自身愚にも
付かないと感じた思いを心の片隅に抱きつつ彼を見詰める。横島もまた視線だけで彼女に応じ周囲が恰も
いやまさに知らない者を見る目で見詰める中、一つ頷いて塔に振り返った。横島達は黙ったまま塔の中へ
歩を進めていく。それを見送ったルシオラは魔神の意志により塔の入り口が閉まるまでそこにいたが己が
信じた男の勝利を揺るぎない筈のその勝利をしかし祈らずにはおれずだがそのままそこに留まれば自身が
彼の邪魔になる為に先に行った姉妹の後を追って歩み去った。



……

尚ベスパとパピリオに知らされたのは未来の顛末だけで策の内容は知り得なかったのであるが未来を知る
横島達が絶大な自信を持っていたのでベスパは主の望みを第一として場を離れたのである。横島達が魔神
と戦っている最中にでもパピリオにも魔神の真の目的が話され”伝”えられた未来が本当の事であったと
姉二人から改めて伝えられたであろう。ルシオラは乞われるがままに人間が魔神に勝つ策の内容も伝えて
妹達をある意味得心させたかも知れない。主を失う事に内心思うところがあろうとてそれ自体が主の望み
であるなら最早彼女達には出来る事は無い。

……



三姉妹を反則技で懐柔して障害無しで魔神のもとに辿り着いた一行。魔神は人間が何をするのか興味深く
見守っている。彼は逆天号などでも分かる様に元来研究開発を得意とし故に人間達が創意工夫により己と
の間にある絶大な力量差を如何に縮めるかに興味を抱いたのである、人間が何をしようとて己には所詮は
届かぬとの思いも抱きつつ。彼の半ば期待半ば諦めが混じるその考えは絶対の余裕と共に隙を生んでいた。
実力差を一気に縮めて勝てる策を持っている以上その隙を見逃す人間達ではない。実力差が激しい相手に
その実力を出させないで勝つ事は立派な戦術である。

そこでほんの少し先の未来の横島達から託された必勝の策が、未だ語られていなかったその策がいよいよ
お目見えする。今まで彼が持ち得た事の無い多数の文珠はしかし同数ずつマリアを除いた一行に漏れなく
分けられていた。
何処と無く嫌な予感が走る魔神であったが目の前にいるのは恐竜と蟻と言っても良い程の差があるたかが
人間である。数に頼んだからといって問題にはならない筈だ。普通なら。しかし彼は己の直感をこそ重視
すべきであった。生半に互角の相手がいない彼であったから仕方がない事ではあるのだが、己の霊感すら
諦念混じりの狂おしい希望に彩られた冷静な思考でねじ伏せてしまう様では長生き出来ない。
尤も長生きしたくなど無かったので結果としてみればそれは全く正しい選択ではあったのだが。

案の定GS達……彼にとっては赤子より尚力ない存在……はされど彼には思いもよらなかった攻撃態勢に
入ったのである。



……

………

そう、それは、その策とは、反則である文珠の更なる反則を用いた技。全員が魔神を”模”したのである。
文珠は別段他人が使えない訳ではない。それは令子達が使った……あまつさえ文字を入れた……事で証明
されている。幾ら大量に使おうがそれが横島自身の同時使用に依るもので無ければその点も問題無い。
そして何より”模”の文珠だけ横島しか使えないなどと言う話は全く無い。それが未来で得た結論。
先程まで雑魚の群れであった集団が突如として魔神の集団と言って良い存在に変わる。

が、急な事態に焦る魔神を他所に意外と簡単に対処出来るかも知れないと思わせる形に事態は進んでいく。
某バトルマニアが自身愛着のある技で一気に決めようとしたのだ。


「今の俺の連続霊波砲を喰らって無事で済むと思うなよっ。」


戦える、戦えるぞーと言い出しかねぬ勢いで攻撃しそうになったその時、もし放たれていたのならば爆炎
に因って視界が遮られ勝負は全く分からなくなっていたであろうが、

ぽこっ。


「アホかーーー。相手を見失う攻撃をしてどうするんじゃーーーーー。」


即座にツッコミが入る。それは美神達でなく横島が行なったものであった。
……今や優位にも程がある立場に立っている彼らに暗雲が広がる。忘れていたかった落とし穴があった。

そう、ほんの少し先の未来の彼らも失念していた事である。彼らが所謂”時々アホ”な人種であると。

別段マザコン気味な彼はアホではない、普段は。だが今回は全力で戦える事に喜び過ぎて暴走仕掛けたと
いう訳だ。いやむしろシリアスが長く続く訳が無いと言うべきか。
しかし幸いにも時々アホな彼らであれ全員が一度にそうなる訳ではなく、しかも幸運な事には中心人物で
ある横島忠夫はボケに反応してツッコミを返す元関西人だった。美神など一部の者には怖くてそんな事は
そうそう出来ないのだが相手が親友であれば話は別だ。お互い頑丈な事も含めて良く知っているのだから。

お笑い民族関西人。ザ・関西ジーンを持つ者の面目躍如である。

尚、通常ではぽこっ等と言った生易しいツッコミで済む訳が無いのであるがこの場合今の自身の持つ力が
普段のそれではない事並びに専ら肉弾戦が得意な彼が離脱する事を横島は気にしていたのである。受ける
相手のダメージをも計算して行なうのが本来のツッコミでありそれが出来なければすなわちそれは相方の
気絶にも繋がり兼ねずお笑い自体成り立たないのだ。好きでお笑いやっとんのとちゃうわーとは彼自身が
本来経験する筈の未来で放つ台詞ではあるのだが好むと好まざるとに関わらず彼はおろか彼の周囲にいる
トップクラスのGS達は天は二物を与えずとばかりにその知識や能力に反して人格的に多少ばかり特徴が
あり集まれば観客を巻き込みかねないお笑い集団と化す者達なのであった。

しかし、何故この間に魔神は攻撃しなかったのであろうか。それは彼の意識を別の事柄が占拠していた事
によるものであり実はこの事件の根源に関する事由に因るある種の誘導があった為である。その時魔神は
俯き加減に何かを堪えながら小刻みに肩を奮わせ黙り込んでいた。


「…………………………………」


GS達にとっては戦闘中であれボケとツッコミはいつもの事なので条件反射の様に行なわれていたそれの
間であれども魔神から注意を逸らす事は無かったのであるが黙り込んでいる魔神に多少の不審を感じる。


「「……「???」……」」

「…………………………………み」

「「……「……み?」……」」

「み……み、みみみ認めん。認めんぞっ。」
「小癪なその小僧だけならまだしも、あんな髪だけでなく幸も薄そうな奴どころか影の薄い奴までがこの
 私をシミュレートするだとっ? そんな巫山戯た事など認めるものかーーー!!!!!」





……


………


…………


……………だいうちうのいしは、かのまじんにまで、”ときどきあほ”なやくわりをかしたのである。


…………


………


……





私が魔神であっても「私はまっぴらだ!」とでも言いたくなるかも知れないのだがこれこそこの世界独特
にして本来の法則……別の言い方をするならばお約束……でありそれは魔神と言えど逃れようの無いもの
でありたとえ幾千幾万もの時を経ていたとしても隙を見せればギャグ要員になるのがこの世界の常であり
運命いや言うなれば宿世なのである。

注釈しよう。最早述べるまでも無い事であろうがGS達の物語はシリアスとギャグが織り成すみっくちゅ
じゅーちゅ(まるしー何処ぞのお店)なのだ。この事こそ魔神が茶番劇に疲れた本当の理由であり元来は
お堅い筈の魔族最高指導者をしてまでハルマゲドンに関わる程の事態であった月の一件においてですらも
ゴルフの話題を出す程にもお気軽な存在としてしまっているもの且つギャグモードで横島が異常なまでの
耐久力回復力を示す要因である。尚、その事を身に染みて理解出来てしまったルシオラが百合子の教えを
乞う事になるのは余談である。横島君、思い通りに魔神に勝ったとしてもルシオラを失う事が無かったと
しても君を待っているのは所詮ギャグな日常なのだよと宇宙意志が独りごちたかどうかは別の話。

そしてギャグにはなり切れないなりたくも無い事でドロップアウトしてしまった魔神が激情を持て余して
いる一方でGS達は全く動じていなかった。髪が薄い影が薄いなど今更でありそれを口に出されてみても
それで取り乱す事も無く却って怒りに依って該当する誰かさん達のパワーが増しただけの話である。

……だが私はここで魔神の心境に同情せざるを得ない。考えても見て欲しい。真剣になりさえすれば一見
主人公顔が出来る横島だけならともかく、女性は元より髪の薄い神父や妖怪に間違えられた虎男らにさえ
”模”されたのだ。彼の美意識がその現実を受け入れられなかろうとそれを責める事が出来ようか。

尤もこの様な事が無かったにしろ恐竜対蟻だったものが恐竜対恐竜の大群と化した時点で勝負は決まって
いた事はほぼ間違いないのであるが。

戦いはこれが世界の命運を賭けた一大決戦なのかこれで良いのか本当にと疑いたくなる程度には一方的な
様相を見せて来た。いやそのものずばり一方的になった。皆同じ存在を”模”している為か台詞が被る。


「「…「さあ、極楽へ行かせてやる(わ)ッ!!」…」」


冒頭から嫌になる程繰り返して示した程あったその力の差は、しかし反則である文珠の更なる反則技的な
使用方法によって呆気なく覆されたのである。ほんの少し先の未来の横島が戦いの最中に考えた様に本人
自身のフルパワーを籠めた一撃を食らうだけでも倒されそうであったものを、それが何人分も加えられた
のだ。耐えられる訳も無くその時人界で圧倒的なまでの力を誇っていた最強の魔神は自分自身の力を同時
に大量にぶつけられいとも容易くその命の火を消した……各々から一撃を与えられたただそれだけで。
或いは誰か一人になら反撃出来たかも知れないが相手は自分と同じ力を持った者の集団である。防御だけ
でも手一杯を通り越しておりタコ殴りという結果を逃れられはしなかったのだ。マリアを狙うなど以ての
外である。その様な隙を見せれば無防備で全身に一撃を喰らうだけの事なのだから。故に彼には対処法が
無かった。
この事から今回の事件は「魔神タコ殴り事件」と呼ばれ人界のみならず神魔にも大きなショックを与えて
しまったのである。

その際出番が少なかった事やそもそも自らが主役とは言い切れなかった事などに憤慨したのかとある女性
の一撃は同じ力量である筈の他者より明らかに強かったというのがその場にいた者達が後に漏らした感想
ではあるが、その影に隠れてしまったものの彼女以外の若干名程の一撃もまた他より強かったらしい。
無論愛する女の為に全てを賭けた漢の力はそれに劣る事が無かったのではあるが。

……



その攻防には有史以来人界で生じた最高の力が籠められていたのだが戦いはしかし一瞬で終了した。
尚、魔神の作った異界空間内であった事が幸いし外部並びに三姉妹の待つ場所にも大きな影響は無かった。

横島達の策の通りシミュレートしていた対象が倒れる前に、ダメージが返る前に”模”を解いたのならば
”模”していた彼らには何も起きない。仮にその一撃で魔神が倒れなかったとしても文珠はまだまだある。
文珠の数に任せ”模”して一撃離脱を行ない即座に”模”を解く。それを繰り返せば倒せない道理が無い
のである。未来においてパピリオを相手に西条が指揮を執り実行した作戦の一つの応用であるが実際には
そこまでは必要無かったのである。しかし仮に最初の一撃を凌いでいたところでタコ殴りの結末に変化は
無かったであろう。大体にして巨大な力に驕る者はあり得ない筈の油断で失敗するものだ。魔神にとって
計算済みかも知れない”模”文珠を使える者がしかし一人だけと言う先入観、文珠は別段制作者しか使え
ない訳ではないと言う事実を油断によって失念させられていた事が敗因だろう。尤もかの魔神は倒される
事をこそ望んでいたのだが。
尚”模”を意識的に解くなど出来るのかであるが術者の意志で文珠の効果が解けないのであればそもそも
同期合体など術者が自滅するだけの技でありその同期の訓練が出来ていた以上意識的に文珠の効果を解く
事は可能なのである。余談であるが術者が文珠を二個同時に使用出来る様にさえなっていたなら拮抗する
力量を持つ霊能者の誰と誰の組み合わせでも同期合体が可能である事も忘れてはならない。
そこに適性があり組み合わせによってその効果に変化があろうとも。



……

戦いを一方的な勝利で終えた彼らは一人を除き行き場の無い三姉妹を伴い大船団に送られ凱旋したのだ。

その後のルシオラ達三姉妹であるが、人界においては本人達の要望にぴたりと合わせた自称貴族の何処に
それ程バイタリティがあったのかと思うがまでの獅子奮迅の働きで全員条件付き放霊となった。
ルシオラらが核ミサイルを反転させた訳でも無いのに条件付きであれ放霊にまで持っていった手腕を他で
活かして欲しいところではあるのだが今回の作戦は実質未来の彼が立てたといって過言ではなく賞賛する
事はあれそのややもすれば行き過ぎであると評せざるを得ない談判の内容に異を唱える者はいない。

ルシオラはオカルトGメン等の働きかけにて法的に横島忠夫の保護下に置くとの名目でオカルトGメンの
経費でマンションが購入され同時に両親への報告から招待状までもが自称貴族の手により事後承諾の形で
なし崩し的に為されてしまったのだ。未来で詰めを誤った反省がしっかり活かされたらしい。
ポイントは本人同士が碌に恋愛を知らないとはいえ実際愛し合っており善意の後押しと取れる事だった。
住居も提供し後述する様に収入まで面倒を見てくれた事から最早横島が彼を悪く思える訳が無い。
お前って実はいー奴だったんだな、今まで済まんかったとの彼の台詞がそれを雄弁に物語っている。
悪びれもせずキラリと歯を光らせて、勿論さ。今までは今まで。これからは大事な戦友さと返したのには
最早大したものだと言うしかない。
当然ながら反対しようとした者達がいたのだが用意されていた理屈付けが為された説明を前に退かざるを
得なかったのである。またその件を知りバイト先での待遇が変わる事を怖れた横島を美智恵と共に誘導し、
オカルトGメン仮職員……正式採用は高校卒業後……として迎え同時にルシオラも取り込む事に成功した
彼はどんな相手にも互角以上に力勝負が出来る未来の主力……実際は即戦力ともいえる……を引き入れた
事でその実績と名声を更に高め、その上美神令子に対するアプローチ……戦力が減った事務所への応援を
行なうとの形……も抜かる事は無く公私ともに幸福と言って良い未来への足掛かりを得たのである。
残念ながら、ちくしょー!!何だかとてもちくしょー!!と言う様な台詞が最も良く似合う男は既に己の
幸せを掴んだので彼を悪く言う者はいない。
しかし、しかしである。百合子に弟子入りしてしまったルシオラも美神令子と言う存在もまた一筋縄では
行かない女達である。彼らの将来が本当に幸せなのかは誰にも分からない。
余談であるが息子にいきなり婚約者が出来た上にしかもそれが人間ではない事をそれも他人からの連絡で
知った両親はオカルトGメンの実動部隊たり得る実力を持つその使者の前で彼がその後配置換えを望んだ
程の何かを纏っていた……擬音もさぞ物凄い事になっていただろう……らしいが事情を詳細に且つ西条の
都合が良い様に……横島に取っても都合が良いのだが……説明され敵であった者の命を助ける為でもあり
また結果としてその恋愛が世界を救ったと知った両親はポルターガイストが裸足で逃げ出しそうな状態を
即座に消し去ったのであった。無論その両親はその後事実関係を確認したのだが多少の歪曲はあれ使者の
連絡が全くの事実であると知り息子の幸せを祝福する事にしたのである。

ベスパとパピリオは出来れば姉妹揃って過ごしたいとの思いもあったのだが同時に姉の幸せの邪魔をする
様な事もしたくないと大人しくオカルトGメンの奨めによって妙神山再建に手を貸す事となり、その後は
神魔双方が駐留する妙神山預かりとなる事が決定した。この決定は勿論妙神山側の意向も確認した上での
事であり、主のいない魔界には行きたくなくしかし人界にはまだ居場所が無い彼女達がせめて姉妹揃って
過ごしたい……さっさと自分の幸せを見つけ手助けもあって一気に突っ走った長姉は無理でも自分達だけ
でも一緒に……との思いを適えるべく二人が揃っても対抗出来る妙神山へ預けられる事で合意を見た。
人界に取ってはある意味厄介払いなのだが彼女達も別段人界の存在には何も思う所が無かった為、お互い
様である。勿論もうすぐ長姉の伴侶となる人物とその関係者に対してだけは多少違うであろうが。

三姉妹の寿命の問題が未来の通りドクターカオス協力によるオカルトGメンにて解決された事、西条達の
手により魔神戦における横島の活躍の全てが報道された事も追加しておくべきであろう。西条達は敢えて
全てを報道する事で愛故に魔神を倒し得た漢の物語……スパイとして潜入した敵方で逢った女性達の寿命
が一年しか無かった事に義憤を覚え戦いの中で惹かれ合ったその中の一人の為前人未到の巨大な壁である
魔神をすら倒す事を決意して己の能力を振り絞り頼り甲斐のある仲間達の手助けもあり遂には魔神を倒し
彼女達を運命から解き放ち同時に世界も救った漢の物語……を美化され易く伝えて三姉妹への風当たりを
少なくして尚且つその様な英雄がオカルトGメンに所属する事になるとその影響力の強さをアピールして、
更には今回の法律違反を全て愛故にで片付け世論を味方に付ける事に成功したのである。尚横島は英雄と
認知されたのであるが彼女持ちである事も報道されておりその彼女は義母となる人物の薫陶を受け遣り手
と化しつつある為彼が浮かれて騒動を起こす事は手遅れになる前に防止されその人柄が危険では無い事も
改めて知られ、何よりその彼らを己の組織に所属させた西条と美智恵の評価は鰻登りに上がったのである。
今後のオカルトGメンの活動は発言力の増大も伴いさぞ楽になる事であろう。

そうそう、横島達へ今回の働きに応じた報奨金が三界の有力者から贈られた事も付記しておく。そうでも
しなければ未だ高校生である彼に女を養える訳が無いのであり世界を魔神から救った救世主に対して当面
の生活費……とは言え数年は遊んで暮らせる程にはあったのだが……だけで報奨となるなら安いものだ。
尚、美智恵は残念ながら床に伏していた為に最初に窮地を救い皆を纏め逆天号にあわや撃沈寸前まで打撃
を与えた事しか評価されなかったのであるが、西条の提案を受け横島をオカルトGメンに引き込んだ功績
もあり誉れ高きオカルトGメンの隊長との印象に変わりはない。策士として大成したと思える西条になら
娘を任せても良いという判断も働いての横島引き抜きであり事後の事まで考えての行動を取る辺りやはり
侮れない存在である。尚、西条と美智恵は公務員なので金一封以外の報奨は無い。
ドクターカオスなど金欠に苦しむ者達にも報奨金が支払われた事は言うまでも無く、唐巣神父に至っては
未来と異なり数年後にも協会会長になるのではとの噂もある。実情はこれだけ個性の強い者達に影響力を
持つ良識派に一刻も早く抑制力になって欲しいとの思いもあったのだが。仲間達全員に報奨があった事を
お互いに喜びつつ留守を守った魔鈴にも報奨があった事で更に舞い上がった彼らが魔法料理魔鈴にて一大
宴会を開いたのは言うまでもない。おキヌはその際自棄酒を煽り轟沈したのだが翌日からすっぱりと気を
入れ換えて新しい恋を探し始めたそうである。流石に長年幽霊をして来ただけの事はあり彼女もこの連中
に引けを取らない程には逞しかった。後に近畿剛一こと横島の幼馴染み銀ちゃんに仕事で遭った際、横島
の知人であるとの共通事項を見出して積極的にアプローチしたとかしないとか。
元来なら義務も伴うところではあるが彼らを下手に刺激したなら何が起きるか分からない為権利を与える
事も無しに報奨金だけで全てを済まそうとした辺りは皆莫迦ではなかった証明であろう。発言力それ自体
は無視する事が出来なくなったのではあるが。
余談ではあるが横島、ピート、タイガーが凱旋後揃って登校した際にピートだけでなく、横島、タイガー
もヒャクメから聞いた真相を美智恵が放送前に彼らに親しい者達にリークした事が原因で大歓声によって
迎えられた事が実は彼らにとって一番の報酬であったのかも知れない。
尚、不測の事態に備えて文珠は常に必要と思われる以上にストックする様になった為、すっかり信用して
しまった西条やその恩師である美智恵、更にはその師匠である唐巣神父の教えを得て未来でそうであった
よりも横島のGSとしての能力は上がっている事も付記しておく。ルシオラがいる為に煩悩が満たされて
セクハラも無くなり文珠の生成スピードが異様に上がったとの好材料もあった。
未来を見てしまった所為か人によってはあれでは胃が痛くなるだろうと評したくなる程に横島べったりと
化してしまったルシオラが常に側にいる為……実は百合子の教育により浮気性の男から目を離しては駄目
だと諭された為でもあるが……人類の切り札となった彼の身に危険が及ぶ様な事はまず考えられない。
雪之丞、タイガー共にお付き合いしている女性に改めて惚れ直された上に親友が認められその彼と親友で
ある事をもって更に惚れ直されるとの言う事無しの状況となり、すっぱりと新しい恋を求めようと思考を
切り替えた氷室キヌなど結局のところ全員が幸せへの道を進む事となったのである。

ところで西条が何故未来を踏まえて確実な手を打てたかであるが……
最初の”伝”の文珠が”伝”えた内容は横島が選択したものではなくて単に横島とその協力者らの事件に
関する記憶がほぼ全て伝えられたのだ。内容を細かく選択して伝える程には彼は熟達していなかった事が
原因の一つであり、同時に西条らが己の記憶も参考になると積極的に”伝”の文珠に記憶を籠めた事から
来るものである。通常の”伝”ならば横島只一人の記憶でも容量一杯であったかも知れないが文珠は装置
の補助により普段の幾倍いや数十倍、下手をすれば数百倍以上の能力を持っていたのだ。故に横島自身が
碌に覚えていない事でも他人の視点から補完されていたのでより詳しい情報となっていたのである。
尚、協力者のうちカオスだけは未来を知っても意味が無い、道は自分自身で作ってこそ価値があるという
言葉と共に伝言に参加しなかった事を追加しておく。これは彼自身の主義に因るものではあるのだろうが
彼がそうしなくとも十分な情報が過去の仲間に伝わる事が分かっていなかったのなら対応はまた違ったで
あろう。

最後に神託を告げて現代に神がいると改めて人界の権力者達に示したヒャクメであるが、彼女の神である
が故の影響力が無ければ船団を送り出す決定はもう少し遅くなっていたであろうし、それ故に船内で策の
詳細を吟味して間違いなく策を実行出来るがまでにその策を確認、意思統一出来はしなかったかも知れず、
彼女は十分に後衛或いは見守る者としての役割を果たしたと言えよう。これで策が彼女自身の発案である
ならば昇進は間違い無しなのだが、彼女が望んだのは配置換えすなわち妙神山に常駐する事であった。
それは今回の事件で魔神ですら容易に打倒してしまう程の存在である事が明らかとなった一部のGS達が
余計な事を考えたりはしないと冥界の者達を安心させる為の行動であり……何せ心を覗く事が出来る彼女
程監視が似合う者はいないであろうから……そうする事でGS達自身に要らぬ危害が及ばない様にすると
いう彼女の慈愛の現れであった。けして決してからかい甲斐のある親友の小竜姫で楽しむ為でも無ければ
お墨付きを貰って好きな時に覗き見が出来る事を狙った訳ではないのだ。私は彼女を信じている。

……

……

……

人類には未だ分からない原理で映された映像とともに指示された通りに延々と一連の事件を再現していた
彼は、一息ついて再現が終わった事を示した。しかし相変わらず居心地の悪さに掛けては三界有数である
と自信を持って答えられる部屋いや者達がいる場所である。

……「以上が横島忠夫他精鋭GS達に因る「魔神タコ殴り事件」における本人らの証言をもとに徹底して
検証を進めた仔細の再現であります。各自の心情につきましては協力者により確認はしておりますが彼女
とて手軽に心を覗く事は出来ないが故に、小官と彼女の推測が含まれる事を補足事項としてここにご報告
致します。
最後に、結果としてより少ない被害で世界を守った横島忠夫らGS及びルシオラら三姉妹よりかの魔神の
魂の牢獄からの離脱を願い出た嘆願が人界にては世界GS本部並びにオカルトGメン経由で、同じく神界、
魔界の人界駐留者経由でも届いている事を重ねてご報告しまして小官の任務を完了致します。」

……と、言うだけ言った彼は神族最高指導者……魔族最高指導者も同席していたのだが思うところがある
のか無言であった。その無言に嫌な予感を感じた彼は正直に報告するんじゃなかったと後悔したらしいが
それは後の祭りと言うものである……が了承の印に手を挙げた事を合図に極度に緊張したまま即座にその
場を瞬間移動で辞したのであった。
余談ではあるが別段彼に対するお咎めは無かった。
最高指導者達の決定は、誰にとっても喜ばしいものであったとか。












……すっかり忘れられた感のある某演算兵鬼であるが、文珠によって三姉妹の待つ場所へと送られており
無事であった事を追加しておくべきであろう。


(モンジュは反則 完)




おまけのダイジェスト(展開予想との観点からはこれだけで十分?)
・横島達は南極戦で未来から送られて来た大量の文珠を使い全員が魔神を”模”してタコ殴りで滅殺した。

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