ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(25)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 6/13)

「・・・うふふ・・・あはは・・・はははは!!」
ピートの気配を有する魔力をまとった自分の姿を見て、唖然としているエミとタイガーの反応に満足したのか、加奈江は小枝の上で踊るようにくるりと一回転し、口と目を開き、ぽかんとした表情でこちらを見ているエミに向けて、大声で笑った。
「あ・・・あんた・・・!!」
その、気持ちの悪い哄笑で我に返ったエミは、加奈江を睨み付けると尋ねた。
「あんた・・・その、魔力・・・」
「ふふ・・・分かるでしょう?『彼』のおかげで授かった力よ」
笑いながら手を振る加奈江の動きに合わせて、周囲の空気がふわりと揺らめく。
「私は彼と同じになったのよ。『私達』は、永遠を手に入れたの!!」
「何ワケのわかんないこと言ってるワケ!?」
ブーメランを構え、霊力を高めると、加奈江に飛びかかる。
「タイガー!!こいつがピートの誘拐犯よ!!捕まえなさいっ!!」
「合点!!」
しばし唖然としていたタイガーも、エミのその指示で我に返った。
「虎よ!!虎よ!!ぬばたまの夜に燦爛と燃えて・・・!!」
カラスに引っ掻き回されてごちゃごちゃになった部屋の中から、素早く笛を見つけたエミの、笛と呪文との魔力を受けて全能力を解放され、強面(こわもて)な印象はそのままに、大きな人虎へと変じたタイガーは、加奈江に向かって、この状態でこそ放てる最も強烈な精神波を放った。
「ウオオオオーッ!!」
ペンキをぶちまけたような感じで、辺りが一瞬、完全な闇に包まれたかと思うと、瞬きするかしないかの間に、周囲の光景が鬱蒼とした熱帯のジャングルに変わる。
タイガーの強烈な精神感応力による幻覚だ。
「ガルルルルッ!!」
果てしなく森が続く幻覚空間の中、巨大な虎に変ずると、加奈江に飛び掛る。
目くらましと言ってしまえばそれまでだが、タイガーが作り出す幻覚は並外れたリアリティーを持っており、この空間で起こった事は、全てが現実のように認識される。これは幻覚だという百パーセントの確信を持たないと、幻覚の中で殺されかねない。能力の制御に失敗しない限り、彼は、この空間では無敵なのだ。
しかし−−−
「フン・・・」
「!?」
幻覚の中で本物の虎となったタイガーが、加奈江に飛びついて押さえ込もうとした、その、寸前。
幻覚のジャングルを見回し、小ばかにするように鼻で笑うと加奈江は、自分の方に向かってくるタイガーを見つめた。
「!!しまっ・・・、タイガー!!幻覚を解いて!!」
キ、と、その瞳が猫のように光ったのを見て、エミがハッと声をあげる。
エビル・アイ。
吸血鬼が持つ、魔性の瞳。
人には見えないものを見つけ、人心を惑わせる、魔物の目。
「グアアアア!!」
幻覚空間を作り出している自分の精神にエビル・アイで直接干渉され、その瞳から発した魔力で、タイガーが作り出した幻覚は、瞬時に打ち砕かれた。
精神に干渉する力はタイガーの方が強いとしても、いかんせん、彼の能力制御は不安定である。エミが施した封印によって、微妙にバランスが保たれているところに魔力を叩き込まれて、タイガーは、加奈江から発された力をまともに受けた。
「邪魔よ。どきなさい」
「ぐっ!?」
幻覚空間を打ち砕かれると同時に、精神に感じた衝撃で倒れていたところを、スレンダーな見た目からは想像も出来ない怪力で、窓の外に投げ飛ばされる。
「タイガー!!」
あの頑丈さなら大抵の事は平気だろうが、加奈江がタイガーを投げ飛ばした、そのあまりの勢いを見て呼びかける。しかし、窓に駆け寄ろうとしたエミの前には、すでに、加奈江が立ち塞がっていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙したまま、しばしの対峙。
「・・・あんた。前より性格悪くなったんじゃない?」
その沈黙を先に破ったのは、エミだった。
「貴方には負けるわ。私は二股かけられるほど太い根性してませんから」
「あんたもすごいじゃない。誘拐した上に監禁するなんて根暗で変質的な事、あたしには真似できないワケ」
「そりゃそうよ。私は一途なだけよ。貴方と一緒にされちゃたまらないわ」
「モノは言い様ねえ。まあ、あたしもアンタと一緒にされるなんて、死んでも嫌よ」
「そうね。だから・・・」
にこにこと笑いながら、言葉の応酬に応じていた加奈江の目にふと、殺気のこもった光が灯る。
それと同時にエミも、ブーメランを大きく構えて数歩後ろに下がり、間合いをとっていた。
「・・・貴方は・・・殺します!!」
ワンピースの、ほとんど足首まで覆う長いスカートの裾を、黒い翼のようにはためかせて、加奈江が飛び掛ってくる。
自分の両肩を掴もうと伸びてきた手をブーメランで遮ると、それによって一瞬動きが止まった加奈江の腹を、エミは、片足で突き飛ばすように蹴りつけた。
魔物と化した体とは言え、ハイヒールで思い切り蹴られたのは少しこたえたのか、腹を庇いながら起き上がった加奈江は、後ろに数歩、前に数歩と小刻みに足を動かしながら、じりじりと間合いを推し量っている。
エミの方も、ブーメランを構えて姿勢を低く、今度は自分から攻撃出来る体勢を整えると、霊力を高めて、加奈江をキッと睨み付けた。

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