ザ・グレート・展開予測ショー

モンジュは反則 (3)


投稿者名:Nar9912
投稿日時:(05/ 8/ 5)

個性の強い連中が協同作業した割には何のトラブルも無く程なく装置は出来上がった。
トラブルの無い製作などあるものかと言う無かれ。決して不可能では無い事だ。
その完成は神魔からも人間の権力者から見ても使い道が杳として知れぬ道楽の様にも思える形で、である。
特異点を内在したそれは別段ブラックホールの如き影響を周囲へ及ぼせる程の出力がある訳で無く、仮に
その行動が余人の知るところとなっていたとしても、横島達が訳の分からない製作に夢中になって不穏な
行動に出ないという推移は安心出来る材料であった。
横島達を良く知る者からすれば大人しく且つ協同で何かを行なっている事こそ限り無く不穏な事であると
分かるのであるが、判断する権力者は横島達についてGS協会やオカルトGメンなど組織が纏めた戦績で
しか知らなかった。これは数々の事件を握り潰して来た美神の隠れたファインプレーといえなくもない。
また彼らに関して正しい判断基準を持っているであろうと思われる者達、すなわち美神親子や氷室キヌに
判断を任せたとしても彼女らが辿り着いた推論が正しければ正しい程素直に伝える訳が無かったのだ。
勿論推論が正しくなければ彼女らの目から見ても半端な玩具としか見えない物でもある。
……六道婦人は別段彼と然したる関係も無く、且つ、その行動が不審なものであると推測出来る程度には
彼や彼らの事を知ってはいたが、同時に彼らを表立って敵に回せば自らが持つ全ての力を尽くしても彼ら
の報復には耐えられないであろう……テロリズムとそれを防ぐ側とでどちらが少ない力で同程度の攻撃が
可能かを思えば魔神相手に立ち回った彼らの標的となる行為が如何に馬鹿げたものかは自明である……事
と表立ってではなくリークするだけであれどこの状況で権力者などが彼らに手出しする事があればそれが
誰からの情報に因るものなのかは明白であるとの判断、一人娘である冥子がお友達を排除する様な行為を
認める訳が無い上に本人が母の仕業と気付く事は無くとも親友である美神令子や小笠原エミらからそれを
指摘されれば呆気なく信じるであろうとの判断、何より彼女自身横島の不幸と一言で片付けるにはあまり
に不遇な現状を知っているからこそ動く事はなかったのである。

故に明確な証拠も無しに世界を守った者達に手を出す事など出来ない人界の者が妨害或いは阻止しようと
介入する事は無かった。

同時に、彼らの行動に最も安心した神魔が横島に近しい斉天大聖、天龍童子、小竜姫、ワルキューレらで
あった事は最早語るまでもない。彼女達は或いは……いや、半ば以上その発明品は彼らの目的を達成する
為の物であると確信してはいたのであろうがいざとなれば厳刑を受ける覚悟でその情報を大した問題では
無いとする根拠を作り出して……実際は作る必要もなく彼女達が調べ得た内容をそのまま報告するだけで
危惧する物ではないとの結論に誘導されるのだが……最上層部に知らせる準備も出来ていた。
何故危惧する物では無いと判断し得るかとなると装置単独では特別な事は出来ないからである。
単に霊的な出力を高める物の一種であって時間を多少操る物と見える。しかしそれは人一人を神魔の禁を
破って過去へと時間移動させ得る程の出力は到底得られないのだ。
その目的が横島の時間移動にあると見たのならば完成していない発明としか思えない出力であるとの結果
しか出ず実際出力に関してはその通りなのである。
霊力を高める事と時間を多少操れる事。
そこから類推出来る効果は文珠に籠め得る霊力をより高める事を始めとした各人の霊的出力向上であって
また美神美智恵が逆天号を相手に行なった時間のずれを利用した攻撃の再現である。
それでも尚魔神には到底及ばないのでこの見方でもまた完成品とは思えない。
文珠との組み合わせに思い当たったとしてもそれでも人一人を過去に跳ばす為には純粋に出力不足である。

唯二人その内容を正確に知る事が可能だった者達はやはり二人とも事実を口に出さなかった……二人とは
卓越した情報処理能力を持った神族調査官であるヒャクメと演算兵鬼土偶羅魔具羅である。
前者は上層部に真実を告げる程に人情を知らぬ訳ではなく……調査官としては甘いだけとも言えるが……
更に何故かその気になれば心の中を覗けるすなわちその気にならなければ覗けはしない彼女の思考へ勝手
に現れた彼らの計画を視た際に己が魔神を倒す必勝の策を神託として授けるという美味しい立場につける
事ですっかり好い気になった事も加味されて軽い気持ちで告げ口してしまう事を防止されたのだ、文珠や
精神感応を用いた誰かさん達の思惑通り。
いやこれも彼女の優しさであり彼らはそれにこそ頼ったのかも知れない。何と言っても彼女は神様なので
あるのだから。役立たずじゃないのね〜等と浮かれきった声が聞こえる様であるが気の所為である。
また後者は魔神にこそ忠誠を誓っていた兵鬼であり、上層部に義理はないどころか横島にこそ義理がある
存在だ。一時的にとは言えど部下であり部下の恋人でもあった横島を憎からず思っているのだ、今では。
何より彼にとって第一にして究極の存在理由であった魔神の真の望みを横島が果たしてくれたのだから。
彼は知っていた。神魔族上層部や人界の有力者達が懸念するのは魔神が勝利してしまう可能性であり魔神
に対して必勝の策があるのならすなわち世界が壊れる等被害が及ぶ事が無いとの前提があれば誰も咎めは
しないという事を。詰まりはその時点で黙りを決め込んだとしても責を負う事態にならない事を。
更に魔神についても南極で破れたところで現状詰まりはその時点における未来の状況を伝えられれば望み
は叶うであろう事を。
彼にとってルシオラは部下であった者であり横島とてそうであった。何より大事な目的である魔神の望み
をおけば部下や親しかった存在の便宜を図ったとて誰が彼を責められようか。自らが不利益を背負う事も
無く全体の不利益にもならぬならばそれすなわち汝の為したい様に為すが良いと来たものである。けして
決して潜伏中に読んでみた何処やらの物語における邪神になったかの様な気分に浸りたかった訳ではなく
全てを慮った結果演算され導き出された結論に従っただけの事である、きっと。

神魔族上層部は小竜姫達の目論見通り目的が不明であるものの問題視するまでの事ではないと結論づける
であろう、仮に知ったところで。その時代、神魔はデタントに入っておりそれでなくとも緩衝地帯であり
捨て去るには惜しいが為デタントが発生した原因でもある世界である人界へおいそれと干渉する事は無く、
力を持った人物……それが神魔人妖の何者であれ……の時間移動という反則が為に再び三界が乱れる事の
無い限りはより不干渉を強める流れが成立しつつあるのだ。それはそうだろう、魔神が核ジャックを実行
した事は人界の存在に人界の者には理解出来ない程に強大な力を持っている存在すなわち神魔への脅威を
感じさせており、緩衝役となり得たかも知れないGS達霊能者もまた精鋭であれど一隻の船に乗っていた
十名程度のしかも全員総出ではないその攻撃で海を埋め尽くした一大船団が一方的に敗れてしまっている
以上門外漢に取っては脅威という意味では神魔とさして変わらぬ存在となっている。
この時点においては神だからと無条件に信用する無邪気な者は少ない、いやその様な者はそも権力の座に
就けぬであろう。
そして間に入れる筈であった選び抜かれた有資格者であるGS達もまた人の法を遵守する存在とは限らぬ
事が明らかとなってしまった……いやむしろGSの中に人の法を遵守しない存在がいた事は公然の秘密で
あったのではあるが日本GS協会や世界GS本部、オカルトGメンなど行き過ぎを抑止する組織があった
事がこれまでは安心感を与えていたのだ。それが今や霊能を持つ者は脅威であるとの図式が成立している。
その様な時勢で下手に刺激する訳には行かない。
まただからこそ不穏な動きがあれば人自身が抑止するだろうとの楽観的な見方が為されるのだ。
無論、それは神魔が舐めて掛かっている人間達の各々が持った全知を集約させての誤魔化しに因るところ
も大きかったのであろう。神魔族でも最上層にいる者達は或いは全て分かっていたのかも知れないのだが、
知っていたならば尚介入する理由が無い。彼らの策は神界も魔界も人界もどの世界も乱しはしない。その
上であの事件で最大の功労者であり且つ犠牲者でもある者達が救われるのである。神魔特にその上層部は
人の如き情など持たぬ訳ではなく情より秩序を優先しているだけであり決して恩知らずでも無ければ突出
して来た個人を潰そうなどと考える訳もなく出来るならば正当に報いたいとすら考えているのである。
彼らを縛り付ける宇宙意志により直接的な援助は何一つ出来はしない。と言って制約の少ない下層の神魔
に出来る報償など受け取るか否かも危ぶまれ、受け取ったにしろそれは何かしなければならないとの強迫
観念に憑かれた己達の自己満足を満たす事を思い至った彼らが不承不承誰も傷付けない様にそうするだけ
では無いかとの懸念を持ってさえいたのである……彼らがその考えに値する者達かはともかく。
それ故何も出来なかった神魔族最上層部の者達は企みを知ったとしても動く訳が無かった。更に上層部が
動かない以上はデタントの流れに逆らわない様改めて徹底された中で人界で少しばかり意味不明な製作物
が作られていると気付いたとしても動く事はなかったのだ。
……斯くして、誰も、誰一人として、横島達を抑える事は無かったのである。
誰も言葉に出しはしなかったのだが、横島の知り合い達は皆彼にこのような結末を押しつける結果になる
とは思いもしなかった上、自分勝手で欲望を抑える事すら碌に出来ない臆病ながら自己否定と共に自尊心
の強いあの彼が文句一つ言わずにどんな些細な事であれ手を打とうと邁進する姿を知り、立場上却って彼
の状況を悪くしてしまう様な事を除けば、どんな事をしてでも協力しなければとの思いに突き動かされて
おり、横島自身も自分の我が儘の為に尽力してくれる仲間達に心から感謝して甘えるべき所は甘える事を
これまでの自分がそうして来た事を今更乍らに思い出し頼っていたのである。
士気はまさに最高潮にあった。或いは魔神との戦いよりもテンションは高かったかも知れない。

さて、時間を遡って何かを為す準備は整いつつある。それなら後は逆行可能である公算が高い文珠に何を
籠めるかである。まず”転””送”する為に二個は必須である。次に今の状況を伝える”伝”もまた必須。
”転””送”だけでは予定通りの時間と場所に送れるのかと不安が無い訳ではないのであるが、その点は
仲間の作った装置を信頼する事にした。どうやら文珠の時間移動を可能とするだけではなく、横島達には
説明されても理屈がまるで分からなかったのであるが、好きなタイミングで好きな場所……但し、術者が
知るそれに限定されるのであるが……に送り込む事が出来るとの事。”転””送”無しでは出力不足な点
があるのだが、文珠は人界に駐留出来る者としては魔界最高級の実力を持つワルキューレにして、どんな
魔族でも倒す事が出来ると太鼓判を押す程の存在である。集束された霊力自体はさほど足しにはなる事が
無くとも籠められた文字の起こす奇跡は基となった霊力を遙かに上回る事すら出来るのだ。
故に後は朧気に浮かぶ断片から成る必勝の策を固めるだけである。
そして西条やマリア……カオスも……らが苦心惨憺して完璧を実現した魔法科学の結晶を作り出す間にも
横島は考え続けていた。
”伝”の文珠で起きた事を伝えるのは良い。タイミングとしては船団に囲まれたあの時が良いだろう。
……この時点で横島はおろか関わったGS達の誰しも船団が受けるダメージについては全く考慮に入れて
いない。船団にはつくづく御愁傷様と言うしかなさそうである。
横島は装置の製作を提案された時から暖めて来た必勝の策の欠片を仲間達と共に詰めていき遂にはそれを
揺るがぬものとして完成させたのである。即興で動く事が得意である若年層を上手く大人達がリードした
結果であり大人達の手柄である事も間違いないのだがやはりその策は反則的万能アイテム文珠と使い手で
ある横島無しには成立しないものであった。

物事を行なうに至っては古来より形から入るというアプローチがある。必ずしも正しいと断言出来ないが
間違いであるともまた断言出来ないその手法に則り、この行動を起こしたその最初からプロジェクト名が
付けらていたのであった。
事の始めからテンションが高かった者達だ。思いつきで出たプロジェクト名決定にも乗りに乗っていた。
そう如何に真剣であろうと彼らが終始事に対して真面目に挑む方がおかしいのである。

第一案はプロジェクト・ポチであった。何時でも遊びを忘れない悪友達が一時期の彼の呼称を持ち出した
のである。当然ながら横島と一部の大人が即座に反対して廃案となったのではあるが。
第二案はプロジェクト・×(ペケ)である。反対した大人である唐巣が某有名番組から取ったその呼称は
しかしそのセンスの無さからやはり多くの反対を受け廃案となった。
最終案は既に多くがもう何でも良いと呼称決定に飽きが来ていた時に出された。どうやら狙っていた様で
タイミングを計る辺りは無駄に有能な自称貴族の案である。そして決まったプロジェクト名、

”ヒャクメ様が視てる…心の中から前世まで”(呼称発案:西条輝彦)

が発動されるのである。尚この呼称に神託を伝えるヒャクメの個人名が採用された事は分かるとしてその
響きに聞き覚えがあった某虎男がお付き合いしている女性に読まされた少女小説のタイトルそっくりとの
理解に至り英国にいた時はやたらともてていたと聞く西条の女性を知る為の行動の一環なのか趣味なのか
はたまた……と一晩考えたのは別の話。

………………

…………

………

……



そして今未来において皆で作り上げたプロジェクトがいよいよ実行されているのである。


   (次回完結)

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