ザ・グレート・展開予測ショー

GS新時代 【鉄】 其の五 4


投稿者名:ヤタ烏
投稿日時:(05/ 8/ 5)



生徒指導室・・・・そこは全学生が最もお世話になりたくない無い場所である。
なぜならそこに呼び出される生徒は、大抵成績不振だったり、素行不良だったりするわけで・・・
そこに呼び出されること自体即ち、何かやらかしたということだった。


「俺、何かした?」


固いパイプ椅子に腰掛け、無機質な白い机を前に汰壱はぼやいた。
観葉植物が部屋の隅に置かれ、テレビとDVDデッキが置かれている以外は、何んの色気も無いこの部屋は
一見すれば取調室のようにも見える。

まあ、本来は何かやらかした生徒が来る場所なので、そういう意味ではあながち間違いでもないだろうが。

「最近は・・・・してないよな俺?」
自問してみる。
中学の時は頻繁に、あっちゃこっちゃで路上格闘の訓練(ケンカ)をやっていた時期があったのだが
六道に入ってからは停学になるとシャレでは済まなくなる故、出来るだけ控えている・・・・・あくまで出来るだけ。
それに自分から喧嘩を売ったりすることは・・・・・・・・・あまり無い。
この人相ゆえ怖がられる事もあるが、腕に自信のある不良さん方には何かと
目を付けらりたり、絡まれたりしていろいろ、やったり、やられたり。
汰壱としては正当防衛のつもりなのだが・・・・・傍目から見ては説得力は皆無であろう。
だが高校に入ってからは、本当に自分からはやっていない。
ただ一週間ほど前に夜のランニング中に夜の首都高を荒らしまわる集団を自己防衛(ここ重要)で三チームほど潰していたりもしたけど
全て手仕方が無いことである。・・・・・・・うん仕方ない。

帰り際に鬼道に呼び出されて、こうしている訳だがはっきり言って、そこらへんの事情から
結構内心焦っていたりもした。


もし停学なんかになれば忠夫・令子・ひのめの三人から超絶奥義の三点セットをおくられてしまう。
「!!!ヒィ・・・・死・・・死んでしまう」
心底そう思った。
不意に浮かんだ最悪の未来予想図は(最終回)は死を連想させるに十分なものであり
考えたとたんに、動悸が早くなり背中を冷たい汗がつたう。


ごくり


唾を飲み込む音がやけに大きく聞えた。


チクタクチクタク


時計の針だけが動いている。
とうの汰壱は身動ぎ一つしない。



鬼道はまだ来ない。




(どうする!どうするどうするどうするどうするどうする!!とぼけるか?しらを切るか?証拠隠滅?
ムリムリムリどうやってもばれてしまう。んじゃ泣き落としか?強請るか?・・・・・・だめだ
おじさんの弱味なら腐るほどあるが、鬼道先生にはどれも効きそうにねぇ!第一泣き落としが効くのは女と美形キャラだけだ。
これには証拠は無いけど確信に近いものがあるね!・・・やばい八方塞がりってこの事か)


「ふぅーはあぁはぁーはぁはあー」
ガタガタガタガタ

汰壱の体が小刻みゆれて、自然と貧乏ゆすりが始まる。

目をかっと見開き、一瞬も瞬きが出来ない。
高まる動悸は酸素を欲しがり荒く呼吸を繰り返す。
空調が効いた部屋にも、かかわらず汗が流れた。

「死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ
死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ
死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ死ぬのはいやだ」

いろんな意味で、危ない言葉をぶつぶつと呟き始める汰壱・・・かなり危ない


「最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ
最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ
最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ最終回はいやだ」

生と死の狭間(連載と打ち切り)の恐怖で頭がオープンリーチな汰壱。

昨今の五連敗による精神的ストレスも相まってかなり変な精神状態になっている。
獅子猿&白蛇との戦いでみせた冷静な思考能力とやらは、とっくにM78星雲の彼方にスキップしながら去っていた。


冷静な思考能力はスキップで去っていったが、今度は別のものがハミングを口ずさみながらやってきた









【毒電波】







その毒電波はこう言いました。
『殺っちまえ、目撃者は消してしまえ・・・・それで万事まーるく収まるよ」』
まったく何の解決にもなっていないどころか、実行すれば自分の首を死刑台に差し出すだけの提案を持ちかけてくるが、
いまのオープン汰壱には、それの成否を判断する脳みそは・・・・・・・・・・・全く無かった。



よって汰壱は最終的解決を図る事にした。


五分後



「すまんな、古牙またせ・・・」
バッ!
「死ねよやああああぁああ!!!」



ドアを開けて現れた鬼道目掛けて、弾丸の如く飛び掛かるが・・。


ベゴシャ!!
「へぶっし!」
汰壱が飛び掛った瞬間、夜叉丸(自動防御機能)が鬼道の影から飛び出し汰壱を地面に叩き付けた。


「・・・・・・古牙何さらす?」

「・・・・シャレです」

「ほほう?、目ぇ血走っとたぞ?」

「ビタミンが足りてないんです。あとブルーベリーも不足しがちです」

「教師にむかって、死ねよやか?」

「違います・・・死ぬのはよそうやって、諭そうと」

「誰をや?」

「・・・・・先生を」

「ほら?なんか問題児の指導とかで思い詰めてそうじゃないですか?」
かつてこれほど自分のことを棚に上げた人間がいたか?

「・・・・夜叉丸、状況認識α確認 教育的指導Bコース発動、目標の完全反省まで効力持続 やれっ」






_______________________________しばらくお待ちください_______________________________










「よーし始めるで」

「痛ぇえええええマジ痛いイタイ、いやほんとシャレにならいないって、ちょまあああ」

夜叉丸の教育的指導(サブミッション)を受け、のたうち回る汰壱をよそに鬼道は、持参したディスクをDVDプレーヤーにセットした。

薄型の液晶テレビに映像が写し出された。
四の字固めを極められ身動きできぬまま、汰壱は仰向けの状態で画面に目をやった。

見始めて五分が過ぎただろうか、徐々に汰壱の顔が強張り始めた。
「・・・・これ・・今日のやつですよね?」
しばらく黙って見ていた汰壱が口を開いたが、僅かに声が硬い。

「そうや」
鬼道が持参したDVDの内容は今日の模擬戦を撮影したものだった。
映し出される映像を汰壱は睨み付けていた。

ギリッ

その眼に浮かぶのは怒り、映し出される映像の全てが、汰壱の負け試合のものだった。
少なからずプライドのある者ならば、自分の負ける姿を喜んで見る者はいない。
映し出される、過去の自分が打ちのめされる度に、汰壱の表情が険しくなった。

鬼道は何も喋らない。
解説をする訳でもなく、観察する様にただ静かに見ているだけだ。

汰壱はプライドの高い方である。
高すぎる周りに囲まれて、自分は弱いと認識していはいたが、弱いからといって
小さくまとまり、卑屈になる気はさらさらなかった。

血を吐く思い出て手に入れた力は、汰壱の根幹を成すものだった。
周りから見れば、それは取るに足らない力かもしれないが、それこそが汰壱の土台であり背骨であった。
足を踏ん張り、胸を張る為の力・・・それは汰壱にとっては誇りと呼べるものだった。



それゆえに



体の中を湧き上がる敗北感が汰壱を苛んだ。
そしてそれ以上に怒りの感情が駆け巡った。

「・・・・っぐぅ」

奥歯に忍び込ませた怒りが声となって漏れた。




ほどなくして映像が砂嵐を移し、内容の終わりを告げた。


「何が言いたいか判るか?」
唐突に鬼道が口を開いた。
よく響く声だった。

普段多くの生徒に向けられ、生徒一人一人に理解を促す声
その声は今汰壱一人に向けられていた。


「・・・・さぁ?判りません」
憮然とした態度で答えた。
自分でも場違いな事は判っていた。きっと今自分は鬼道を睨み付けている。
しかしその場違いない怒りが、ふつふつと音を立てていた。

「考えろ」

鬼道は目を逸らす事無く、正面から汰壱を見据えていた。
静かな穏やかな目だった。
しかし汰壱にはその目にすら怒り腹が立った。

「判りません」

「考えろ」

ギィリィ!

「・・・・判るわけ・・・・・・判るわけねぇだろうが!!何が言いたいんだよ。
あんだよコレ・・こんなもん見なくても判ってんだよ。俺が負けたことぐらい判ってんだよ!!
とっくに判ってるコト・・・なんで見せんだよ!!」

抑えていた感情が爆発した。
身を乗り出し角突き合わせる様に鬼道に詰め寄る。
敬語を使うことも忘れていた。

汰壱は必死だった。
必死に強くなろうとしていた。

しかしその努力は報われていない。
いろんな人達の顔が目に浮かぶ、呆れ顔のシロとタマモ、諭す様にGSに成ること止める忠夫と令子、
問題外だというひのめ、苦笑する蛍花・・・嘲る他の生徒。

怒った。

汰壱は怒った。

怒りのままに声を荒げた、普段であれば決して表に出さず、他人向けるべきでない愚かな怒りを鬼道にぶつけた。

昔の自分ならば迷う事などありえなかった、ただ一心になると信じて疑わなかった。
成れると信じて疑わなかった。・・・・・・・・・・・・・無知であるがゆえに。



「・・・・古牙・・本当に判ってるんか?」


汰壱の八つ当たり静かに聞き、そしてまた問う。声を荒げず普段と変わらない声量がやけに耳に響いた。


「負けた、負けた、負けたそれだけだ。それ以上何があんだよ!負けたらそれまでなんだよ!!それだけだろうが!!」
唸るように答えた。
「・・・あのな・・・GSに必要なもんて・・・・何かわかるか?」

「はぁ!何言って・・・うっ」
正面から見据える眼は答えをはぐらかす事は許さないと語っていた。
圧力、威圧とは違う、相手を恫喝・威嚇するのとは違う圧力に汰壱は黙った。


「・・・・・・・・霊力だ・・・です」

熱くなった頭が冷え始めた。

「そうやな、確かに霊力は大切や、霊術、霊具、攻防、ありとあらゆるもんに使われる。僕の夜叉丸かてそうや
霊力切れてもうたら、こいつは出てこん・・・でもなそんなんは一つの要素でしかないんや」


「GSに必要なんは、【知る事】や敵を知り己を知る、術を知り、力を知る、現世の理を知り、死者の理を知る。
そして勝利することを知り、敗北する事を知る、森羅万象を知る・・・・それが必要なんや。
どんな霊力があっても、どんな万能の術が使えても、無知では使えんのや、知る事が必ず必要や
そして未熟なものならば、尚の事、知らないかんのや。」

「判ってますよ・・・そんな事」

「それなんや古牙・・・判っているだけではいかんのや、お前は負けたらそれまで、それだけやと言うたな?
僕から言わせたらな、お前は自分の敗北からそう言うて、眼ぇ逸らしとるだけや。お前は自分が何故負けたかを
そこで考えんのを辞めんとんや。お前は逃げとるだけや」

「違います!!俺は・・・・」

言葉が続かなかった。
鬼道の言う事は全て真実を言い当てていた。

「GSに限らず人生いつでも失敗するし、負けもする、努力しても手に入らんこともある。
それでもお前は、その道を選んだのやろ?・・・せやったら考えろ、冷静に見ろ、そしてそこから抜け出す術を知れ
このディスクはお前にやる・・・それを見て学べ、敗北はいろんなことを教えてくれる。自分の可能性を・・・・
後はそれに気付ける奴が本当に強くなれる」

「・・・・・・・・」

「違う言うんやったら・・・証明してみせい」

「・・・・」

無言のまま、差し出されたディスクを受け取り、そのまま一礼して生徒指導室を後にした。


「がんばれよ」

一人残った部屋で鬼道は虚空に呟いた。










「なにやってんだろ俺は・・」
家に帰り、自分の部屋のベッドに身を投げ出した。
明りをつける気にもならず、薄暗い天井をぼんやりと見上げていた。
鬼道から貰ったディスクは、まだ観ておらず。鞄に入れっぱなしであった。

何度か手を伸ばそうとするが途中で手を止めてしまう。
「・・・どうするんだよ・・・?」


呟いた



見なければならない・・・・
しかし手が進まない



本当は薄々気付いていた。
このままでは駄目なのだと。


自分の目指す道はどこまでも遠く、どこまでも高い場所にある。
上を見て、ただ上を見上げて手を伸ばす。


しかし結果自分はどうだったか?
上ばかり見て自分は、自分の足元はどうであったのか?


俺の立ち位置は?

俺は今どこにいる?


確かめなきゃならない。
そのために鬼道はディスクを自分にくれたのだ。

自分を知る

何と単純で
何と難解で

何と辛い




逃げている
目を逸らしている
知ろうとしていない




違う!!

だが事実

ならばどうする?



違うのならば証明して見せろ!




眼を開き
敗北と向き合う

そしてどうする?
何をする?


知る。
勝利を得るため
力を掴むため




気がつくとディスクは手の中にあった。
心の葛藤とは裏腹に体はシンプルに答えを求めた。
更なる技を得るために・・・・・


「やってやる」

立ち上がりディスクを見つめ不適に笑う。
眼に野望の光が強く灯る。












「パパ、汰壱ちゃんが自分部屋でディスク見つめてニヤニヤ笑ってたんだけど・・・・どうしたのかな?」

「!!・・・・・・・蛍花・・・・いいかい男には、いろいろ有るんだよ。」

慈しみの眼差しで娘を諭す忠夫。その眼にはある種の悲しみもあった・・・・。
(汰壱よ・・・判る!判るぞぉっ!!その気持ち!!!手に入れたら誰しもそうなるよなっ!
避けては通れぬ道よ!・・・・・願わくば見られぬ事を・・・そして・・・・・そして・・・・)




































(後で貸してくれ!!)






「あれ?今なんか怒りが・・・」
妙な怒りを覚える夕暮れ時だった。











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